その気持ちは恋だった 後編 ─鳳凰翼Side
「鳳凰先輩?」
如月の会社のロビーで、ずっと聞きたかった声が耳に届いた。
自然と胸が熱くなって、足が止まる。
「やっぱり、鳳凰先輩だ。お久しぶりです」
そう言いながら近くにきて、柔らかく微笑む姿が視界に入る。
夢にまで見た桜沢の姿がそこにある。
もうそれだけで、顔を思いっきり横に逸らして手で隠した。
「鳳凰先輩?」
戸惑ってる声が聞こえてきたが、それどころじゃねぇ……。
かかかか、可愛くなってるじゃねえかよおお!?
「えっと、どうしました? 大丈夫ですか?」
久しぶりに聞く声も、これでもかと心臓を掴んできた。
待て。
待て待て。
落ち着け、俺。
冷静に、冷静になるんだ。
気づかれないように深呼吸して、ソッと手の隙間から桜沢を視界に入れた。高等部にいた頃にはあまりお目見えできなかった私服姿みたいだ。
……やっぱり可愛くなってるじゃねえかよおおお!?
ドッドッドッと心臓が早鐘を打ってくる。
やや、やばいだろ! なんだこれ!? まだ卒業してから数か月だぞ!? なんでこんな女っぽく、いや綺麗、というよりここまで可愛くなってるんだよ!?
「あの、先輩? どこか具合でも悪いんですか?」
お前の可愛さにやられてるなんて、口が裂けてもそんなクサいことは言いたくねえ!! だが、このままだと俺はこいつに病人扱いされる……あーくそっ!! 落ち着け、俺!!
「花音様、上まで上がってきてほしいそうです」
「あ、はい。今行きます」
必死で暴れてる心を落ち着かせていると、桜沢が知らない誰かに返事をしている声が聞こえた。上ってことは……魁人さんか? 魁人さんのあの面白がる笑顔を思い出して、そこでやっと少し冷静になった。
「……魁人さんに会いにきたのか?」
「え? あ、はい。皐月さんからの届け物を届けに」
やっと返事した俺に、桜沢はまた前みたいに柔らかく微笑んでくる。と思ったら、不思議そうに首を傾けた。
「先輩、本当に大丈夫ですか? 顔、赤いですけど……」
「平気だ……」
そうだろうよ……落ち着いたのは心臓だけだからなっ! そんなきょとんとするな!? 気づけよ、少しは! とか内心思っていたら、桜沢の隣にいる女がコホンと咳払いをした。……そういや誰だ、こいつ?
その女に視線を向けていたら、桜沢が苦笑して肩を竦めていた。
「すいません、すぐ行きます。五分だけ待ってもらえるように魁人さんに言ってもらえませんか?」
「……かしこまりました」
ジトっとした目で睨みつけながらその女はまた受付に足を運んでいた。なんでそんな睨まれなきゃいけないんだよ?
「ごめんなさい、先輩。最近はあの人と一緒に行動していることも多くて」
「……誰だ、あれ?」
「あー……えっと、その……鴻城家で雇われているボディーガードさんです……」
とても言いにくそうに呟いているが、なんで鴻城家の人間が桜沢を――って考えるまでもないか……。
「小鳥遊か?」
「あはは……そうです」
困ったように笑っているが、どこか嬉しそうに桜沢が答えた。
その顔を見ただけで、小鳥遊と今どんな状態なのか分かる……東海林の言った通り、上手くいってるのが。
「あいつ……元気か?」
「はい。元気ですよ。今日も寮で猫のお世話を楽しくしているはずです」
「猫?」
「飼い始めたんです。写真見ますか?」
クスクスと笑って、桜沢が携帯を見せてきた。見せられたのは、桜沢と寄り添って猫と一緒に写っている小鳥遊の写真。
……こんなもん見せてくるんじゃねぇよ。
幸せそうに笑っている二人の姿を見て、ズキズキとさっきから胸が痛む。
「もう葉月はこの子にメロメロで。私もつい嫉妬しちゃってます」
おい。今は俺の方が内心穏やかじゃねえんだよ。なんだ、その顔は。やめろ。そんな嬉しそうな顔を見せるな。
心の中で勝手に小鳥遊をぶん殴りたくなっていたら、桜沢は携帯をバッグの中に入れながら、また真っ直ぐ俺を見てきた。
「先輩もお元気そうですね。東海林先輩からは聞いてましたけど、どうですか、大学部の方は? 絵のサークルにも入ったとか?」
「それも東海林から聞いたのか?」
「はい。東海林先輩とはたまに連絡を取ってますから」
あいつ……余計なこと言ってねえだろうな?
