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205話 決意 —花音Side

 

「溶かすんですか?」

「うん、そうそう。あとはここで違う味付けをしたり、これで形整えるんだよ」


 寮の部屋のキッチンルーム。ユカリちゃんと一緒にチョコ作りをしている。


 もうすぐバレンタインだからね。私は生徒会メンバーにあげる予定。あとクラスメイトかな。この1年お世話になったから、お礼のチョコだね。


「ユカリちゃんは誰にあげる予定なの?」

「ルームメイトと、あとはナツキでしょうか。それとナツキのお兄さんにも」

「ナツキちゃん、お兄さんいたんだ?」

「ええ。ふふ、ナツキと同じく、優しくて頼れる人です」


 そう言って嬉しそうに笑うユカリちゃんは可愛かった。あれ、もしかして好きなのかな? と感じたのは気のせいかな? 楽しそうにラッピングの袋を選んでいるユカリちゃんを見て、そう思っちゃったよ。


「花音ちゃんは?」

「そうだなぁ。会長たちとあとは東海林先輩に。それとクラスメイトかな、と思ってるけど」

「ふふ、それは皆が嬉しがりますね」

「そうだと嬉しいな。もちろん、ユカリちゃんたちにもあげるね」

「それと、小鳥遊さんにもですよね?」


 ニコニコとユカリちゃんがそう返してきて、思わず目を丸くさせてしまった。


 葉月、にももちろん作るつもりだけど……あ、あれ? 何でここで葉月の名前が?


 私のその反応がおかしかったのか、ユカリちゃんが片手を口に当ててクスクスと笑い出した。


「顔赤いですよ、花音ちゃん」

「え!?」


 それは無意識!! 恥ずかしくて顔を背けてしまったけど、あ、あれ? こんな反応しちゃったら、私が葉月のこと好きだってバレ――。


「やっぱり、花音ちゃんの好きな人は小鳥遊さんでしたか」


 バレてた。おかしそうにユカリちゃんはクスクスと笑っている。しかもやっぱりって言ってるから、これきっと前からバレてたんだ。


「ご、ごめんね。言ってなくて……」

「気にしていませんよ。私も――ナツキのお兄さんと付き合ってるの話してませんから」


 今度は予想外のことを言われた! ナツキちゃんのお兄さんと!?


 手を止めて、ユカリちゃんの方を見てしまうと、ユカリちゃんは穏やかに微笑んでいる。


「付き合ってる……んだ?」

「はい。もう2年になりますか。それも小鳥遊さんに背中を押されて」


 またまた予想外のことを言われた! ここでまた葉月の名前!? あれ? でも……ユカリちゃんたち、葉月のこと苦手だったような。


「小鳥遊さんは覚えてないと思いますよ。ナツキのお兄さんに私が片思いしている時に、少しショックなことがありまして。1人落ち込んでたら、たまたま東雲(しののめ)さんから逃げていた小鳥遊さんに鉢合わせしてしまいました」

「中等部の話?」

「そうですね。そのころも、小鳥遊さんは寮でも学園でも色んなことをしていましたからね」


 懐かしそうに笑いながら、ユカリちゃんが話してくれる。


 中等部でも色々としていたのは、東海林先輩たちからも聞いてたけど……でもあの葉月が、ユカリちゃんの背中を押したってどういうことだろう? ちょっと想像つかない。


「小鳥遊さんに何かされる、と思ったのも束の間、彼女、私の部屋に上がり込んできたんですよ。東雲さんから隠れるためですけどね。あっという間の出来事で、私もオロオロするばかりで」

「……想像つくかも」

「ふふ、でしょう? すぐ部屋から出ていくと思ったんですけど、彼女、いきなり私の方を不思議そうに見てきたんです。『泣いてたの?』って。びっくりしました。そうやって話しかけてくるとは思ってなかったので」


 葉月は優しいから、泣いているユカリちゃんを放っておけなかったんじゃないかな。もしくはただ不思議に思って聞いてみただけか。後者の方が可能性高いな、うん。


「それからもまた不思議で、彼女、何も言わずに私の頭を撫でてきたんですよ。もうびっくりでした。碌に話したこともないのに、いきなり頭を撫でられるんですから。だけど不思議とあったかくて、私も段々涙が止まらなくなって泣いちゃったんです。それでも彼女はただ黙って優しく頭撫でてくれて、どこか安心してしまいましたね」


 それは……うん、分かる。葉月の手って、本当優しくて安心しちゃうんだよね。


「ひとしきり泣いた後に妙にスッキリしまして、しかも大分小鳥遊さんへの怖さもなくなっちゃって……だから思い切って普段聞けないことを聞いてみたんです。何でいつもあんな悪戯ばかりするのかって。皆が困っているって。そうしたら、即座に答えられたんです」

「即座に?」

「はい、即答でした。面白い可能性があるのに、なんでやっちゃいけないの? って。それはもう聞いた私の方がおかしいんじゃないのかって思うぐらい、ハッキリと言われましたね」


 面白い可能性って……でも危ないことはだめなんだよ、葉月?


