表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/368

112話 自覚した —花音Side※

 


 ただのルームメイトだったのに。


 優しいルームメイト。

 少し変わったルームメイト。

 私を助けてくれるルームメイト。


 そうだと思っていたのに。


 目の前の葉月を見る。

 おいしそうに私のご飯を食べている。

 視線に気づいたのか、ニコッと笑ってきた。


「これおいし~!」


 ガンっと思わずテーブルに突っ伏してしまった。そ、その笑顔……反則すぎる。可愛い。それに口の横にご飯粒つけてる――余計可愛い。


「か、花音? どしたの~? 大丈夫?」

「……ごめん、平気……大丈夫だよ」


 落ち着かない。心臓大変。全然大丈夫じゃない。

 早く顔上げないと葉月が心配する。でも今顔上げたら絶対顔真っ赤。余計心配させてしまう。


 ハアと何度も深呼吸して顔を上げると、やっぱり心配そうに見ていた。ご、ごめんね、葉月。驚かせたよね。


「本当に平気だよ、葉月」

「そう? でもまた顔赤いよ? 風邪じゃないの?」

「……大丈夫だよ、風邪とは違うから」


 ええ、違います。あなたにただドキドキしているだけですから。


 それでも心配そうに見てくる。

 ああ、私の顔、早く収まって。


 この数日、これの繰り返し。

 葉月のことが好きだと気づいてから、もう大変。


 だって、前より綺麗に見えるんだもの。

 前より可愛く見えるんだもの。

 確実に前より葉月のこと考えているんだもの。


 しかも無邪気に笑ってくるし。

 今は夏休みだから、四六時中葉月が一緒だし。

 もう心臓やばい。ずっとうるさい。


 かといって離れるのも、無理。

 図書館に避難したけど、でも無理。すぐ会いたくなって部屋に逆戻り。あまりに早い帰りで、葉月と一花ちゃんがきょとんとしていた。デザート作って誤魔化したけど、でもやっぱり葉月のそばにいると嬉しいんだもの。


 食事が終わって、ゆっくりお風呂に浸かる。


 まさか女の子好きになるとは思わなかった。

 しかも初恋。


 全然違う。

 友達を思うのと全然違う。

 自覚したら違いがハッキリ分かる。

 戸惑ってしまう。


「どう……しよう」


 自然と言葉が零れる。その言葉がお湯に落ちていった気がした。


 女の子好きになるとか思ってなかった。

 全く思っていなかった。


 私、女の子好きになるタイプだったの?

 え、女の子に欲情するとか?

 あれ、でも舞たちにそんなこと思わないけど。


 葉月が――特別?


 特別……は特別。好きだってハッキリ分かるもの。


 あの無邪気な笑顔も、

 それにあの時の優しい瞳も、

 葉月の香りも、

 温もりも、

 声も、


 全てが胸をギュッと締め付けてくる。


 ドキドキが止まらない。

 嬉しくて、どこかくすぐったい。


 あったかくなる。


 中学の男の子たちもこんな気持ちだったのかな?

 私に告白してくれた男の子たち。そんな多くはないけど。2、3人だけど。


「告白……」


 葉月に? 私が?


 もし告白したら、葉月どうするんだろう?

 きっと困るよね。


 ルームメイトにそんな気持ち抱かれてるなんて知ったら、逆に気持ち悪いとか思われたりしちゃう? 嫌われる?


 ……想像したら、ショック受けちゃった。もしそんな風に嫌われたら、立ち直れる気がしない。


 じゃあ、気づかれないようにする? そもそも葉月、そういうのに鈍感そう。それに私のこと、絶対ただのルームメイトにしか思ってないと思う。……自覚する前の私がそうだし。


 そう、だよね。もし葉月が私の事好きだっていきなり言って来たら、私だって戸惑うよ。恋愛対象で見てたの? って驚くよ。葉月は優しいから、告白してもやんわり断ってきそうだけど。


「花音~? 大丈夫~?」


 コンコンっとバスルームのドアがノックされて、ビクッて体が震えた。え、ええ? 葉月、なんで?


「だ、大丈夫だよ。どうしたの?」

「だって~、もう1時間以上も入ってるから~」


 ――考えてたらそんなに時間経ってた? た、確かに少し体熱いかも。のぼせたかな?


