それでもやっぱり心配です―葉月Side
「ゴロンタ、ゴロンタ、こっちだよ~」
「みゃっみゃっ」
猫じゃらしを必死で追いかけてるゴロンタ。えへへ~。そう簡単に捕まらないよ~。
食後のゴロンタとのお遊び。これが結構面白い。
えいっえいっと忙しなく猫じゃらしを動かすと、ゴロンタも一生懸命捕まえようと必死になっている。
「葉月、ハーブティーこっちに置いておくね」
「んー、ありがと~」
「ふふ、どういたしまして」
花音がお気に入りのハーブティーを淹れてくれた。これもやっぱり落ち着くんだよね~。
猫じゃらしをポイっとベッドの上に投げると、ゴロンタが必死にベッドの上に飛び上がってる。やっと捕まえられて嬉しくなったのか、こちゃこちゃと手足を動かして一人で遊びだしちゃった。
「ゴロちゃん、楽しそう」
「うん」
そんなゴロンタを見つつ、私も花音が淹れてくれたハーブティーに手を伸ばす。いつものようにハチミツを入れていると、「あのね、葉月」と花音が何かを言いたそうに口を開いた。
「ん~?」
「あーその......」
何か言いにくそう。どしたの?
何かを決意したかのように、こっちをまっすぐ見てきたから、つい首を傾げてしまった。
「あのね。私、バイトしようと思ってて」
……へ? バイト?
「皐月さんがね、自分の店を手伝ってくれないかって言ってくれてるの。私もやってみたいって思っててね」
パチパチパチと目を瞬かせる。やりたいの? でも花音、生徒会もあって忙しいんじゃ?
「あ、生徒会は大丈夫だよ。バイトっていっても週に一回、数時間のお手伝いなんだ」
「お金が欲しいの~、花音?」
「ううん。そういうわけじゃないの。社会勉強の意味合いの方が強いかな」
社会勉強? 必要ないと思うけどな。だって花音、おじいちゃんたちと経済の話をスラスラしてたし。
「葉月は私がバイトするの、反対?」
「んー。それよりも、やっぱり生徒会もあるのにって思って。いくら新しい子たちが入ったっていっても、まだ生徒会の仕事覚えてないんでしょ?」
「それはまあそうだね。でも覚えは早い子たちだから大丈夫だよ」
「でも……」
「舞も九十九先輩たちもいるし、何より私も去年一年間経験して効率よく動けるから。葉月が心配してるより実は大変じゃないの」
そうなの? 生徒会の仕事はよくわからない。でもなぁ、去年体育祭でも文化祭でも花音が疲れてたの知ってるもん。その上、バイトなんてしてたら、いくら体調管理しっかりしている花音でも体調崩しちゃうんじゃ。
むーむーと頬を膨らませていたら、花音の苦笑する声が聞こえてきた。
「やっぱり反対?」
「だって、心配」
うん、心配。花音がいくらしっかりさんでも、バイトまでするのはさすがに負担がかかりすぎてると思う。
素直に肯定したら、花音はどこか嬉しそうにクスクス笑って、隣に座ってきた。そのまま私の肩に頭を置いてくる。えへへ~、花音とくっつくの好き~。だからぎゅーっとそのまま花音の体を抱きしめる。
「葉月のそういうところ、本当にズルいなぁ」
「うん?」
「好きだよってこと」
好き? 私もこうやって花音のポカポカ感じれるの好き~。
スリスリと花音に頬ずりすると、腕の中の花音がくすぐったそうに、顔を上げてきた。うん、可愛い笑顔ですね。
「こうやって葉月の腕の中で、ずっと甘えられたら良かったんだけど」
「んー?」
じゃあ、ずっとすればいい。
花音がこうやって甘えてくれるの嬉しいもん。
「だけどね、私、ちゃんと葉月の隣に立ちたいって思うんだ」
……んん? 隣に立ちたい? 隣にいるのに?
