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僕はモテモテです。ジミ子限定ですが。  作者: さとみ・はやお
第一章
39/42

第39話 マドンナは座長さま

僕と仲真なかま友樹ともきのふたりは、新宿駅西口側にある大きな公園にまもなくたどり着いた。


日曜日のお昼どきとあって、園内は家族連れやカップルなどでたいそう賑わっていた。


僕たちは噴水のある広場のベンチに座って、ひと息入れることにした。仲真はさっそく、買ってきたサンドイッチやおにぎりなどをパクついている。


僕は暖かな日差しのもと、のんびりくつろいでいる周囲の人たちを見回しながら、こう言った。


「のどかだねぇ。ここのところ、こういう穏やかな日常から離れていたから、いやでも平和のありがたみを感じるよ」


「ホッシー的には、そうなんだろうな。この1週間は、まさに怒涛どとうの展開だったからな。


でもね、僕が思うには、これはまだまだ序章に過ぎないって気がしてならないよ。


来週はさらに、予想の斜め上をいくスゴい展開が待ち構えているんじゃないのかな」


「そんなぁ、おどろかすなよぅ。マジ勘弁してくれぇ」


「ごめんごめん、ほんの冗談だよ。


でも、そのくらいの覚悟をしておいた方が精神衛生上、いいってことさ」


「かもな」


僕たちは、声を立てて無邪気に笑い合った。


そのとき、僕たちから少し離れた場所から、にわかに大きな音が湧き起こってきた。


あきらかに生音でなく、アンプを通した女の子たちのボーカルと伴奏音の響き。


路上ライブが、広場の一角で始まったようだった。


その方向を見ると、いつのまにか大きな人だかりが出来ていた。その数、100人はくだらないだろう。


僕は仲真に尋ねた。


「あれが、いわゆるライブアイドルってやつ?」


「たぶん、そうだと思うよ。


この広場ではときどき、大手事務所の所属じゃない無名アイドルグループが、定期的にパフォーマンスをやってるって聞いたことがあるよ。


つまりPR活動さ。ここで不特定多数のお客さんにその存在を知ってもらい、本来のホームグラウンドであるライブハウスに来てもらうきっかけにしているんだろう」


「さすが仲真。そっち方面には詳しいな」


「いやいや、特にドルオタってわけじゃないから、僕」


ドルオタ、その言葉は僕も聞いたことがある。アイドルオタクの単なる略語、というよりは特にコアな趣味を持つ人々のことを指していうらしい。


仲真の食事も済んだようなので、僕は彼に提案してみた。


「ちょっと社会勉強ってことで、あちらの様子、見に行かないか」


「あぁ、いいよ」


僕たちはベンチから立ち上がって移動、大きな人垣の後ろに並ぶことにしたのだった。


正直、観客が多すぎて、誰がいるのかさえよくわからない。僕は思い切って、右隣りでアイドルたちの歌に合わせて身体を揺らしている、チェックシャツ姿で髪長めの男性(推定20代半ば)にいてみた。


「すみません。いま、なんていうグループが出ているんですか?」


彼は一瞬、たじろいたような表情をしたものの、すぐに落ち着いた顔つきに戻って、こう返事してくれた。


新宿少女歌劇団しんじゅくしょうじょかげきだんっていうんですよ。通称、ジュクゲキ。


東京でいま一番注目されている、レビューアイドルなんですよ」


「それはどうも」


僕は彼に軽くお礼を言ってから、隣りにいる仲真に尋ねた。


「ジュクゲキだってさ。仲真は知ってた?」


「いや、さすがに知らないなぁ。それにレビューアイドルっていうジャンルがあるとは知らなかった」


「レビューっていうからには、単に歌をうたうだけじゃなくて芝居もするってことかねぇ」


「かもね。ともかく、もうちょっと前に出て聴いてみようぜ」


僕たちは観客の合間をぬうようにして、少しでも女の子たちがよく見えるような場所へと移動した。その結果、なんとか2列目にまでは行けた。これなら、いちおう彼女たちの顔だちぐらいは分かる。


ジュクゲキこと新宿少女歌劇団は、5人編成のグループだった。


他の多くのアイドルグループ同様、メンバーのイメージカラーが決まっているようで、一番右手の子から順に、イエロー、ピンク、パープル、オレンジ、コバルトを白いミニドレスのアクセントカラーにしていた。


イエローちゃん(勝手にそう呼ばせていただく)は少し小柄で細身、茶色ががった髪をツインテールにしている。アニメなら、さしずめツンデレキャラか。


ピンクちゃんは中背だけど、ちょっとグラマーでバストもヒップも大きめ。ゆるふわなウェービーヘアで、つねにニコニコ笑顔を絶やさない。この子は天然キャラかな。


パープルちゃんはアッシュブロンドに染めた(あるいはヅラなのか)ボーイッシュなショートヘア。その割りには出るべきところは出ているナイスプロポーションで、表情はいつもクール。この子はクーデレキャラっぽい。


オレンジちゃんは、茶髪ポニーテールで目がひときわ大きく、いかにもアイドルっぽい。5人の中では一番表情が豊かで、コロコロと変わる。この子はムードメーカー的なポジションか。


左端のコバルトちゃんは一番の長身で、黒髪ロングにカチューシャをしている。全体にスリムで、脚がホントに細く長く、そのラインは見事のひとこと。でも他のメンバーとの最大の違いは、彼女だけ大きな黒縁メガネをかけていることだった。


これがよくも悪くも彼女のキャラクターを決定づけているように、僕は思った。ある意味アイドルセオリーを無視ブッチした異次元のキャラ、そんなふうに感じた。


でもそんなキャラでファンとか、つくのだろうか? 他のメンバーの割りを食わないんだろうか?


