百十九話 最後の審判②
どのくらい時間が経ったかは分からない。
いつの間にか、目の前にサキエルがいた。
「協議した結果、バロンスの選定が終わった……。結論としては日下部。君の守護天使のメフィを次期バロンスとすることが決まった」
「…………分かりました」
光葵は急な決定に、頭が追い付かないまま返答する。
「あと君達の処遇だが、君達には今生きている世界の『一次元上の存在』となり『地球のマナ管理の補佐や、地球のマナバランスを整える務め』を担ってもらいたい」
サキエルは静かに、だが威厳を感じさせる言い方をする。
「それってどういうことですか?」
比賀が単純に疑問を口にしたようだ。
「まずは、今の天使族、悪魔族と地球との関係を説明した方が理解しやすいと思う。地球は天使族と悪魔族によって『管理』されている。正確には『地球のマナバランスを管理』している。語弊があるかもしれないが、人間界でいう火力発電などの管理を我々がしているようなイメージだ」
サキエルは淡々と説明する。
「ええっと……。つまり、人間でいう火力発電の『電気』ではなく、もっと大きな視点で見て『地球全体のマナ』の管理をしているってこと……ですか?」
綾島が難しそうな顔で問う。
「大体はそれで合っている。マナの管理から、地球という『エネルギー生産装置』の管理、整備も行っている」
サキエル……天使族や悪魔族からすれば、地球はエネルギー生産装置に当たるようだ。
なんとも、理解するのに抵抗のある話だ。
「……それはあなた達にとって何か良いことがあるのですか?」
光葵は疑問をそのまま投げかける。
「もちろんある。人間にとって電気などのエネルギーが重要なように、我々にとっても『マナというエネルギー』は重要なものだ。マナの輪廻を阻害しない程度でマナは収集させてもらっている。ちなみに、電気エネルギーなども最小単位で見ればマナだがね」
サキエルは客観的に状況を説明しているような口調だ。
「マナの輪廻を阻害しない程度って大丈夫なのですか? 地球のマナがなくなったり……」
比賀がやや言葉に詰まりつつ問いかける。
「大丈夫だ。そうならないように、マナの管理をするのがバロンスだしな。それに、マナは『あらゆる物質、非物質に宿るエネルギー』のことだ。火力発電などのエネルギーはもちろん、人の〝肉体、心、魂〟から発生するものも含む」
「肉体、心、魂……?」
綾島は疑問を口にしたようだ。
「ああ。肉体を動かすことで発生するエネルギー、死んで肉体に残っているエネルギー。心から発生する感情もエネルギーだ。悲しいことなど負のエネルギーも、嬉しいことなど正のエネルギーもマナ単位で見たら同様にエネルギーでしかない。魂とは記憶、善性、悪性、その人らしさ、アイデンティティを確立するためのものだ。それらもマナ単位で見ればエネルギーとなる」
サキエルは事実を述べているだけ、という印象だ。
「……人間や動植物が活動する限り、マナは生産され続ける……。そして、そのバランスを管理するためにバロンスがいるってことか……」
光葵は頭の中を整理し言葉にする。
「その理解で良い。そしてここからが本題だ。君達には地球のマナバランスを整える務めを担ってもらう。具体的には、日下部。君にはバロンスの側近として『代行者』の役割を与える。代行者としてバロンスの手が回らない部分のフォローをしてほしい」
光葵はサキエルが、光葵の目を見ているように感じる。
不思議な感じだ……。
更に、サキエルは話を続ける。
「そして、比賀、綾島、君達には『執行者』として、実際に地球のマナバランスを整える務めを担ってもらう。代行者も執行者もバロンスより、『超常的な力が与えられる』。その力を使い、我々と共に地球のマナバランスを取ってほしい」
サキエルは少しばかり、言葉から圧を感じさせる物言いをする。
「……そういう務めですか……。なるほど。……コレって拒否権はあるんですか……?」
綾島がやや聞きづらそうに質問する。
「拒否権はある。無理強いはできないからな。だが、我々からすると正直望ましくはない」
サキエルは圧がかからないように意識したのか、やや穏やかな口調のように感じる。
「そうですよね……」綾島は少し迷った様子になった後「いえ、やります!」と少し大きな声で返答する。
「そうか……。助かるよ」
サキエルが淡々と答える。
「ちなみに『私のあるべき世界の思想に向かう行動』を取ってもよいのですか?」
比賀が尋ねる。
「程度にもよるが、構わない。というのも、星の代理戦争を百年に一度しているのは、その時代の人間の思想を反映するためでもあるからだ。それに、生き残った『君達の思想』は今後の世界に一定反映される。つまり『世界を変える』ことになる」
サキエルは変わらず、淡々と説明をしている印象だ。
「そうだったのですね……。わかりました……」
比賀は静かに覚悟を決めたようだ。