花音が何のことを話しているのか分からなくて、またパチパチと目を瞬かせると、花音の指が頬に触れてくる。
「自信を持ちたいの。もっと勉強して、もっと色々なことを経験して、堂々と葉月の隣にいられるように」
「隣いるよ?」
「そういう意味じゃなくてね」
ふふって花音は笑って、軽くキスしてきた。なんで今? 嬉しいからいっか。間近で見る花音の瞳がうつる。それがたまらなく嬉しい。
もう一回しようとしたら、花音の指が唇に添えられて阻止された。何故に? そっちからしてきたのに。
「もう一回」
「私もしたいけど、そうするとこの話終わりそうだから、ちゃんと話しようね」
むむ。バイトの件は譲れないらしい。
花音がしたいことは、私も無理に止めようとは思わない。
自由でいるべきだ。
したいことをしてほしいとも思う。
だけど、それ以上に心配っていうのが私の本音なんだよね。
「そんなにバイトしたいの?」
「うん」
「お金なら大丈夫だよ?」
「ふふ、私は葉月からお金もらおうとは全く思ってないよ。むしろ欲しくないかな」
「自信?」
「そう、自信がほしいの」
そうハッキリ言われると、何も言えなくなるじゃないか。
何の自信がほしいのか、全く分からないけど。
「葉月にね、ちゃんと応援してほしいなって思ったの」
……さらに何も言えなくなるじゃないか。
むーってまた頬を膨らませていると、今度はその膨らんだほっぺたに花音がチューしてくる。むむー。花音の方がズルい。そうやって嬉しくなることしてきて、全部許したくなっちゃう。
「やっぱりだめ?」
ほら、ズルい。
そんな上目遣い、可愛すぎてイエスしか言えなくなる。
……仕方ないなぁ。
「条件ある」
「んん?」
私が意外なことを言ったのか、今度は花音が目をパチパチさせていた。
◇ ◇ ◇
「……ねえ、葉月っち」
「シー!! 舞、シー!!」
話しかけてきた舞の口を両手で塞いでから、ソロっと柱の陰から花音の様子を覗き見る。うむ。こっちには気づいていない。
うむうむと頷いていたら、後ろからパーンと後頭部を殴りつけられた。
「いっちゃん! 私は今痛みを感じることが出来るんだよ!」
「静かにするんじゃなかったのか? というか、舞の口から手を離してやれ。窒息してるわ」
「あ」
「ぶはっ! は、葉月っち! 鼻も一緒に塞がないでくれない!?」
「どんまい」
「あたしが言うセリフなんですけど!?」
もー二人とも! だから大きな声出しちゃ駄目だって! 花音が気づいちゃうじゃないか!
ソローっとまた花音の方を覗き見てみる。うむ、気づいてなさそう。というか、楽しそうにお店のカウンター向こうで店員さんと話しているみたい。
「で? ここになんであたしらは連れてこられたんだ?」
「そうだよ。花音のバイト先まで。っていうか、あたしまだ夕飯食べてないんだけど」
舞の言うとおり、ここは皐月お姉ちゃんのお店。つまり花音のバイト先のお店である。ゴロンタは寮に置いてきた。さすがにデパートの中にまで連れてこられなかった。花音と舞の友達が預かってくれている。
「まあ、大方花音のことを心配してだろうが……その前に、あたしはツッコんだ方がいいのか?」
「あたしはさっきそれをツッコもうとしたんだよ、一花」
はて? 二人とも何を言っているんだろうか? ツッコむ? 何に?
首を傾げていたら、いっちゃんと舞がハアと同時に溜め息をついている。えー何々? 二人とも、いくら付き合い出したからって、ここまで溜め息も同時につけるようになるなんて、すごいね!
「「その格好、なんだ(何)?」」
「ただのお忍びファッションですが??」
トレンチコートに、帽子、そしてサングラス。完璧な変装じゃないか!
パンッといっちゃんがジャンプしてまた何かを頭に叩いた。まあ、全く痛くない。柔らかいハリセンだからね! 痛覚復活してからのいっちゃんは優しいね!
