40話 やると決めたこと
「パーティー?」
「そうよ~パーティー。たまには気晴らししなさい」
鴻城家と東雲家、両方を行き来している時に、母さんが困ったように溜め息をついてあたしのおでこを突いてきた。
葉月とあたしの星ノ天学園中等部の寮に行くことが決まって、それからはもう慌ただしいの一言だ。そんな中、母さんがそんなことを言ってきたから、目を白黒させるしかない。
葉月は兄さんと一緒に日常生活を送れるように練習している。最近は前よりあの行為をすることが減っていった。それ自体は喜ばしい。
もちろん、源一郎さんたちは渋ったさ。あたしと葉月が寮に入ることを。
だけどあいつ、最悪の脅し文句で源一郎さんたちを黙らせた。『死にたくなる』って――あんな傷つけるようなことを言って、自分が一番傷ついてるじゃないか。
そんなことを言われた源一郎さんたちも不憫だったが、あの後、葉月の部屋で泣きそうな顔になっていたの知っている。葉月の中で源一郎さんたちを大事に思っているのが、その姿の葉月を見て分かった。
それ以上聞くと死にたくなってあの状態になるのを知っているから、あたしも母さんたちも今はそれに触れないでおこうという結論に至った。源一郎さんたちも悲しそうにしながらも承諾してくれたよ。
あたしはあたしで忙しい。葉月のことを完全に一人で止めるのは難しいのは分かり切っているからだ。
葉月とはいくつか約束をした。源一郎さんたちの条件もある。
まずは一人で勝手に行動しない事。やはり一人にすることは出来ない。安定しつつあるとはいっても、ふとした瞬間に葉月は引っ張られる。すぐ自分を傷つける行為をしだす。
それを止めるためのあたしという存在だが、一人では難しいため、鴻城家で雇っている人間たちを使う権利を源一郎さんに与えてもらった。いわばあたしの部下だな。まあ、幼い頃から葉月と一緒にあの人たち相手に色々と訓練してきたから、旧知の仲だ。あたし的にも助かる。その人たちと協力して、これから葉月を止めることになる。
とりあえずその人たちを監視につけることにした。あたしがもしいなくなった時の為だ。いなくなることはないとは思うが、絶対とは言い切れない。……あの人たちに葉月を止めることは出来ないとは思うが、まあ、足止めくらいにはなるはずだ。散々あたしと葉月に叩きのめされたり、葉月の作った道具の実験相手になったりしていたが……きっと大丈夫だろう。
それと、定期的に源一郎さんたちに報告を入れること。
これはあたしからもするつもりだが、葉月自身にもしてもらう。源一郎さんたちだって断腸の思いで今回の件を承諾してくれたんだ。それぐらいはしてやった方がいいとあたしも葉月に言った。渋々と言った感じで葉月も首を縦に振ってくれて少し安心した。
あとは定期的にカウンセリングと身体検査を受けること。
兄さんがこれからは本格的に葉月の主治医になってくれる。母さんは心配そうだったが、実は多忙な人だからな。
カウンセリングもそうだが、やはり痛覚を感じないのは懸念材料だ。本人が大丈夫だって言っても、実際は骨を折ったりしているかもしれない。さすがに体内のことになると、あたしもまだ自信がない。定期的に診てもらえるのは、あたし的にも助かるんだ。
その条件を葉月は全部承諾したが、葉月も源一郎さんたちに約束を取り付けた。
『そっちからは会いにこないこと』
それは明確な拒否だった。
その時の源一郎さんたちの傷ついた顔は忘れられない。
何故そこまであの人たちを突き放そうとするのか、葉月は何も言わない。聞いても「これでいいんだよ」としか言わない。
今はいい。
だけどな、葉月。
いつか、ちゃんと源一郎さんたちと話せよ。
あの人たちは、お前のことを愛している。
大事にしている。
そう伝えると、葉月は悲しそうにただ微笑んだ。
葉月の気持ちがまたあの人たちに向くことを、今はただ見守るしかないかもしれないと、この時思ったさ。
それからは目まぐるしい日々が続いた。あたしの部下になる人たちとの話し合い。どういう体制で葉月を守っていくか、実際の寮の部屋での間取りの確認、もしもの時のことを考えての対応。寝る暇もないほど、今は忙しい。
鴻城の屋敷で緊張の連続の生活をしたせいか、あまり眠らなくても多少は平気だ。熟睡なんて、葉月があの状態になってからしていないしな。
レイラにも一応連絡を取った。
もし万が一何かあった時、レイラはまだ葉月に慣れているから協力してもらえるかと淡い希望を抱いたから。
だけど、レイラの返答はノーだった。