そんなことが僕が考えている間に、曲が終わった。


さっき僕たちが離れたベンチにいた時に始まったナンバーから数えれば、2曲をメドレーで歌った勘定だ。


「みんなー、ありがとう!! 新宿少女歌劇団、ジュクゲキでーす!」


オレンジちゃんが大きな声でMCをつとめた。やっぱり、見るからに座持ちのうまそうなこの子が担当するんだな。いかにも適材適所である。


「きょうはわたしたちの新しいレビューも披露しちゃうから、期待しててねっ❤️」


オレンジちゃんがそう言うと、隣りのメガネ、じゃなかったコバルトちゃんがいきなり激しいツッコミを入れた。


「聞いてないわよ、それ。あんたまた、座長のわたしに黙って勝手に進行決めたわね!」


真顔で文句を言う、コバルトちゃん。しかし、そのマジな口ぶりなどお構いなしに、観客らからは笑い声がいくつも上がっている。


つまりこれ、このツッコミ自体が寸劇レビューの始まりであり、お約束の展開なのだと、僕は瞬時に理解した。


そして、コバルトちゃんが典型的な堅物かたぶつ委員長キャラの役柄を演じているということも。


レビューは、こんなふうに展開していった。


MCオレンジが新作レビューの発表を宣言→座長コバルトがダメ出し、旧作の出来が不十分なのに新作披露とかありえない。まずは基本練習からやり直しだっ!→メンバー全員で「あえいうえおあお」から始まって各種の早口言葉オンパレードが続く。そんな感じだ。


早口言葉で達者なところを見せたのは、座長以外では勝気なイエローちゃん。ふたりで究極の早口バトルをやるシーンでは、観客の拍手や声援にも弾みがつく。


結果、ついに座長のミスを引き出して勝利をおさめたイエローちゃんに対して座長は「あんたもなかなかやるわね。でも、座長の椅子はまだまだ譲らないわよ」とキメ顔で言い、ヒールとしての面目を保つのだ。


一方、滑舌の悪いのはやはり、天然キャラとおぼしきピンクちゃんで、簡単な早口言葉でも噛みまくる。もはや神芸かみげいならぬ噛み芸(かみげい)だと、他のメンバーに評されるに至るのだ。


しばらくレビューが続き、最後にイヤミな座長にメンバーたちが「実はミーハーなドルオタだった」という彼女の黒歴史を暴露してオチがついたところで、再び歌に入る。


2曲ほど歌ったところで、各メンバーのフィーチャータイム。ファン側からの質問にも、フランクに答えてくれる。


でも、自分に割り振られたキャラは崩すことなく、きちんと演じ切った受け答えをするのがミソだ。決してのキャラを出すことはなく、堅物キャラは堅物、天然キャラは天然を貫き続けるのだ。


質問コーナーのような台本の存在しない場面でも、それは変わらなかった。その辺の徹底ぶりには、僕も感心した。


そして意外なことに、フィーチャータイムでのファンの一番人気は、なんと座長のコバルトちゃんだった。


質問コーナーではかなりの数のファンが手を挙げて、その権利を勝ち取った男性は実に嬉しげだったし、最後には盛大な「座長さま」コールまで巻き起こる始末だった。


つまり、彼女はこのグループでポールポジションを取るスターだったのだ。これには驚いたものの、でも彼女の確たるキャラ作りの技術を考えれば一番人気も不思議ではない、そんな気がしてきた。


そんな感じで、思わず知らず「ジュクゲキの世界」に浸り切っている僕の脇腹を、いきなり隣りの仲真がツンツンと突っついた。


「ホッシー、まだ気がつかないかい。あの座長の子に見覚えはない?」


僕は仲真の突然の言葉に、戸惑いを隠せなかった。


「えっ? 見覚えったって、初めて見る子じゃないのかよ?」


「たしかにしっかりアイメークもしてるし、声も芝居用に作った発声でいつもとは違うから、すぐには分からないだろうけどさ。


彼女から、引き算してみるんだよ」


「引き算って、何を引き算するんだ?」


「メガネだよ、もちろん」


そう言われて僕は、精神を集中して脳内でコバルトちゃんの顔から、黒縁メガネを取り外してみた。


その結果。


「仲真、もしかしてあの子……」


「そうだよ、貴音たかねさんにちがいない」


僕の脳裏には、約1週間前に求愛の告白をして、完膚なきまでに振られたかつての想い人(マドンナ)貴音たかね華子はなこの、神々しいまでに美しい顔だちが鮮明に浮かんでいたのである。(続く)

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