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166話 鈍感?

 


 今日はお休み。

 だから私はゴロゴロしてる。暇だ~。


 今はいっちゃんと舞は別行動。すぐ帰ってくるけども。花音はお勉強中。


 そうだ、お外に行こう! と思ってガバッと起き上がったら、花音に止められた。「コオロギさんを追いかけるのはやめようね」って怖い笑顔で言われたよ。寮長といっちゃんがチクってた。ちぇっと思って私がまたゴロゴロし始めると、花音が苦笑してまた勉強をしだした。


 そうだ、舞の秘密を探ろう! と思ってガバッと起き上がったら、花音に止められた。「舞と一花ちゃんの部屋のカギは私が持ってるからね」って怖い笑顔で言われたよ。いっちゃんに先を越されてた。ちぇっと思って私がまたゴロゴロし始めると、花音がまた勉強に戻った。



 あれ? 何か花音に止められてない? おっかしいな~。

 少し疑問に思っていたら、ふうと息をついた花音がこっちを見下ろした。


「葉月、おいで。膝枕してあげるから」


 え? なんで今?

 ま、いいか。暇だし。


 そう思って、匍匐前進して花音の太ももに頭を乗せる。安定の柔らかさですね。花音が私の頭を撫でて、また勉強に戻っていた。器用ですね。


 カチャッとドアが開いて、いっちゃんと舞が戻ってきた。


「……お前、何花音の邪魔してるんだ?」

「葉月っちは甘えん坊だね~」


 何を勘違いしているのかな、2人とも? これは花音がおびき寄せたんだよ? 私は引き寄せられたんだよ?

 クスクスと花音が上で笑っていた。


「違うの、2人とも。ここなら大人しくなるかなと思って、私が葉月を膝に乗せたんだよ」


 なんと!? 花音には打算があったんだね!? 見事にハマっちゃったんだね!? 何か悔しいです!


 と思って、私は立ってるいっちゃんの足にタックルを仕掛けようとして、背中から踏んづけられた。


「何をやっとるんだ、お前は」

「いっちゃん! 暇!」

「葉月っち、いい加減勉強しないとまずいよ? この前も最下位でしょ?」


 勉強? はて? なんでかな? 

 舞がものすごく呆れた様子で、しゃがんで見てきた。


「葉月っち、そのなんでって顔の方が何でなんだけど?」

「舞~? 何かあったっけ?」

「いや、今度中間でしょ!?」

「そなの~?」

「はぁ……葉月っち、花音は特待生で勉強頑張ってるのに、恥ずかしいと思わないの?」

「それはそれ。これはこれ」

「便利な言葉だよね!?」


 花音が頑張ってるのと私が勉強するのは別のことでしょ、舞?


 舞をもっとからかおうと考えていたら、花音が立ち上がって、いっちゃんから荷物を受け取っていた。受け取っていたのは食材ですね。


「ありがとう、一花ちゃんに舞。皆で勉強する前に先にお昼にしようか」


 ご飯! 待ってました!

 いっちゃんの足をどかして、すぐ正座して花音を見上げると、花音が頭を撫でてきた。


「ふふ。葉月は何が食べたい?」

「チャーハンがいい!!」

「わかった。ちょっと待っててね」


 ふっふ~! 今日はチャーハンの気分なんだよね~! いっちゃんと舞が心底呆れた顔で見てくるけど、気にしない。


「見て、一花。ここにワンコがいるよ……」

「そうだな……幻の尻尾も見えてきたぞ……唯一これが、高等部に上がって変わったところだな」


 えっ? いっちゃんも舞も何言ってるの? 私、一応人間なんだけど?


 花音が私の分を大盛にしてくれたよ。んっふ~!! んまし~~!! パクパク食べて、ごちそうさまでした~!! 花音がすっごいニコニコしながら見てきたけど、今日のご飯も最高です!!


 ふい~ってまたゴロンと寝転がる。

 花音といっちゃんが洗い物でキッチンにいる時だった。

 

 頬杖をついた舞が、寝ている私を見下ろして意味が分からないことを言いだしたよ。



「葉月っちってさ~……『鈍感』だよね~」



 どんかん……?

 鈍感? 鈍感!?


 確かに痛みには鈍いけども。というか感じさえしないけども。


 あ、そういう意味では鈍感ですね!


「そだね~」


 肯定したら舞の方が驚いてたよ。自分が言ったんじゃん。あれ、でも舞に私が痛覚ないこと言った事あった?


「き、気づいてたの……葉月っち。……自分が鈍感だって?」

「うん? そだね~。鈍感だね~」

「そっか……そうだったんだね。自覚がある分まだいい……のかな?」


 はて? どういうことだろうか。

 コホンと舞が居住まいを正して、私に向き合って見下ろしてくる。なんで、真剣な表情になってるのかな?


「あのね、葉月っち。葉月っちが自覚してるならいいんだけどね。あんまり鈍感だと、傷つく人もいるんだよ?」


 ……うん? まぁ確かに。この前も傷開く度に看護師さんたちが嘆いてたね。


「だからね、ちょっとでいいから、そういう人のことを考えた方がいいと思うんだよ」

「うん~?」

「気づけとは言わないけどさ、ちょっとは気づいてあげなよ」


 どっち? それどっち?

