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大切にしたいもの―花音Side

唐突ですが追加SSです!

ゴロンタを拾った時の花音Sideです!


「みゃ?」

「……」


 寮に帰ってきて、ドアを開けた瞬間に固まった。


 何故か子猫に出迎えられたんだけども? え、え? この子、どこの子? 


「あ、花音~おかえり~」


 さすがに困惑しながら廊下で子猫と目を合わせていたら、バスルームから葉月が出てきた。お風呂に入っていたのか、髪もいつもどおり乾かしていない状態で、大好きな笑みを浮かべている。あの、葉月?


「あ、ゴロンタ~。なんでいっちゃんとこいないの~?」


 ひょいっとその子猫を抱き上げた葉月がむーっと頬を膨らませている。いや、あのね、葉月? 尚も混乱中の私にやっと気づいたのか、頬を膨らませるのをやめた葉月。そのきょとんとした顔は可愛いんだけどね?


「葉月? その子は?」

「ゴロンタ」


 ……さすがに分からないよ、葉月。一花ちゃんみたいに葉月の考えてることがすぐ分かるようになればいいのに。前よりは葉月のこと分かったつもりだったんだけども。う、ちょっとショック。


「ハア……あのな、葉月。そんないきなり単語だけ言われても混乱するだけだろうが」


 ドアの向こうから一花ちゃんが顔を出した。私の顔をジト目で見てくる。あ、これ、絶対私が今一花ちゃんにやきもち焼いたのバレてる。だだだだって! 仕方ないよ! こればっかりは葉月との付き合いが長い一花ちゃんに嫉妬するよ!


「んー? 花音、ゴロンタだよ~」

「いや、だからな。そんな唐突に言われても……というか、なんだ、ゴロンタって? あたしも今初めて聞いたわ」

「名前」

「センスなさすぎだろ……」


 またまた呆れた目を、今度は葉月に向けていた。一花ちゃんも初めて聞いたの? いやいやまずは、この子猫のことを確認しないとだね。


「それで葉月? この子どうしたの?」

「んー拾った」

「……拾っちゃったの?」

「うん」


 手足をもちゃもちゃと葉月の手の中で動かしている子猫に、つい目を向けてしまう。葉月が? カエルとかバッダとかじゃなく? そっちの方が驚いてしまうんだけど。


「ハア……あたしはやめておけと言ったんだがな……何故かこの猫を気に入ったみたいで」

「いっちゃん! この子はゴロンタですよ!」

「知らんわ。お前が今勝手に付けた名前だろうが。そこまで分かるか」

「いっちゃんは分かるもん!」

「さすがに分からんわ⁉」


 そうだね、葉月。一花ちゃんの言う通り、さすがに今葉月の中で付けた名前までは分からないと思うな。……いや、一花ちゃんならそれすらも分かりそうな気も。それはそれで羨ましい気も。


「だからな、花音。その嫉妬の目をやめろ?」


 バレてる。ご、ごめんごめん。今はそれどころじゃなかったね。


「この子、どうするの? 寮では飼えないよね?」

「一応里親を探すつもりだ。病院はさっき行ってきたからワクチンとかは大丈夫だ。それまでは、ここで世話をするしかないな。葉月がご執心だし」

「ゴロンタ、ここで飼う」


 あ、葉月は飼うつもりなんだ。本当に珍しいかも。虫とかカエルとかじゃなく、まさか猫飼いたいって言うなんて。前は犬派だって言ってた気もするんだけどな。


 そんな葉月に一花ちゃんはいつもの疲れたような目を向けていた。


「だからな、葉月。ここで飼うのは無理なんだ。ここは寮なんだよ。猫アレルギーの子もいるだろうし」

「飼う」

「里親は見つけてやるから、それまでのお世話で我慢しろ」

「だめ。ここで一緒にいる」


 こういう葉月も初めて見るかも。こんなに頑なになるなんて。もう腕に抱えて、絶対離さないって意思表示までしてるよ。


 そんな葉月にいつもの疲れた溜め息を出している一花ちゃんが、助けを求めるかのようにこっちに視線を向けた。


「花音も言ってやってくれ。というか、玉ねぎでもなんでもいいから、こいつを説得してくれないか?」

「うーん……」


 玉ねぎで分かったって言うような顔してないんだよね、葉月。ほら、今もスリスリと子猫に顔を寄せている……し……。


 ……この光景、可愛すぎない? え、可愛すぎない?


