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ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 前編(舞Side)
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7話 GW

 


「おい、舞......本当に大丈夫か?」

「だ~いじょうぶだって! 心配しすぎだから、一花は!! ほら、出来るまで本でも読んでなって!」


 あたしは今、初めて一人で料理に挑戦中! ちゃんとコピーした花音のレシピノートを見ながらやってるよ! いつもは花音に指示されるがままやってるからね!


 GWに入って、花音と葉月っちは二人仲良く花音の実家に向かっていったよ。その後ろ姿を見ながら、一花が口元を綻ばせて眺めていた。本当、葉月っちが大切なんだよね。


 それからは一花と二人で過ごしてる。めっちゃ嬉しい!


 一花ってば優しいから、口ではブツブツ言いつつあたしに付き合ってくれたよ。ボルダリングもショッピングもね。インストラクターのお姉さんが一花の登りっぷりに感激してスカウトかけてたけど、一花は丁重に断っていた。だけど、「たまにはこうやって体動かすのも悪くないな」って少し楽しそうだったから、連れ出したのは成功だね!


 ショッピングも楽しかったな。何着も試着して、一花に選んで貰った。全部買おうとしたら怒られたんだけどね! でもその服はあたしのこれからのお気に入り! もう絶対大切にする! 一花が似合うって言ってくれた服だもん!


「......さっきから何を一人ニヤニヤしてる?」

「へっ!?」

「ちゃんと手元見ろ。指切っても知らないからな?」


 つい一花と過ごした時間を思い出していたら、一花にツッコまれた。って、あっぶなっ!!? 野菜じゃなくて指切るところだった!


「はあ......別に無理して作らなくていいんだぞ?」

「べ、別に無理してないしっ!! ちょっと余所見してただけだって!」

「なんでそんなにムキになってるんだか......」


 そんなの決まってるじゃん! おいしいの作って一花を虜にさせるためさ! よくよく考えたら、葉月っちは花音に胃袋掴まされたようなものだって気づいたんだよ! そんな呆れた顔しなくて大丈夫だってば!


「見られてると集中できないから! ほら、一花は部屋戻って戻って!」

「あ、おい! 包丁を持ったまま押してくるな!! 危ないだろうが!?」


 それもそうだ。


 包丁をまな板に置いてから、一花の背中を押してキッチンルームから追い出した。でもすぐ本を持って戻ってきた。よほどあたしが一人で料理するのが心配らしい。


 その心配してくれている事実に嬉しくなり、また口元が緩んでツッコまれた。




「......どう?」


 作り終わって、早速二人で夕飯。

 あたしの作ったエビフライを一口齧ってモグモグしている一花を、緊張しながら見つめる。


 花音のレシピ通りに作ったから、まずいとかはないと思うんだけど......いやでも不安! 花音が作るようにはやっぱりいかなかったんだよ! 少し焦がしちゃったし!!


「......上出来じゃないか?」


 ゴクっと緊張で喉を鳴らし、固唾を飲んで一花をジッと見てたら、そんな嬉しい一言を言ってくれた。


「本当? お世辞じゃない?」

「お世辞を言われたいなら、ちゃんと言うが?」

「ううん、いらない! はー、よかったよかった!! 花音の作ったやつとは若干違く出来ちゃったからさ!」

「まぁ、確かに少し焦げてるが......許容範囲内だ」


 そう言ってまた一口食べている一花を見て、もうジワジワと歓喜の心が溢れてきたよ! 一花が本当においしいって思った時は目がパアって輝くから、そこまでじゃないんだろうけど、でも普通においしいって思ってくれているなら良かった!


「これ、思ったより嬉しいわ! 花音の気持ちが分かったよ!」

「ん?」

「自分の作ったモノをおいしそうに食べてくれる葉月っちのあの顔が好きだって、前に言ってたからさ! うん! これ、嬉しくなる!」


 分かる! これ、嬉しくなる! もっとおいしいって言わせたくなる!


「一花、これからはあたしが作ってあげるよ!! 次こそ一花の目をパアっと輝かせてみせるからね!」

「十分おいしいと思ってるが?」

「ちっちっ! 甘いよ、一花! 花音のエビフライを食べたときより、目が大きくなってないからね!」

「いつからあたしの目が基準になってるんだ?!」


 そんなのルームメイトになってからすぐ気づいたよ!! どれだけ一花のことを観察してると思ってるのさ!


「全く......いいからお前も食べろ。折角自分で作ったモノだぞ。冷めたら勿体ないだろ?」

「それもそっか! いっただっきまー......」

「どうした?」


 いきなり言葉を止めたあたしを、不思議そうに見てきた。


 ああ、いや。

 ふいに思っちゃって。


「一花ってさ......なんでいつもそんな口調なの?」

「は?」


 何を今更って顔してる。いや、前から思ってはいたんだよ? 見た目小学生で可愛らしいのに、そのぶっきらぼうな男口調。ギャップ萌えしててスルーしてたけど、気になってはいた。


「まあ、一花が『あちしぃ~』とか『そうだよね、キャピ!』とか言ったら、それはそれでおかしさ満点だけどさ」

「お前の中の女の口調が著しくおかしいことに気づけ?」

「ね、なんでなんで? この際だから教えてよ! 何か理由があるの?」


 知りたい! 思えばこういう話とか一花とはしてきてない! いつも葉月っちと花音が一緒だったし!


 ワクワクしながら、どこか呆れているようにこっちを見ている一花をジッと見つめると、観念したかのようにハアと息をついていた。


「理由なんて特にないが......ただ......」

「ただ?」

「前に似合ってないと言われただけだ......普通の女が使う言葉遣いを」


 ......思ったより重いことを言われた。

 え、え? 似合ってない? 誰がそんなこと言ったわけ? こんな可愛い一花にそんなこと言ったの!? どんな言葉遣いだろうが一花は全部可愛いんだけど!


