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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
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第七話「葉月とヒカリ、大学合格の秘密!? カギを握るのはあの人物!」

※このお話は予定されている「第七章(7/27時点での最終章は第六章に変わります)」に繋がる要素も含んでいます。この短編集ではちょくちょくこういうエピソードもありますので、よろしく!


 一月のある日――カード同好会は団体戦の地区予選を突破し、決勝へと駒を進めた。


 カードゲームのタイトルによってもまちまちだとは思われるが、少なくとももえ達がやっているゲームは地区予選を突破したチームをそれぞれ公式サイトにて紹介。デッキレシピもSNSにて公開され、拡散されたので三人はちょっとした有名人となった。


 そして、葉月の動画経由で「あのプロプレイヤーみなみの妹。青山しずく」と同じ学校にてカード同好会に所属していると知れれば、皆がその強さに納得という感じ。


 ……まぁ、一部の人は「どうして青山しずくがチームにいないのか」と疑問には思っていたようだが。


 さて、そんな時期なので皆のカードゲームに対するモチベーションは上がっていると思うだろう。


 確かにもえなんかは初めて自分の趣味で大きな結果を残せたことに喜び、カードゲームをとにかくやりたくて仕方ないのだが……しかし、他の二人がそうでもないのだ。


 そう、葉月とヒカリ。


 三年生組は団体戦のために練習試合を重ねつつも、受験生の立場なため目前に迫ったセンター試験の勉強もしなければならない。


「あー、全然進まないよー。というか、要領が分かってないから問題に向かい合っても意味ないんだよね……」

「私もずっと勉強をしていなかったのでさっぱりです。……というか、これってホント、この時期に言うことじゃないですよね」

「しかも周りは後輩だらけだから勉強を教われないしー。クリスマス会の時、みなみさんに頼んで勉強を見てもらった方がよかったかなー」


 放課後、いつものショップ――プレイスペースのテーブル上で勉強をする葉月とヒカリ。そんな隣でもえとしずくがカードゲームの対戦を行っている。


 ちなみにカードショップのプレイスペースをカードゲーム以外で使うことは基本的にマナー違反。


 ただ、このショップは白鷺家経営なのでヒカリがオーケーだと言えばお菓子とジュースを買い込んで宴会だって可能……かも知れない。


「姉さんは超がつくほど勉強できないから、多分教えてもらえないと思うよ。卒業してすぐプロになったから受験勉強とも無縁だったし」

「しずくさんが他人の勉強事情をいじるんですか……って昔は言えたのに、最近は成績上がってきてるからつまらないですよ」


 カードを淡々とプレイしつつどこか嬉しそうに姉のことを語るしずくと、他人の成績が平均的になってきたことにつまらなさを感じるもえ。


 ちなみにもえが語るように、しずくは団体戦以降の考え方を改めた一件によって成績を少しずつ上昇させ、赤点を取ることはなくなっていた。


「……コツコツ、勉強していれば……こんなことには、ならなかったんです。……葉月さん、浪人したら……本格的に、ユーチ○ーバーですか、ね?」


 仕事のフリをしてプレイスペースまでやってきた幽子。


 他人のことを言えないくらいに勉強をしていない彼女だが、何故か平然と葉月を煽る。


「それで食べていけたらいいけど、自信ないから流石に大学は行きたいよー!」

「浪人したら葉月とカードショップを開くことにしてるんです。場所はどこにしましょうか……ここの隣?」

「ヒカリさん、そんなことしたら潰れちゃいますよ」


 ポツリと指摘した言葉にヒカリは人差し指を下唇に触れさせ、懐疑的な表情。


「ん、そうですかね……? 幽子ちゃんという頑張り屋なバイトもいますし、そもそもここの店長は優秀ですから簡単には潰れませんって」

「いや、そうじゃなくてヒカリさんと葉月さんのショップが」

「私達のショップが!? もえちゃん、相変わらず辛辣ですね……♥ もしも店が潰れて路頭に迷ったら拾って下さいね」

「いいですよ。ただ、お母さんに『ちゃんと世話できる?』って言われたら自信なくして元の場所に戻すと思いますけど」

「ちゃんと世話して下さい……♥ 一生かけてっ!」


 ヒカリのもえに対する感情を皆が知っているため、当の本人達を除いた三人の耳にもなかなか重たい感情が含まれていることが伝わる。


 しずくは表情を崩さないが、葉月と幽子は愛想笑いを浮かべ、もえはヒカリの求愛行動をスルーして対戦中のカードゲームを続行。ぞんざいな扱いにまたヒカリは悶えるといういつもの流れ。


