表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 前編(舞Side)
268/368

9話 考えすぎじゃありません?

 


「おい、舞? どうした、具合でも悪いのか?」

「へっ!? いや、いやいや! 大丈夫!!」


 目の前には一花のドアップ。心配そうに覗き込んでくる。

 ハッとして周りを見ると、もう帰りのHRが終わっていた。


「舞が風邪!? いっちゃん、雪が降るよ!!」

「どういう意味かな、葉月っち!?」

「バカは風邪引かないって、前にいっちゃん言ってた」

「それはお前に言ったんだよ!?」

「は! そういえば、風邪引いたことないかも!」

「認めるな!?」

「やだな、いっちゃん。レイラのことだよ?」

「わたくしは何回も風邪引いてますわよ!! 寒い時に薄着すれば一発ですわ!」

「あはは、レイラちゃん。寒い時は着た方がいいと思うなぁ」


 花音の言うとおりだって。レイラ、それ自業自得じゃん。


 よしよしと花音が葉月っちの頭を撫でて、口をチャックしている。一花がそんな二人を見てから、またあたしの方を見てきた。


「最近変だな。いつもはこっちが鬱陶しくなるぐらい騒がしいのに......どうした?」


 どうした......ってわけじゃないけど......。


 ジッと思わず一花の顔を見ると、訳が分からなそうに首を傾げている。葉月っちとレイラも不思議そうにしていた。


「舞、悩みがあるの?」


 花音まで心配そうに席に座ってるあたしを見下ろしてきた。


 やばいやばい。これじゃただ心配かけてるだけじゃん。

 だから無理やり笑顔を作った。


「ごめんごめん! ほら、次の体育祭あるでしょ? いつもと同じじゃつまらないから、他に何か出来ないかなって考えてたんだよ!」

「んー? だったら、猪さんでも捕まえてくる~? 猪さんに追いかけられながらの徒競走! おお! 面白そう!!」

「危ないから!? なんでそんな発想が出てくるのさ、葉月っち!?」

「面白い事を追い求める主義ですが?」

「どこも面白くないんだけど!?」


 誤魔化すために言ったら、葉月っちがいつものように危険なコトを言いだした。なんで猪に追いかけられるのが面白いのさ!? 花音があの怖い笑顔で「危ないからだめだよ」って言ったら、あっさり引いたから良かったよ。花音いなかったら、絶対に猪を捕まえに森に入ってただろうな......もちろん、一花を連れて。


「それより、そろそろ帰りませんこと? 食材買って帰るのでしょう?」

「......お前、どれだけ花音のご飯目当てなんだよ」

「なっ!!? いいい一花!? 誰もそんなこと言ってないでしょうに!!」


 今日は生徒会が休みだから、久しぶりにみんなでご飯食べようってことになってる。レイラが花音のご飯を食べたくて仕方ないらしい。見るからにソワソワしてるから、全員に丸分かりだし。


 でも、誤魔化せたっぽい。良かった。

 花音にもこんなこと言えやしない。


 本当にあたし、一花が好きなのかなって......今更不安に思ってるなんて。



 ◇ ◇ ◇


「花音、これ食べたい」

「んー......でも今日はケーキ作るつもりだよ? このお菓子も食べたら、ケーキは入らないんじゃないかな。それとも葉月はケーキはいらない?」

「ケーキがいい」

「じゃあ、そのお菓子は棚に戻そうね」

「うん。何のケーキ?」

「レイラちゃんの好きなイチゴのケーキにしようかなって思ってるけど......」

「バナナもほしい」

「ふふ、わかった。フルーツケーキにしようか。それじゃあ、そっちの売り場を見に行こうね」

「うん!」


 なんて、スーパーのお菓子売り場で平和な会話をしている花音と葉月っちは、(はた)から聞くと恋人というより親子の会話だよ。寮の部屋では恋人らしくイチャイチャしてるんだけどなぁ。そこは花音が上手く誘導してるんだろう、きっと。


 もはやケーキのことしか頭にないだろうご機嫌の葉月っちを見ていると、こんな単純でいいなって少し羨ましくなってくる。隣を歩いている一花を見たら、ちゃっかり自分用のエビ煎餅を籠に入れていた。


 一花を見ると、やっぱり少し胸の奥が切なくなる。

 ドキドキする。

 あたしを見てほしいなって思う。


 でも、支えたいって話になると......どうなんだろ? って疑問に思ってる自分がいる。

 恋人になってイチャイチャしたいし、好きだって思ってるのに......そこまでかな? っていう思いがどんどん募ってくる。


 あたし、恋に恋してる状態? そんな自分に酔ってるとか?