「誰っ!?」

「は?」

「だから誰さ、そんなこと言ったの!?」


 沸々と怒りが込みあがってきた。何さ、似合ってないって!!? それで一花は、それを気にして今の言葉遣いになったってこと!?


「あのな、落ち着け、舞。それを言った人間はここにはいないぞ?」

「は?」


 今すぐ叩き潰してくれようと思って立ち上がったあたしに、一花がそんなこと言い出した。肩を竦めて、あたしの切ったキャベツを口に入れている。


「前の世界の話だから、そいつはこの世界には存在しない」

「え?」

「前世の記憶があると言っただろ。その頃の話だ。なんだ、お前もレイラと同じで信じてなかったか?」

「ち、違う! 信じてる、信じてる!」

「ま、別に信じなくてもいいがな」


 なんてことないように一花はタルタルソースをたっぷりつけて、またエビフライを食べていた。


 前世。

 前に一花が教えてくれたこと。

 葉月っちと一花には違う世界で生きていた記憶があるって言ってた。


 前世の一花。

 どんな子だったんだろう? その時にそんなこと言われたの?


「前世でそんなこと言われたの?」

「まあな。碌でもない男だった」

「男!?」

「義理の兄だ。あたしのことが気に食わなかったんだろうさ。やること為すことケチつけられた。嘲笑って、それで自分のプライドを守ってたんだろ」


 全然想像つかない。一花のお兄さんっていうと、あのニコニコと優しそうな今のお兄さんが思い浮かんじゃう。


 でも、でもさ? 一花はその義理のお兄さんに言われたこと気にしたってことでしょ? だから今の口調になったってことでしょ?


「あのさ!」

「......いい加減座れ」

「あ、はい」


 言われて、立ったままだったことに気が付いた。ストンとそのまま座ったよ。


 って、違う! あたしが言いたいのはだね!


「一花は可愛いよ!」

「いきなり何を言い出すんだ!?」

「可愛いじゃん! 今の口調も可愛いけど、でもきっと普通の女の子の口調でも全然問題ないと思う!!」


 いきなり可愛いって言われたからか、一花の頬がほんのり赤くなってる。

 でも本心だし!


「可愛いよ。それにかっこいい! 体が小さいくせに、大人たちに堂々と指示出してる姿は、凛としていてかっこいい!」

「ほう? 小さい?」


 あ、やば。“小さい”は一花の地雷だった。


「そこじゃなくて! あたしが言いたいのはさ、そんな前世で言われたこと気にするなってこと!!」


 あたしが言いたい事を言ったら、一花がさっきまでの怒りそうだった雰囲気を変えて、見る見るうちに目を大きくしていった。驚いているみたい。


「一花は一花じゃん! どんな口調でも可愛いし、かっこいいよ! あたしはそう思ってるから!」


 自分で言ってて少し頬が熱くなった。


 だけど、ちゃんと伝えたいと思ったんだ。

 気にすることないんだよって、伝えたくなったんだ。


 まだまだ知らない一花がいる。

 あたしが知らない一花がいる。


 でも、あたしが好きになったのは、今目の前にいる一花だ。



 絶対絶対、この気持ちは誰にも譲れない。



 それにしても、本当なんなの、その義理の兄! やっぱりムカついてきた!


「一花のその義理の兄! 本当嫌なやつだね! この世界にいたら、あたしがぶっ飛ばしてやったのに!」

「あたしは別に気にして......」

「気にしてるじゃん! だから口調変えたんでしょ! はー、一花のそんな女の子らしい口調も聞いてみたかった! 今の口調もギャップ萌え出来るからいいけどね!」

「......ほー? そう思ってたのか?」

「そりゃそうだよ! 見た目小学生で、その口調! 葉月っちとも語り合ったことあったけどね! いっやー、萌えるね! 萌え萌えだね!」

「そうかそうか......あいつとそんなバカげた語り合いをしたことがあったとは知らなかった」

「そりゃーねー! 一花にバレたら、絶対拳骨飛んでくること間違いなしじゃん! あっはっは......」


 ......あれ? これ、今バラしちゃったんじゃない?


 ハッとして恐る恐る見ると、スクっと立ち上がった一花がそこにいた。


「い、一花? あのさ、これはさ......そう! 葉月っちが言い出したことでね!」

「あいつにも後でみっちり説教してやるが、今は目の前にいるお前が手っ取り早いだろ? あたしはお前らのネタにされてたわけだ。これが怒らないでいられるか?」

「......一花、何か誤解してると思う! あたしも葉月っちもネタにしてたんじゃなくて、一花の可愛さを語り合っていただけなんだよ!」

「やかましいわ! どんどん葉月に影響されてるな、お前!? さっきの言葉も昔の葉月が言ったようなことだから驚いてたが、悪い影響与えられすぎだ!」

「失礼な!! あたしは葉月っちと違って常識人なんだけど!?」

「全くもって同類だよ!!?」


 心外すぎる!! あたしは葉月っちと違って、人様に迷惑なんてかけてないのにさ!!


 距離を縮めるはずが、なぜかそのあと散々一花の説教を聞く羽目になってしまった。おかげですっかり冷めきった自分の料理を食べましたさ。


 あれ? そういえば、葉月っちと同じようなこと言ったとか言ってなかった?

 一体どういうこと? と聞けず、さらにご飯を食べ終わった後もクドクドと一花のお小言が続いた。


 こうして楽しかったり、一花の前世の話に憤ったり、その一花に散々説教されたGWは幕を閉じたんだけど......



 説教されているのに、いい雰囲気になるはずないじゃん!?



 お読み下さり、ありがとうございます。

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