百六話 第三の目
「うっ……痛いわ……。《合成魔法》《付与魔法×回復魔法――瞬間再生》」
清宮は痛みに顔を歪めながらも魔法を発動する。
回復能力が付与魔法で一気に引き上げられ、左腕が一瞬にして再生する。
「なっ……腕を生やしたぞ。魔眼で分かる……。あの女、『一属性にマナを集約』するのが尋常じゃなく上手い。マナ操作が緻密過ぎる……」
カイザーは驚嘆の声を上げる。
「そんな合成魔法の使い方もあるのね。防御なんてお構いなしね……」
清宮は冷静な声だ。
「ちっ、その分マナ消費は大きいだろ……。それとカイザーあいつの固有魔法はおそらく《五感強化》だ。身体能力もかなり高いと思う」
比賀は勝つための情報共有をする。
「さあ、戦いを続けましょう……」
神聖さすら感じる声で清宮が開戦を促す。
「出し惜しみしてると、押し負ける……。全力でいく! 《魔を狩る黒衣》……!」
カイザーの魔眼から発せられた黒く輝く光が身体中に移っていく。魔眼の能力《マナ吸収》が身体中に付加される。
結果、敵の攻撃を弱体化しつつ、自分のマナにすることができるようになると聞いている。
「《水魔法――強化水圧移動、高圧穿孔、強化水龍》……」
清宮は一度に複数の魔法を使用する。
ウォータージェットで手足から水を噴出し素早く動きながら、適したタイミングで両手から高圧水による穿孔を放ってくる。
「くっ速い。魔眼でも捉えるのがやっとだ……。《魔眼散弾》《魔眼砲》……!」
カイザーが魔法を放つも躱される。
「ガキ、女の動きは予想以上に速い。私がワープで先回りして攻撃する。二人で追い込むぞ」
比賀がカイザーに気合を入れる。
「分かった。気を付けろよ」
カイザーが一瞬比賀に目を合わせる。
「ガキ、あんたもな」
比賀は軽く笑う。
比賀が不規則にワープし、致命傷を与えるために攻撃する。
「《空間裂断》……!」
清宮は空間裂断の致命傷を避けるために回避に集中しているようだ。
「まだだ……。《乱生魔法――心魂乱打》……!」
比賀は相手に触れることで直接的に〝心と魂〟を乱しダメージを入れる技も使用する。
清宮の動きがより警戒した動きへと変わっていく……。
「動きが拙くなってきておるぞ……」
カイザーが《高圧穿孔》をギリギリ躱しつつ至近距離で《魔眼砲》を清宮へ撃ち込む……。
「ヤラれたわ……」
清宮は頭から血を流す。
直後「《合成魔法》《付与魔法×回復魔法――瞬間再生》」と詠唱し傷口はふさがる。
「汝の回復力は異常だな。それにマナの総量もかなりのものだ……」
カイザーの頬から汗が一筋落ちる。
「あなた達、本当に強いわ。でも、命懸けの戦いのおかげで、目醒められそうな気がしてきたわ……」
清宮はどこか〝今現在ではなく違うもの〟を見ている様子だ。
「何よそ見してんだい!」
比賀は後方から《空間裂断》を放つ。……が放った時には既に清宮はいなかった……。
「左だ!」
カイザーの声が聞こえる。
比賀は反射的に左に乱生魔法を放つ。清宮の《高圧穿孔》の軌道を乱すも、比賀の右肩を貫通し血飛沫が空に舞う。
「ちっ、痛いじゃねぇか。というか何だ今の動き。攻撃を予見したような動きだった……」
比賀は驚きつつ言葉を紡ぐ。
「比賀気を付けろ。女の様子がおかしい……。人が変わったみたいだ。いや、生物としての『格』が上がったような……」
カイザーが焦燥感に駆られたように言葉を発する。
「ふふ……。今まで何度も『上の段階』を目指してきたけど、ここにきてやっとね……」
清宮は妖しく呟く。
明らかな変化として、清宮の額に金色に輝く〝第三の目〟が浮き上がっている……。