「絵に没頭しすぎて、周りの女の子を高等部の頃より避けているって言ってましたけど、今はどんな絵を描いてるんですか?」
「っ……」
「先輩?」
つい言葉に詰まってしまったら、また不思議そうな目で見てきた。いいい言える訳ないだろうがぁぁ!? お前の絵だよ、お前のぉぉ!! 東海林、あいつ、余計なこと教えやがって!!
「ふっ……」
「ふ?」
「ふふふ普通の絵だっ、普通の!!」
「えっと……なんでそんなに慌てて??」
「あ、慌ててねぇ……普通の風景画だ……」
きょどりながら返答してしまうと、尚も不思議そうな顔をしている。でもすぐにまたあの頃みたいに綺麗な微笑みを浮かべていた。
「そうなんですか。前に貰った私の絵は人物画ですから、先輩がどんな風景画を描くのか、少し興味がありますね」
……お前、そういうとこだぞ、そういうとこ。そんなこっちが期待してしまうようなことを言うな。
あーくそ。このままだと、また違う意味でグサグサやられる。話題、何か話題を変えねえと……
「あー……綜一たちはどうだ? 上手く会長やれてるのか?」
「九十九先輩たちですか? はい。舞とも協力してますし、阿比留先輩も副会長として九十九先輩を支えてますから。あ、新しい生徒会メンバーも増えたんです。その子たちに教えるのも楽しそうにしていて」
今の生徒会がどう回っているのか、桜沢は楽しそうに教えてくれる。俺がいなくても、ちゃんとやれてるのか。まあ、綜一はしっかりしてるしな。俺なんかより実は会長の素質があるのかもしれない。
「あ、でも先輩のことも時々話しますよ」
「は? 俺の事?」
「一年生メンバーに鳳凰先輩のことを自慢してますね。どれだけ素晴らしかったか、とか」
即座にやめさせろ。なんだ、それは。あいつ……前から思ってたが、どうにも俺を崇拝しているところがある。
「来年、大学部に行くのを楽しみにしていました。また鳳凰先輩たちと一緒に何かをやりたいって」
……綜一たちには絶対あの絵は見せないようにしないとな。卒業式の後に、あれだけ慰めてきたのは初めてだ。さらに心配かけるだけだろ。
今でも俺なんかを慕っている感じの綜一たちの様子に、ついハアと溜め息をついたら、また桜沢が口を開いた。
「私は先輩たちみんなと合流するのは再来年ですね。私も楽しみにしてます」
予想外のことを言ってきた。え、こいつ、大学部に来るのか?
「なんですか、その顔は?」
「お前……大学部に来るのか?」
「行く予定ですね。ああ、もしかしてお金のことですか? そこはほら、奨学金があるので。それに今からその為のお金も貯めるつもりですから」
てっきり来ないと思っていた。大学は違う所に行くのかと。他の大学より金がかかるから。
なんだ……こいつ、来るのか。待てよ? それなら、またこいつとも一緒に学園生活を送れるんじゃないか? 講義のこととか教えてやることも出来るし、一緒にいられる時間が自然と増えるんじゃ?
