表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
92/101

第十三話「夏の個人戦終了後! 同好会メンバーはカラオケへ! 前編」

「こうしてみんなでカラオケに来るのも何だかんだで初めてだよねー」

「そうなんですか? てっきり私が同好会に入る前、四人で行ったりとかしてるのかと」

「……特別、みんな音楽が……好きとかじゃない、から……行こうって、ならなかったん、ですよね。……遊ぶなら、カードゲームするし」

「人前で歌うなんて音楽の授業以来です。私は初めて来ました!」

「私はどうだったかな。小さい頃、家族で来たことがあったような」


 カウンターにて案内された個室へと入った五人、普段来ることのないカラオケにやってきたということで興奮気味で口々に語る。


 しずくの地区予選が決勝でひでりに敗れるという結果に終わった八月――というか試合があった当日、そして敗北に涙した数時間後。


 本来ならば電車に揺られながら地元へと帰るはずだったが、しずくの傷心具合を見て葉月が「何か明るいことをしよう」と気分転換のために出した案がカラオケだった。今から何時間も歌うと帰宅は不可能になるため、予定を急遽変更してもう一泊することに。


 夏休み中であることが幸いして無理が強行できた。


「私は結構、カラオケに来るの久々なんですよね! 何歌おうかな……中学校の頃には友人と来てたんですけど」


 デンモクを片手に履歴画面をチェック、曲決めの参考にすべく何となく眺めるもえ。


 一方、隣に座っている幽子はもえの中学時代ということで最近、ひでりが連れてきた森久保かなで、そして影山美麗の顔が浮かんでいた。


「……中学の頃の、友人って……森久保さんと、影山さん?」

「うん、そうだよ。で、かなでが特に音楽やってるからか歌が上手くてね。よく行きたがってたなぁ……美麗はあんま得意じゃなさそうで渋ってたけど」

「……そうなんだ。……ちなみに、今もし二人が……目の前に、現れたら……どうするの?」

「助走をつけて殴る」


 即答でされてしまったため、返す言葉がなくなってしまった幽子。


 一方で幽子の隣に座る葉月、そしてその横のしずくも二人で一つのデンモクを覗き込みながらあまり来ないカラオケに戸惑っていた。


「さぁさぁ、しずくー。思いっきり叫んで、スカっとしちゃおうー!」

「とはいえ、何を歌ったらいいんだろう……葉月さんってどんな音楽聞くの?」

「寧ろ、どんなの聞いてるイメージ? 当ててごらんー?」


 腕組みをして得意げな表情を浮かべる葉月に、しずくは数秒悩んで回答する。


「……昭和歌謡とか?」

「あぁー! 私の家が裕福じゃないからって両親の持ってるCD聞き漁って歳不相応な音楽の趣味になってると思ってるなー!?」

「深読みし過ぎじゃない? 適当に言ったんだけど」

「じゃあ、なんで当たってるんだよー!」

「あ。当たってるんだ……」


 珍しく少し呆れた表情を浮かべるしずく。


 まぁ、葉月はそのような経歴で昔の曲にも詳しいが、スマホは持っているため動画サイトで最新の音楽にも触れられる。なので、時代遅れな趣味をしているわけではない。


 さて、二人組が二つできてしまい一人、歌唱の際に歌詞を表示するテレビ画面をぼーっと見つめながら歌う曲を考えているヒカリ。


(当然、このような場で私が歌うのはラブソング。もえちゃんへの溢れる想いを代弁するような恋愛ソングを歌いましょう! あれから私は動画サイトにて『胸がキュンとする! ノンストップ恋愛ソングメドレー!』を繰り返し聞いてますから、音楽には詳しいですよ!)


 両手をギュッと握って意気込みを体現するヒカリ。


 ちなみにこの段階ではヒカリがもえに好意を抱いていると正しく理解できている者はいない。なので、今からのヒカリは「やたらとラブソングばっかり歌うやつ」として受け止められることになるだろう。


