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ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 前編(舞Side)
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11話 猫?

 


「ミャー」

「............」



 いつものように寮の部屋に帰り、着替えて花音たちの部屋に行ったら、何故か子猫にお出迎えされた。


 ......猫!? なんで!? ハッ! 葉月っちがいない!?


「まさか葉月っち、猫になったの!? そんなことまで出来たなんて!!」

「んなわけあるか!! どういう発想だ!?」

「だって一花、葉月っちがいないじゃん!!」


 パソコンをカタカタと動かしてた一花が勢いよくツッコんできてくれたけど、葉月っちだよ!? 変な薬とか作って、それで猫になったのかもしれないじゃん!! 現にいつもこの時間は部屋にいるはずなのにいないし!! あれ、そういえば花音もいないな? あたしはユカリの部屋に寄ってきたから、あたしより大分前に帰ってきてるはずなんだけど。


「ミャー」

「え、可愛い」


 子猫がスリスリと足元に擦り寄ってきてくれた。人懐っこい。ヒョイッと抱き上げたら、クリクリした目を向けてくる。


「葉月っち......こんな可愛くなっちゃって......」

「お前、いつまでその茶番続ける気だ......?」


 すごい冷静にツッコまれたから虚しくなったよ。うん、もうやめる。腕に抱え直して、一花の向かい側に座ると、またパソコンをカタカタといじりだした。


「で、冗談はさておき、この子どうしたのさ? 一応寮はペット禁止なんだけど? 寮長としては見過ごせないんだけど? っていうか、花音と葉月っちは?」

「さっき二人でホームセンターに行った。その子を当分面倒見るための必要なものを買いにな。その子は......ハア......葉月が拾ったんだよ」


 え、葉月っちが拾った? 虫以外でも拾うことがあるとは驚き。


「でもペット禁止じゃん。一花もそれは十分分かってるでしょ?」

「ああ、お前の代わりに寮長の仕事をしてるしな......いや、まず寮長の仕事をちゃんとやれ?」

「やだな、一花! あたしだってやってるさ! 一花と花音への連絡を!」

「そっちじゃないんだよ、そっちじゃ!! 葉月のこと以外でもあるだろうが!!」

「あっはっは! やだな、感謝してるってば! あたしも、まあ、色々と今は忙しくて......」

「まあ、そうだな......勉強も生徒会もあるし、それは分かるんだが......ただ1年生ぐらいはちゃんと見てあげろ。中には人見知りの子もいる。あたしには無理だ。お前はコミュ力が高いから、そういう子も心を開きやすい。あたしもそこは信用しているしな」


 ......褒められた。うわ、褒められた!! 予想外に褒められた!!

 ジーンと一花にそう思ってもらえてることに感動していたら「コホン」とわざとらしく咳払いされた。あれ、まさか自分で言ってて照れてる!? あ、少し頬赤い! 照れてる! 可愛い!!


「一花、可愛いんだけど!! そしてありがとう! 信用してくれてるのが嬉しいよ!」

「やめろ!?」


 うわ、うわ!! 耳まで赤くなってる! 可愛すぎる!!

 そんな一花にきゅーんってしていたら、腕の中の子猫が「ミャー」とまた鳴いて、あたしの服に爪を立ててきた。なんかツッコまれた気分。


「まあ寮長の話はさておいてさ」

「さておくな!?」

「それで、この子を葉月っちがどうして拾ってきたのさ?」


 尚も一花がツッコんできそうだったのを華麗にスルーすると、諦めたのかハアと溜め息をついて、またカタカタとパソコンをいじりだしている。


「帰り、段ボールの中に入って捨てられていたのを見つけたんだ。鴻城(こうじょう)の護衛の人間に預けようとしたんだが......何を思ったか、葉月が自分で面倒見るって言いだしてな」

「なんでまた?」

「そこまでは分からん。だが、あいつは一度言い出すと頑固だからな......仕方ないから里親見つけるまでの間、ここで面倒見ることにしたんだ。ああ、寮母さんにもちゃんと許可は取ってあるから、そこは心配しなくていいぞ?」

「でも、あたしらが学校行ってる間はどうするのさ? それも寮母さんに頼んだわけ?」

「いや、そこまで面倒かけられないから、昼間は護衛の一人をその子の世話係にすることにした」

「ふーん、じゃあいっか」

「相変わらず軽いな......」


 え、そう? そんな呆れたように見てこなくてもいいじゃん。この子が他の寮生の子に悪戯とかしなきゃ、あたしは全然問題ないし。鴻城の護衛の人が一花に付き従ってる姿は何回か見てるから、何も問題無し。


「あ、でも中には猫アレルギーの子もいるかもしれないか」

「それも大丈夫だ。アレルギー持ちの子たちには事情を説明しておいた」


 さっすが! 仕事早いね、一花! って、あ、こら。一花はなんか忙しそうだから、邪魔したら怒られるよ? そういや、さっきから何してるんだろ?


「一花はさっきから何してるのさ?」

「猫の里親探しだ。さっき写真をアップしたんだ」

「へーどれどれ?」


 腕の中に子猫を抱え直しながら、一花の隣に座り直してパソコンの画面を覗き込んでみた。おお、一花はこんなページもサラッと作れるんだ!


