百十一話 護りたかった存在
ちょうどその頃、綾島と至王は息をもつかせぬ戦いを継続していた。
そして、結界の崩壊音は戦いのリズムを微かに変える。
綾島の意識が一瞬崩壊音に逸れたのだ。
それを至王は見逃さなかったのだろう。
「《使役魔法――インビジブルゴーレム》……!」
インビジブルゴーレムの強烈な殴打が綾島に直撃する……。
「フハハハ。貴様の思考の隙を衝いてやったぞ!」
血まみれの至王は叫ぶ。
「綾島さん!」
光葵は急いで駆け寄る。
「仇……殺す……」
綾島の様子は明らかにおかしいが、致命傷ではないことがわかる……。
「……お前、その魔法……」
志之崎は驚いた様子だ。
「……俺はインビジブルゴーレムを知覚できる。今までずっと一緒にいた美鈴の魔法だからだ。そして護りたかった存在だからだ……!」
志之崎は叫ぶ。
「なら、ちょうどいい! 志之崎! 俺達でこいつらを殺すぞ。今の一撃で相当なダメージを与えたはずだ」
至王は血を吐きながら、言葉を吐く。
志之崎は全てを悟ったような顔をする。
「……点と点が繋がった。至王、お前は金髪の男を殺したか?」
志之崎は淡々と尋ねる。
「そうだ。しぶとい男だったよ。仲間のために命を捨てたような愚か者だったがな」
至王は頂川を侮辱するような口調で答える。
その言葉を聞き、志之崎は俯きながら、小さな声で呟く。
「……俺は仲間の仇である日下部を殺したい……。だが、日下部の親友である金髪の男は、危うい精神状態の美鈴を降伏させ命を救ってくれたのだろう…………。俺は何がしたい……。何を望んでいるんだ……。仇を討つことか、それとも『護りたかった存在』を救ってくれた男の無念を晴らしたいのか……」
「何をぶつぶつと言っている! 俺と貴様でこいつらを殺すぞ!」
至王は苛立ったように言葉を放つ。
「…………そうか。俺のしたいことが分かった…………」
ゆっくりと志之崎は至王に刃を向ける。
「完全な私情だ。俺は……美鈴の命の恩人に報いたい」
「フハハ。何を言っている? お前の殺したい相手は目の前にいるだろう。俺とお前でなら両方殺せるぞ」
至王はあくまで冷静に説得しているようだ。
「俺は護りたかった。それだけが俺の望みだった……」
志之崎は悲しげに呟く。
「ふざけるなァァ! 俺達は利害が一致している。それを捨てるのか!」
至王は怒りの咆哮を上げる。
「ああ、そうだ! 俺は俺の信念に従う!」
志之崎も声を荒げる。
「では、貴様も敵という認識でいいんだな?」
至王は怒りでこめかみ付近に血管を浮かべている。
「そうだ……。俺はお前の敵だ。いくぞ……」
志之崎は至王に向かい駆ける。
「待てっ! 俺達も至王を倒したい。追いかけるぞ!」
光葵は叫ぶ。
「勝手にしろ……。俺はケリをつけられればそれでいい……!」
志之崎は光葵達に構う素振りはない。
「フハハハハ! 馬鹿げた奴だ……! 来い……! まとめて消してやる……!」
至王は狂気じみた瞳で、大声を出す。
「《使役魔法――インビジブルゴーレム……!」
至王は光葵目掛けて、インビジブルゴーレムを進めたようだ。
「《風魔刀――散らし風》……」
志之崎が間に割って入り、散らし風にてインビジブルゴーレムの攻撃をいなす。
「……いけ」
短く志之崎から言葉がある。
「助かる!」
光葵と綾島は更に進む。
「まだだァ! 《合成魔法》《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……! 《刻印魔法×結界魔法――爆撃結界》……!」
至王は全力と思われる、魔法を放つ。
「俺が防ぐ! 《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒壁、氷黒の盾》……!」
光葵が至王の攻撃を全て防ぐ。
魔法同士の接触時に、凄まじい爆音が響き渡る。
「殺す……! 《光魔法――破邪の矢》……!」
綾島の詠唱と共に、眩い輝きが奔る。
破邪の矢は至王を貫く……。