 だけど、一花が他の誰かの恋人になるのなんて嫌だし......うーん!! もうごちゃごちゃしてる!! どうすればいいのかも分かんない!!


 うっがー!! と内心頭を抱えていたら、カートの中にお肉入ってないのが見えた。あれ、そういえば今日の主役のお肉をまだ選んでないじゃん。


「あたし、お肉の方見てくるよ。今日はすき焼きなんでしょ?」

「え!?」


 花音がぎょっとしたように慌てて振り向いてきたけど、なんでさ? あ、もしかしていいお肉とか見分けられないとか思ってる?


「大丈夫だって! あたし、この一年でだいぶ鍛えられたから!」

「あ、あの舞? 鍛えたとか何の話......ってちょっと待って!? お肉は私がちゃんと選ぶからっ!」

「だーいじょうぶだってば! 任せてよ!」


 何かまだ言いたそうな花音に背を向けて、お肉売場に少し早歩きで向かった。一花の姿見てると、どうにも自分の気持ちに対して不安が出てきてしまう。


 好き。

 うん、好きなんだよ。

 あたしは一花が好き。


 一花とルームメイトになって、それまで知らなかった一花を知れて嬉しいとも思ってる。

 バカなことやって、怒ってくれるのを見て、あたしを今見てくれてるって、それが心底嬉しかったりする。

 たまに困ったように笑ってくれる姿も、もう胸が締め付けられる。


 葉月っちを大切にしている一花も、心配している一花も、とても優しい目をしていて、それがあたしに向けられたらどんなに喜ぶかって何度も思った。


 その目をあたしに向けてほしい。

 出来るなら抱きしめたいし、キスもしたいと思ってる。

 他の人が一花とそんなことをするなんて絶対嫌だ。


 だけど......いざ支えたいかってって聞かれると、足踏みする自分がいる。


 花音はそれは自分の場合だって言ってたけど......それぐらいの覚悟って本当は必要なんじゃないのかなって思っちゃったんだよ。


 世の中には、何となくで付き合ってる人たちなんて大勢いるのは分かってる。支えるとか、そんなことを考えずに付き合っている人の方が最初は多いんじゃないかなって、地元の友達たちを見てるとそう思う。


 あたしも、そうだと思ってた。

 今のあたしの悩みは『まず、恋人になってから考えれば?』っていう悩みだとも思うし、それこそ告白も出来ていないあたしが悩むようなことでもないと思う。


 でもさ......ちゃんと考えていきたいって思ったんだよ。

 そこまで考えてなかった自分にショックだったんだよ。


 告白して一花と上手くいったとして、それできっとあたしは満足してたんじゃないかって思ったら、あたしの気持ちって薄っぺらいなって感じちゃって......花音と葉月っちを見て、ますますそう思っちゃったんだよ。


「舞、このお肉がいいんじゃありませんの?」

「うわっ!!?」


 思わず溜め息ついていたら、いきなり横からレイラの声がしてびっくりした。って、なんでここにいるのさ!?


「何をそんな驚いていますのよ?」

「ああああったりまえじゃん!! いきなり横に現れたら、誰だって驚くって!」


 違う意味で心臓バクバクしてるし! あー、ほんっとビビった!!


「......本当に舞らしくありませんわね? 誰もいないところで溜め息つくところなんて、初めて見ましたわ」

「見てたの!?」

「あんなどんよりした空気を纏っていたら、お肉が腐りますわよ?」

「どんな空気!?」


 あたし、そんな落ち込んでるような空気出してたっての!? 言い方、少しは考えなよ!!


