百十三話 最終決戦①
翌日、二人で古い洋館の近くを歩いていると守護センサーが反応した。
センサーは相手が一人だと告げる。
しかし、知覚した洋館に入ると、敵と思われる者は〝二人〟いた。
二人とも異様な雰囲気だ。
一人は清宮だが、右眼は〝魔眼〟額には金色に輝く〝第三の目〟が浮かび上がっている。
その隣には大柄な西洋の甲冑を着た何者かがいる……。
「お久しぶり。日下部君と綾島さんだったよね?」
清宮は穏やかな口調で尋ねる。
「そうだ……。お前の隣にいるのは何者だ?」
光葵は静かに問いかける。
「彼は虎西さん。代理戦争の参加者じゃないけど魔法を使う『介入者』よ。天使サイドにもいるんでしょう? 伊欲さんからの情報共有だと赤髪の高校生くらいの女性だと聞いてるわ。その女の子はいないの?」
清宮は取り繕う様子もなく言葉を返す。
「……その女の子は戦闘の結果魔法が使えなくなった。だからもう代理戦争には無関係だ」
光葵が淡々と答える。
「そう……。『魔眼』で分かる。あなたは嘘をついていない……」
清宮は変わらず穏やかな口調だ。
「一つ聞いていいか? 虎西って人は元々魔法が使えたのか?」
光葵は単純な疑問を口に出す。
「いいえ。彼は私の魔法で『マナ知覚の覚醒者』になってもらった……」
清宮は憂いのある声だ。
「ここからは俺が話しますよ、清宮さん」
凛とした声で虎西が声を出す。
「俺は社会運動団体『Hоpes』の一員だ! 『世界平和や平等』のための運動をしている。そして、Hоpesの代表が清宮さんだ。ある日『第三の目』と『魔眼』に目醒められた清宮さんが俺達に呼びかけた。『全人類の救済のために命を懸けて助けて欲しい』と……。もちろん、強制ではない。手を挙げた者は十三人だった。清宮さんの《第六感強化×付与魔法》で『マナ知覚の覚醒者』にしてもらったんだ」
虎西は信念を感じさせる物言いをする。
「虎西さん、重要なところが抜けてるわ……。覚醒に成功したのは虎西さんだけで、他の十二人はみんな死んでしまった……」
清宮は悲しげに宙を見上げる。
「皆、覚悟の上です。清宮さんの『全人類の救済』のために命を懸けたのです。俺もそのうちの一人です。気に病まないでください……」
虎西は清宮に優しく声を掛ける。
「……そうね。私が行うべきは全人類の救済。みんなの命、絶対無駄にしない」
清宮は芯のある声だ。
「……なるほど。そうだったんだな」
突飛な話であり、光葵としては、正直驚きが大きい。
返す言葉もどこか、他人行儀な感じになった。
「そんなことはどうだっていい……。あなたがカイザー君と比賀さんを殺したの?」
綾島がどす黒い瞳で殺意混じりに問いかける。
「……そうよ。私がカイザー君と比賀さんを殺した」
清宮から淡々と返答がある。
「あなたが二人を……。許さない。殺す……」
綾島の身体中から殺気が迸る。
「虎西さん……。すぐ戦闘になりそう。いけそう?」
清宮は虎西の方を見る。
「もちろん大丈夫です。清宮さん。全人類のために一緒に命を懸けます」
虎西は真っ直ぐな声だ。
(影慈……!)
光葵は素早く念じる。
(うん! みっちゃん!)
影慈から力の入った声が返ってくる。
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
「復讐、殺す……。《光魔法――覚醒の光明、思考浄化》……!」
綾島は知覚力、感覚を目醒めさせ、かつ戦闘特化の思考回路に変貌する。
「《光速移動》……!」
綾島は一気に清宮へ迫る。
「清宮さんには攻撃させません!」
虎西が前に出て庇う。
「邪魔……。《光魔法――破邪の鉄拳、破邪の光輪》!」
綾島は光速で《破邪の鉄拳》を五連撃、直後に《破邪の光輪》を放つ……。
眩いばかりの光が発生し、少し遅れて爆音が鳴り響く。
しかし、そこには虎西が〝無傷〟で立っていた。
「俺の《金帝魔法》は『魔金属』を創出できる。この甲冑も魔金属でできている」
虎西が淡々と自分の魔法の説明をする。
「魔法の説明なんて随分余裕だな……。あと、綾島さん一人で突っ込まないで!」
光葵は途中から、大声を出す。
「我々のしていることは全人類の救済に必要なことだ。何も隠すことはない」
虎西は信念を感じさせる言い方をする。
「ご立派な大義だな……!」
光葵は状況を観察して考える。綾島の攻撃でも一切傷が入っていない。凄まじい防御力だ。どう崩す……?




