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これって嫉妬? ─花音Side

 

「んー? 会長と?」

「うん。如月さんの会社で偶然ね。元気そうだったよ」


 ふふっと笑いながら、ゴロちゃんと遊んでいる葉月にそう伝えると、きょとんとした顔を向けてきた。猫じゃらしが空中で止まって、ゴロちゃんが一生懸命ジャンプしている。その光景が微笑ましい。


 最近、アルバイトを始めた。皐月さんのお店で雇ってもらっている。皐月さんに誘われたんだよね。とはいっても、学業もあるから週に一回だけだけど。


 バイトの件を伝えると、葉月は少し心配そうだった。「今でも忙しいのに……」って生徒会の仕事もあることを知ってるから。


 でもね、今のままじゃダメだと思ったんだ。


 鴻城(こうじょう)家のしていることを、実は一花ちゃんから聞いている。皐月さんからも少しずつ教えてもらっていたりする。


 実は葉月がとても頭がよくて、子供の時にすごいことをしてきたって聞いたの。そんな葉月の隣に、何も出来ない自分が立っているのは嫌だと思った。この前実家に帰った時に、葉月の本音を聞いてさらに思っている。


 ただ守られるだけなのは嫌。

 私だって葉月を守りたい。


 だけど、私にはそんな知識も力もない。どんな知識をつければいいのか、どんなことを出来るようになればいいのか、何から手をつけていいのかも分からない。


 そう悩んでいる時に皐月さんから連絡があって、思い切って相談してみた。皐月さんは鴻城家を継ぐ予定の如月さんの婚約者だから。それに、もう私が葉月の恋人だっていうのは知られているしね。


 その返答が「自分の店で働いてみないか」っていうものだった。

 そこで皐月さんの補助をして、近くで学んでいけばいいって言ってくれたんだよ。実際皐月さんや如月さんがどんなことをしているのか、それを目の前で学べるのは魅力的な提案だった。


 葉月は渋々ながらも承諾してくれたよ。私の気持ちを素直に言ったからね。

 私がやりたいって言ったことを、葉月はとても尊重してくれる。それがとても嬉しいし、大事にしてくれていると思うと、愛おしくてたまらない。まあ、過保護な部分はあるけど。


 バイトの時もそうだけど、一人で行動する時は絶対に護衛の人をつけられる。

 最初は私に護衛なんかって申し訳ない気持ちで一杯だったけど、葉月がそれで安心するなら仕方ないかって割り切った。今ではすっかりあのお姉さんと仲良くなっちゃったよ。


 早く葉月に追いつきたいなって、色々と今は勉強中。葉月との時間も大事だから、その時間を作るためにも、生徒会の仕事は出来るだけ学園の時間内に終わらせていたりする。舞がたまに「こんなに!?」って驚いてるよ。前倒しでいくらか進めてるものもあるし。


 そんな毎日を過ごしている中、今日は皐月さんの代わりに書類を如月さんに届けた。皐月さんは「別に今日じゃなくてもいいのよ?」って言ってくれたけど、帰り道だったから。それに、如月さんの会社って実際見たことなかったから、少し興味があったんだよね。


 そうしたら鳳凰先輩がいたから、びっくりしたよ。


 先輩、変わってなかったなぁ。東海林先輩とはメッセージでやり取りしていたけど、確かに先輩の言うとおり、偉そうな態度は前と同じ。大学部では絵画サークルに入ったって聞いたから、前よりは自由に趣味もやっているみたい。


「『小鳥遊は元気か?』って気にしてたよ」

「会長が~?」

「うん。だから元気だって伝えておいた」

「ふーん……」


 他にも九十九先輩たちのことも気にしてたなぁ。なんて先輩と話した時のことを思い出していたら、何故か葉月がゴロちゃんと遊ぶのをやめて、トテトテと近寄ってきた。


 どうしたんだろう? と思ったのも一瞬。

 背中の方に回り込んできて、後ろからギュッと抱きしめてきた。


「どうしたの、いきなり?」

「んー。別に~」


 グリグリと私の肩に顔を押し付けて擦り寄らせてくる。可愛い。


 勉強していた手を止めて、そんな葉月に私もそのまま背中を預けて頭を撫でてあげた。ゴロちゃんも葉月に釣られてか、私の膝の上に乗って寛いでいる。


 この時間が、実はすごく嬉しかったりするんだよね。


 両想いになってから、こうやって葉月は甘えてくれるようになった。

 その度に愛おしい気持ちで一杯になる。やっぱり葉月の温もりに包まれている時が一番幸せだなって思うんだよ。


 あれ? でもこうやって甘えてくるの、いつもは葉月のご両親の話とかした時なんだけどな。


「葉月、もしかしてお腹空いた?」

「んー。空いてない」


 そっか。空いてないか。まあ、それもそうかも。さっき夕飯食べたばかりだし。じゃあ本当にいきなりどうしたんだろ? って不思議に思っていたら、ギューっとお腹に回された葉月の手が強くなる。


「葉月?」

「んー」


 グリグリと今度は不機嫌そうな声で額を擦りつけてくる。可愛いけど、いつもと少し違う。この体勢からだと葉月の顔がよく見えないから、今どんな顔をしているのかも分からない。