『もしお前が大丈夫なら……』
『一花……わたくしはもう……』
……それも仕方ないかもしれない。あんな場面をレイラは見たから。もしもの恐怖の方が勝ってしまうんだろう。無理強いは出来ない。
仕方ないから、レイラの助力は諦めた。学園でも監視はつく。レイラの父親である学園長には協力してもらってるからだ。レイラは普通の学園生活を送ればいいと切り替えた。
そんな日々を過ごしていたが、連日鴻城家と東雲家、それに部下たちとの話し合いはさすがに堪えたのか、疲れが体に出てきた時に、いきなりパーティーに行けって言われたら疑問に思うしかないじゃないか。
「あのな、母さん。今はパーティーなんかに行ってる場合じゃ――」
「あのね~一花ちゃん。そんなに思いつめた状態で、この先、本当に葉月ちゃんを止められるの~?」
間髪入れずに返された。そんなに思いつめた顔をしていただろうか? さすがに眠いとは思っているが。
そんなあたしを見ながら、ふうと母さんは困ったように笑っている。
「止めることを決めたのは一花ちゃんよ~。だったら猶更、ちゃんと自分の状態もケアしなきゃダメでしょ~? フラフラの状態じゃ、あの葉月ちゃんを止めることは出来ないのは分かってるでしょ~」
「こんなのいつものことじゃないか?」
「いいえ。もうハッキリと目の下に隈が出来てるわ~」
眼鏡を取られて、今度は目の下をツンツンと指で突かれた。そんなにハッキリ出来てるのか。確かに寝たのは一昨日ぐらいだったな。いや、それだとパーティーに連れて行くのは違くないか?
「だったら、部屋で少し休――」
「だめよ~。結局起きて、今度は葉月ちゃんに会いにいくに決まってるもの~。今日は優一が行ってるから、葉月ちゃんは大丈夫。少しは違うことにも目を向けなさい」
だけどパーティーだろ?……心底面倒臭い。
まだ美鈴さんたちが生きていた頃はたまに行っていたが、挨拶やら気遣いやらしないといけないじゃないか。医療方面で今は有名だが、東雲家は鴻城家に次いで名家だし、群がってくる連中をあしらうのも大変なんだよ。
難色を示していたら、母さんに両頬を挟まれてグニグニと動かされた。いきなりなんだ?
「葉月ちゃんを止めることを決めたのは一花ちゃん。そのことについては私たちも何も言わないわ~。でもね、年相応にたまには気晴らしをしてもいいと思うのよ~。今日のパーティーは一花ちゃんと同世代の子供たちも来る予定なの」
「……別に必要ない。それにあたしには大人の記憶が――」
「それでも、今のあなたは12歳の女の子よ~。記憶がどうとかは関係ない。子供らしく子供たちと遊ぶことも大事なの」
「どうせ東雲の名前目当てで近づいてくるのにか?」
「その中でも、ちゃんと一花ちゃんを一花ちゃんとして見てくれる子もいるわよ~。レイラちゃんみたいにね」
いや、母さん。レイラも家格を第一に考えて葉月に近づいてきたんだぞ。……まあ、言いたいことを言ってくるし、ご機嫌伺いなんかをしてくることはなかったが……それはあいつがバカだったから何も考えてなかったんだな。
「大人の記憶があるからと言って、駆け足で大人になることはないのよ。今の時間を大切にしなさい」
ふふっと笑いながら眼鏡を掛け直してくれる母さんに、レイラが実はこう考えていたなんてことは言えなかった。
心配してくれている。
それが分かったから。
大人の記憶を持っているなんて普通は気味悪がるのに、母さんも父さんも姉さんも、そんなあたしをこの家族は受け入れてくれた。今でも変わらず愛してくれる。
母さんは心配なのかもしれない。ずっと葉月に付きっきりで、他の同年代の子供たちとは触れてこなかった。友達と言えるのもレイラぐらいだろう。
いや、まあ、あいつがおかしくなる前は美鈴さんたちのせいだとも言えるけどな。こっちの都合お構いなしで引っ張り回されたから。
だから、他の子供たちみたいに普通の生活をしてほしいと思っているのかもしれない。友達と遊んで、悩んで、恋愛なんかもしてほしいのかもしれない。母さんはそういう親子関係に憧れがあるって幼い時に言っていたし。
正直、同年代の子供と普通に話せるかと疑問に思うが……それで母さんが少しでも安心するなら、仕方ない。今回は母さんの言うとおりにしよう。母さんに悲しんでほしくはないからな。
肩を竦めながら母さんに「分かった」と伝えると、母さんは少し喜んでいるように頬を緩ませていた。
■ ■ ■
――――あーやっぱり来るんじゃなかった。
パーティーに来て、即座に帰りたくなった。
