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ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 中編(一花Side)
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53話 変化と気の緩み

 

「あの、葉月と2人で遊びに行くのっていいかな?」


 そんな花音の言葉に、思わず呆けたような「は?」という声を出してしまった。

 ただでさえ最近の花音の変わりっぷりにもついていけていないのに、今度はこれだ。


 それ以外にも、夏祭り以降、目まぐるしく状況が変化していっている。


 また葉月が夢で子供の時の自分が出たと言っている、とか。それで薬の量を勝手に増やして、学園にいる時でも寝ているだとか、花音にハグされて寝れるようになっただとか、この前の校外学習の時なんか、花音と葉月は部屋に閉じ込められた。


 葉月には全く意味なかったが、イベント日に花音がそんな目にあったことの方が重大だ。


 これまでも、イベントが正しく起こらないことはあった。特にレクリエーション。あれは花音が怪我をしたせいで、イベント自体流れてしまった。それ以外にも体育祭、図書館、イベントは起こったが、イレギュラーのことも起きている。


 ただ遊園地や海、夏祭りのイベントはそんなイレギュラーは起きていない。だから可能性を消していたんだが、さすがにこの前の校外学習のイベントで、その可能性に目を向けざるを得ない。


 他に『サクヒカ』を知っている転生者がいるかもしれない可能性。

 狙ったようにイベントを妨害していることを考えれば、その可能性が一番高いとあたしの中では考えている。


 けれど、それ以上に予想外すぎることも多いから、そのことだけ考えている場合じゃない。


 ……花音が葉月に恋愛感情を持っている。

 おかしい。今の状況だと、会長に対して向かうべき感情のはずなのに、見るからに分かるくらい、花音は葉月に熱い視線を送っている。


 顕著に表れたのは、夏祭りが終わってから。

 もはや誰が見ても、恋しているといえる顔をしている。……葉月は全く気付いていないが。


 それで今回のもはやデートの誘いであると言わんばかりの、花音の言葉。


 決定的だ。


 何故か緊張でもしているように、不安そうな表情であたしを見てくる花音に、「あ、あー……」と、言葉を濁す。


 いや、そんな不安そうな顔をしなくていいんだが。

 つまりは花音と葉月は両想いな訳で。どうせだったら、さっさとくっついてしまえばいいとさえ思ってしまう。


 そうすれば、もしかしたら葉月の中の無意識にでも死を求める行動はなくなるかもしれない。それに、最近は花音のハグで寝れるようになったせいか安定してるんだよな。全然引っ張られるような目をしていないし。


 ……待てよ。この機会にあいつも自分の気持ちに気づくかもしれないな。


 そう思って、「別にいいぞ」と軽く返事をしたら、花音だけじゃなく舞までもが驚いたような顔をしていた。いやいや、そんな驚くことを言ったつもりはないんだが。


 前みたいに簡単に不良共に絡まれることはないと思うが、一応念のために葉月に定期的に連絡させることにすると伝えると、花音は満足そうに「わかった」と言って、かなり機嫌が良さそうに自分の部屋に戻っていった。


 嬉しそうだ。そんな花音の後ろ姿を見て、自然と口元が緩む。


 このまま上手くいけばいい。本当に。

 何事もなく、あいつの中の欲が消えてくれればいい。


 そこまで上手くはいかないかもしれないが、それでもやっぱり期待は膨らむ。


「あのさ」

「ん?」


 内心、これからの期待に胸を弾ませていたら、向かい側に座っている舞が声を掛けてくる。


「さっきも聞いたけど、何がそんなに心配なの? さすがに気になるんだけど」


 さっきとは違って、真剣な表情になっている舞に少し面食らってしまう。ここまで食い下がってくることはなかったのに。


「いきなりどうした……?」

「なんか分かんなくなった」

「は?」


 分かんない? 分かんないのはこっちなんだが?

