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僕はモテモテです。ジミ子限定ですが。  作者: さとみ・はやお
第一章
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第41話 雲隠れの公子、逆襲する

日曜日の午後、僕と友人仲真(なかま)友樹ともき貴音(たかね)華子(はなこ)の路上ライブに偶然遭遇、こっそり観客として彼女を見ていたところ、図らずもそれを彼女に勘づかれてしまい、ほうほうのていでその場を逃げ出した。


優等生の貴音が陰でそんなアイドル活動をしていたことに僕は驚くとともに、彼女が男女交際を誰ともしようとしない理由もこれで見えてきたように思った。


公園のベンチでひと息入れること、10分。ふと腕時計を見ると、家を出てから3時間あまり経ったことに気づいた。


あの後、家ではどういうことになっているのか気になった僕は、スマホを取り出して連絡先の「自宅」を選択した。


「悪りぃ、仲真。ちょっと家に電話するわ」


トゥルルル…。


「はい、相賀(あいが)です」


さっそく、わが妹葉月(はづき)が電話に出た。


「あ、僕だけど。葉月、その後、どんな感じだい?」


「どんな感じもこんな感じもないよ、お兄ちゃん。あれからずっと、大変だったんだから。


昨日電話をかけて来た、国貞(くにさだ)さんってひと、それに屋敷(やしき)さん、清河(きよかわ)さんって女のひとたちが、1時間おきに電話してきちゃあ『保志雄(ほしお)くんはまだ帰ってないの?』とか『ホッシーはいつ帰って来るの、どこ行ってるの?』とか、うるさいったらないのよ。


『わたしは兄から、行く先も戻り時間もろくに聞いていませんけど』って返事したら、皆さん一様に不満そうな声を上げて『じゃあまた、1時間後にかけますね』って言うの。


おかげでわたしは、ちょっとお出かけすることも出来ないわ。わたしは電話交換手じゃないっつーの。


そっちには電話、まったくかかってこないんだよね?」


「あぁ、危機回避策として、彼女たちには携帯番号を一切教えてないからな」


「そのしわ寄せが全部こちらに来てるわけじゃん!


この埋め合わせ、どうつけてくれるのさ、お兄ちゃん」


「分かった分かった。申し訳ない。


じゃあ今度、食事に行く時にショッピングのほうも面倒見てやるから、それで勘弁してくれないか?」


「あ、そう?


お買い物の予算にもよるわねぇ、それ。


(だい)1枚は、用意して欲しいんだけど?」


相変わらず計算高い妹である。その性格、誰に似た?


僕の貴重な貯金の残高が、これでまた大幅に減るわけだが、背に腹は変えられない。


「分かった。その条件でいいよ」


「やった! 交渉成立だね」


「その代わり、もう1件、頼まれてくれないか?」


「なぁに、もう1件って?」


「もう1件と言うか、3回分だけど、次にその国貞さんたちから電話があった時は、それぞれにこう伝えて欲しいんだ。


『話したいことがあるので、4時に高校のグラウンドまで来て欲しい』と兄が言ってましたって」


「そう言えば、いいのね。了解(ラジャア)