 さて、デンモクを握っていた二組の中から、まずはもえが選曲を終えて歌うことに。


「お、もう決まったんだねー。もえ、何歌うのー?」

「まぁ、私が選んだら趣味全開でアニソンになっちゃいますよね。分からないであろう曲を歌うのでちょっと申し訳ないですが」


 マイクを握りながら少し照れた表情を浮かべるもえ。


「そうかなー? 私、そこそこアニソンは分かるつもりだけどー?」

「本当ですか? 葉月さん、例えばどんなの知ってます?」

「残酷な天○のテーゼ」


 葉月が人差し指を突き立て言った一言。

 しかし、もえの表情からは感情の一切が消える。


「……ふぅん。それで分かるつもり、ですか。まぁ、一般人の回答ってそうですよね」

「なんか私、もえを落胆させてるー!?」

「いえ、まぁ……アニソンはアニソンですよ。間違ってないです」

「間違ってないなら、どうして私は自分が正しかったって信じてあげられないのかなー!?」


 じゃあどんなものがアニソンなのか――そんな疑問を葉月に植え付けたまま歌い出したもえ。


 もしかすると歌が上手いかなでから吸収した技術なのか、並み以上の歌唱力で歌声を響かせる。


 曲自体もアニメの登場人物が歌っているものながら、俗に言う電波ソングのようなものではなく本格的なロック調だったため、聞く側も自然と受け入れられる。


「なんか格好いい曲だね。何の曲か分からないけど、これがアニソンってやつなんだ?」

「アニメ好きな人からしたら、エ○ァはアニソンじゃないのかなー?」

「……歌も、これだけ……上手いって。……もえちゃん、やっぱり……器用」

「今すぐストアからこの曲をダウンロードしましょう。私にとって大事な曲になりますよ、これは! 私のお葬式、これで出棺といきますか」


 それぞれにもえのアニソン熱唱に対する感想を口にして曲は終了。

 意外な歌唱力に皆が驚き、拍手でそれを讃える。


 さて、次は葉月の曲が予約されていた。


「さっきしずくに曲の趣味を見抜かれちゃったから、昭和歌謡は避けることにしたよー。とりあえず、この間ドラマで流れてた主題歌を歌わせてもらうねー」

「葉月さん、そういう曲も分かるんですね。正直、童謡とか本気で歌い出したらどうしようかと思いましたよ」

「そんなわけないじゃないー! 童謡なんて歌い出したら、それこそ動揺するよー!」


 超面白ギャグを繰り出し、したり顔を浮かべる葉月。

 しかし――、


「……まぁ、そうですね」


 葉月としては表には出さないながらなかなかにウマいことを言ったつもりだったが、反応はもえがひきつった表情で返事をしたのみ。


 瞬間的に賑やかな場であるはずのカラオケが静寂に包まれた。


 ……さて、そんなわけでダジャレによって大怪我を負った葉月だが、曲が始まると上機嫌に歌い始める。


 もえほど歌唱力が高いわけではないが、それでも音程はきちんと取れており、何よりも本人が楽しそうに歌うのが聞くものをほっこりさせる。


 そのため、皆の印象も、


「夏アニメの主題歌も追加されてる! どれから歌おうかなぁ」

「ドリンクバーがついてるみたいだけど、わざわざ取りに行くの面倒だなぁ。沢山コップ使って大量に持ってくるんじゃ駄目なの?」

「しずくちゃん、テーブルをマラソンの給水所みたいにしないで下さい……」

「……ソフトクリームも、あるらしい……ですよ。……あとで取りに……行きましょう」


 と、それぞれ好感触な感想を口にしていた。


 だが、一方で葉月の方は困った事態を抱えており、曲も二番へ入った所で、


「あれ、あれれー? この曲って一番の繰り返しじゃないのー? うーん……歌えないから一番までってことでいいやー」


 歌うことを諦めて演奏停止ボタンを押す。


「どうしたんですか、葉月さん。歌詞の中の人物と自分の差に打ちひしがれましたか?」

「何でそうなるのー! 演奏停止する前に私、消す理由言ったよねー!?」

「でもまぁ、確かに二番からガラっとメロディ変わる曲あるよね」

「だよねー、あははー。……いやぁ、一番歌えたら全部いけるかと思ったんだけど、どうも違ったみたいー」

「……葉月さんの曲、早く終わった影響で……私の番がもう。……心の準備……できてない、です」


 皆が和気藹々と話す中、一人だけ緊張に表情を強ばらせる幽子。


 仲間内でいる時はあまり感じさせないが、彼女は大人しく引っ込み思案な部分もある。そのため、皆の前で歌うということにはかなり緊張が伴うのだ。


 葉月から渡されたマイクを両手でギュッと握り、思いつめた表情を浮かべる様はまさにステージを直前に控えるアーティストのよう。


 周囲を見渡し、四人の視線を感じ取ると余計に緊張が高まる。


 そして、そんなガチガチの幽子であるため、各々は歌いたい曲を探すべくデンモクを手に取るでもなく余計に彼女のほうを見てしまう。


(そういえば幽子ちゃんって何を歌うんだろう? 大丈夫かな? こういうの苦手そうだし、正直歌っても声が小さくて聞き取れないとかそんな感じになっちゃうんじゃない……?)

(幽子と音楽の話ってほぼしないけど、前に何だったかのジャンルをよく聴くって言ってたなー。何だっけー?)

(ファイトですよ、幽子ちゃん! 人前で何かするのは苦手でしょうけど……バイト経験を経て、少しずつ克服したはずです! さぁ!)

(カラオケってもしかして、空桶? ここって桶なの?)


 それぞれが期待や緊張を胸に見守る中、幽子が選んだ曲のイントロが鳴り響き――そして、テレビ画面に映し出される曲名。


 葉月は納得したような表情で「そうだったー」と口にするも、残りの三人は意外過ぎる選曲に目を丸くする。


 ノリの良さが売りの少女――黒井幽子。


 緊張も曲が始まれば自然と解けていき、ノリのよい伴奏に体が揺れ、そして手振りが乗る。


 そう――振り付きの曲を完コピしている幽子、ノリノリで踊りながら歌い出す。彼女の選曲ジャンルはアイドルグループの曲であり、幽子はその振りまでを覚えているのだ!


 髪を揺らし、アイドルさながらの笑顔で歌う幽子。


 声は甲高く可愛らしいアイドルボイスであり、いつものボソボソとした話し口調は捨て去っている。


 まさに豹変と言うべき光景を目の当たりにする四人。


(な、な、なんだこれー!? レアな幽子ちゃん見ちゃったぁー! 好きな話とかすると早口になるし、実は内にこういうのを秘めてる子なのかな?)

(そういえばアイドルが好きって言ってたなぁー。なんか衣装とか見るのが好きで、次第に音楽もハマったとか……だけど、ここまで真似するとは思わなかったなー)

(可愛い! なんですかこの可愛らしさはっ! 私も同じようにやったらもえちゃんに可愛いって思われるでしょうか……いや、そもそも恋人同士なのですから、何をやってても私はもえちゃんだけのアイドル)

(タクシーの空車って表示、あれはどうも空を飛ぶって意味じゃないらしい……。じゃあ、どういう意味?)


 特技が絵を描くことしかないと言っていた幽子だが、実は妙なスキルを持っていることが明らかになったのだった!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