百五話 カイザーキング
「ん……? 何を無礼なことを言っている!」
カイザーは怒りの声を上げ、数秒間押し黙る。
そして、声のトーンが元に戻る。
「いや、その通りかもな……。比賀は私立洲台学園中学を知っているか?」
「知ってるよ。県内トップの進学校だろ?」
「うむ。我はその中で学力トップファイブなんだ。昔から頭が良かった。親も教師もそんな我に『良い成績』を取ること『良い生徒』であることを望んだ。我からすれば『強要』されていたような感覚だったがな。我は周りからがんじがらめにされた生き方はしたくなかった……」
カイザーが過去を思い、苦々しい表情を浮かべる。
「頭が良いのはいいことだろ。てか、ちょっと腹立つわ。でもまだ中二だろ? そんなに気にしないでいい気もするけどな。でも、あんたが言いたい気持ちは何となく分かるよ……」
比賀にもカイザーの言う、〝がんじがらめにされた生き方をしたくない〟という気持ちがよくわかった。
自分のしたいことや、意志とは違うことも刑事としてやってきた。その苦しさが体感としてわかるからだ。
「そうかもな。……我は『何者かになりたかった』だから、昔から好きだったダークヒーロー『カイザーキング』の真似をした。話し方から見た目、考え方までな。すると不思議と『自分という軸』を持てた気がした。たとえ借り物の張りぼてだとしてもな……」
カイザーはだんだんと声のボリュームが小さくなっていく……。
「あんた随分色々考えて生きてんだね。正直驚いたよ。でもいいんじゃないか? たとえ張りぼてでも、それを貫けば何者かにはなれるだろ? それに真似から入るのなんて、仕事でも何でも同じだ。そこから自分らしさを見つければいい」
比賀は思ったことをそのまま伝える。
「フフッ……。比賀の言う通りだな。汝に話して気が楽になった。ありがとう。さて、修行を再開するか。皆を守れるくらい強くなるためには『比賀の新技』の完成が必須だ」
カイザーの声がどこか軽くなっているのを感じる。よかった。
「そうだな。ガキのことも守ってやるよ。私はこれ以上大事なものを失いたくはないからな」
比賀は弟のことを思い、言葉を紡ぐ。
「ああ、頼りにしているぞ。…………なんだ……? 何か違和感を感じる……」
不意にカイザーが、魔眼を頼りに周囲を見渡す。
「比賀! 上だ! 岩石と大量の水が落ちてきている!」
カイザーの焦った声が響く。
「何……? まずいな。ガキ、近くに来いワープする!」
比賀がカイザーの背中に手をつき片目を隠す。
百メートル程離れた場所に移動する。
「我が魔眼で気づけなかったか。いや、魔眼の感知範囲に入らないように上に登ったのか?」
カイザーが現状を分析して声を出す。
「分からない。だが敵がいるんだろうな。上に登るか?」
比賀はカイザーの目を真っ直ぐ見る。
「そうだな。高所からの攻撃を繰り返されると不利だろうしな」
カイザーがすぐに同意する。
頂上付近まで行くと、少し広いスペースに清宮がいた。
「あら、さっきの攻撃、確実に当てられると思っていたのに無傷なのね」
清宮は穏やかに話す。
「汝はルナ姉の……!」
カイザーの瞳に怒りが迸る。
「会いたかったよ……! あんたは私の手で裁かないと気が済まないんでな……!」
比賀の中に憤りが満ちていく。
「怖いわね。コレは代理戦争。犠牲はつきもの……。でもあなた達の気持ちも理解できるわ。その上で私は負けられない。私の理想の世界のために……!」
清宮は憂いのある表情をする。
「いくぞ……! 《魔眼散弾》!」
「《乱生魔法――乱し打ち》……!」
比賀は空間を鞭のようにしならせて打ち付ける。
「こちらもいくわ……。《合成魔法》《付与魔法×水魔法――強化水龍、蜷局》……」
清宮は巨大な水龍を渦状に回転させることで攻撃を防ぐ。
「とんでもない水量と勢いだな……。《魔眼砲》でも弾き返されそうだ……」
カイザーが言葉を出す。
「だったら、私の『新技』でいくか……! 《合成魔法》《乱生魔法×空間転移――空間裂断》……!」
比賀は清宮を目で捉え、右腕を上から下に素早く振り下ろす。
すると、強化水龍諸共に〝空間ごと〟清宮の左腕を裂断した……。
仕組みとしては、ワープホールを敵周辺に作り出し、その空間に乱生魔法を使い無理やり〝敵の身体の一部分のみを空間転移〟させることで、結果的に〝敵を裂断〟できるというものだ。
この技は一週間かけて、カイザーの魔眼で確認しながら〝空間と物体を裂断できる距離感、マナ出力、タイミング〟などを訓練した結果修得したものだ。
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