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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
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第十話「黒井幽子、中学三年生! 未来に繋がる何気ない1ページ!」

「……はい、というわけで……今日の優勝者は……やっぱり、しずくさんです。……おめでとう、ございます」


 毎週末、ショップにて行われる大会で優勝したしずくに賞品のカードを渡して拍手をする幽子。


 それに促されたように周りのプレイヤーも見慣れた優勝者に手を打ち鳴らし、一方で当の本人はこの頃でもやはり淡々と栄誉を受け止めていた。


 そう、この頃――黒井幽子、十五歳。


 カード同好会が発足する一年前の七月、夏休み――そして、幽子は中学三年生。なのでカードショップではバイトとしてではなく、ただの一般客として大会を仕切っている。


 これは自分に自信がなく、引っ込み思案な彼女の悩みを聞き受けてヒカリが任せた役割。当然だが仕事ではないので給料は発生していない。


 ちなみにこういった、客が店員に代わって大会の進行をすることは個人店舗では割と実際に見られる光景だったりする。


 お店としても従業員一人が大会進行に裂かれるのが負担という部分もあるだろうし、ゲーム中のジャッジなどはプレイヤーである客の方が詳しいことがほとんど。


 なので、幽子は中学時代からこの店でちょっとしたお手伝いをしていたのだ。


「……しずくさん、そのカードって……デッキに入れたり……します、か?」


 賞品を受け取り、何となくカードのテキストに視線を落としていたしずくに幽子は体をもじもじとさせて伏し目がちに問いかけた。


「能力が発表された時の評価を覆して今は採用例が増えてるみたいだからね、使うかな。ごめんね。いらなかったらあげるんだけど」

「……あ、いえ。……しずくさんが、謝ることでは。……しかし、採用例が増えてる……ってことは、値段も高騰……してますよね?」

「もう四桁にはなってたかなぁ。まだ上がるんじゃないかな?」

「……四桁! ……今の私には……ちょっと、手が出ない」


 しずくがさらりと語った金額はこの頃の幽子からすれば十分に大金。


 毎月貰えるお小遣いでコレクションを増やしてきた幽子。コレクターであるため、プレイヤーのように同じカードを複数枚手に入れる必要はないのだが、それでもファイルを埋めるためには大枚をはたかなければならない。


 それに加えて彼女はイラストレーターが出版する画集のコレクターでもある。


 財布が常に枯渇状態であるため、嘆息する幽子。


「……高校に入ったら……絶対に、バイトします。……入学した当日からでも……働きたい、です」


 両手をギュッと握り、決心した表情で頷く幽子。


 カードショップに行くと学生のプレイヤーも沢山いるが、その資金源を辿るとカードゲームのためにバイトをしているという話は割と多い。


 なので幽子も高校に入ってからは自分の稼いだお金で沢山カードを買いたいのだ。


「でしたら幽子ちゃん、バイトはウチのお店でいいんじゃないでしょうか? 手伝いの延長線上でそのまま従業員になってしまえばいいんですよ」


 しずくと幽子が会話をしているところにヒカリがやってきて人差し指を立てて提案。


 それは幽子にとって願ってもない話であり、目をキラキラと輝かせる。


「……本当ですか、ヒカリさん! ……カードショップが、バイト先……最高です」

「まぁ、バイトもいいけどさー、錬金術っていう労働とは対極の位置にあるメイクマネー術があるのを忘れちゃいけないよー? 労働なんてもう古くないー?」


 ヒカリからの提案に心は決まった幽子だが、集う三人から少し離れたプレイスペースの卓にて他のプレイヤーとカードゲームをしていた葉月がその場から声を大にして悪魔のような囁きを口にする。


「何だかカッコよさげに言ってますけど、あんな遊び人みたいな人間の言葉に耳を貸してははいけませんよ? 皆からのロクな大人にならないという忠告を聞き流した結果がアレですから」

「聞こえてるよー!? ヒカリー、そういう一切を陰口にしておくっていう優しさもあると思うんだけどー?」

「ヒカリさん、時々結構キツめに言うよね」

「何でしょう……私たち四人に足りないポジションを埋めている感じというか。上手く言葉にできないですけど、本来は私の役目ではないような気はするんです」


 将来的に五人で一つの同好会として完成する未来を暗示するようなセリフ……だが、この時点でカード同好会が発足する目途はもちろん立っていない。


 葉月自身はこの頃から同好会を立ち上げたがっているが、彼女らの学校にはプレイヤーがおらず必要な部員数に満たない状態が続いている。


 ……まぁ、来年になれば高校に上がった幽子がメンバーとなることは確約されており、葉月としては、


(来年、一人捕まえたら必要人数に足るから何となるよねー。いざとなればアニメ研究会とか、カードゲームに近そうな分野の部活に入ろうとしてる子を横取りすればいいしー)


 と、楽観的に構えていたりする。


 さて、ヒカリから「ショップでバイト」という妄想するだけでもワクワクする提案をされ、すでに興奮気味な幽子であるが、ここでさらに彼女のテンションを加速させるものが。


 手招きした幽子に耳打ちをして、小声で語りながら彼女にある物を渡すヒカリ。


「実は店長から幽子ちゃんに大会進行をしてくれているお礼ということで、プレゼントを預かってますよ? みんなにはバレないようにお納め下さい」


 そう言って渡された一枚のカード。それは先ほどしずくが獲得した優勝賞品と同じ物であり、幽子がここ最近で一番欲しかった一枚。


 それが唐突に舞い込んだということで幽子は目を見開き、興奮で口をパクパクと落ち着きなく動かしてヒカリの方を見る。


「あ、ありがとうございます~! ずっと欲しかったんですよねぇ~、これ♥ 優勝賞品って非プレイヤーの私からすればお店でシングルカードになったものを買うしかないわけで、情報が出る度に『弱かったらいいのになぁ』っていつも祈ってるんですよ。でも、今回は評価が改められたみたいで諦めかけてたんですよね! いや~、嬉しいです! 幸せです♥」

