242話 鈍感再び?
「よっ! 葉月っち! どうだね、順調かね!?」
「舞、ここは病院ですのよ? あんまり大きな声出すのはよくありませんわ」
「え、これぐらいでもダメなの!?」
「なんでさらに大きくなるんですのよ!?」
「お前が1番大きいがな……」
舞はいつも元気だね~。昨日も来てたんだから、分かってるくせに。そして、なんでレイラは当然のようにきてるんだろうか、はて?
あれから数日。退院も近いらしい。
私が暴れなくなったおかげか、傷は開くことなく治っていってる。
いや、びっくりだよ。
お腹刺されてから、私はまた狂ってたらしい。
どうりで記憶があやふやだ。卒業式の時にあの子が来て、正気に戻ったわけですね。ちょっと感謝。
私を刺した彼女はというと、鴻城の息がかかってる特別刑務所に入れられたらしい。まだ未成年なのにね。
でも、一生あの子には鴻城の監視がつく。いまだに出せ出せ言ってるらしいけど、あの子の他の親族も縁切りしたらしいし、この先もう彼女の思い通りの人生は送れないだろう。ただでさえ、私と一緒の平気で人を傷つけられる人だからね。本気で私のこと殺すの平気そうだったもん。
あの子は今まで好き放題やってたんだって。
元大臣の父親からはお金貪ってたらしいし、母親は不倫の件を脅して、そこからもお金を自由にしてたらしい。
あと酷いのは、あの子の周りの雇ったって言っていたボディーガードたちに対して。
彼らの家族のことを人質にとったり、借金させたりして、日常的に暴行とか憂さ晴らしとか色々やってたんだって。
可哀そうだから、あの後に鴻城で雇ってあげたってさ。泣いて喜んでたっていっちゃんが言ってた。まあ、実質いっちゃんの部下になるからね。
でも、やっぱりレイラは思うところがあるみたいで、今でもあの子にたまに会いに行ってるみたい。
「昨日会ってきましたけど、変わらない様子でしたわね」
「ふ~ん。どんな感じ~?」
「さっさと出せって言われましたわ。使えないとも」
「あのさ、レイラ。もう良くない? レイラがそこまで気にかけなくてもさ。彼女も望んでないと思うけど」
「いえ、わたくしはまだ会いにいこうと思いますの」
「なんでだ?」
「もう……逃げたくありませんのよ」
そういうレイラはちょっと恰好良かった。
でも、あの子は逃げた方がいいと思うけど。一生変わらないと思うよ。まだ会長のこと諦めてないらしいし。まあ、あの子は一生会長に会う事はないんだけども。
「ポッドのお湯無くなったから入れてくるね。ついでに皆の紅茶淹れてくるけど何飲む? 葉月はハーブティーでいいかな?」
「うん」
「あたしもこいつと一緒でいいぞ」
「あたしはいつもので!」
「花音、わたくしも一緒にいきますわよ」
今レイラと出てった花音は、朝から晩までここにいます。
もう付きっきり。いっちゃんもいるけどね。看護師さんが感動してた。あの人たちにもお菓子とか振る舞っているらしいから。
ん、何? なんで、舞はジトーって見てくるの?
「あのさ、葉月っち」
「ん~?」
「花音にちゃんと返事してないでしょ?」
返事? はて?
「告白だよ! 告白の返事! なんでそんな不思議そうな顔してるのさ!?」
そう言われてもね~。
「何も言ってこないんだもん」
「は?」
「花音、何も言ってこないんだもん」
何も。本当にな~んも言ってこない。しかもあれ以来、あの熱の籠った目で見てこないし。あれ、やっぱり勘違い? って思うくらい。
「はあ……そんなんじゃ花音が誰かに取られちゃうよ? それでもいいの?」
「ん~……」
「はあ、舞。あんまり急かすな。こいつはな、超がつくほどの鈍感なんだぞ。今まで無縁だったんだ。すぐ返事しろって言う方が無理な話だ」
「いっちゃん。それはちょっと訂正しておきたい」
「なんだ?」
「その前に、そこの果物ナイフ取って?」
「ちょっとちょっと葉月っち? 妙な事考えてないよね?」
失礼な。そういや舞にもしっかりバレました。私が過去何度も死のうとしまくって、果てには狂ったことがもう隅から隅までバレました。
でも舞は魘されることなかったんだって。一種の病気でしょって片付けられた。一番強いのは舞かもしれない。
まあ、いいや。大丈夫って言ってナイフを取ってもらってから、指に当てて軽く切ってみたら、即取り上げられた。
「葉月っちを信じたあたしがバカだったよ!」
「舞、大丈夫だよ~?」
「お前、ついさっきの行動振り返れ」
「大丈夫だって、いっちゃん。ほら、これ見てごらん。血が出てる」
「お前が今切ったんだよ!?」
「そうじゃなくてさ~。これ、ちゃんと少し痛いんだよ?」
「……は?」
いっちゃんが、それはもうこれ以上ないくらい、大きく目を見開いていた。
ですよね。びっくりですよね。ちょっとジンジンしてるんですよ。鈍い痛みって感じ。
舞は関係なしに、自分の持ってる絆創膏を貼ってくれていた。
「……痛み……あるのか?」
「そうなんだよ、いっちゃん。まあ、本当に鈍~い痛みって感じかな。ちなみにお腹の傷も少~し感じるよ」
「何で早く言わない!?」
「気のせいかと思ってました」
「そういう大事なことはさっさと言えって、いつも言ってるだろうが!?」
ゴンって頭殴られた。いや、だからね、いっちゃん。
「いっちゃん! これも少し痛く感じるってことなんだよ!」
「やかましいわ! すぐ検査してもらうからな!」
「やっぱ痛くないです」
「痛い方が正常なんだよ! 喜べ!」
「あのさ、ちょっと話が見えないんだけど?」
あれ、舞、知ってたんだよね? なんでそんな首傾げてるの?
「舞、前に鈍感って言ってたでしょ?」
「え、うん。言ったね」
「これだよ、舞」
「いや、分からないんだけど?」
あっれ~? おっかしいな~?
「私は痛みを感じない体だったんだけどもね」
「あ、なるほど。だからお腹刺されて平気だったんだ。普通痛いよね? 痛いどころの話でもないとは思うけどさ」
え、うん。そうなんだけどね。舞、反応軽いね。いいんだけども。
「このたび! 痛みが発覚しまして! 鈍感だけど鈍感じゃなくなりました!」
「意味わからんことを言うな」
「いっちゃん。痛みがないから鈍感なんだよ! 痛みがあるから鈍感じゃないよね?」
「いや、葉月っち? それ全然意味が違うと思う」
うん? 首を傾げたら、2人が思いっきり溜め息をついて、ガックリ肩を落としていましたよ。なんで?
「言ったろ、舞。ちょっと待ってやれ」
「花音が不憫すぎる……」
だからなんで?
2人はまた私を見て大きく長~い溜め息をついてた。
ちなみにね、味覚も戻ったよ。花音が作ってきたクッキー食べたら甘かった。それを言ったら、すごい嬉しそうに笑ってた。
うん、やっぱり花音の笑顔は可愛いです。
そういえばさ、告白で思い出したけども、
会長、どうなったの?
お読み下さり、ありがとうございます。




