63話 先輩たちって —花音Side
外では相変わらず雨が降っている。
放課後、今度の体育祭の打ち合わせと準備で、生徒会室に皆で集まっていた。この雨を見ると不安になってくる。
「雨、体育祭の時は降らないといいですね」
「そうね。でもこればかりは、私たちで何とか出来る訳じゃないしね」
東海林先輩が苦笑して、書類を置きながら答えてくれる。隣に座っていた月見里先輩が和やかな笑顔で一緒に窓の外を見ていた。
「でも毎年、体育祭の時は不思議と晴れるんだよね」
「そうなんですか?」
「少なくとも、僕が初等部から運動会とかの日は絶対晴れてたよ」
それもまたすごい。私は小学生の頃に雨で中止になったことあるのに。そういえば、月見里先輩たちはずっとこの学園なんだよね。
「そういえば、先輩たちはずっと幼等部から一緒なんですよね」
「あら、言ってなかった? 私は中等部からよ。実家は県外なの。一緒なのはこの4人ね」
「え、そうなんですか?」
東海林先輩もずっと一緒だと思ってた。ああ、でもそうか。それで東海林先輩は寮暮らしなんだ。
「小学校は普通の市立学校よ。だからこの学園にきて、相当ショック受けたわよ」
「良く言うよ。生徒会に入った時に翼を殴ってたじゃないか」
「ショックを受けて殴ったのよ。なんだこのお坊ちゃまはと」
「やめろ、思い出させるな」
途端に機嫌悪そうに会長が顔を逸らしている。東海林先輩、殴ったんだ。わかる気がする。その時のことを思い出して、月見里先輩はクスクスと笑っていた。
「でも大分丸くなっただろ、あの頃に比べれば」
「そうねぇ。でもやっぱり小鳥遊さんが中等部に上がった時が、一番あなたたちが変わった時じゃないかしら?」
阿比留先輩が「ひぃっ!」と怯え始めてしまった。
「宏太、大丈夫だ。小鳥遊はここにはいないから」
ポンポンと九十九先輩が阿比留先輩の肩を叩いている。そんな2人を何とも言えない顔で他の3人が見ていた。その話は聞いてたけど。
「なんで葉月はプールに皆さんを落としたんでしょうね……しかも3階から」
「あの時のこの4人は好き放題やっていたのよ、彼女もだけど。それに自分でやったことだから大丈夫だとか、妙な自信を持っていたわね」
「いやぁ、あの時の小鳥遊は遠慮が全く無かったよ、はは……」
遠い目をしている月見里先輩。確かに遠慮しなさそう、葉月。ハアとその時のことを思い出したのか、東海林先輩は疲れたように溜め息をついていた。
「まあ、そのおかげでこの4人の暴走を止められたは止められたけど」
「あのな、別に俺たちは暴走していた訳じゃないんだが」
「よく言うわよ。ハッキリ言って、あの時のあなたたたち最悪よ? 鳳凰の名で好き放題しちゃって。誰がフォローしてたと思ってるのよ」
「う……そ、それは若気の至りだ……」
「何が若気の至りよ。中等部の生徒会室を私物化して、しかも鳳凰君は女の子まで連れ込んでたじゃない」
「椿、それはその翼が可哀そうになるか――」
「ああ、そうね。中等部の全生徒にその一部始終を流されたものね、小鳥遊さんに」
葉月、そんなことまでやってたんだ。多分、面白半分興味半分でカメラ仕込んだんだろうな。会長が顔を片手で隠してた。恥ずかしくなったんだろうか。
「まあ、その生徒会室も今や立派なものに変わったから、今となっては良かったのかもね」
「そうなんですか?」
「小鳥遊が、僕たちがいない時に爆発しちゃったからね……今でも悔やまれる! 僕のプラモデル、あそこに置いとかなきゃ良かった!」
月見里先輩、好きですもんね。そういうプラモデル。前に携帯に入っている写真見せられて力説されたけど、全く分からなかった。
それにしても、葉月は中等部の方が危ない事やってるなぁ。そういえば、一花ちゃんが前に言っていた川に飛び込んだのも中等部の時だよね。
ハアと九十九先輩がトレードマークの眼鏡を直していた。
「初等部の時は小鳥遊のバカも大人しかったんだが」
「(コクコクコクコク)」
隣の阿比留先輩もすごい勢いで頷いていた。葉月の初等部時代。そういえば、聞いたことない。それは東海林先輩も同じみたいで、目を丸くしていた。
「そうなの? 全然想像つかないわね」
「本当ですよ。僕たちが5、6年の頃は名前さえ聞いてませんからね。今みたいな問題行動なんて起こしていなかったし」
「(コクコクコクコク)」
本当に意外。葉月は子供の時からそういう悪戯やっているものだと思っていたし。
「まあ、幼等部からあいつは学園にたまにしか来ていなかっただろう。ハア……魁人さんのあいつの自慢話を嫌というほど聞かされたさ」
……魁人さん? え、も、もしかして如月さんのこと?