ワラワラと群がってくるのは、政治家の娘やら息子たち。次から次へと挨拶にその子たちがやってくる。
「一花ちゃん、大丈夫? 私が作った薬ちゃんと飲んできた?」
「大丈夫だ……心配するな」
一緒に付いてきてくれた姉さんが心配そうに顔を覗き込んできた。姉さんお手製の薬はちゃんと効いていると思う。この会場に来る前に飲んでから、体も大分楽になった気もするし。
だけど、群がってくる連中のお家自慢やらアピールやらで正直疲れがまた溜まった。あたしが何かを言って褒め称えてくるのも疲れる。そんなこと思っていない癖に、よくもまあそんなに口が回るもんだと尊敬すらしてきた。
姉さんにも男共が群がってくる。実際は妹大好きの変態なだけなんだが。まあ、見てくれだけは完璧な女性に成長したからな。最近は抱きつかれるとその立派な胸に顔を埋められるから窒息しそうになるんだが、一向にこのバカ姉はやめそうにない。
周りにいる同年代の子供たちの話に辟易して、ついそんなことを考えていた時だ。
さらに薬が効いてきたのか眠気が増していた時に、元気な声が聞こえてきた。
「はあ!? パパのこと悪く言わないでよ!」
――なんだ?
ふと視界に入ったのは、群がっている子供たちの向こう側で、同い年っぽい男子2人に囲まれた女の子の姿。
「名家でも何でもない一般庶民が来るようなパーティーじゃないっつってんだよ! ちょっとは立場を弁えろよ!」
「立場も何も、あたしとパパはちゃんと招待されてきたんだっつうの!」
「あーあーなるほどな! はっはっ! お情けで呼んだだけだっつうのに気付かないかね、普通? あ、気付く訳ねえか。庶民だもんな。そりゃ悪い事した。普通はな、自分たちの身の程を弁えて辞退するもんなんだよ! でもそうだよな。家格の意味も分からない成金が、俺ら上流階級のマナーなんて知るわけないよな!」
そう言った男子はゲラゲラと女の子を嘲笑っている。
いや、馬鹿か? このパーティーに呼ばれているのは、政財界の重鎮共だぞ。その子の父親が招待されたっていうのなら、業績が認められたってことだ。
このパーティーの主催者はそこそこ有名な会社だ。招待客も厳選しているはずだろう。お情けで呼んだとか言ってるが、それ、このパーティーの主催会社を侮辱していることなんだが?
「あーそれとも、成金だから金でも積んだのか? それしかここに来る方法ないもんなあ!」
「そんなことするはずないじゃん!」
「成金の娘が口答えとかしてんなよ!」
バシャッと男子が持っていた赤いジュースを彼女の服にかけた。じわじわと彼女のワンピースに染みが広がっていく。
なんっていう胸糞悪い光景だ。
なんでこんな場所にあんな子供が入り込んでる? ただでさえ寝不足なのに、こんな光景見せられたら、余計イライラするじゃないか。
周りにいる子供を避けて、その男子たちの所に足を動かした時、
「成金とかじゃないし! パパは、パパは頑張ってんだよ! よく知らないあんたたちが、パパのことを悪く言うな!!」
彼女は涙目になりながらワンピースをギュッと握りしめ、声を目一杯張り上げた。
「大好きなパパを、悪く言うな!!」
耳の奥にその叫び声がやけに響いてきた。
なぜか、
葉月を思い出したから。
あいつも……大好きだったんだよ。
自分の父親を。
浩司さんを。
そのことが、ただ懐かしい。
大好きな父親に抱き上げられて、葉月はいつも幸せそうだったな。
そうだな。
葉月もきっと、父親をバカにされたらあの子みたいに怒るだろう。
きっと葉月は倍返しどころか千倍返しぐらいしそうだが。
せっかく今ではもうあんな風に笑わなくなったあいつの顔を思い出していたのに、聞こえてくるのは尚もその子のことをバカにして「ぎゃはは」と嘲笑っている男子たちの鬱陶しい声。彼女も必死に顔を真っ赤にしながら言い返している。
自分の父親を好きなことの、何がおかしいというんだ。
何がそんなに笑えることなんだ。
自然と、足が動いた。
「……やかましい」
彼女を嘲笑っている男子たちにそう声をかけると、不思議そうにこっちを見てきた。彼女はポカンとした顔をしている。それに構わず、彼女と男子たちの間に入った。
「うるさい事この上ないな。唯でさえ寝不足でイライラしてる時に訳わからん事で場を乱すな」
「は? 何だお前? ちっさ。幼稚園児か?」
プチンとあたしの中で何かが切れた音がした。
こいつは今、明らかにあたしの敵になった。
誰が幼稚園児だと? ふざけるなよ。これでもあたしの身長は去年よりかなり伸びてるわ!