「だけど私、その時思ったんです。私も可能性あるのに、何も行動してないなって。怖がって、勝手に思い込んで、勝手に落ち込んでたなって。だから思い切って、告白してみました。玉砕覚悟で告白したら、彼も応えてくれて。小鳥遊さんがああやって言ってくれなきゃ、きっと今でもウジウジと悩んでいたと思います」

「そうなんだ……」

「ふふ、私、花音ちゃんが小鳥遊さんを好きになってしまったの少し分かる気がしますよ。あんな綺麗な顔で、それにあんな風に優しくされたら、誰だってときめきます」


 ユカリちゃんがライバルになったら困るんだけどな!? 思わぬ発言をしたユカリちゃんをぎょっと見てしまったら、それはもうおかしそうに笑いだした。


「小鳥遊さんは性別とか関係なく、人を魅了する力があるのかもしれませんね。私はもう彼がいるからそういう対象で見ることはありませんが、きっと彼のことがなかったら、女性でも好きになってたと思います。皆も気づいていませんが、そうなのかもしれません」

「え、皆?」

「敬遠している皆ですよ。小鳥遊さんのことを知らない人はいないじゃありませんか。彼女がやっている迷惑な悪戯もあるとは思いますが、それだけでこんなに話題にのぼりませんよ、普通」


 ――そ、それは確かに。葉月の事、結局学園の皆が知っている。は! 一花ちゃんも前に王子に告白されていたとか言っていたし! 葉月のことを好きになる人が現れても、何にもおかしくない!


「ど、どうしよう……」

「花音ちゃん、告白は考えてないんですか?」

「まだ早いと思って。葉月、鈍いから」

「……確かに鈍感そうですね」


 鈍感だよ……キスもハグも全部今のところスルーされてるよ……これ以上は本当、告白しかないんだけど。


 しかも最近は、誰もが分かるくらいに私のこと避けてるから、実はかなり落ち込んでたりするんだよ。


 スキー旅行の時のキスがやっぱり嫌だったのかな、と思ってる。だけどこのままだと他の誰かに葉月のこと取られちゃう。そんなの嫌。


 1人青褪めてたら、ユカリちゃんがギュッと両手で手を握ってきた。


「大丈夫ですよ、花音ちゃん。私は花音ちゃんを応援します」

「……ユカリちゃん」

「小鳥遊さんもきっと、花音ちゃんのことを嫌いとかはないと思います。全然顔が違いますから」


 それは……一花ちゃんもレイラちゃんも舞も言ってたけど、ユカリちゃんもそう思ってたの?


「小鳥遊さんと何があったかまでは知りませんが、でも、喧嘩別れしたわけではないんでしょう?」

「それは……うん」

「それに、花音ちゃんと一緒にいる時の方が、小鳥遊さんも危ない悪戯とかしてなかったと思います」

「……うん? そ、そうかな?」

「皆のためにも、ファイトですよ、花音ちゃん」


 それは、あの……葉月の悪戯を止めさせたいのかな、ユカリちゃんは? 葉月の危ない悪戯は見過ごせないってことなのかな? 普段は一花ちゃんが止めているけど、完全に止められているわけでもないものね。


 普段の葉月がやっていた悪戯を思い返していたら、何故かユカリちゃんは苦く笑っていた。


「……私、小鳥遊さんは何かをしようとしているんじゃないかなって思ったんです」

「え?」

「普段の悪戯も、1つ1つはグレードが小さい――わけではないんですが、その1つ1つの規模が年々、大きくなっているような気がするんです」


 規模が?



「私も背中を押されてから、小鳥遊さんの普段の悪戯を見るようになって思ったんですが……まるで何かを実験しているように思えてきて」



 ……実験?

 ユカリちゃんからのその思わぬ言葉で、一瞬混乱してしまう。


 ユカリちゃんは葉月の何の悪戯でそう思ったんだろう? 何の実験……?