「おい、花音。今、これはこれでありとか思っただろ……」

「へっ⁉ い、いやいや、そそそんなことはないよ?」


 慌てて一花ちゃんに言うけど、絶対信じてない顔してる。そしてやっぱり考えてることバレてる。葉月のこんな顔見れるならありだとは思ったけども!


「と、とりあえず、里親さんが見つかるまではお世話する、でいいんだよね?」

「話題変えようとするな。……まあいい。そのつもりだ」

「いっちゃん、ゴロンタはここに一緒にいるの!」

「だからできないって言ってんだろうが!」


 これじゃあ平行線だよ。でもここで当面はお世話するつもりらしいから、色々と足りないものがいっぱいじゃないかな? 今の葉月に子猫とすぐお別れするっていうのは厳しそうだし。


「葉月、飼う飼わないはひとまず置いといて、まずはその子がここで暮らせるように準備しない? あと一応飼えない時のために、一花ちゃんに里親探しをお願いしておこう?」

「……むー」

「一花ちゃんの言う通り、猫が苦手だって子もいるかもしれないし、アレルギーの話も大事でしょう? 葉月はその子たちに迷惑かけたいわけじゃないよね?」

「…………うん」


 むすっとしながらコクンと頷く葉月を見て、やっぱり可愛いなぁって思っちゃう。なんでも許してしまいそうになるよ。


「……普段迷惑かけてるが?」


 一花ちゃん、その呟きはしちゃいけない。せっかく葉月が今のところ頷いてくれているのに。ほら、葉月が「あれ? それもそうだな?」って顔しだしちゃったよ。


 にっこり笑って一花ちゃんに振り向くと、またげんなりしている様子の顔をしている。


「一花ちゃん、ちょっとゴロちゃんのことお願いね。私と葉月で当面必要なもの買ってくるから」

「はぁ……分かった。車はすぐ手配するからちょっと待っておけ」


 そう言って、すぐに電話をかけている一花ちゃん。やっぱり頼りになるなぁ。さすがに二人だけでケージとかを持って帰るのは無理だから、助かる。


「みゃみゃ」

「んー、ゴロンタはここでお留守番」

「みゃ?」


 床に下ろした子猫の頭をわしゃわしゃと撫でている葉月に、思わずほっこりしてしまった。可愛い。とにかく可愛い。子猫に話しかけている葉月が可愛い。


 葉月の可愛さに打ちひしがれていると、すぐに一花ちゃんが戻ってきて、やっぱり呆れた顔で私のことを見てきたのは言うまでもない。



 ◇ ◇ ◇


「ほら、葉月。こういうのもあるよ」

「いっぱい入る?」

「どうだろ。でもゴロちゃん、まだ子猫だからなぁ。これぐらいの大きさで大丈夫じゃない?」

「だめ。いっぱい食べて大きくなるのがいい」


 ゴロちゃん用のエサ入れのお皿を見ている葉月が、真剣な顔で色々と見比べている。


 葉月がこんなにゴロちゃんのこと考えているなんて、ちょっと予想外過ぎた。一花ちゃんの言う通り、今はゴロちゃんにご執心みたい。


「ねえ、葉月?」

「んー?」

「そんなにゴロちゃんのこと好きになったの?」

「うん?」


 手にお皿を持っている葉月がきょとんとした目を向けてきた。だって不思議で。今日初めて会ったはずの子猫にこんなに心奪われるなんて思わなかったんだよ。


「私が好きなのは花音だよ?」


 ……唐突にそう言ってくるのは不意打ち過ぎる!


 不意打ちのその言葉に若干頬が熱くなったけど、あの、葉月? そういうことじゃなくてね?


「あの、ね、葉月? それはすごくすごく嬉しいんだけどね? 私も好きなんだけど」

「うん? うん」

「その、こうやって葉月が何かに執着するの初めてだなぁって思って。どうしてかなあって思っちゃったんだけど」


 熱くなった頬を冷やすように手でひらひらと振りながら、また葉月を見ると、「うーん」と言いながら葉月は自分の手に持っているお皿を見つめていた。


「……鳴いてた」

「ん?」

「ゴロンタ、鳴いてたんだよ」


 拾った時にってこと?