「のぼせてるんじゃないかと思って~」

「だだ大丈夫。今出るから」

「そう?」

「うん。だから、葉月戻ってて? あ、そうだ。冷蔵庫にプリンあるからね。それ食べていいよ」

「おお! 食べる~!」


 パタパタと足音が遠ざかってホッとする。し、心臓に悪い。でも確かに入りすぎた。上がって水分補給しなきゃ。


 ……好きな人がルームメイトって、日常生活大変。


 でもそばにいれるし、なんならこうやって心配もしてくれるの嬉しいけど。


 バスルームから出て、バスタオルを体に巻いた。ふうと息をついて洗面台の鏡を見る。……入りすぎた。血色良くなりすぎて肩真っ赤。


「ねえねえ花音~! これどっちも食べたい~! 食べていい~?」


 ガラッと遠慮なしにプリンを持った葉月が顔を出す。

 ははは葉月? まだ着替えてないから!!


 鏡越しに目が合うと、キラキラした目をしている。これ、どっちも食べたいって目。


「……食べていいよ」

「んっふ~! やった~!」


 全く全然そんな気がない様子で、気分良さそうに鼻歌交じりで去っていく葉月。

 気が抜けて、思わずそこに座り込んでしまう。


 全く、そう全く意識してない。

 当たり前だけど、当たり前だけど!!


 こっちは恥ずかしくて死にそうなのに! 半裸見られて、好きな人に半裸見られて心臓バクバクなのに!


 葉月が悪いんじゃないんだけど……たまに今までもこういうのあったし。


 これ、告白絶対無理。

 今の葉月に告白絶対無理。


 密かに固く決意した。


 もう少し、もう少しせめて葉月がそういうのに興味持ってから。というか、少しでも私にそういう興味を持ってくれてほしい。

 無理かな……そもそも葉月自身が恋愛に興味なさそう。今までそういうの聞いたことないし、舞が恋人作りたいって言ってるのも、興味なさそうに流しているものね。……一花ちゃんもだけど。


 ……告白は無理そう。

 でも少しは意識してもらいたい。


 そもそもまず私が葉月を好きになったのがイレギュラーというか……そりゃ葉月が私を好きになってくれたら嬉しいけど……。


 葉月が私を好きになったら……?

 少し想像しただけで、ああ、もう心臓おかしくなる。


 今はまだ自分の気持ちだけで精一杯。振り回されて、おかしくなりそう。


 ハアとため息ついて、着替えて部屋に戻ると、それはもう幸せそうに2個目のプリンを食べている葉月がいて、しゃがみこんで悶えてしまった。


 可愛いすぎる。ギュって抱きしめたい。


 そんな私をまた心配してきたから、また嬉しくなってしまった。



 □ □ □


 トントントンと玉ねぎを切っていく。


 これは一花ちゃんのジュースに葉月が生卵を入れた時のお仕置き用。一花ちゃんが気づかずに飲んでしまって、勢いよく噴き出してた。さすがに可哀そうだからね。しかもブドウのジュースだから味の相性も悪いかな。


「あれ、葉月?」


 部屋に行くと葉月の姿が見当たらない。

 あ、これ逃げた。でも行き先は決まっている。


 というわけで、一花ちゃんと舞の部屋へ。コンコンとノックして部屋の中の一花ちゃんに声を掛ける。しばらくしてガチャッと鍵が開くと同時に、一花ちゃんがドアの向こうから出てきてくれた。


「一花ちゃん、葉月いるかな?」

「いるぞ。ちょっと待ってろ」


 やっぱりここかぁ。玉ねぎから逃げる時は大体一花ちゃんのところなんだよね。あ、一花ちゃんが戻ってきた。何でそんなに怒っているの?