 首を傾げていたら、ユカリちゃんはギュッとまた握ってきた。


「小鳥遊さんが何かして巻き込まれるのは私も嫌ですが、でも、花音ちゃんの言うことを小鳥遊さんは聞くんじゃないかなって、レクリエーションで花音ちゃんを助けた小鳥遊さんを見て思いました」

「そんなことないよ。一花ちゃんだって止めるの大変なんだよ?」

「東雲さんは確かにいつも小鳥遊さんを止めるのに奔走していますが、でも花音ちゃんと同じ部屋にいる時は、小鳥遊さんは中等部より大人しかったですよ?」


 そう、なのかな? 私は中等部の葉月を見ていないから分からないし、一花ちゃんや先輩たちの言ってたことしか知らないからな。


「それに、花音ちゃんだって大事なお友達です。友達が好きな人と上手くいってほしいなって思いますよ」


 そう思ってくれるのは嬉しい。ユカリちゃんも私が女性を好きになることには何も思ってないみたい。本当、私の周りは理解がいい人たちばかりだな。それがとても嬉しくて心強いよ。


 ついユカリちゃんが優しく微笑んでくれたことにつられて、私も安心からか笑みが零れる。


「ありがとう、ユカリちゃん」

「お礼なんていいんですよ、花音ちゃん。私は友達の花音ちゃんと、私の背中を押してくれた小鳥遊さんが上手くいけばいいなって勝手に思ってるだけですから」

「そう言ってくれるだけで、なんか頑張れるよ」

「でも……小鳥遊さんは鈍感さんなんですよね? 告白してみてもいいのではないですか?」

「それは、どうかなぁ……葉月、恋愛とか全く興味なさそうだから。今のところ全く私のことなんて意識してくれてないし……」

「そうですか……じゃあ、今度のバレンタイン。頑張らないといけませんね」


 チョコを贈っただけで気づくようなら、キスとかハグで気づきそうだけどな。


 うーんうーんとどんなチョコが葉月に効くのか真剣に考えるユカリちゃんの姿に苦笑しつつも、それからはユカリちゃんと一緒に彼氏がどんな人だとか、どういう風に告白したとか聞きながら、チョコの試作を作っていった。


 彼の事を嬉しそうに話すユカリちゃんは、とても幸せそうに見える。


 いいなって少し羨ましかったりして。ユカリちゃんは勇気を出して告白して、今の彼との幸せがあるんだよね。


 葉月への告白、そろそろ考えてもいいかもしれない。


 このままだとずっと葉月は気づかない。それに最近のあの逃げっぷり、もう嫌われたんじゃないかって不安になる。


 とりあえず試しに、葉月の気に入るチョコを贈ってみよう。今、葉月は味覚がないから、それでも食べたいなって思ってくれるチョコ。


 だから、あのハーブティーのチョコを作ってみることにした。隣のユカリちゃんは美味しいって言ったくれたけど、喜んでくれるかな。バレンタイン当日前に、1回一花ちゃんに試食してもらおうかな。




 後日、昼休みにいつもの中庭にいる葉月に突撃してみた。案の定すぐ逃げようとするから内心焦っちゃったよ。しかも最初全っ然目を合わせてくれなかったし。


 けど無理やりチョコを食べさせてみた。味はしないけど、食べたいって思ってくれたみたい。「もう1個」って前みたいに口をあ~んと開けてくれたから、嬉しくなっちゃった。


 このまま告白してみようかって思ったところで、席を外していた一花ちゃんが戻ってきちゃったから、告白は断念したよ。


 でも、一花ちゃんには分かってたんだろうね。すごく同情的な声で「焦るな」と言われてしまいました。


 隣では全く気持ちに気付く気配のない葉月が水をグビグビと飲んでて、その姿を見て、これ、全く何も考えてないなと思ってしまった。


 最近の避けられっぷりがあるから、もっと嫌われてるかなと思ってたけど、その気配はないから良かったよ。


 良かったけど、ハア……どうしても溜め息が出てしまう。葉月、少しは何で私が諦めないで葉月に会いに来てるか、考えてほしいんだけどなぁ。


 そして何故かその日の夜、舞と一緒に寮に帰ったら舞に抱きついてくる葉月がいた。


 私に気づいて慌てるようにすぐ部屋に戻っていったけど、何で舞に抱きついたのかな? 舞はよくて私はダメって何? というか葉月、舞が好きってこと?


「かかか花音!? ちょちょちょ~っと落ち着いて、ね!? 葉月っちには何も悪気はないわけで!! 今のだって絶対葉月っちの気まぐれなわけで!!」

「私は落ち着いてるよ、舞」


 ふふって思わず笑ったら、目の前の舞は「ひいっ!! 葉月っちのバカぁ!!」と悲鳴をあげていた。


 決めた。

 もう決めた。


 今度のバレンタインに1回告白する。


 絶対葉月は1回じゃ気付かない。

 だけどちゃんと告白しよう。

 もう言葉にして葉月に伝える。


 一花ちゃん、焦るなって言ったけど、私もう限界。

 ああやって誰かに抱きつくのも嫌。

 出来れば私に抱きついてほしい。


 やけになっている感はあるけど、こうなったら意地でも葉月に気づいてもらう。




 私が好きなのは葉月だよって。



お読み下さり、ありがとうございます。

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