「何をそんな悩んでるか分かりませんが、このわたくしが折角夕飯を一緒に食べるというのに、そんな空気出されたら溜まったモノじゃありませんわね」

「え、じゃあ帰ったら?」

「なんでそうなりますのよ!? 食べますわよ! わたくしは久々なのですよ、花音の手料理!!」


 食べたいだけじゃん。あ、やば。つい葉月っちのような返事したから、泣きそうになっちゃってるよ。


「ごめんごめん、レイラ。あたしが悪かったよ。だからこんなところで泣かないでよ?」

「だ、誰も泣いてなんかいませんわよ!?」

「ほら、レイラはどの肉食べたいのさ?」

「え? そ、そうですわね......やはりわたくしは......」


 よしよし、お肉の方に集中しだした感じ。レイラって葉月っちより単純だから扱いやすいんだよね。


 それにしても、周りから見て肉が腐りそうな空気を出してたのか、あたし。地味にショックなんだけど。


 隣で真剣にあれこれとお肉を見比べているレイラをチラッと見てみる。

 レイラはあたしが一花のこと好きだとか思ってないんだろうなぁ。花音のことも驚いてたし。


 ......そういえば、レイラの恋バナとか聞いたことない。


「レイラってさ、好きな人とかいるの?」

「は?」

「いや、いるのかなって思ってさ。そういう話聞いたことなかったから」


 つい聞いたら、レイラは不思議そうに首を傾げていた。これ、いないっぽ──


「わたくしのお相手はもう昔から決まってますわよ?」

「はっ!?」


 ──と思ってたら、意外なこと言われた!

 逆にこっちがポカンと口を開けちゃったよ!? 相手がいる!?


「言っておりませんでした?」

「聞いてないんだけど!? え、誰!?」

「従兄です。今は海外留学中でして。わたくしが大学卒業したら、婿養子に入ってくれることになってますの」


 しょ、衝撃ぃ!!!!?

 嘘でしょ、あのレイラが......ポンコツなレイラが......残念なレイラが......まさかの彼氏持ち!!? というか婚約者持ち!!?


「なんでそんなガックリしてますのよ......」

「だって......だってレイラ如きに負けるなんて......」

「あなたがわたくしをどう思ってたか、よ~~く分かりましたわ!」

「だって......残念で仕方ないレイラじゃん!! そっちの残念っぷりも何で発揮しないのさ!?」

「なんでわたくしが怒られないといけないんですのよ!? あと残念っぷりって喧嘩売ってますの!?」


 こんなのレイラじゃないじゃん!! くっ!! レイラ相手にこんな敗北感を味わうことになるとは!!! しかもスーパーで!!


 ......あれ? 婿に入るってことは、大学卒業したら結婚するってこと?

 じゃあ......。


「レイラはその人を支えたいってこと?」

「はい?」

「いや、だって卒業したら結婚するんでしょ? 結婚決めてるってことは、その人を支えたいって思ったのかなって......」

「何言ってるんですの、舞?」


 え、なんでそんな呆れたように溜め息つかれなきゃならないのさ?


「わたくし、誰かを支えられるほど出来た人間ではないことは十分理解しておりますわ!」

「堂々と言う事じゃないんだけど!?」


 こっちが呆れるから! そこまで堂々と言うとか、やっぱりレイラは残念だわ!! そんなの開き直りじゃん!?


 ブンっとご自慢の縦ロールの髪を後ろに投げ飛ばしているレイラを、呆れて半目で見るしかできない。


「大体、従兄を支えるとかそんなの考えたことありませんわね」

「へ?」

「わたくしたちまだ高校2年生ですわよ? そんなのまだまだ先の話でしょうに」

「それは、そうなんだけど......」


 それはあたしもそう思ってるんだけどね? ああ、でも......レイラもそう思っているってことか。


「なんですの、その顔は? 何かおかしなこと言いまして?」

「いや、あたしもそう思ってたんだけどね......花音たち見てると、そうじゃないとだめなのかと思ってさ......」

「は?」

「支えたいとか思ってないと......それは本当に好きなのかなって......」

「らしくありませんわね。そんなモゴモゴと喋るなんて」


 弱気全開でつい小さい声で言ったら、レイラがバッサリと切ってきた。な、何さ......そりゃあたしだって自分らしくないとは思ってるけどさ......でも考えてるんだよ、これでも。


 そんなあたしに、また疲れたようにハアと溜め息をついてくるレイラ。


「わたくしにはよく分かりませんが、花音と葉月の例はまた別だと思いますけど?」

「え?」

「それに、本当に好きかどうかは本人にしか分からないのではなくて? 支えたいと思うかどうかが基準ではないんじゃありませんの? わたくしは従兄のことをその基準では見ておりませんわ」


 ............そりゃそうだ!! いつのまにか、そっちを基準にしてた!!