「みゃあみゃあって、なんか鳴いてた」


 その声が、どこか寂し気に聞こえてきた。


「なんか……似てた……」


 その瞳が、昔を懐かしんでいるようにも思えてきて。


「だから、一緒いようって……思っちゃった」


 困ったように笑った葉月は、絶対今自分の家族のことを思い出している


 そっか。葉月は、ゴロちゃんのこと、もう大切なんだね。

 その顔見ただけで分かるよ。

 もうゴロちゃんは、葉月の大切にしたい存在だって分かるよ。


 胸がぎゅーっと締め付けられて、ついお皿を持っている葉月の手に自分の手を重ねると、パチパチと目を瞬かせながら私を見てきた。


「そっか。じゃあ一緒にいなきゃね」


 葉月が大切にしたいって、そう思える存在が、もっと増えればいいって思うから。

 葉月の大切にしたいものを、私もちゃんと大切にしたいから。


「花音、嫌じゃない?」

「ん? 何が?」

「猫……アレルギーとかある?」

「ないよ。大丈夫」


 今更そんなこと聞いてくるとか、おかしくなってくる。葉月の中でゴロちゃんと一緒にいることは確定事項なんだなぁ。


 ああ、でも。


「でもね、葉月」

「うん?」

「一番は私がいいかなぁ」

「うんん?」


 分かってなさそうに葉月が首を傾げていたのがおかしくて、また笑ってしまう。重ねていた手を今度はちゃんと握ると、手と私を交互に見てくる。


 我儘を言えば、最初に考えるのは私がいい。

 その気持ちを向けてくるのは私がいい。


 大切にしたいものの一番は、私がいい。


「まあ、それはもう分かってるんだけどね」

「何が~?」

「私の一番は葉月だよってこと」

「私も花音が一番好きだよ?」


 私の手を握り返しながら、自然とそう言ってくる葉月には、やっぱり適わないなぁ。


「ゴホン」


 と、わざとらしく咳払いが聞こえて、あ、しまったと思った。


 その咳払いをした人の方を向くと、すご~く気まずそうに顔を横に向けている。このお店まで連れてきてくれた鴻城家の護衛のお姉さん。その向こうには他のお客さんもいて、チラチラと視線を向けてくる人もいる。


 こ、これ、また二人の世界に入っちゃってた。


「みんな見てるね~」

「一花ちゃんに怒られる……」


 また人目を気にせずにやってしまった。どうやら私と葉月の二人での会話は、周囲から見ると甘々らしい。目のやり場に困るから公共の場では控えろって、散々一花ちゃんから言われてたのに!


「……お品物はお決まりでしょうか?」


 護衛のお姉さんのその気遣いの言葉がさらにグサグサと胸を突いてくるよ! ごめんなさい! そんなつもりはなくて! でもこの愛しい気持ちも止められなくて!


「ご……」

「ご?」

「ゴロちゃんに、玩具も買っていこうか、葉月!」


 突然の話題の方向転換に、葉月はまたきょとんとしている。でもこれで行くしかない! このままだと、護衛のお姉さんも視線のやり場にさらに困ってしまうから!


「うん!」


 なんの疑問も持っていない葉月の満面の笑顔で、さらにキューっと胸が締め付けられたけど、なんとか持ちこたえて、猫のお世話に必要な物を買って寮に帰ることにした。



 帰ってから予想していたのか一花ちゃんが寮母さんにも他の寮生にも話をつけていて、さすが優秀すぎると思っていたんだけど……


「公共の場では控えろって言ったよな?」


 と、あとで一花ちゃんに凄まれたのは、言うまでもなかった。お姉さん……一花ちゃんに全部報告しなくても!


 でもごめん、一花ちゃん……葉月が可愛すぎるのがいけないと思う! なんて、心の中で言い訳しつつ、ゴロちゃんと一緒に戯れている葉月を見て、心がほっこりと癒された。


今月中にあと一話(かも?)更新予定です! 楽しんでくれれば嬉しいです!

お読み下さり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
すぐに2人の世界に入っちゃう花音と葉月可愛すぎる というかすぐに周り見えなくなっちゃう花音が重症すぎる……w 本編、番外編、SS完結済みって書いてあって1年以上たってたから めっちゃ最近に更新されて…
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