あわよくばって考えた瞬間、目を奪われた。
桜沢が、
今まで見たことないくらい、
綺麗な笑顔を浮かべていた。
「葉月の為にも、私、もっと色々なことを知りたいんです」
……小鳥遊の……為。
その言葉が一番、俺の心に突き刺さってくる。
さっき考えた自分の考えが浅はかだったと気づく。
「やっぱり学業だと、星ノ天が一番ですから」
ふふっと、こっちの気も知らずに、桜沢は綺麗な笑みを浮かべている。
嬉しそうに。
幸せそうに。
「葉月を支える為に、もっと頑張ろうと思って」
どこまでも小鳥遊の為に。
「葉月の隣に堂々と立っていたいんです。ただ守られるだけじゃなく、守りたいから」
強い意志を持った瞳をして、真っすぐ桜沢は俺を見てくる。
覚悟が見えた気がした。
俺の未練がましい想いなんて、ちっぽけに感じるくらいに。
その微笑みに、内心ショックを受けつつも魅入られた。
桜沢の中で、もうハッキリと、小鳥遊への想いは揺るがない。
つけいる隙なんてない。
俺のことを考えさせることなんて出来ない。
そう思ってしまうぐらい、もう桜沢の中で、小鳥遊のことが中心になっている。
その強い眼差しが、そう伝えてきたような錯覚を覚えた。
「あ、すいません、先輩。足を止めさせてしまって。私もさすがに行かないといけないみたいです」
「……あ?」
「今度、時間があったら高等部の方にも顔を出してください。九十九先輩たちも喜ぶと思います」
「え、いや、おい……」
弱々しい声で呼び止めても、桜沢はもう俺の方は振り向かない。さっきの鴻城家のボディーガードと一緒に、エレベーターの方へと行ってしまった。
桜沢がいなくなってからも、そこで少し俺は立ち竦んでしまった。
さっきのあいつの笑みを思い出す。
綺麗だった。
他のことなんて目を向けられないぐらいに。
「はは……」
乾いた笑いが自然と出てきた。
バカだ、俺。
何を期待してた?
会えば少しは気づくかも?
ずっと、卒業してからそんなことを想像していた。
小鳥遊は女だ。
しかも問題児。
いつかはそんなあいつに愛想を尽かして、男の俺の魅力に桜沢が気づくんじゃないかって……ずっとずっとそんなことを考えていた。
さっきもそうだ。
あいつが大学部に進学するって聞いて、また一緒にいられる時間が増えれば、小鳥遊なんかより俺の方がって気付くんじゃないかって思った。
「バカじゃねえか……俺……」
クシャッと自分の前髪に手を置いた。
あの温かい声は、小鳥遊を想っているからだ。
あの嬉しそうな顔は、小鳥遊を考えているからだ。
あの幸せそうな微笑みは、小鳥遊との今が幸せだからだ。
あの強い眼差しは、小鳥遊との未来を描いているからだ。
全部、小鳥遊だからだ。
俺じゃない。
俺のことを考えてるからじゃない。
あいつが好きなのは……俺じゃないんだ。
卒業してから初めて、その事実をやっと理解した。
「大丈夫ですか?」
その受付の女性の声でハッと我に返った。振り返ると心配そうな表情だ。な、何をやってるんだ、俺は!?
途端に恥ずかしくなって、慌てて踵を返した。後ろから「大丈夫なのかな、具合悪そうだったけど……」「大丈夫じゃない? 元気に歩いてるし。それにしても、あの子超イケメンだよね」なんて会話が聞こえてきて余計恥ずかしくなり、慌ててロビーから立ち去った。俺、そんなに具合悪そうな顔してたのかよ? 情けねぇ!