「あんの野郎。窓から逃げやがった!」

「え、窓から?」

「多分この前の道具使ったんだろ! また作ったんだ! 花音、悪いが部屋に入るぞ!」


 いつも入ってるよね? というツッコミは入れないでおこう。


 一花ちゃんはいつものように葉月のクローゼットを開けて、ゴソゴソ探し出す。さすがに見慣れた光景。一花ちゃんと葉月ってプライバシーないよね。


 それにしてもこの前の道具? そういえば一花ちゃんと東海林先輩に没収されていなかった? あれも危ないよね。壁を蜘蛛みたいに這っていくんだもの。


「見つけた! やっぱり予備を持っていたか」

「どうするの?」

「あたしは壁伝いに追いかける。花音は部屋の方から頼む。どうせ寮長の部屋だろ。あの窓からだったら行きやすいからな」


 逃げられたことがショックだったんだね、一花ちゃん。随分悪い顔になってるよ。


 というわけで、一花ちゃんにも頼まれたので、今度は東海林先輩の部屋へ。4階だから、壁伝いに行くのは危ないんだよ、葉月。これは戻ったら玉ねぎ追加しようかな。


 東海林先輩の部屋のドアをコンコンとノックする。さっきの一花ちゃんと同じように出てきてくれた。あ、これは疲れてる。きっといきなり葉月が窓から出てきて驚いたんですね。


 中に入れてもらうと、一花ちゃんが葉月を押さえつけていた。


「いっちゃん! 私はとても重要な用事があるんだよ! どいて!」

「どんな用事だ、言ってみろ」

「花音から逃げるという用事だよ! あの玉ねぎの量見たら、いっちゃんだってきっと逃げるよ!」

「だそうだが、どうする?」


 うんうん、そんなの決まっているよ。そんな顔を青褪めさせないの、葉月。


「ちゃんと食べようね、葉月?」


 にっこり笑って葉月を見下ろす。危ない事はダメって反省しないとね。一花ちゃんにも謝ろうね。


「か………………かかかか花音……?」

「一花ちゃん、部屋に連れてきてもらっていいかな?」

「ああ。ほら、いくぞ。観念して食べろ」

「いいいいいっちゃん……わかった……今度からはカエル取ってきても食べないから」

「そうかそうか。それは良かったな。さっさと行くぞ」


 さーて、葉月を連れてきてもらうのは一花ちゃんに任せて、追加の玉ねぎ切らなきゃね。


 部屋に戻って、キッチンでトントントンと玉ねぎを切る。部屋の至る所についている鍵は、今一花ちゃんが閉めているから、葉月はもう逃げれないと思うよ。鍵を一花ちゃんに貰って、彼女は自分の部屋に戻っていった。


 葉月の目の前には顔より大きい量の生玉ねぎのサラダ。ニッコニコと笑いながら、頬杖ついて葉月を見つめる。


「……かか花音……これ、何……?」

「いっぱい食べてほしくて、頑張ったよ?」


 サアっと顔が青褪めていく葉月。オロオロして、少し目尻に涙を溜めている。


 ……か、可愛い。でもだめだよ、うん。ちゃんと反省しないとね。


 チラチラっと私の方を見てくる。

 か……可愛い……。


 私、これ持つかな。

 葉月の可愛さに心臓が大変なことになってるんだけど。


「……花音?」

「ん?」

「花音は恋してるの?」

「えっ!?」


 ばばばバレたの!? 気づいたの、葉月!? ささささすがにこれは……早すぎる!

 自然と顔が熱くなっていく。


「上手くいくといいね~花音」

「…………えっ?」


 ふふって何故か嬉しそうに笑ってるけど、あ、あれ? 上手くいくといい? これ、気づいてない? 自分だって気づいてないの?


「花音~、さすがにこれ無理~。半分で勘弁して~?」


 甘えたような声で葉月がおねだりしてくる。

 あ、これ気づいてない。

 私が好きなの葉月だって気づいてない。


 よかったような。

 淋しいような。


 思わず苦く笑ってしまう。


「……仕方ないなぁ」


 じゃあ半分で許してあげる。


 誰かと勘違いしているみたいだけど、少しでも葉月が興味持ってくれるといいなと期待してしまった。


 あのね、葉月。


 私が好きなのは、

 

 

 あなただよ。



 ポロリポロリと涙を零しながら玉ねぎを食べる葉月を見て、心の中でそう囁く。



 いつか、


 いつかちゃんと伝えられたらいいな。


 ちゃんと、知ってほしいな。



 葉月が私の特別だよって、



 知ってほしいよ。


お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