「どこがお忍びだ!? 目立ちまくりだよ!」
「……なんだって?!」
「なんで驚くのさ!? こっちの方が驚いてるよ! 今夏! 季節感も間違ってるから!」
「なんだって!?」
なんということでしょう。目立っているらしい。
じゃあ、とりあえずこのコートだけでも脱いでおこう、うん。
いそいそとコートを脱いで、ペイって適当にその辺に投げたらまたハリセンが飛んできた。「ここは部屋じゃないだろうが」といっちゃんの至極真っ当な正論と一緒に。そりゃそうだ。
仕方なさそうに舞がそのコートを持ってくれた。
「葉月っち、そのサングラスと帽子も取りなよ」
「むむ、舞! そんなことしたら花音にバレちゃうじゃないか!」
「もう気づいてると思うが?」
なんだって!?
バッと勢いよくまた花音の方を見てみると、花音は接客している最中みたい。良かった良かった。バレてない。
「いっちゃん、花音気づいてないよ」
「いや……ハア、まあいい。それで? いつ帰るんだ?」
「まだ」
「葉月っち、帰ろうよ。あたしお腹空いたんだけど」
「やだ」
私の後ろで二人がまた溜め息をついているのが聞こえてくる。
でも仕方ないじゃん。心配なんだもん。
だって、花音はあんなに可愛いんだよ! いつどこで誰に襲われるか分かったもんじゃないじゃないか! 変なお客さんに絡まれたりしたらどうするのさ!?
心配で柱の陰から花音がお客さん相手に笑っている姿を覗いていると、後ろからいっちゃんにグイっと首根っこ掴まれた。
「いいから帰るぞ。もう花音の姿も見れたから満足しただろ」
「いっちゃん、何言ってるの? ここからが本番ですが」
「花音のバイトが終わるまでいるつもりか? 何のために花音に護衛をつけてると思ってるんだ。このバイト先までの送り迎えもしてるんだから、万が一にも何も起こらん」
いっちゃんの言うとおり、私が花音に言った条件はこれだ。絶対に一人にならないこと。
今までは花音の行動とかを制限させたくなくて遠くから護衛させてたけど、このバイトに関してはずっと護衛を一緒に行動させることにした。花音は困ったように笑っていたけど、これだけは譲れない。
ちなみに護衛しているのは、いつぞや私たちを水族館まで車で運転してたお姉さん。何故か花音の護衛に決まったら、「これで、これで少しは平和に暮らせるぅ!!」とか言いながら泣いていた。なんでかは分かんない。いっちゃんに少しは謝れとか言われたけど、私、あの人のこと昔からぶっ飛ばすぐらいしかしてないんだけど?
本当は私が自ら護衛したいぐらい。
だけど、いっちゃんに止められた。
というか、鴻城家総動員で止められた。
使用人たちはもちろん、おじいちゃんにも伯母さんにもカイお兄ちゃんにもやんわりと。メイド長なんか、無表情がさらに無表情になって「やめた方がいいでしょう」とか言ってた。
私が何かをしでかすと思っているらしい。おかしい。普通に護衛するだけなんだけど。お手製空気鉄砲とかで周りをけん制するぐらい普通だよね? 相手ぶっ飛ぶけど。ママは普通に使ってたけどなぁ。
まあ、いっちゃんに「それが普通じゃないことをいい加減自覚しろ」と言われ、さらには花音までが止めてきたからやめた。あの怖い笑顔で言われたらやめざるをえない。それに花音が嫌ならやらない。
やらないけど、私は花音を全力で守ろうと思う。
人間でも、災害でも、花音を害するものから守る。
手段は問わない。
人も物も権力も、花音を守るためなら全部使う。
躊躇っていて何かが起こっても遅い事を、十分すぎるくらい知っているから。
「……いい加減、その柱から離れろ」
「やだ」
「ねえ、葉月っち、もう今のこの状況が周りから奇異な目で見られてるんだよ? 花音だってすぐこっちに気づくって」
「やだ!」
いっちゃんこそ、その襟元の服を掴んでいる手を離してよ! 絶対花音のバイトが終わるまでここで見張るもんね! 周りの視線なんか、今更気になんないし!