ハッと嘲笑うようにあたしが鼻で笑うと、男子がバカにされたのが分かったのか少し不機嫌そうな顔になった。
もっと機嫌が悪くなることを言ってやろうじゃないか。
「お前の家こそ大した家じゃないだろうが。彼女の家を馬鹿にする前に自分の家の現実見ろ。知らないが」
「んだとっ!? お前、俺の家のこと知らないのか!?」
「知らんと言ってる」
「お前も庶民かよ! ガキが大人の話に入ってくるんじゃねえよ!」
大人じゃなく十分ガキだよ。見た目も考えもな。どこの家の息子か分かっていないが、彼女をバカにしていた内容の限り、たかが知れてる家だろ。
「ちょっ――! お前、何してる!?」
さて、このバカをどう料理してやろうかと考えていたら、その男子の父親らしき男が近づいてきた。あたしを東雲の娘だと知っているのだろう。明らかに狼狽えている。
男子はあたしに指を差しながら、なにやら父親に言いだした。
「父さん、このチビがバカにしてきたんだ!」
「チビじゃない。お前が彼女をバカにしたんだろ。話をすり替えるな」
「ちげえよ! 俺はただ庶民が来るようなところじゃないって教えていただけだっつうの! 俺らみたいな家格が高い家が来るところだってなっ!」
庶民だなんだと、随分とこだわる奴だ。レイラを思い出す。
あいつも下らない選民思想を持っているが、この男子と違って見下したりしない分マシな方だな。
それに、あたしに小さいとはさすがに言ってこなかった(あの頃は背丈が一緒ぐらいだったからだが)。
「父さん! こんな奴ら、ここから追い出してよ! 庶民なんかと一緒にされても困るじゃん!」
「お前は何てこと言うんだ!? す、すまない。愚息が失礼なことを」
父親は分かっているからか、あたしに頭を下げだした。
そうだろう。家格というなら、東雲は鴻城に次ぐ名家だ。そこらの家よりも断然高い。東雲を敵に回すのはどこにもメリットなどないことを知っているんだ。
そんな父親に「父さん!?」と驚いている息子がいる。後でこいつは、この父親にあたしが誰だか聞いてもっと驚くだろうさ。
だけど――謝るべきなのはあんたじゃない。そっちの息子だ。
あと、あたしじゃなく後ろにいる彼女に謝るのが筋だろう。
そのことを口に出そうとした時に、その父親は頭を上げてヘラヘラと笑い出した。
「どうか穏便に済ませてくれないかな。お父さんたちには言わないでくれ。ほ、ほら、子供の喧嘩じゃないか」
――――子供の喧嘩だと?
言うに事欠いて、子供の喧嘩だと?
