百十二話 憑き物
――ああ……こんな終わり方をするとはな……。至王に走馬灯がよぎる。
「至王ちゃん、根は優しいんだから、みんなにもそんな素振り見せなきゃダメよ。『冷血男』って呼ばれてるの聞いたわよ。人は思ってるだけじゃ伝わらないのよ?」
温井は冗談混じりに笑いかける。
「そう呼ばれてるのは風の噂で聞いた……。温井の言うことも分かる。だが、俺は会社を継がないといけないんだ。優しさだけでは勝ち抜けない……」
「もう、至王ちゃんは真面目過ぎ! もし悩みごとがあったら私に言って。せめて私くらいは話聞くわよ」
温井は優しく微笑む。
温井……貴様は本当にいい奴だったな……。お前が逝く場所とは俺は違うだろう。
最期に謝らせてくれ……。命を奪ってすまなかった。そしてありがとう……。
至王は在りし日の記憶に浸りつつ、意識は消えていく――。
◇◇◇
「……仇、殺した。……ルナ姉、頂川君、朱音ちゃん……。やったよ……」
綾島の切ない声が響く。
「日下部。俺はもう戦う意志はない。『降伏』する。……それと、金髪のことすまなかった。あと、美鈴を生かしてくれてありがとう……」
志之崎は憑き物が落ちたように静かに呟く。
「そうか……ありがとう……。あと、降伏するなら綾島さんにしてくれないか?」
光葵は志之崎の目を見る。
「俺は構わないが、いいのか?」
志之崎が驚いたような顔で問いかける。
「いいんだ。俺は既に二つ《固有魔法》を奪取してる。綾島さんはまだ奪取してないから」
光葵は綾島の方を見る。
「日下部君……。うぐっ……。それで……いいの?」
綾島は魔法の反動で、意識が元に戻り切っていない様子だ。
「うん。俺の意志で綾島さんに魔法を持ってほしい」
光葵は短く、真っ直ぐに言葉を届ける。
「ありがと……」
綾島は一言だけ答える。
「では、綾島。お前に降伏する」
志之崎が降伏の宣言をする……。
この日で綾島は二つの魔法を奪取した。
《反射魔法》と《分身魔法》だ――。
◇◇◇
それから十日間は回復と修行を主にしていた。
綾島の様子は昔とは完全に変わった。
口数が少なくなり〝復讐〟のみに固執している……。
「綾島さん。修行の成果もあってかなり強くなったな。《反射魔法》と《分身魔法》も使いこなせてるし!」
光葵は意識的に明るく話しかける。
「……うん。強くなれば、復讐できる可能性が上がる……」
綾島のどす黒い瞳には光を感じない。
「綾島さん。その……あまり自分を追い詰めないでほしい」
光葵は、綾島の目を真っ直ぐ見て伝える。
「もう失いたくないの……。『今の私』の方が戦いやすい。戦力面でも感情面でも……」
綾島は心を捨てたことで、ある種の強さを手に入れたのだろう……。
光葵には、それが正解かどうかは、判断できなかった……。
「そっか……。俺もいるから頼りにはしてくれよ……」
これ以上光葵は何も言えなかった……。