「会長? 魁人さんって……如月さんのことですか?」
「ん? ああ、桜沢に会ったとか言ってたな、そういえば」
「会長と知り合いなんですか?」
「まあ、如月の援助受けているからな、鳳凰は」
え、え? そうなの? 会長の家もすごいと聞いているのに、そこを援助しているの?
そんなにすごいんだ、如月家って……その人と葉月は従兄なの? 「そういえば、伝言頼まれてたな」と思い出したかのように会長が言い出した。え、伝言?
「何か困ったら遠慮なく言ってくれと」
「すごいな、桜沢。あの魁人さんから気にかけられているなんて」
「いや、違うだろ。魁人さんは小鳥遊のバカを溺愛しているからな。ルームメイトの桜沢に頼られたいんだろ、きっと」
月見里先輩が目を丸くして驚いているけど、会長がすかさず反論していた。頼られたいって言われても。それに……溺愛しているんだ。あれ、でも仲悪いよね? あれ?
「まあ、小鳥遊さん本人はものすごく嫌がっているみたいだけどね」
「あ、そうですよね。って、東海林先輩はご存じなんですか?」
「中等部の時に寮に来た事あるもの。ものすごく険悪だったわよ。東雲さんと2人がかりで車に押し込んでたけど」
「あいつが一方的に魁人さんを毛嫌いしているんだろ。何があったかまでは知らんがな」
「そうだね。幼等部の時は見ていて仲良さそうだったんだけどな。魁人さんに肩車してもらって、楽しそうにしている小鳥遊を見たことあるし」
……月見里先輩。それ、とても見てみたいかも。ちょっと興味がある。
でも、そっか。先輩たちも何があったかまでは知らないんだ。
どんな、子供時代だったんだろう。
今では険悪だけど、如月さんとは仲が良かったっていうし。
それに学園に来るのがたまにっていうのも不思議。
初等部では葉月が問題行動起こしていなかったというのも不思議。
如月さんは葉月を溺愛しているっていう事実まで出てきた。
葉月は本当に秘密が多いみたい。
でも、
この前の葉月の寝顔を思い出す。
あの気持ちよさそうに寝ている葉月を私は知っている。
それでいい気がしてきた。
先輩たちと雑談をしつつ、体育祭の準備を進めた。
その日、何故か寮に帰ったら、円城さんが縦ロールの髪にカレンダーを挟んで葉月たちとギャアギャア騒いでいた。具体的には葉月が円城さんにちょっかい出して、それを舞が止めてたんだけど。一花ちゃん、なんで疲れ切ってお茶飲んでいるの? これ、どういう状況?
とりあえず、皆でご飯食べることにしたら、円城さんが目を輝かせていた。口に合ったみたいで嬉しいよ。葉月はご飯に夢中になったから、大人しくなったしね。これで彼女がいじられることはなくなったでしょう。
一花ちゃん、「あー楽」って何の事? 舞もどうして拍手しているのかな?
お読み下さり、ありがとうございます。




