6話 え、二人きりなんですけど!?
「え......? は、葉月っちが花音の実家に?」
「ああ。今年のGWはあたしも一息つけるな」
はーっと息を吐いて、お風呂上りにジュースを飲んでいる一花。予想外のことで持っていたアイスを落としそうになった。
え、え? マジ!? それって、葉月っちと一花が離れ離れってことじゃない?
「なんでそんな驚いてるんだ?」
「え、いやだってさ......」
「花音もそういえば驚いてたな」
そりゃそうでしょうよ!! いつも葉月っちから離れなかった一花が......葉月っちと離れるとか!! あ、いや......待てよ......これは一花もついていく流れなんじゃ......。
「一花も行くの?」
「なんでだ? あたしが行く必要ないだろ」
いや、そうなんだけど......って、これマジな話っぽい!!
「葉月のここのところの安定ぶりを見ると、大丈夫そうだしな。あれ以来、声も聞こえてきてないみたいだし」
声というのは、葉月っちの子供の頃の声らしい。本人にしか分からない事だから、あたしも何それ? と思っている。深く考えたら負けだ。だって葉月っちだもん。
ただ、その声が聞こえてくると、葉月っちは死ぬことばかり考えるみたいだから、一花もレイラも必要以上に警戒している。
「花音のそばが一番安定するみたいだから、あたしがいなくても大丈夫だろ。それに花音も葉月と一緒にいたいだろうしな」
そこに気がつけるんだから、ちょっとはあたしのことも気づきなよ! と言いたい。い、いや、それより......これってチャンスじゃない!?
「じゃあ、一花はGW、家に帰るの?」
「ん? まあ、顔は出すが......だが寮にすぐ帰ってくるぞ。久々に読書に没頭できるしな」
読書タイムにあてるのか。いや、でも......。
「あたしさ、今回帰んないんだよね? 遊びにいこうよ!」
思い切って誘ってみたら、目をパチパチとさせている。
「帰らないのか? 父親が寂しがっていると言ってた気がするが......」
「それがさ、パパ、出張で海外行かなきゃいけなくなっちゃったんだって。ちょうどGW丸ごと」
パパが一番残念がってたもん。ま、夏休みには帰るし! その時に目一杯構ってあげようと思ってるさ!
「友人たちに会わなくていいのか?」
「いい! だって彼氏自慢されるだけだし!」
そうなんだよ! あの子たち、彼氏自慢してくるんだよ! そのあと、あたしに哀れみの目を向けてくるまでがセット。たまにメッセージのやり取りしているけど、でも最後には葉月っちみたいに応援してくるんだよ! それがまた腹が立って仕方ない!
あ、そうだ!
「一花、GWはあたしがご飯作ってあげるよ!」
「は?」
「ふふん! これでも花音の手伝いちょこちょこやってるからね! エビフライの揚げ方もバッチリさ!」
「いや......食堂は開いてるから別に......」
「あ、ちゃんと遊びにも行くからね! 読書ばかりだと体鈍るって! そうだ! そういえばこの前テレビでボルダリングのこと特集やってた。やってみようよ!」
「おい、聞け?」
「それだけじゃつまんないよね! あーそうだそうだ! 新作の服も見にいかなくちゃ!」
「人の話を聞け?」
「うっわ! 楽しみ! 色々計画立てなきゃじゃん! ちょっと花音のところ行ってくるわ! レシピのノート貸してもらわなきゃ!」
「全く聞こえてないな!? 少しは落ち着......っておい、舞!?」
一花に構わず、あたしは部屋を飛び出したよ。
やばっやばっ! テンション上がる!
だってGW中は一花と二人っきりってことでしょ!? 葉月っちのことも気にしなくていいわけだし!!
よーし!
一気に距離を縮めるぞ!
頑張れ、あたし!!
ウッキウキのテンション爆上げ状態で花音たちの部屋に突撃したら、二人がちょうどキスしようとしてるところで、めっちゃ冷たい笑顔になった花音に怒られた。
ホント、この花音怖すぎだから......。いや、あの......悪気はなくてさ? 鍵かかってなかったし? 葉月っちもツンツンとあたしの足つつかないで?! 地味に痺れてるから! ひぃっ!
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