 そんなあたしに構わないで、舞はベッドに頭を預けて天井を仰いでいる。そのままその状態で「ずっとさ」と口を開いた。


「ずっと、一花って葉月っちのこと好きなんだなって思ってて」

「ありえないんだが?」

「いや、うん。それはもうこれまでの短い付き合いで分かってるんだけど」


 間髪入れずにツッコんでやっても、いつもの舞とは違ってハアと珍しく思い溜め息をついている。一体いきなりどうし――


「大事にしてるのも分かってる。一花のその葉月っちの過保護具合でもさ」

「……過保護なのは自覚している」

「だから……それが何でなんだろって、ずっと不思議なんだよ」


 いきなり体を起こして、またジッと真剣な表情であたしを見つめてくる。


 ……言えるわけない。

 あいつは死のうとするんだって。

 目を離すと無意識にでも死を求めてるんだって。


「いい加減、教えてくれる気はないの?」


 舞の問いかけに、無言で応えることしかできない。


 教えたところで、どうにもできない。

 余計な負担を舞に負わせるだけだ。


 口で言うのは簡単だ。

 あいつは何度も死のうとしている。それだけの一言で済む。


 だが、当然だけど、葉月の自傷行為を舞たちは目の前で見たことがない。

 それがどれだけ周りを傷つける光景か、分かっていない。


 レイラみたいな目に遭わせるわけにはいかないんだ。


「やっぱ……教えてくれないんだ」


 淋しそうな声で言われて、少し心が痛む。気になっているのも分かっている。でもな、舞。


「お前が知る必要のないことなんだ」


 ハッキリと口に出すと、見るからにショックを受けてそうな感じで、悲しそうに目を伏せた。そんな舞を見て、ハアと軽く息を吐く。さすがに突き放しすぎた感じに言ってしまったか。


 立ち上がって舞の傍に近寄ると、それに気づいたのか舞はあたしを見上げてきた。


「そんなショックを受けることじゃないだろ」

「……前に言ったじゃん。除け者にしないでって」

「除け者にしたんじゃない。本当に知らなくていいことなんだよ」

「だったら教えてよ……寂しいじゃん」


 ……こんな寂しそうな舞は調子が狂う。


 少し目元を歪ませて、舞は本当に知りたいんだと訴えるように見つめてくる。そんな目で見られても、どうしようもない。寂しくさせているつもりはないが、教えるわけにもいかないしな。


 どうしたものかと、とりあえず宥める為に舞の頭に手を置いてポンポンと手を置くと、「へ?」と間抜けな声をあげながら目を丸くさせてきた。


 これはいけるか? なんだか知らんが驚いているようだし、このまま葉月の過去の話題は避けたいところだ。


「あのな、お前が気にするようなことじゃないんだ、本当に」

「え、あ、う……」


 急にしどろもどろになった。

 もしかして……頭撫でたから、意識し始めたのか?


 だんだんと顔が赤くなっていく舞に、なんだか少しだけ笑えてくる。どんだけ単純なんだ、こいつは。


 そんな舞の頬をギュッとつまんでやると、「ふへっ!?」と変な声を出したから、軽く笑い声が出てしまった。


「ひょ、ひょっほっ!?」

「馬鹿野郎だ、お前は」

「はあっ!?」


 パッと手を離してやると、「え、え?」とまだ顔を赤くしながらあたふたしていた。その様子にまた笑ってしまう。


「ちょ、なんで笑ってんの!? 今、笑う場面じゃないと思うんですけど!?」

「いや、単純だよな、葉月並みに……と思ってな」

「葉月っち並みに!? 失礼な! あたしはあそこまで単純じゃないんだけど!」

「花音のご飯食べれるってなったら、すぐ機嫌よくなるだろうが」

「それはそうでしょ! そういう一花だって花音にご飯お呼ばれしたら、嬉しそうにするじゃんか!」


 それもそうだな。これは全員か。花音の料理は美味すぎる。


「大体さ、花音、絶対料理スキル上がってるよね。なんか初めて会った頃よりバリエーション増えてるしさ! この前なんか――」


 すっかり話題がすり替わったのに気づいていないのか、花音の最近の手料理に関してあーだこーだと満足そうに話しだす舞に、やっぱり単純だと思った。


「そうそう! 一花、この前のエビフライの花音お特製ソース気に入ってたじゃん? あれって何と何入れてたと思う?!」

「いや、分からないが……」

「あれって本当はさ!」


 花音に教えられたことを自慢げに話す舞に、さっきのような寂しげな感じはない。内心ホッとした。


 これでいい。

 こんな感じでバカみたいに明るく話している舞を見ているのが、楽だ。


 表情がクルクル変わる。


 それを見ているだけで、楽なんだ。


 変わらなければいい。

 このまま、ずっと。


 葉月も花音と上手くいって。

 葉月の未来を心配する必要もなくなって。


 このまま、舞ともこうやってバカみたいな話をして。


 そんな未来を夢見てた。

 ありえない未来を、夢見てたんだ。


 花音と葉月が両想いだって分かって、気が緩んだとしか思えない。



 次のイベントの危険性を、この時のあたしは失念していた。



お読み下さり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いくつか書かれていないイベントがありますね。海イベントと夏祭りは好きだ。残念でしT^T
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