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207話 イベントを見るために

 


「ほら、葉月」

「あ~ん」

「自分で食べろ、これくらい」


 次の日も花音がお昼休みにやってきた。けど今日はすぐ戻ってったよ。昨日のチョコ持ってきてくれたから、いっちゃんに渡して生徒会室に戻っていった。私はいっちゃんの小さい背中に隠れました。苦笑してたけど。


 それを今、寮に帰ってきて食べている。だって、これホッとするんだもん。味はしないけどね。


 いっちゃんが食べさせてくれないので、仕方なく自分で口に入れて、モグモグしながらホッとしてを繰り返す。これ、そういえば何の葉っぱなんだろうね?


 いっちゃんはテーブルで、ノートを開いて明日の計画を練っている。明日はデートイベントがあるからね。


「ねえ、いっちゃん。明日は朝からずっとイベント?」

「昼からだな。昼に待ち合わせしているはずだ」

「じゃあ、ずっと覗くの?」

「そんなわけあるか。あたしが見たい場面は夕方だ。前の遊園地だってそうだっただろうが」

「確かにそうだったね」


 遊園地行ったな~。あのタワー良かったな~。この際だから、あれだけ買っちゃおうかな。いや、それよりも建設させれば良かったかな? むむー。でも、残念。もうそんな時間はないんだよ~。


「明日はその時間に合わせて行こうとは思ってるが……」

「うん?」

「お前を連れて行かなきゃダメかと思うとな……」

「でも、今はいっちゃんいないと無理」

「そうだよな……お前大人しくしろよ?」

「わかったよ! いっちゃん!」

「それにあたしは何度裏切られたと思ってるんだ?」

「数えてない」

「つまり、一向に聞いてないということだ、この馬鹿野郎が!?」


 いっちゃんの拳骨が顔に飛んできた。


 でもさ、いっちゃん。私が大人しくするわけないよね? しかも、今回水族館でしょ? ペンギンさんと水の中で戯れられるね!


 あれ、すっごいジト目で見てくる。


「お前、今ペンギンと水の中で遊ぶ想像してただろ」


 バレてる。ペンギンさんがダメならさ――。


「今、ペンギン無理そうだから鮫をイメージしただろ」


 バレてる。


「そんな葉月に朗報があるぞ」


 え、何?


「お前には明日、これを着けてもらおうと思ってる」


 いっちゃんがどこから取り出したか分からない、頭に装着する機械をテーブルにドンと置いた。これは、最近流行りのVRですね。映像が見れるやつ。


「いっちゃん、これは~?」

「これを被って海にいる気分を味わえ。お前の待望の鮫と一緒に泳いでいろ」

「いっちゃん、分かってないね」

「うん? 何をだ?」

「私は一緒に泳ぎたいんじゃないんだよ、食べたいんだよ!」

「まだ言ってたのか!?」

「どんな味かな~?」

「今お前分かんないだろ!?」

「食感だけでも」

「どんだけ食べたいんだよ!?」


 え~だって興味あるんだも~ん。あ、そうだ。


 いっちゃんの置いた機械を手元に寄せて弄り始める。ふっふ~ん。あ、パソコンもほしいね~。


「お前……何する気だ?」

「ちょっと作ろうかなと」

「はぁ……壊すなよ?」

「は~い」


 パソコンとその機械を繋いで、カタカタし始める。あ、ついでに~。そうだ、こうして~。


 いっちゃんが静かになった私を放っておいて、またノートに向かった。


 カタカタ、カタカタ。

 たまにチョコを放り込んでまたカタカタ。そして、最後にタンっと押して終わらせる。


「いっちゃん! 出来た!」

「嫌な予感しかしないが……」

「いいから! ほら、着けて!」

「お前が着けるものなんだぞ?」

「いっちゃんが先に試さないと!」


 疲れ切った感じでやれやれと言いながら、いっちゃんはその機械を装着する。たまにこうやって、いっちゃんは私が作ったものを試すからね。時計のトランシーバーもそうだし、この前のペン型望遠鏡もそう。そういえば、爆発するリストバンド作ったら怒られたこともあったね。


 いっちゃんが装着したのを見て起動させた。ふっふ~。色んな映像を作ってみたよ~。カエルに食べられたり~、いっちゃんの体を大人バージョンにしたセクシー水着で迫られる映像だったり~、果ては上空から落ちる映像だったり~。


 色々流していたら、いきなりその機械が頭にゴンっと飛んできた。


「お前はなんつ~変なもん作ってんだ?!」

「え~面白くなかった~?」

「何だ、あれは!? なんであたしが水着なんだ!?」

「あれが一番の改心の出来ですが?」

「あたしはあんな身体じゃないわ!?」

「そうだね! いっちゃんはもう少し大きかったね! 修正します!」

「しなくていいから消去しろ!」


 え~もったいないな~。あとで舞に見せてあげよ~。いっちゃんは背は小学生だけど、胸は普通よりはあるんだよね~。前揉んだら鳩尾に一発喰らいました。


 パソコンを没収されたら、暇になってしまいました。あ、そうだ。あれで花音の映像作って、会長に送れば面白いんじゃない? ほっほ~。花音に迫られての会長の反応。見たい。見てみたい。絶対面白い。


「いっちゃん! もう1回貸して!」

「何するつもりだ?」

「秘密だよ~」

「じゃあ、だめだ」


 むー。でも言ったら、いっちゃんが絶対やらせてくれないもんね。


 どうすればいいか考えていると、首根っこ掴まれて食堂に連れてかれた。


 むむー。どうすればパソコンを手元に持ってこれるかな。料理をツンツンしながら考えていたら、いっちゃんに怒られた。


 あ、寮長もご飯食べに来た。でも、もう帰ってきてたんだね。


 はっ! 寮長! 寮長がいるじゃないか! 寮長の映像を作って男子に売れば……そうだ、他の生徒会メンバーも作れば女子にも……これは100回に1回あるかないかの、皆に喜ばしいことを出来るチャンスでは?