「喜んでくれたようで何よりです。ですから、落ち着きましょう。スイッチ入ってますから」


 初めて出会った時には驚いた幽子の豹変ぶりだが、もうこの頃には慣れているヒカリ。落ち着きなく喜ぶ子供を宥めるように言葉を掛けつつ、微笑ましそうに幽子を見つめているのだった。


         ○


「もうすぐ地区予選だねー。しずくは出場するわけだし、これは応援にいかないとねー」


 大会が終われば集まっていたプレイヤー同士でフリー対戦、そしてそれを繰り返して時間は夜七時――中学生であるため門限を設けられており、帰らなければならない幽子に合わせて葉月、しずく、ヒカリの四人で駅へと向かう。


 しずくは自転車で帰ることになるが、まだ話し足りない気持ちもあったのか愛用のロードバイクを押して歩く。


「まぁ、今年はとりあえず初めての地区予選だし、軽い気持ちでいくよ。来年は何が何でも勝ちたいけどね」

「また、そんなこと言ってー。あっさりと決勝大会……そして、全国優勝とかしちゃうんじゃないのー?」


 しずくはいつものようなポーカーフェイスで淡々と、そして葉月はどこかからかうような口調で言った。


「とはいえ、私達は次の大会ということで一応、団体戦が視野に入ってくるわけですけど……どうしましょう? 去年は出場しませんでしたけど」


 ヒカリは人差し指を下唇に添えながら様子を伺うように語り、その言葉で葉月は表情を少し曇らせる。


「あー、えっーと……出来れば今年も団体戦、私はパスかなー。やっぱり勝つためにデッキを組んでないからねー」


 葉月は申し訳なさそうに後ろ頭を掻きながら語った。


 去年、葉月は同じようにヒカリとしずくから団体戦に誘われ最初は出る気でいたが、自分の敗北が仲間の足を引っ張る可能性があるルールに居心地の悪さを感じて辞退。


 そんな経歴があるため、ヒカリとしても気軽に出せる話題ではないのだ。


「葉月さん、これをきっかけに勝てるデッキに手を出してみたらいいんじゃないの? 今日だって初戦で敗退して落ち込んでたじゃない」


 過去、何度もしずくから言われた言葉に葉月は腕組みをして唸る。


「まぁ、カードゲーマーだから負けて喜ぶはずはないよー。ただねー、人間結局は自分のやりたいことに実直というか……どうしても勝ちたかったらそういう風にデッキを組むし、そうじゃないならそうじゃないなりにデッキを組むと思うんだよねー」

「ん? つまりどういうこと?」

「しずくちゃん、そこまで難しい話はしていないと思いますけど……」

「……つまり、自分の分野じゃない……ってことですよね。……私がプレイヤーだったら……数合わせに参加、できるんですけど。……これもまた分野ってこと、ですかね」


 誰もが自分の分野から出ず、領域を守るようにカードをプレイしている。


 カードゲーマーにはそういった部分が色濃くみられ、おそらく「自分は○○の人」といったアイデンティティを手軽に出せるカードゲームの特徴によるものなのだろう。


 だからこそ、四人はそれぞれが住み分けをして自分の分野を担当していた。


 これはなかなか崩せることではない。


 そう、それこそ――何か衝撃的な起爆剤のような「誰か」でもいない限り。


 ――と、そんな時、四人の前方から一人の人物がこちらへと足音を鳴らしながら走ってくる。


 そして、その光景に思わず四人は立ち止まったしまう――が、すれ違って何事もなかったかのようにその人物は去っていく。


 さして珍しいこともない出来事であり、それぞれが少しだけ思うことがありながらも再び歩き出す。


(走ってまでどこへ行くんだろー? 私も新カードパックの発売日になると思わず駅からショップまで走っちゃうけど、そういう感じー?)

(何でしょう……この直感は!? 今、運命の人とすれ違ったような予感がして……しかも、それが自分の中で真実味を帯びているのですけど!? どうして!?)

(今日、父さんと母さんデートだっけ。ハンバーガー買って帰ろうかな?)

(……今の、もしかして……赤澤さん? ……どうしたんだろう……こんな時間に、走って。……急いでた、ような?)


        ○


 先ほど四人とすれ違った人物――赤澤もえは電車を利用してこの商店街までやってきて、ある予約した商品を買うべくお店へ走っているのだった。


(今日が発売日だったのすっかり忘れてたぁ! カードゲームもののお気に入りアニメ、DVD-BOXを予約してたんだよねぇ。せっかくの休みだし、もっと早く気付いてたらゆっくり見られたのになぁ)


 お店の閉店時間を考慮し、急いで向かっているもえ。


 それとは別に先ほど見かけた四人について思うことがあった。


(さっきの四人組の内の一人、同じクラスの黒井さんだったような……? 他は難しいこと考えてなさそうな小さな子と、同性にモテそうなクールフェイスの人、あとはいじめ甲斐を感じる綺麗な人……って私、結構見てるなぁ)


 驚異的な動体視力を有しているもえ、自分でも苦笑してしまう。


 それはさておき――。


(クラスではずっと一人でいる黒井さんにあんな友達がいたんだ……。何の集団なんだろ。まぁ、私には関係のないことなんだろうけど……)

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