 おかしいな? さっきまで普通だったんだけどな。


「葉月、なんか怒ってる?」

「……怒ってないもん」


 うーん。明らかにさっきより不機嫌そう。原因が分からない。仲が悪い会長の話をしたから? あれ、でもそれで機嫌が悪くなるって……


「面白くないだけだもん…………」


 ボソッと呟いた葉月の言葉に、胸の奥が熱くなった。


 え、え……これって、もしかして妬いてくれてる? 前に嫉妬してくれてたみたいなことを言ってくれたことはあったけど、あんまり信じてなかった。そんな素振り、思い返してみても分からなかったから。


 だけど、不機嫌そうに肩に顔をグリグリと押し付けている葉月は、私でも分かるくらいに嫉妬してくれてる。


 うわ、うわぁ。

 何これ。

 すごい、すごい嬉しい。


 ギューッとこれでもかと嬉しさで胸が締め付けられて、たまらず体の向きを変えて、正面から葉月を抱きしめた。「みゃ」とゴロちゃんが私の膝から落ちてしまった鳴き声が聞こえてきたけど、ごめんね。今、すごく嬉しくて嬉しくて。


 いきなり体の向きを変えて私から抱きしめたからか、葉月が戸惑っている空気が伝わってきた。戸惑いがちに抱きしめ返してくれる。そんな葉月についつい笑ってしまう。


「なんで笑ってるの~?」

「ふふ、ごめん」


 嬉しいんだよ。

 葉月が嫉妬してくれたのが嬉しい。


 抱きしめるのをやめて、葉月の顔を覗き込む。訳が分からなそうに目を丸くさせていた。

 そんな葉月が愛おしくて、そっと指を葉月の頬に触れさせながら、また自然と笑みが零れてしまう。


「ねえ、葉月。私が会長と会ったの、そんなに面白くなかった?」

「……うん」

「そっか。ふふ、どうしよう、嬉しいな」

「嬉しいの?」

「嬉しいよ」


 だって、それって、



「葉月が、私のこと好きなんだなって思えるから」



 そう伝えると、葉月がパチパチと目を瞬かせている。分かってないんだろうな。


 そんな葉月に笑っていると、コツンと額を合わせてきて、スリスリとさせてきた。

 そしてまた、私を嬉しがらせる言葉を言ってくれる。


「好きだよ」


 うん、知ってる。


「ちゃんと好きだよ」


 分かってる。


 でもね、嫉妬してくれたのが嬉しいんだよ。



 葉月の心の中に、私がいてくれていることが嬉しいの。



「私も大好きだよ」


 そう自分も伝えて、少し背伸びをしてから、葉月の額に口付けをする。

 この愛おしくて一杯の気持ちが葉月に伝わればいいなという想いを、唇に乗せる。


 唇を離して、葉月をまた正面から見ると何故かまたむーって不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「嫌だった?」

「違うもん。口の方がいい」


 葉月の言葉で、私の方がきょとんとしてしまったよ。

 本当、葉月は私を嬉しくさせるのが上手いなぁ。


 今度はちゃんと口に触れさせると、満足したように笑ってくれた。

 嫉妬も嬉しいけど、やっぱりこの幸せそうな笑顔を見るのも嬉しい。


 私が葉月をこの笑顔にしているんだって思うとね、



 嬉しくて幸せな気持ちで一杯になるんだよ。



「花音、もう一回」


 そう強請ってくる葉月が可愛くて仕方がない。


 これ以上ないくらいの幸せな気持ちが胸いっぱいに広がっていく。

 愛おしい気持ちが溢れてくる。


「葉月、大好きだよ」


 何度言葉にしても足りない。


 言葉じゃ足りないから、また葉月にキスをする。

 葉月もまた返してくれる。


 葉月の唇の柔らかさと温もりに、やっぱり私は酔いしれる。


 ハッと軽く息を漏らしながら少し顔を離すと、ふふって葉月がまた微笑んでくれた。ギューッて抱きしめてきて、自然と私の顔も葉月の肩に埋もれてしまう。その安心する温もりに包まれて、また嬉しくなっていく。


「葉月はズルいなぁ……」

「うん?」


 不思議そうに聞き返してくる葉月の腕の中で、またクスっと笑ってしまった。葉月の体を抱きしめ返しながら、スリッと頬を葉月の肩に擦り寄らせると、優しい手で今度は頭を撫でてくれる。


 こんな風に、一瞬で葉月は私を嬉しくさせる。


 嫉妬も、

 言葉も、

 温もりも、

 この優しい手も、


 全部が私を幸せにしてくれる。


 私もそうなりたい。


 葉月を幸せな気持ちにさせてあげたい。


「もっと頑張らないとね」

「何を~?」

「何でもないよ」


 ふふって笑って、葉月に擦り寄った。葉月もまたスリスリと頬を押し付けてくれる。もう、可愛すぎるよ。


 少しの間、葉月の温もりを堪能していたら、寂しくなったのかゴロちゃんが「みゃーみゃー」と鳴いて私と葉月の間に入ってきた。


 そんなゴロちゃんが可愛くて、その後の勉強はお休みにして、葉月と一緒に目一杯遊んであげたよ。


「ゴロンタ、ゴロンだよ!」

「みゃ?」

「ふふ」


 尻尾をフリフリさせて目を丸くしているゴロちゃんに、一生懸命芸を仕込もうとしている葉月が、また愛おしくなってたまらなくなった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嫉妬しちゃう葉月可愛い·····甘えてくるようになってから可愛さが10倍増しになってる·····空気が甘々だよぉ····· [一言] 毎回ゴロンタの話題が上がるの個人的にめっちゃ好きで…
[一言] 気持ちはとても分かるけれど嫉妬されて喜ぶ花音は悪い子ですね
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