「これ、見てくれてる人いるんだ?」

「そうだな......まあ、でもちゃんと面倒見てくれる人じゃないとな......」


 思ったより近くでの一花の声に、ドキッと胸が高鳴った。わ、わ......やば、近づきすぎた......。

 だけど、一花が近くにいるあたしを気にする素振りは全くない。どころか、パソコンの画面を頬杖をつきながらジッと見ている。


 こんなに近くにいるのにな......。

 一花の視界に、あたしは今いないんだな。


 そのことが余計寂しい思いになった。


 まあ、告白もしてないしね。抱きついたりもしてるけど、でも冗談って思ってるんだろうし......こう寂しく思ってしまうのは、一花が悪いわけじゃないんだけどさ......


「どうした?」

「え?」

「溜め息ついてただろ?」


 ......無意識でした!!

 めちゃくちゃ不思議そうに隣にいるあたしを見てくる一花。いや、ごめん! 本当に無意識に出てたんだよ!!


 で、でも『あたしのことを見てくれなくて寂しい』とか、そんないきなり告白っぽいこと言えないし......はっ! 違う! こ、これは言ってみてもいいんじゃ......そうすれば一花も少しは気づくんじゃ......よ、よし!


「い、いい人が見つかればいいのになぁ......って思って......」


 口から出てきたのはとっさの言い訳。ちっがーう!! ああ、あたし! いくじなしすぎる!! 言えばいいのに、言えないとか!!


 むがーって心の中で叫んでいたら、「ミャー」っと腕の中の子猫がもがいていた。あ、ごめん。強く抱きしめすぎた?


 腕の中の子猫を見下ろしていたら、横からニュッと一花の手が伸びてきた。


「そうだな......」


 ......うわ。何、その表情......。


 優し気に目元を緩ませて、子猫の頭を撫でている一花に自然と胸の奥が高鳴っていく。

 葉月っちを見る時も、こうやって優しい表情になる時があるんだよ、一花。


 ......それ、好きだな。


 いっつも怒ってる顔とか、

 疲れてる顔とか、

 呆れてる顔なのに、


 このふとした時に見せる表情がたまらない。


 大事にしてるんだ、とか......すごく伝わってくる気がする。


 ああ、本当に、



 この目があたしに向いたら、そんな嬉しいことないのに。



「い......」

「いっちゃん、ただいま戻りました!!」

「ごめんね、一花ちゃん。留守番任せちゃって」


 バンッ! と勢いよく開け放たれたドアから、この部屋の主たちが帰ってきた......。いや、うん。まあ、ね? ここ、葉月っち達の部屋だしね? でも......でもさ!?


「優しくドアは開けようね、葉月っち!? びっくりするから!!」


 つい勢いよくドア付近にいる葉月っちにツッコんだよ! っていうか、ビックリしすぎてめちゃくちゃ心臓バクバクしてるから!!

 その葉月っちはきょとんとした顔で見下ろしてきた。


「うん? ゴロンタを驚かせようと思って」

「驚かせちゃだめでしょ!? って、ゴロンタ!?」

「子猫の名前」

「ネーミングセンスが皆無すぎる!! もうちょっと可愛い名前つけてあげようか!?」

「ゴロンタがいい」

「ミャー」

「返事した!?」


 うっそ、気に入ったわけ!?


 子猫はモゾモゾとあたしの腕の中から這い出して、葉月っちの足に頭を目一杯擦りつけていた。葉月っち、めちゃくちゃ気に入られてるね!?


「花音、ゴロンタがゴロンした」

「ここでダジャレ!? そしてつまらない!!」

「ふふ、きっと葉月に撫でてもらいたいんだよ」

「花音はスルー!?」


 無視しないで!? 結構虚しいんだけど!!

 あたしのツッコミは無視して、葉月っちが子猫を抱き上げて、嬉しそうに頬をスリスリしている。


「か、可愛い......」


 葉月っちを見てた花音がいきなり顔を両手で覆ってそう呟いてたよ。これ、もう頭の中が葉月っちへの可愛さでいっぱいになってるわ......。あたしと一花の存在、絶対忘れてるわ。いきなり慌てたように顔を上げて、写真撮り始めてるし。


「おい、花音。それは後にしろ?」

「はっ! ご、ごめん......あまりにも子猫と戯れる葉月が可愛いからつい......」

「花音~、ごはん~」

「そうだね。この子にもあげなきゃね」


 花音もまた葉月っちに抱えられてる子猫を撫でて満足そう。一花はそんな二人に疲れたように息をついていたよ。分かる......あたしもだわ。恋は盲目とはいうけれど、花音の場合は特に極端なんだよ。前から思ってたけどさ。


 結局、子猫の名前はゴロンタになっちゃった。


 花音がご飯を作りに行っている間に、三人でトイレやらゲージやらの準備をした。葉月っち、かなり嬉しそう。そんなに猫好きだとは知らなかったね。


 夕飯を食べ終わってからは猫じゃらしでゴロンタと遊んだよ。一花と花音はゴロンタの里親探しでパソコンとにらめっこしてた。


 一花はさっきのような優しい表情じゃなくなってて、少し残念。


 あの表情を、

 あの目を、


 やっぱりあたしに向けてほしい。



 思い出して、少し胸の奥が熱くなるのを感じていたら、葉月っちが無理やりゴロンタの前足を取ってあたしに猫パンチをさせてきた。


 葉月っち? 人がせっかく一花を好きだって再確認している時に何してくるのかな? え、気持ち悪い顔してた? どぉいう意味かなぁ!? 恋してるあたしは気持ち悪いってことかなぁ!? その喧嘩、買ったぁ!! どりゃあ!!!



 その後、ドタバタと葉月っちを部屋の中で追い掛け回したら、何故か花音と一花の2人に葉月っちと一緒に怒られた。



 お読み下さり、ありがとうございます。

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