 だが、今日はいつもの五人が和気藹々としている光景に珍しい顔が加わることになる。


「おや、もえがいますネ~! それに幽子と、ヒカリにしずく! ……もう一人は誰か分かりませんが、女子高生なら何でもオーケーですヨ!」

「あれ? ……メアリーだ! 久しぶり……またこっちの方へ遊びに来てるの?」


 プレイスペースへと歩み寄りつつ、上機嫌な表情で手を振りながらカード同好会の面々を呼んだのは外国人カードプレイヤーのメアリーだった。


 文化祭にてしずく、ヒカリとも関わりを持ったので互いに顔見知りなのだが、葉月だけはバトルマスターと化していたので名前を覚えられていない。


 ひでりの時といい、何故か一人だけ認識されていないことが多い気がする葉月。


「こっちへ遊びに来てるというか、実は最近引っ越してきたんですヨ! だから、近所のカードショップはどんな感じかと思いやって来たんですけど、やっぱりカード同好会のみんなも来てますネ~!」

「……お久しぶりです。……メアリーさん、こっちに……引っ越してきた、ってことは……これから、頻繁に会えるんですね」

「お、未来の天才イラストレーター幽子! 久しぶりデス! そのとおりでして、四月からこっちの方で仕事をするのでよろしくお願いですヨ!」


 快活にウインクをしてサムズアップをするメアリー。


 四月からは葉月とヒカリが去ってショップの賑やかさが減退すると思われたが、思わぬ人物が身近な場所で暮らすと知ってもえは嬉しい気持ちで満たされる。


「あー、えーっと……ハローハロー。マイネームイズシズクアオヤマ? アイライクハンバーガー」


 突然、後ろ頭を掻きながら困ったような表情で下手な英語を口にするしずく。


 しずくは外国人(もしくはそれらしき人)を見ると極度に緊張する一面がある。


「いや、しずくさん……初対面じゃないからそんな自己紹介は要りませんし、もし初めて会ったならいきなりハンバーガーが好きとかそんな情報教えられても困りますって」

「あはは、しずくも相変わらずですネー! 常に寝不足みたいな顔して、ちゃんと毎日睡眠とってますカー?」

「メアリーさん、しずくちゃんはクールというか、ポーカーフェイスというか……元からそういう顔ですよ? それにしずくちゃん、すぐに寝ちゃうので夜更かしが出来ないタイプですし」

「お、ヒカリも久しぶりですネー! そういえば文化祭では大事な告白を誰かにすると言ってましたが、どうだったんですカー!?」

「そ、それは……えーっと、秘密です」

「えー? 気になりますヨー!」


 ヒカリが柔和な微笑みで口を噤んだため、身悶えしてメアリーは詳細をねだる。


 皆と同じように文化祭でメアリーと仲良くなったヒカリは、年上であることに加えて社交的な彼女にもえへの告白をそれとなく相談していた。愛の告白だとは語っていないが、何となく察したメアリーからエールを送られた一場面があったのだ。


 まぁ、現状――返事は卒業式の日に、と言われているのだから答えられるはずはない。


 そのため頑なに詳細を語らないヒカリに根負けし、メアリーは興味をテーブル上に移す。そこではもえとしずくがカードで対戦している一方――葉月とヒカリが勉強をしているという奇妙な光景。


「おや? これはどういうことですカ? 新しいカードゲームの修行……?」

「いやいや、それはないよー。私とヒカリは三年生だからねー、試験前ってことで遅れてる勉強を何とか取り戻そうとしてるんだよー」

「ん! 初めましてですよネ! 私はメアリーといいますヨ! あなたもカード同好会のメンバーとお見受けしますが……文化祭の時にはいませんでしたよネ?」

「んんー!? …………えーっと、あぁ……うん。ちょっと用事があっていなかったかなー」


 自分が覚えられていないことに納得がいかず少し考えるも、バトルマスター姿にあまり良い印象を持っていなかったメアリーを思ってか、悲しい嘘を吐く葉月。


 そんな彼女の苦労を他所に、メアリーは広げられた問題集にミスがあることを見抜く。そしてペンを握りながらも迷って進み具合が芳しくない二人を見つめて古典的にポンと手を叩き、提案する。


