百二十話 最後の審判③
「そういえば、バロンスになれなかった守護天使はどうなるのですか?」
光葵は気になった点を確認する。
「他の生き残りの守護天使は『バロンス補翼』の務めを担ってもらう。バロンスの補佐をする役割だ。綾島の守護天使ファヌエル、比賀のメルキセデクが担う」
「分かりました。あと一つ質問してもいいですか? 天使族と悪魔族は五〇〇年戦争をしていたと聞きました。それほどの何かが地球にはあるのですか?」
光葵は今を逃せば聞けないことと思い、質問を繰り返す。
「うむ。地球はマナエネルギーに溢れている希少な星だ。生物は多く、かつ『人間族』というマナを多く生産する生物もいる。更に人間は短い期間で文明を大きく発展させた。これからもマナを多く生産することが見込まれる。だからこそ、天使族と悪魔族が管理権を巡り争うようになったのだがね……」
サキエルはここで初めて、憂いのような〝感情〟をみせる。
「……そうですか。『人間族』として聞いているので、色々思うところはありますけど、天使族と悪魔族と地球の関係は分かりました……」
光葵としては、少しばかり複雑な心境だ。
「……人間にとっても悪くはないと思うぞ。人間には知覚できないことがこの世界にはたくさんある。天使と悪魔などがまさにそうだな。そして、他の種族も存在している。他の種族などの『外敵』からの侵略を防ぐ役割も我々は担っているんだ」
「他の種族もいるんですね……」
光葵は驚嘆を漏らす。
「ああ、存在する。……今の地球が良い環境かは人間個人の感じ方次第だとは思う。だが、他の種族による管理の場合、状況が大幅に変わる可能性がある。良くも悪くもな……。あと、マナが正しく輪廻するように導く役割を我々が担っているのは良い効果を与えていると思っている」
サキエルは裏表の無い、ただ真実を話しているような印象だ。
「……たしかに、あなた達が管理しているおかげで今までの地球の生活があるんですもんね。分かりました。色々質問してしまいすみません。ありがとうございます」
光葵は素直に礼を述べる。
「構わない。我々としても管理をしている意味や意義を理解してもらっている方が良い。誰にでも代行者、執行者は務まるものではないからな……。他の者は質問などあるか?」
サキエルの姿は見えないが、光葵達三人の目を見ているように感じた。
「私、気になってることがあって……。天使族と悪魔族の星の代理戦争はこれからも続くのですか? 仲良くマナを分け合って一緒に管理していくことは難しいですか?」
綾島が純粋な瞳で尋ねる。
「そうだな。今は天使族と悪魔族は『停戦状態』というのが実情だ。停戦して戦争をしない代わりに人間に代理戦争をしてもらい、互いの消耗を大幅に減らして、互いが納得する形でバロンスを決めている。バロンスとなった種族はマナの収集率が増えたり、ルールを設ける上でも有利な立場になる」
サキエルは静かに返答する。
「そうですか……。仲良くするのは難しそうですね……」
綾島は悲しげな表情をする。
「……とはいえ、天使族と悪魔族の関係は非常に悪いという訳ではない。代理戦争をするようになって、約三百年が経っている。少しずつだが互いに歩み寄っている。まあ私の所感ではあるがな……」
サキエルは少しばかり人間味を感じさせるような言い方だ。
無論、人間ではないもっと上位の存在ではあるが……。
「そうなのですね。言われてみれば、戦争をしていた種族がすぐに仲良くするのは難しいかもですね……。詳しくありがとうございました」
綾島は頭を下げる。
「うむ。他の者は質問などあるか?」
サキエルはゆっくりと尋ねる。
「いえ、大丈夫です」
三人は同様の返答をする。
光葵は思う。これから一体どのような生き方になるのだろうか……と…………。