外に出ると夏が近づいてきているせいか、蒸した熱が体にまとわりついてくる。最悪だ。こんな気分でこの暑さとか。
ハアとまた溜め息が自然と出てくる。
失恋ってこんな感じなのかよ。なんだ、この虚しさは……さっきまで、帰ったら父さんたちに会ってとか考えてたのによ。最悪じゃねえか。もう頭真っ白だっつうの。
ガシガシとまた乱暴に片手で髪を掻きむしった。
虚しさがずっと粘りついてくる。
あいつの小鳥遊への想いを思い出すと、さらにその虚しさが広がっていく気がした。
確かにあいつを好きなのに、
あいつの小鳥遊への気持ちの方が強いって思える。
だけど、だけどな……
ちゃんと俺、お前が好きだったんだよ。
お前ほどの強い想いじゃないかもしれないけど、俺はお前が好きだった。
自然とその気持ちが出てきて、また虚しい乾いた笑いが出た。
ちゃんと好きだった。
言葉にして伝えていないけど、俺はあいつが好きだった。
そう考えていると、段々とそれでいいという開き直りの気持ちも出てくる。
顔を上げて、そのまま空を見上げた。
そういえば、小鳥遊はあの時計塔でずっと空を嬉しそうに眺めていたな。
失恋で虚しさ全開の時に思い出すのが、あの迷惑極まりない憎らしい相手の小鳥遊だっていうことに笑えてくる。
だけど、その空はいつもより綺麗に見えた。
太陽が雲の隙間から覗いて、その雲に光が反射して輝いているように見える。
「あの馬鹿野郎に、負けたんだな、俺は……」
言葉にして、さらに実感する。
そして思い出す。桜沢と過ごした一年を。
無駄ではないと、本気で思えた。
初めて、心に入り込んだ女がいたこと。
初めて、喜ばせたいと思った女がいたこと。
初めて、ずっと笑っている顔を見ていたいと感じた女が、俺に出来たこと。
「坊ちゃま、どうされました?」
「おわっ!? いいいいきなり話しかけてくるな!!?」
「それは申し訳ありません。随分と気持ち悪い顔をされていたので、何か悪い事でもあったのかと……」
「気持ち悪いとか言うなよ!?」
昔から鳳凰家に仕えている運転手が失礼極まりないことを言ってくる。というか、いつのまに背後にいた!?
「それで坊ちゃま、その悦に入っている気持ち悪い顔はどうされました?」
「だから、気持ち悪い言うな!? お前、少しは遠慮を覚えろ!? 悦に入るって言い方、グサグサくるわ!!」
「こんなくそったれな悪ガキの頃から知っている為、つい……」
「悪ガキじゃねえだろ!? 昔の俺ほど出来た子供はいなかっただろうが!!」
「…………あ、はい、そう……ですね?」
「ぅおおおい!? 言い淀んでんじゃねえよ!?」
人が無理やり失恋を振り切ろうとしている時に、こいつはなんなんだよ!? 「うおっほん」って、わざとらしく咳払いするんじゃねえ!
「それより、早く車に乗ってくれませんか? 話はあとで聞くので。駐禁とられてしまいます。その為に降りてきたんですよ」
「それを先に言え!?」
鳳凰家が交通違反で警察に捕まるとか洒落にならんわ!! なんで最初に気持ち悪い顔をしてたとか聞いてきた!? いや、気持ち悪くねえし!!
だけど、少しだけさっきまでの虚しさは消えていた。さすがは子供のころからの付き合いだ。俺が落ち込んでたのも実は気づいていたんだろう。そんな調子で、家に帰るまでその運転手は俺をからかい続けてきた。
おかげで、さっきよりさらに心が晴れていく感覚が広がった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あら? やっと違う絵を描き始めたの?」
「うっせえ」
後日、サークルの部室に東海林と怜斗が押しかけてきた。そんな二人に構わず、俺はイーゼルに立てかけたキャンパスに筆を乗せる。
「へえ、翼が風景画? これ、どこの景色?」
「さあな」
「ああ、でもちゃんと人も描いてるのね」
ああ、うるせえ。こいつら、こんなところに遊びにくるとか本当は暇なのか? 二人で仲良くイチャイチャしてればいいじゃねえか。
ふんっと二人には目もくれず、空の部分に色を塗る。
