百七話 覚醒
「何だ……それは……」
カイザーと比賀は同時に言葉を漏らす。
「この段階まで私を目醒めさせてくれたお礼に教えてあげるわ……。私の固有魔法は《第六感強化》なの。今までは《五感強化》までしか扱えなかったけど、たった今一つ上の段階に辿り着いた……。世界の見え方、知覚が別次元だわ!」
清宮は忘我の境に入っているようだ。
「ガキ! あの女に何が見えてるのかは分からん。でも今ここで止めないとおそらく今以上に強くなる! 二人で倒すぞ!」
比賀はカイザーを鼓舞するように大声を出す。
「分かっている! 我等の連携をもって倒す!」
カイザーは力強く応える。
「続きをしましょうか……」
穏やかに清宮という〝具現化された死〟が言葉を話す。
カイザーはより出力を上げた《魔を狩る黒衣》で身体能力をも一気に引き上げる。
比賀は集中力を大幅に高め《空間裂断》のキレ、ワープ速度の上昇、ワープを通じた銃撃を行い攻撃手段も増やす。
しかし、清宮に全て躱されてしまう……。
まるで、こちらの行動を予見しているように感じる……。
「まずい……。これ以上は私もガキもマナがなくなっちまう。あの女『未来が視える』のか……? 動きのギアが上がっただけじゃない。確実に躱しやがる……」
比賀は清宮の動きの大きな変化に驚嘆を漏らす……。
「……比賀。ここは我が食い止める、退け……」
カイザーは強い覚悟が滲む語気だ。
「ふざけるな! 私があんたを守るつったろ。……いくぞ、カイザー……!」
比賀は名前でカイザーを呼ぶ。
「……フッ。それは我も言った言葉であったな。比賀さん……協力して討ち倒すぞ!」
カイザーは〝比賀さん〟と敬いのある声で応える。
「あら、美しい友情ね……。せめて一緒に殺してあげるわ」
清宮は穏やかに告げる。
カイザーも比賀も持ちうる力を全てぶつける。
清宮はその全てを見切り、三頭に増やした水龍で二人を追い込む。
岩山に何度も轟音と水切り音が響き渡る……。
血で赤く染まった比賀とカイザーは息を切らしながらも、戦う意志は燃やし続けた。
「あなた達は十分健闘した。そろそろ楽になりなさい……」
清宮は神聖な声色で語りかける。
「比賀さん、ここまでみたいだ……。せめて汝だけでもと思ったのだがな……」
カイザーは比賀の目を見据える。その目には生きてほしいという願望が込められているのを感じる。
「カイザー……私は最後にあんたと戦えて良かったよ。守れなくてごめんな……」
比賀はかつての弟の面影とカイザーを重ねる……。
岩山の崖まで追い込まれた二人に、無慈悲に水龍三頭が襲い掛かる。
次の瞬間、カイザーは比賀を崖から突き落とす……。
そして、水龍三頭を身をもって一時的に食い止める。
「カイザー……!」
比賀は落下しながら叫ぶ……。
直後、清宮が岩山の上から比賀の脳天目掛けて、水の弾丸を撃ち込んでくる。
比賀は何とか乱生魔法で水の弾丸を回避しようとする。
しかし、水の弾丸の軌道を逸らしきれない……。
衝撃を感じた直後、比賀の意識は暗転する――。
◇◇◇
「さようなら……」
静かに呟く清宮の右眼は〝六芒星〟の中に一点の黒い瞳孔が浮かぶ〝魔眼〟へと変わっていた。
「さて、準備を急がないとね……」
〝三つの瞳〟が妖しく輝く――。




