42話 どうしているの? —花音Side※
「ハアッハアッ!」
痛い。足、痛い。あちこち、痛い。
もう辺りは暗かった。何も、見えない。でも歩かな――
ズキッ!!
「つぅ!!!!」
今までで一番の激痛が走る。たまらず立ち止まって、座り込んでしまった。
暫く動かないでいると、痛みが穏やかになってくる。
動かさないと……そこまで痛くない、かも。気のせいだと思うけど。
……それに、もう歩けない。
座り込んでしまったせいか、気力が一気に無くなっていく。
一番痛む足じゃない方の膝を抱えた。
シンっと静寂が包み込む。
たまに風で、草が、木々の葉っぱが揺れて、カサっと音がするたびにビクッと言い知れない恐怖で背筋が震えた。
ここ……どこ、なんだろう。
痛みと疲れで、頭がボーっとしてくる。静寂と暗さで恐怖が体を駆け巡る。
どう、すればいいんだろう。
助けに……誰か来るの?
どこかも、分からないのに?
思い出されるのは、落ちた時のこと。
あの時、戻ろうとした。
だけど、足が滑って。
……滑って?
背中に、何かの力が加えられた気がした。でも、あの時は皆が先に行ってて……誰もいないはずなのに……。
誰か、いた?
落とされた?
いや、そんなはずは……。
ブンブンと頭を振って、嫌な想像を振り払う。そんなはずない。皆の背中を見送って、あの看板のところに行ったんだから。それより、どうするか、考えないと。
普通に考えれば、助けを待つしかない。舞だって、ユカリちゃんやナツキちゃんだって、私がいなくなったことに気づいて、今頃探してくれている筈。周辺にいないなら、生徒会メンバーに相談に行くと思うし。
……だけど、このまま誰も私を見つけられなかったら?
このまま、助けが来なかったら……どうしよう。
どうしよう、どうしよう。
ギュッと抱えている膝に顔を埋める。
…………怖いよ。
家族の顔が頭に浮かぶ。
お母さんにこのまま会えなかったら、どうしよう。
お父さんにこのまま会えなかったら、どうしよう。
詩音と礼音にこのまま会えなかったら、どうしよう。
辺りの暗さと静寂で、恐怖が私を包み込む。それに比例するかのようにズキズキと、熱を持っているように足が痛んだ。その痛みが、これは夢じゃなくて現実なんだと教えてくれる。現実だと思うと、また怖くなる。痛みと恐怖がグルグル回る。
もう、どうすればいいのかなんて何も考えられない。
「みーつけた」
………………え?
声と共にパアっと光が当たった気がした。
この、声……。
顔を上げると、ライトの光が眩しく私の顔を照らしてくる。眩しい……っと目を細めて眉をしかめる。見えな……。
わかったのか、ライトがそっと横に逸れて、
「は……づき……?」
いるはずのない、葉月の姿を見て、
幻かと思ってしまう。
ふふって笑って、近づいてきた。傍まで来ると、膝をついて私の顔を覗き込んでくる。
「………………葉月……」
ほん、もの? 本当、に?
でもこの笑顔は葉月で。
顔もジャージも泥だらけだけど、間違いなく葉月で。
安心して、涙が込み上げてくる。
そっと微笑んだ葉月の指が涙を拭ってくれて、そのまま私の頭を撫でてくれた。
「もう大丈夫だよ、花音」
その優しい声が、
あたたかい手が、
痛む体に沁みわたって、
どんどん涙が溢れてくる。
軽く抱き寄せられて、ポンポンと背中を撫でてきた。その腕の中の温かさが、より一層私を安心させてくれる。
震える手で、葉月の腕にしがみついた。
「大丈夫」
葉月のいつもの優しい声が落ちてくる。
「もう大丈夫だからね、花音」
私を安心させてくれる暖かい声が降り注ぐ。
不安だったよ。
誰も来ないんじゃないかって怖かったよ。
もう誰にも会えないんじゃないかって、怖くてたまらなかったよ。
涙が次から次へと零れてくる。
止まらない。
葉月はしばらく、大丈夫だよと言ってくれるように私の頭を撫でてくれた。
お読み下さり、ありがとうございました。