 首を傾げてると、舞がガックリ肩を落としていた。


「はぁ……不憫だなぁ」


 それ誰の事言ってるの、舞? それに痛覚ないから気づけないんだけども?


 その後、何故か舞が苦笑しながら頭をナデナデしてきたけども。そして帰ってきた花音がそれを見てすごい怖い笑顔になって、舞がものすごく慌ててたけども。


 なんだかよく分からなかったから、いっちゃんで遊んでたら、結局ロープで縛られてしまったよ。


 舞は何が言いたかったんだろうね? ちょっとは気づけ、ねえ。




 勉強が終わって、いっちゃんたちが部屋に戻ってからの夕飯後のまったりタイム。

 横では花音が引っついてきてますよ。慣れって怖いですね。肩に頭乗せて、スリスリしてくる花音は可愛いんだけども。


 そんな花音は好きにさせておいて、片手で携帯ゲームやりながら舞の言ってたことを考えてみる。

 鈍感……鈍感……。


「ねえ、花音~?」

「うん?」

「鈍感だとやっぱり傷つくのかな~?」

「えっ!?」


 肩にいる花音を見下ろしてみると、顔を赤くさせながらこっちを見上げてきてた。なんで顔赤いの? まぁいいか。


「舞にね~。ちょっとは気づけって言われたんだけど~。でも気づけないんだよね~」

「っ……そ、そうなんだ」


 そうなんだよね~。無理なんだよ。痛みが感じないからそれはちょっと無理なんだよね~。例えば知らないうちに骨折とかしてても、気づかないんだよね~。


 などと考えてると、腕をギュッとされて、また花音が肩に顔を埋めてきた。「舞のバカ……」って小声で言ってから、ハァと花音の珍しい溜め息が聞こえてくる。


「ねぇ、葉月……」

「ん~?」

「その……本当に気づかない?」


 うん? そうだよ。

 あれ、そういえば花音に私が痛覚ないこと言った? あ~、もしかしていっちゃんが言ったかもな~。


「うん、無理~」

「む、無理なんだ……」

「そだね~」


 無理なものは無理なんだよ、うん。これは仕方ない事なんだよ。


 うんうんと頷いてると、なんだか隣がヒンヤリしてきた。


 ん、あれ? 何で空気がこんな冷たいのかな? お、おろ……? なんだか体が傾いていきますけども?


 気づくと、花音に押し倒されてました。あれ、なんで? しかも怖いよ、その笑顔? 近くで見るとなお怖いよ?


「ねぇ葉月? 本当に、本当に気づかないの?」


 え、へ……す、すいません。無理なものは無理なんですけども。


 目をパチパチさせて花音を見ると、どんどん近づいてきますね。なんで!? というか、体! 胸! なんで、そんな押し付けてくるの!? 柔らか――じゃなくて!


「あ、あの……花音? これは無理なものなんだよ……仕方ないことでね?」

「そっか……じゃあ、どうすればいいかな?」


 ど、どうすればとな!? 花音が片手を私の頬に触れてくる。ひいっ! な、なんでそんな捕食者みたいな目になってるの!? こんな花音見たことありませんよ!? はっ! 花音! ちゃんと打開策はありますよ!


「お……教えてくれれば、さすがに私も気づくよ……?」


 怖い花音さんの前だから、少しどもりながらの返答になりましたけども。あっ、花音の怖い感じが消えたよ。目をパチパチさせて私を見てくるよ。あっ困った感じになってる。


「はぁぁぁぁ……それって言わなきゃ気づかないってことだね……」


 ってえ~!? 思いっきり溜め息つかれたよ!? 何故に!? でも事実ですし!! 教えてくれたら、さすがにそこ怪我してるって気付くよ!?


「それに……」


 ん? それに? なんでジッと見てくるの?

 ジッとしばらく見られてから、花音が苦笑して頭を撫でてきて、ギュッと頭を抱えられて抱きしめられたよ。何故に?



「まだ早いかなぁ……」



 ボソッと呟いた花音の声が、何か寂しそうだった。



 なんでそんな寂しそうなのか全然分からなくて、花音がしばらく抱きしめてから「お風呂準備してくるね」って解放してくれた。

 ただ茫然と見送るしかできなかったよ。ま、いっか。





 だけど、確かに私は鈍くなってたんだろうね。



 今の日常に、慣れすぎてしまったのかもしれない。



 その日も、花音は寝る前にハグしてくれた。



「おやすみ、葉月」

「ん~……おやすみ~花音」



 いつものようにハグされて、眠気が襲ってきて瞼を閉じる。


 花音が布団を掛けてくれて、眠気に身を委ねる。



「え……?」



 花音が何かに驚いてる声に気づかなかった。



「……はづ……き?」




 花音が私の手を握ってることに気づかなかった。






 いつもつけてるリストバンドが、ズレてることに、気づかなかった。




























 その日から花音の様子が変わってしまった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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