キャンパスに描かれているのは、どこかの平原だ。知らん。適当にそこは想像で描いてる。
その平原には、二人の人間も一緒に描いていた。
卒業式の後、屋上で、みんなで弁当を食べた時に見た光景だ。
「これ、誰なのよ?」
「誰が教えるか」
「まあまあ、椿。いいじゃないか、誰を描いていても」
ふふって笑いながら怜斗は東海林に声を掛けている。これ、俺が誰を描いているか分かってるな。昔からの付き合いだから、怜斗にはお見通しか。さすがに東海林はこのサイズの人間だと分からないみたいだが。
あれから数日、色んな事を思い出していた。
最初にあいつに会った時の事、体育祭、海や夏祭り、校外学習、クリスマスパーティー。
そして最後に、全員で、屋上で弁当を食べた時のこと。
羨ましいと、本気で思った。
だけど、それと同時に、
ああ……綺麗だなって、思ったんだ。
桜沢が小鳥遊に膝枕して、二人で空を眺めている姿が綺麗だって思ったんだよ。
絵に残したいって思って、あれから新しいキャンパスにこの絵を描き始めたんだ。
思った以上に筆が乗って、大分完成に近い状態だ。
というか、これで完成だろ。
カタっと筆を置いて、腕を組んでその絵を眺める。
自然と口元が緩むのが分かった。
「え、何? 完成?」
驚いているような東海林の声が聞こえてきたが、俺はこれで満足だな。
「綺麗な絵だね」
後ろの怜斗も満足したように呟いていた。
自分でも納得できる絵だ。
透き通るような空を、平原で眺めている二人。
それを見て、自分の中でスッキリとした感覚が落ちてきた。
やっと、自分の中の感情に区切りがついた。
好きだった。
俺はあいつを好きだった。
ちゃんとその気持ちは恋だった。
だから、その想いは綺麗な思い出にしたい。
これからの未来で、俺は違う人に想いを寄せるかもしれない。
でもな、あいつへの想いをなかったことにはしたくなかったんだ。
想いは叶わなかったけど、俺にとってはかけがえのない気持ちだった。
桜沢。
俺はお前が好きだった。
この気持ちを知れたことが、今は俺にとっても嬉しく思うんだ。
虚しさはまだ残っているが、だけどな、すごく今は前を向ける。
次を、やっと考えられる。
お前みたいに強く想える誰かに出会いたいと、心の底からそう思っている。
お前に恋したから、
その気持ちを知ることが出来たから、
そう思えるんだ。
感謝している。
この感謝をお前に伝えることは絶対にないが、感謝している。
「ありがとな……」
キャンパスに描かれた絵を眺めながら、ボソッと二人に聞きとれないぐらいのボリュームで呟いた。
「翼、今何か言った?」
「あ? 何も言ってねえよ」
誤魔化すように椅子から立ち上がって、二人を置いて部室から出ようとした。
「ちょっと、どこいくのよ? 今から講義始まるわよ?」
「腹が減ったんだよ。ずっとそれにかかりっきりで昼食べ損なった。食べてから遅れていくから、教授にはそう言っておけ」
ハアと呆れかえったように東海林が溜め息をついているのが聞こえたが、なんだよ、ちゃんと遅れて行くって言ってるだろうが。教授にも講義が終わってから、ちゃんと遅れた理由を自分で言うっつうの。
部室から出ると、窓の外に透きとおるような空が見えた。
今日は所々雲がある。
さっき描き終わった自分の絵の空の青に似ていて、満足した気分になってくる。
もし小鳥遊のバカが絵を描いても、俺の様にあの青を再現できないに違いない。
「そこだけは勝ったな」
そういえば、いつも小鳥遊のバカからは変なモノを送られてきた。意趣返しであの絵を贈ってやろう。
きっとあいつは悔しがる。
だって、桜沢が喜ぶ絵を贈るんだからな。
桜沢は喜んでくれるはずだ。
小鳥遊が好きな空の絵を贈るんだ。喜ぶに決まっている。
あのバカが悔しがる姿を想像して満足しながら、腹を満たすために食堂に足を動かした。
その足は驚くほど軽く感じた。
会長はきっと未来であの声を掛けてくれた受付嬢の人と出会う事になるでしょう……おそらく……多分……。
お読み下さり、ありがとうございます。