「レイラ、頭が良く見えるんだけど!?」

「どういう意味ですのよ!?」


 いやだってさ、レイラがそんな的を射た答えを出してくるなんて思ってなかったんだよ!!


 そうだよ! 好きに本当かどうかなんてないじゃん! あたしが好きだって思ってて、この気持ちを大事にしたいのが事実じゃん!


 確かに支えたいとか思うのもあり!

 でも、今の時点でそう思ってなくてもあり!!

 それでいいじゃん!!

 支えたいかどうかが好きの基準にならなくてもいいんだよ!

 レイラに教えられるとか意外だけど、でもレイラの言うとおりだよ!


 パアっと心が一気に心が軽くなっていくあたしをよそに、何かに気づいたようなレイラが目をパチパチさせていた。


「あら? 舞が悩んでいたのって、そういうことですの? じゃあ誰か好きな人が......」

「ありがと、レイラ!! 元気出たよ!! まさかレイラに教えられるとは思ってなかったけどね!!」

「どういう意味ですのよ!?」

「っていうかさ、レイラのその相手ってどんな人なのさ!? 今まで隠しておくなんて水臭いなぁ! あ、でもレイラを好きだっていうから、もしかして変わってる人!?」

「なんでわたくしを好きになる人が変わってる人になりますの!? ただちょっと人をバカにしてきて、鼻につくような男なだけですわ!」


 それ、レイラ好きなの? ま、いいか。レイラの男の好みが変わってるってことっしょ! あたし、無理だわ!!


「お前ら......戻ってこないと思ったら、何の話をしてるんだ?」


 いきなり一花の声が背中からしたから振り返ってみると、花音も葉月っちも不思議そうにあたしたちのことを見てきていた。


 一花の姿を見て、さっきまでとは違って自分の中でスッキリしたのか、嬉しくなった。籠の中に入っているモノが視界に入ってきて、更に嬉しくなってくる。


「何でもないよ! レイラの好みは変わってるなってそれだけさ!」

「ちょっと舞!? どういう意味ですのよ!!?」


 あははと笑って答えてたら、盛大にク~っと葉月っちのお腹が鳴った。それがまたおかしくて笑ってしまう。


「葉月っちのお腹も限界みたいだし、さっさと帰ってご飯にしようよ!」

「で、肝心の肉は選んだのか?」

「ん? これでいいんじゃない? 一番高いし!」

「すすストップ、舞!! やっぱり私が選ぶから!」


 あたしが手に持ったものをすかさず売り場に戻す花音。これ良い値段だし、美味しそうだからいいと思うんだけどな? 「やっぱり来てよかった......」って何故か安心したかのような息をついていた。


 その日のすき焼きは一段とおいしく感じたね! 最近はずっと悩んでばかりだったから! 花音の作ったケーキもデザートで食べて大変満足! 一花も美味しそうにやっぱり目を輝かせているのを見れて、さらに満足!


 まだ支えたいとかは分かってないけど、


 だけど、


 ねえ、一花?



 あたし、やっぱり一花が好きだよ。



 元気がなかったあたしを心配してくれてたよね。

 さっきスーパーで、あたしが好きなイチゴのアイスを買っていてくれたよね。


 それがたまらなく嬉しくて仕方ないよ。


 一花が好きっていうこの気持ちは、ちゃんとあたしの中にあるから。


 それが事実だから。



 だから、あたしはもう自分の気持ちに迷わない!



「......? なんだ、こっちを見て?」

「あっはっは! 何でもないよ! ほら、一花! ちゃんといっぱい食べないと大きくなれないぞ~!」

「ほう? 喧嘩なら買ってやるが?」

「いっちゃん、ほら、これもお食べ?」

「お前ら......いい加減にしろよ!?」


 一花の受け皿にどんどん野菜や肉を葉月っちと一緒に乗せてあげたら、二人一緒に怒られた。レイラはレイラで呆れきってモグモグ自分のを食べて、花音は花音で苦笑しながら一花を宥めていたよ。


 怒ってる一花も可愛いよね! って思いながら、あたしは満足感でいっぱいで、説教が全く頭に入ってこなかったよ!



 お読み下さり、ありがとうございます。

 尚、レイラの婚約者設定は後付け設定ですので、あまりツッコまないでいただけると助かります......。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