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大好きだって伝えるために ─葉月Side


「ゴロンタ、そこは私の場所です。どいてください」

「みゃ?」

「そこは私の特等席です。ゴロンタでも譲れません」

「みゃっみゃっ」


 コチョコチョと花音の膝の上でおへそを上向きにして寝転がっているゴロンタのお腹を触ると、手足をちょこまかと忙しなく動かしている。むー。全然どかない。

 クスクスと頭上から花音が笑っている声が聞こえてきた。


「ゴロちゃんはここがお気に入りだもんね」

「むー。違うもん。ここは私のお気に入りだもん」


 埒が明かないのでゴロンタをひょいっと持ち上げて、代わりに自分の頭を花音の膝の上に乗せた。んふふ~。やっぱりここが一番好き~。ふふって微笑みながら、花音が髪を掬うように撫でてくれる。


 この手が、やっぱり心地いい。


「みゃ、みゃ」

「ゴロンタはここ~」


 ゴロンタを寝転がった私のお腹に乗せて撫でてあげる。むむ。なんだい、ゴロンタ。なんでそんな呆れたように見てくるんだい。猫なのに器用じゃないか。

 そんなゴロンタの背中を花音は器用に撫でていた。それに満足したのか、仕方なさそうに体を丸めている。


「ゴロちゃん、また少し大きくなったなぁ」

「うん」


 拾った時より、一回り体が大きくなってる。それはそれで嬉しいなって思う。


 ゴロンタは段ボールの中で鳴いていた。どうにも放っておけなくなったんだよ。拾った時の目が、お母さんを探しているように見えてしまって。


 淋しいよねって思った。

 ママに会えないの、寂しいから。

 パパに会えないの、寂しいから。


 ゴロンタと自分をどこかシンクロさせてしまった。


 あの時計塔以来、頻繁に夢に見る。

 ママとパパのこと思い出す。


 そういう時、花音がいつもギュッて抱きしめてくれる。私がママとパパのことを考えてる時、顔に出てるみたい。


 だから花音の温もりに甘える。

 そうすると、胸の奥がポカポカするから。


 死ななきゃって、考えなくなるから。


「葉月」

「ん?」

「ちょっと体起こして?」


 んん? 少しママとパパのこと思い出してたら、花音がいきなりそんなことを言ってきた。もしかして、また顔に出てたのかな?


「大丈夫だよ?」

「いいから、ね?」


 そう言って柔らかく微笑んでくる花音に逆らえませんね。ゴロンタをお腹から床の上に移動させて体を起こすと、予想通りに花音がギュッて抱きしめてくれる。


 やっぱり花音にギューされるとあったかい。スリスリと花音の肩に顔を埋めると、花音も私の首元に顔を埋めてきた。


「少し思い出してた?」

「……少しだけだよ」

「そっか」


 ふふって耳元で花音が笑っている声が聞こえてきた。


 花音は私がママとパパのことを思い出すのが嬉しいらしい。「なんで?」って聞いたことがある。そうしたら「子供の葉月に会えるみたいだから」って言われた。よく分からない。


 少し顔を離して、今度は花音の指が頬に触れてきた。

 嬉しそうに微笑んでいる花音を見ると、こっちまで嬉しくなって自然と口元が緩んでしまう。


「葉月、大好きだよ」


 いつも花音はそう言ってくれる。

 その言葉を聞かせてくれて、熱が籠った瞳を向けてきて、幸せそうに笑ってくれる。


 前世のみんなを思い出す。

 ママとパパを思い出す。


 その度にポカポカと胸の奥が温かくなる。


 嬉しくなって、そのまま花音の頬にチュッとキスをすると、くすぐったそうにまた花音は笑ってくれた。


「この前は口がいいって言ってたのに、自分からする時は頬っぺただよね」


 んん? そういえばそうだった。花音が会長と会ったって言ってて、それでモヤモヤしちゃったんだ。


 でも花音がチューしてくれて、モヤモヤなくなっちゃったんだよね。おでこにされて、口がいいって思ったんだよ。だってそっちの方が気持ちいいもん。


 でも確かに、自分からする時はほっぺだなぁ。


「なんでだろ?」

「自覚ないの? いつもそうだよ」


 ふふって今度は花音が私のほっぺにチュッてしてくれる。

 その唇の柔らかさがやっぱり心地いい。


 ほっぺ。ほっぺかぁ。


 ふと思い浮かんだのは、ママのこと。


「ああ、そっか」

「ん?」

「えへへ、そっかぁ」


 いきなり思い出し笑いをした私を、花音が不思議そうに見てきた。そんな花音が可愛くてギューッてまた抱きしめる。


 ポカポカして、嬉しくなった。


「どうしたの?」

「えへへ」


 耳元で分からなそうに聞いてくる花音がいる。


 でもね、思い出しちゃったんだよ。


 ほっぺにキスする理由を。


「あのね」

「うん?」

「ママがね、いつもしてたんだよ」

「え?」


 ママが、いつもほっぺにチューしてきたんだよ。


 私も嬉しくて、ママにしてた。


 パパにもしてた。



 それが、大好きだって伝えることだって、教わったんだよ。



 思い出して、なんだかとても嬉しくなった。


 それを出来る相手が、


 花音がいることが嬉しくなった。



「大好きだって伝えるためにしてるって、いつも言ってたんだよ」



 抱きしめていた腕を緩めて、また啄ばむように花音の頬にキスすると、ふふって花音も笑ってくれる。


「そっか。それでか」

「うん」

「私もしたくなってきたなぁ」

「うんっ!」


 ほっぺを突き出すと、花音もまた嬉しそうにしてくれて、それでまたポカポカして嬉しくなった。


 ん? ゴロンタ? ゴロンタもしてほしい? じゃあ、やろうじゃないか!

 その日はゴロンタも混じって、お互いに何回もほっぺにチューをした。



お読み下さり、ありがとうございます。

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