「ワタシ、いいことを思いつきましたヨ! よければみんなで今からワタシの家に来ませんカ? 勉強なら私、教えられますヨ!」


        ○


 ――さて、結果から言ってしまうと、メアリーがもえ達の地域に引っ越してくるという偶然がなければ、葉月とヒカリの受験は失敗に終わり、本当にカードショップを起業……ゆくゆくは路頭に迷う羽目になっていただろう。


 しかし、実は祖国にて超名門大学を卒業しているメアリーの協力もあって二人の勉強はとてつもないスピードで捗ることになり、大学合格を辛くも手にすることになる。


 ――そう、語られていなかった真実。


 決してご都合主義的に二人は合格を手にしたわけではないのだ!


 ……いや、本当に。


 さて、というわけで五人は誘われるままメアリーの自宅へとやってきていた。場所はカードショップと五人の通う学校のちょうど中間に位置するマンション五階。


 中へ通されると最近引っ越したばかりという言葉どおり、部屋の中はまだ開封していないダンボールが山積みになっており、リビングにはかろうじてカーペットを敷いた上にテーブル、そしてテレビなどの家具が設置されている。


 ただ、そのテーブルの上にはデッキケースやカードファイルが置かれており流石はカードゲーマーということなのか、何よりもまずカードをダンボールから取り出したようだった。


 そんな空間にて葉月とヒカリは勉強を教わり、その「ちょっと不思議なくらい上手な教え方」に驚きつつ、もの凄い効率で遅れを取り戻していく。


 その間、受験組ではない三人はメアリーの所有しているカードファイルを見せてもらっていたのだが……、


「凄い! 絵柄は同じだけどテキストが全部英語で書いてある。なんか言語が違うだけで格好いいなぁ」


 メアリーの祖国で使われているカードが並ぶファイルに一同は目を輝かせる。


 ちなみに海外言語のカードがカッコよく見えるというのは日本人独特のものなのか、もえの言葉にあまりメアリーはピンと来ていないようだった。


「……あれ? でも、メアリーって対戦した時は使ってるカード、日本語だったよね?」

「日本でプレイするのですから当然ですネ! 日本語の勉強にもなって便利ですヨ!」

「このカードなんかは日本語版とはイラストが微妙に違うみたいだけど……どうしてなんだろう?」


 しずくが指差したカードを確認すべく、メアリーは身を乗り出してファイルを覗き込む。


「あ、それはワタシの国では表現的にアウトなんですよネー。実はそういうカードが結構あって、カード名の表現が宗教的に好ましくないから変更される……などと、国を跨ぐと微妙にニュアンスが変わることもあるんですヨ!」

「そうなんだ。……そういえば姉さんが海外の人と戦う時、英語表記のカードを使ってた試合があったんだよね」

「……それ、読めなかったら……マズいんじゃ、ないですか? ……確か、しずくさんのお姉さん……勉強が得意じゃないと……さっき、言ってたような……?」

「絵柄でテキストは全部覚えてるからね。ぶっちゃけ、どんな言語だろうと一度、日本語版を見たら使えるよ」

「……プレイヤーって……そういうもの、なんですか」


 幽子はカルチャーショックを受けているが、普通にカードゲームをプレイしていると毎度テキストを読むことはほとんどない。


 それは覚えてしまっているからで、実際にそのような理由で英語が読めないのに海外版のカードを使用するプレイヤーは多かったりする。


 さて、葉月とヒカリの受験勉強に心強い味方が現れ、残される部員の身としても一安心というところだが――もえとしては疑問が一つある。


「そういえばメアリーってどうしてこっちの方に引っ越してきたの? 仕事って言ってたけど……そもそもメアリーって何をしてる人?」


 もえの疑問にメアリーはドヤ顔を浮かべ、腕組みをして語る。


「秘密ですネー!」

「えぇー!?」

「でも、すぐに分かりますヨ! 四月……つまりは来年度になれば、私も仕事がスタートしますからネ。そうなったらあっさりネタバレするので、そこまでの秘密ですヨ!」

 

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