さっき、あんたの息子が言ったことを理解していないのか。庶民と言ったんだよ、あんたの息子は。バカにしたんだ。
怒るべきところがあるだろ。このパーティーの意味も分かっていないんだぞ。あと、後ろにいる彼女の服の染みが見えないのか。節穴すぎるだろ。
あんたの息子が空のグラスを持っているんだから、誰がやったか明白だ。
それを、子供の喧嘩で済ませるのか。
スウッと目を細めると、その父親の表情が強張ったのが分かった。
「あんたは馬鹿か? 家格がどうのと言って、あんたの息子は彼女の父親をバカにしたんだ。このパーティーに呼ばれるぐらいの努力している人間を、鼻で笑った。その意味も分からない愚かな息子を連れてきておいて、子供の喧嘩? それで済ませようとする前に、親のお前がやるべきところがあると何故分からない」
捲し立てると、父親が明らかに動揺していた。あたしの言った意味が伝わったのだろう。
あたしの怒りを買ったことを。
パチンと指を鳴らした。
近くにいた黒服の人間が近づいてきてくれる。
あたしの部下だ。葉月に万が一何かあった時の為に、今日のパーティーに付いてきてくれた。
だが、葉月のこと以外でも命令して動かせる。
源一郎さんに権限を貰ったからだ。
「お嬢様」
「この親子を連れていけ。鬱陶しい」
「畏まりました」
「ままま、待ってくれ!!」
「父さん!?」
他の部下も出てきてくれて、その親子を拘束してくれる。周りにはこの騒動が目についたのか人だかりができていた。人だかりの向こうで姉さんがパチパチと目を瞬かせている。このままだと余計な心配をさせるな。早く終わらせよう。
拘束された親子に近づくと、息子は「何しやがる!? 俺らを誰だと!」と騒いでいた。父親は父親であたしを見て「ち、違う! 何か誤解をしているようだ! 話をっ!」と訴えかけてきた。
だから、その父親に決定的な言葉を伝える。
「あんたの息子を見れば、どういう教育をしてきたか分かる。このパーティーにそぐわない人間がいることを主催者に伝えよう。もう二度とこういう場に来ることはないと思え」
「ままま待ってくれ! 話をっ!」
「話をしたければ成果を見せろ。まずはあんたの愚息とやらの教育をし直すんだな。それと自分の認識の甘さを思い知れ」
サアアアっと見て分かるぐらいに父親は青褪めていた。
こういうパーティーに呼ばれることはなくなる、という意味が伝わったんだろう。
子供の喧嘩で収めようとしたのが間違いだったな。
全ては取り上げないが、あたしを小さいと言った報いをちゃんと受けさせる。それと、あの子への謝罪を気にしなかったことへの報いもな。
あたしは善人じゃないんだ。
やると決めたら徹底的にやってやる。
母さんにもこのパーティーの主催者にもちゃんと伝えようじゃないか。この家がどれだけ無能でデメリットの方が多いのか。全て調べ上げて報告書にまとめ、誰もが反論できないようにやってやろう。
子供の頃に美鈴さんたちの手伝いをしていたから、そんなこと容易いことだ。
その親子が連れていかれるのを見送っていたら、後ろの方で「舞!」と誰かを呼んでいる男性の声が聞こえた。ついでさっきの女の子の声で「パパ!」と叫ぶ声も。
あの子の父親がきたのか。
少し安心した。
邪魔しちゃ悪いなと思ったから、あたしも姉さんの所に戻った。
「一花ちゃん、何やっていたのかちょっと遠目で分からなかったけど、何かいいことあった?」
「? なんでだ?」
「だって、嬉しそう」
そういう姉さんも嬉しそうだ。
まあ、でも嬉しいか。
あれだけハッキリと自分の父親を大好きだって言っていたから。
それを今、守れたような気がするんだ。
もしも――って思った。
もしもあの時、葉月たちと一緒に行っていたら。
もしもあの時、何か出来ていたら。
もしもあの時、浩司さんたちを守れていたら――あの子みたいに葉月は今もまだ笑っていたんじゃないかって、そう思っただけさ。
家に帰ってから、あたしはあの親子を徹底的に調べ上げて、母さんに報告した。名家は名家だったが、あの父親の経営する会社は普通だった。パーティー主催会社の会長と知り合いだったから、今回呼ばれただけみたいだったな。制裁とまではいかないが、今後の取引を考えなければいけないことになるだろう。
その報告書と提案書を提出したら、母さんがハアと溜め息をついた。
「あのね、一花ちゃん。気晴らしをさせる為に今回のパーティー行かせたのに、違うこと背負いこんできたら、全く意味ないと思うのよ~。これはこれで助かるんだけどね~」
仕方ないじゃないか。だって、あのバカ息子は人のことを幼稚園児と勘違いしたんだ。許せるはずないだろうが。ガキに小さいと言われたから、立場を弁えさせてやっただけだ。固執してたみたいだし。
やると決めたことは責任を持ってやる。
東雲家のモットーだろ?
お読み下さり、ありがとうございます。