 じゃあ、まずはやるべきことは決まってるね!


「寮長!」

「きゃあああ!!!??」


 後ろから抱きついて胸を揉み揉みしてあげると、悲鳴が上がった。いっちゃんに即引き剥がされたけど。


 寮長、去年の春より大きくなってない? あ、顔赤くして涙目で睨んできた。怒ってますね。


「小鳥遊さん……いきなり何するのかしら……?」

「すまないな、寮長。ちょっと目を離してしまったばかりに」

「いっちゃん、寮長また大きくなってたよ?」

「やかましいわ!? まず謝れ!」

「ポニョンポニョンだった!」

「それは謝罪じゃなく感想なんだが!?」


 いっちゃんじゃなくて、寮長の拳が飛んできました。息を切らして、深呼吸してるね、寮長。


「小鳥遊さん。こういう場所でああいう行動は控えなさい」

「なるほど。ここじゃなければいいんだね!」

「誰もそんなこと言ってないでしょう!?」

「じゃあ、そんな寮長にお願いがあります!」

「寮長、聞かなくていいからな……」

「いっちゃん、これは人類の癒しのためだよ!」

「人類よりも、今は目の前の寮長に癒しを与えてやりたいんだが?」

「はぁ……いいわ、東雲(しののめ)さん。それで、何かしら? どうせ禄でもないことだろうけど……」

「皆のために脱いでください!」

「本当に禄でもなかったわね!? 誰がそんなことやりますか!!」


 ゴンっとまた拳が飛んできて、寮長は逃げるように行ってしまったよ。いっちゃんが心底呆れた様子で私を見下ろしてきたのは言うまでもないですね。


 ちぇっと思って、部屋でゴロゴロする。

 いっちゃんはまたノートに向かってた。


「いっちゃん、まだ考えてたの?」

「いや、明日はいいんだがな。次のバレンタイン、どうするかを考えてたんだよ」


 なんと、もう次のことを考えてたとは! そういえば、それが終わればあと卒業式だけなんだよね。卒業式のイベントってどんなの?


「ねえ、いっちゃん。卒業式のイベントってどういうの?」

「ん? そんなの決まってる」


 決まってるんだ?


「告白イベントに決まってるだろ」


 あ、なるほど。そこで想いを告げるわけですね。納得。それで晴れて2人は両想いですね。


 あれ? なんか、ちょっとモヤッとしたな……気のせいだね。「まあ、会長には悪いがな」っていっちゃんがボソッと呟いてた。何が会長には悪いんだろう?




 コンコン




 ありゃ、誰かきた?

 いっちゃんが立ち上がって行こうとした瞬間、ドアのガチャ! バタン! って音がした。


 いっちゃんも私もさすがに首を傾げてしまったよ。誰? 舞? そういや食堂から戻ってきて、鍵掛けてなかったかも。


「一花! 葉月っち!」


 部屋に現れたのはやっぱり舞だ。どうしたの、そんな慌てて? ハアハアとちょっと息が切れている。


「なんだ、どうした?」

「あ、あのさ……レイラの家の番号って分かる?」


 レイラ? でもレイラも携帯あるでしょ?


 いっちゃんもそう思っているみたいで、不思議そうにしていた。


「なんだ、いきなり? それは分かるが……」

「掛けてもらっていい?!」

「落ち着け、どうしたんだ、一体?」

「そだよ~舞。どしたの~?」


 いっちゃんに水を飲まされて、舞がハアと息をついてから私たちを見てくる。少し不安げな表情だ。


 何か、これ……。

 前にも見たことあるような……。


「レイラと花音が連絡つかないんだよ」


 前にもそんな感じのことあったような。


「2人は先に帰ってさ。今日3人でご飯食べる予定だったんだけど、さっき部屋帰ったら花音いなくて。携帯に連絡しても出ないし。じゃあ、レイラって思ったけど、そっちも繋がらなくてさ。もうこんな時間じゃん? だから心配で。レイラの家の話とかしてたから、もしかしてそっちに寄ってるのかなって思って……」


 なんで。


 なんでかな。



 なんで花音はいつもこうかな。


 なんでいきなりいなくなるのかな。



 頭が冷えていく。


 時刻はもうすぐ20時近い。



「……待ってろ。今聞いてみる」

「うん、一花お願い」


 いっちゃんがレイラの家に電話する。

 でも返答は帰ってきていないだった。


 舞はもう一度いつものスーパーに行ってみる。だけど2人はそこにもいなかった。



 頭がどんどん冷えていく。



 舞は一気に、どうすればという困惑した様子になっていた。


 いっちゃんが戻ってきた。寮の外にいる監視に、花音たちを見たか確認しに行っていた。


 だけど、返答はまだ見ていないだった。




「あと、さっき寮長に聞いたが、会長も連絡つかなくなってるらしい」




 会長も?


お読み下さり、ありがとうございます。

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