ハアと全く服を掴む握力を弱めないで、いっちゃんが溜め息をついている。
「あのな、葉月」
「いかないよ、いっちゃん!」
「そんなことまでしなくても、ちゃんと花音はいるから安心しろ」
……いっちゃんは分かってる。
自分が目を離している時に、花音がいなくなるの嫌だって。
我儘だって分かるけど、でも近くにいないと不安になるんだもん。
だから、バイトとかも本当はしてほしくないわけで。
かといって、花音を縛る事もしたくないわけで。
「葉月っちは寂しがり屋だなぁ」
「舞だって、いっちゃんに振られた時泣いてた!」
「それとこれとは全く話が違うんですけど!? っていうか、その時のこと忘れてくれない!? 改めて言われると恥ずかしいんだけど!」
いっちゃんがそばにいなかったからじゃん! 同じことだもん!
――って、あれ? 花音は?
必死にいっちゃんの無駄に強くなっている握力から逃げようとしていると、視界から花音がいなくなっていた。なんで!? さっきまで確かにカウンターの所にいたのに! ちょっと、お姉さん! 護衛しなよ! 何を呑気に他のお客さんの相手してるの!?
「葉月、その手を離そうね」
ありゃ? 何故に花音の声が?
ソロっとその声がした方を見てみると、そこには困ったように笑っている花音の姿。いっちゃんはいつの間に手を離していた。
「……」
「うんうん、バレてるからね」
バレてる……バレてる……?
帽子を深く被り直して、サングラスを掛け直す。舞の手からコートを奪い返して、サササッと素早く着込んだ。舞は呆れたように見てきたけど、気にしていられない!
大人しくお留守番してないことを、花音に怒られるじゃないか! 今日花音がバイトに行く前に、『大丈夫だから、おとなしく寮にいようね』って言われてたのに!
「違うよ! ただの通りすがりのものだよ!」
「葉月っち……それは無理があるって」
「違うよ! 葉月っちなんて知らないよ!」
「葉月、諦めろ?」
「違うよ! 何を諦めるのかさっぱり分からないよ! 季節感は諦めてるけど!」
「無茶苦茶言ってんじゃん!? 自覚してんなら、そのコートをまず脱ぎなよ!」
そう、分からない! 私はただの通りすがり! 季節感無視ファッションを好んでいるただのそこら辺にいる人間さ!
プイって花音に背中を向けたら、ふいに柔らかい感触が背中に当たった。
花音の腕がお腹周りに伸びてきて、いきなり抱きしめられる。
「葉月、私は別に怒ってないよ。だから、こっち向いて?」
……ほら、やっぱりズルい。花音の方がズルい。そんな優しい声、ズルい。
渋々と言った感じで、ゆっくりと体の向きを変えると、やっぱり花音は笑っている。
「そのコートもサングラスもわざわざ用意したの?」
「……バレないようにしただけだもん」
クスクスと笑われながら、かけられていたサングラスを花音に取られる。ついでに帽子も。
「そんなに心配だった?」
「……うん」
「ごめんね、心配させて」
ギュッとまた花音が正面から抱きしめてくれて、その温もりを感じられて、少し不安が取れた気がする。隣からいっちゃんが「人前だぞ、ここ」とかツッコんできたけど、そんなのより花音のことを感じられる方が優先です。
「葉月にここまで心配させるのは分かってたけど、でもね、本当に大丈夫だよ」
「うん……」
「ちゃんと葉月の所に帰るし、葉月がつけてくれた護衛のお姉さんもいるから大丈夫」
私を安心させるかのように、花音が頭を撫でてきて、耳元で囁いてくる。
その声が心地いい。
「葉月がちゃんと守ってくれてるから、大丈夫」
「……そう花音が言ったもん」
「葉月がその言葉を守ってくれてるから、私も嬉しいんだよ」
少し体を離して、花音は間近で本当に嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔を見ていたいから、だから私は守るって決めたんだ。
「いなくなってないよ」
一番私が欲しがっている言葉を言ってくれることが、何より嬉しい。
ポカポカとして、さっきまでの不安が一気になくなる。
なんだ、その一言を言ってほしかったんだ、私。
「ちゃんと花音のこと守れてる?」
「うん。守ってくれてる」
「本当?」
「本当。護衛の人をつけてくれてるだけでも十分だけど、それでも葉月が心配なら、メッセージとかも逐一送るよ」
「仕事中に?」
「仕事の合間に。皐月さんにちゃんと許可貰うから」
ふふって楽しそうに笑ってくれる花音に、申し訳ない気持ちになっちゃう。花音をこれ以上縛るのは私の本意じゃないから。
「仕事終わりにくれればいいもん」
「わかった」
「あと、ちゃんとネックレスつけてね」
「うん、忘れてないよ」
前に花音にあげたネックレス。実はそれ、防犯ブザーになってる。というか私がつけた。ブザーが鳴ったら、その位置を私の携帯に送ってくるように。離れてる時に何かあったらすぐ駆けつけられるように。
「他にはある? 葉月が心配なこと、全部言ってほしいな」
他? うーん。
「じゃあ、バイトある日も一緒に夕飯食べたい」
「かなり遅くなっちゃうよ?」
「いいもん。一緒に食べたいもん」
「ふふ、わかった」
「あと、体調悪かったら、ちゃんと言ってね?」
「うん、隠し事はしないよ。葉月もだよ?」
「うん」
色んな約束をする。
さっきよりももっともっと気持ちが楽になる。
なんだ、あんなに不安になることなかった。
ちゃんとこうやって花音と相談すれば良かったんだ。
「……あーお前ら、いい加減にしろよ?」
「なんだい、いっちゃん?」
何がいい加減にしろって?