これでようやく、電話番から解放されるわ。じゃあ、埋め合わせ、楽しみにしてるから」


電話はそこで切れた。やれやれ、またも大出費かよ。僕はため息をひとつ()いた。


隣りの仲真が声をかけてきた。


「ホッシー、国貞さんたちが相変わらずうるさいみたいだね。大変だねぇ」


「あぁ。でも、覚悟を決めることにしたよ。逃げてばかりいても、ちっとも解決策にはならないことに気づいたんだ。むしろ、彼女たちを刺激し、挑発するばかりだ。


彼女たち全員に直接会って、話し合いで問題を解決することにした。


ずっとこんなイタチごっこを続けていたら、こっちも疲弊してしまう。雲隠れはこれでおしまいにする」


そう言って、僕は仲真に笑顔を見せた。


「うん、僕もそう思うよ。彼女たちと、きちんと協定を結び直したほうがいい」


「ありがとう。きょうは付き合ってくれて、感謝するよ、仲真」


「どういたしまして」


僕と仲真は公園から新宿駅までしばらく歩き、そこで別れを告げ合ったのだった。


       ⌘ ⌘ ⌘


僕が国貞たち3人との待ち合わせ場所をみなが通う高校にしたのは、むろん後々のことを(おもんぱか)ってのことである。


自宅の近くでは、また家族に迷惑をかけかねない。街中というのも(昨日のことも考え合わせるなら)いろいろ偶発的な事故につながりそうなので、パス。


学校の中でなら、彼女たちも自ずとその行動に抑制がかかるだろうと踏んだのだ。


午後4時。僕は高校のグラウンドの隅、きょうは部活もお休みらしいハンドボールのコートにひとり(たたず)んでいた。


まるでマカロニウェスタンの1シーンのように、おりからの強風で、砂ぼこりが舞い上がっている。


遠くから、ひとりの人影。そしてまたひとりの人影が現れた。


国貞淑子(としこ)と、屋敷美禰子(みねこ)である。


「あら、ごきげんよう、屋敷さん。あなたもここに何かご用かしら」


「そういうクニクニこそ、わたしがホッシーと会うところに何かご用?」


おたがいの姿を認めるや、さっそく舌戦ぜっせんが始まっている。


「いや、きみたち。ここには、きみたちふたりとも呼んだんだから、いがみ合わないように。


それに…」


僕がふたりを制したその時、もうひとりの人影が姿を現わした。


清河澄美(すみ)である。


これには、ほかのふたりも意表をつかれたようで、まずは国貞が口を開いた。


「清河さん、どうしてあなたまでここに…」


そのセリフを言い終わらないうちに清河がこう返した。


みょうに語尾を上げた、イントネーションで。


「わたしも呼ばれたのよ。ねぇ、保志雄くぅん?」


いきなり名前呼びされて一瞬ドキッとしながらも、僕は答えた。


「あぁ、その通りだ。きみたち3人とも呼ぶよう、妹に伝えた」


それを聞いて屋敷は、思わずこうもらした。


「やっぱり…。昨日から、ずっと怪しいと思ってたんだ。


キヨスミ、絶対、ホッシーのこと狙っているって。


あんた、帰り道なんか仕掛けたでしょ、ホッシーに!」


清河を詰問する屋敷を、僕は「まぁ、待ってくれ」と制した。


「まず、きょう、これまでのことについて説明しておくよ。


僕は、昼前からずっと仲真と一緒にいた。それは間違いない。


なんなら、仲真に直接確認してくれてもいい。


彼は僕にとって、数少ない大切な友だちのひとりだ。


きみたちとはまた別の意味で、大切なひとだ。


彼にしか出来ない、相談ごとも多い。


だから、彼と休日にも会うことを認めて欲しい」


そう言うと、まず国貞が答えた。


「分かったわ。さっきまでちょっと疑っていたけど、そういうことだったのなら、わたしは構わないわ。


保志雄の行動の自由を、(さまた)げるつもりはないもの」


屋敷もこう言った。


「わたしも、ホッシーを信じる。


なんの断りもなしに、ほかの女と会っていたんだったら許さないけど、トモトモは特別な例外だと認めてあげる」


最後に、清河もこう言った。


「わたしも、国貞さん、あるいは屋敷さんと会っていたんじゃないと知って安心したわ。


仲真くんとの仲が良すぎてちょっと()けるけどね。


でも、BL的な関係ではなさそうだから、許すわ」


おいおい、そういう目線で僕と仲真のことを妄想するのはやめてくれ、清河。


「というか、大体なんであんたがこの問題に口出して来るのよ、キヨスミ。


あんたはわたしたちの行動を監視するために来ているだけって、言ったじゃない!」


強い口調で非難し始めた屋敷に対して、清河は涼しい顔でこう言った。


「それはだいぶん以前の話よ。今のわたしは、保志雄くんの彼女候補(﹅﹅﹅﹅)のひとりとして、この話し合いに参加しているんだから」


あ〜ぁ、ストレートに言っちゃったよ、このひと。もはや隠す気もないんだ。


「やっぱりホッシー狙いってことじゃん、キヨスミ!


よくも抜け抜けと…」


ジリジリと苛立つ屋敷。我関せずクールな顔の清河。そして不安げな表情の国貞。


一座は一触即発の状況を呈して来たが、僕は睨み合う屋敷と清河を再び「まぁまぁ」となだめた。


「話し合いの本題はこれからだ、みんな。


いま、図らずも清河さんが自分から言っちまったけど、彼女も僕と付き合いたいと名乗りを上げてくれたんだ。


よって、これからは彼女も含めて、僕たちの付き合い方の決まりごとを決めていきたい。つまり、協定の仕切り直しだ」


「「え〜っ」」


国貞、屋敷のふたりからはいかにも不満げな反応が上がった。一方、清河はにんまりとしている。


「仕方ないだろ。状況が変われば、協定も変えていかざるを得ない。世の常ってやつだ。


もし、不満だというのなら、この座を降りていただいても構わないが、どうだろう?


その場合は、残った者だけで取り決めをするので、当然だけど欠席したひとは僕と付き合えなくなることになるけど」


そう言って、僕は不満分子ふたりの方をうかがった。いかにも戸惑っているようだ。


「分かったわ。もうひとり競争相手が増えるというのはまったく嬉しくないけど、保志雄と付き合えなくなるよりはマシだと思う。その話、受けることにするわ」


と、国貞。


「わ、わたしだって降りないわよ。


クニクニやキヨスミに、ホッシーを譲るつもりはさらさらないんだからねっ」


と、屋敷。


「分かった。じゃあ、4人で話し合いを続けよう」


僕は、女子3人の顔を見回して、にっこりと微笑んだ。


「では、最初の提案だ。


『相賀保志雄の土日休日は神聖不可侵にして、犯すべからず』


つまり、土日休日は僕自身が自由に使えるものであり、きみたち女子と会うためには使わないものとしたい」


この提案を聞くや、国貞は眼鏡の奥の目を最大限に丸くした。


屋敷はさすがに表情は分からなかったが、呆然と口を開けたまま、固まってしまった。


だがもうひとり、清河はいたって冷静で、軽い笑みさえ浮かべていたのだった。(続く)

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