いっちゃんを見ると、ついでにその後ろの周りにいる人たちが視界に入ってきて、なるほどって思った。めっちゃ見られてる。そりゃそうか。季節外れのコート姿で、抱きしめあってんだから。
花音もそれに気づいて、顔を真っ赤にさせて両手で隠してる。可愛い。
舞もいっちゃんもそんな花音を見て、またまた二人同時に溜め息をついていた。
「花音、どんだけ葉月っちしか視界に入れてないのさ」
「……言わないで」
「デパートは公共の場だって、ちゃんと教えた方が良かったか?」
「ごめんなさい……」
「花音、もう一回ギューしたい」
「葉月っちは周りをちゃんと見ようね!?」
えーなんで? 好きな人とハグするの、別に恥ずかしくも何ともないもん。周りの人もハグするぐらいなんだから、そうっと目を逸らしておくれよ。
まだまだ花音が恥ずかしがって顔を隠しているから、もういいや、そのままギューしちゃおうとか思ったら、いっちゃんのハリセンがまた炸裂した。
「そういうのは二人だけの時にしろ!?」
「むー、大丈夫だよ、いっちゃん。周りもそんな気にしないよ」
「気にするわ!? お前だって、そこら中のカップルがいきなりイチャつきだしたら、目のやり場に困るだろうが!? 少しは周りにいる人間のことを考えろ!」
「そういう時は、周りにいる人たちを鴻城家の人たちで固めよう!」
「どんだけの人間呼ぶ気だよ!?」
「ありったけ」
「誰がやると思ってるんだ!?」
「いっちゃん」
「そこまで面倒見切れんわ!」
そう言ってるけど、いっちゃんがいざとなったらやってくれるの知ってるもんね~。
やっと落ち着いたのか、花音が手をどかして、まだ少し頬を赤くしながらニコッと笑ってきた。
「だめだよ、葉月。みなさん、他にも仕事があるんだろうから」
「むー」
「それより、今日はこのままバイト終わるまで待ってる? そうすれば一緒に帰れるよ」
「待つ」
ここまできたら一緒に帰るに決まってるじゃないか。
隣でいっちゃんと舞が疲れた感じで話をしていた。
「さすが花音。葉月っちの思考をさっさと切り替えさせたね」
「そうだな。どうせもう葉月の頭の中は帰ってからの夕飯のことだろうよ」
何言ってんだい、2人とも? そんなの当たり前じゃないか! 帰ったら花音の美味しいご飯を一杯食べて、ギューしてチューして、ゴロンタと一緒に遊ぶのだ!
その後すぐに護衛のお姉さんが花音のことを呼びにきて、花音は仕事に戻っていった。私といっちゃんと舞はついでだからって、お店で雑貨をいくつか買ったよ。途中何度か花音を見ると目が合って笑ってくれた。
笑って楽しそうに仕事してる花音も可愛いよねって、寮に帰ってから伝えたら、花音は嬉しそうにまた笑って、ギューとチューを一杯してくれた。
お読み下さり、ありがとうございます。




