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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
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第六話「遠征先での自由行動! しずく編……の続き!」

『アンタ、今どの辺にいんのよ……って言っても分からないわよね。どっか近くにコンビニとかないの?』

「ついさっきあったんだけど、通り過ぎちゃった」

『動くなって言ったでしょうがっ! ……あぁ、もう。とりあえず、最寄りのコンビニに向かって、着いたら店舗名を連絡して。で、そのコンビニからは動くんじゃないよ!』


 姉の怒鳴りつけるような言葉に思わずスマホを耳から遠ざけ、ギュッと目を瞑るしずく。


 ゴールデンウィークの強化合宿初日――ご存知のとおり、カード同好会の面々は電車での大移動を経てやってきた街で自由行動中だった。


 さて、そんな自由行動でしずくは単独での移動を選択。


 数年前に実家からこの街へ移り住んだ姉と久しぶりに会うため連絡を取ったのだが、しずくは自分のいる場所が分からなくなっていた。


 なので「サプライズで訪問」という企みを捨て、姉に助けを求めると「迎えに行くからその場を動くな」と言われたしずく。


 そこから先は語られざる物語だったのだが、続きはこうである。


 しずくは何を思ったのか再び歩き出す。彼女は事態を好転させるべく闇雲に行動するデンジャラスな習性があるのだ。


 そのため、車で街中へと出てしずくに居場所を特定するための目印でも聞こうと電話したみなみは、勝手な行動をした妹を怒鳴り散らすことに。


 そんなわけでしずくはとりあえず、姉の指示に従って最寄りのコンビニにまでは移動。


 姉から怒鳴られた場所より徒歩数分――すぐにコンビニを見つけ、しずくは中へ入って姉が迎えに来るのを待つ。


 雑誌コーナーで漫画雑誌を手に取り、立ち読みを始めるしずく。


(やっぱり、いつ読んでもこの漫画は誰か殺されてるなぁ。推理ものだから仕方ないのか。でも日本の人口を考えても二億話くらいやったら人類全滅しちゃうけど大丈夫なのかな)


 二億話も連載する前に作者がいなくなってしまうと思うが……とりあえず、割と漫画が好きなしずく。


 単行本は集めていないので、コンビニにやってきた時だけ雑誌を手に取り飛び飛びに話を追う。そのためあまり話がよく分かっていないものの、それなりに楽しんでいる。


 ちなみに読んでいるのは国民的推理漫画のようだ。


(犯人誰なんだろう……それだけが気になる。……いやいや、コ○ン君。考えてないで、早くそのおじさんに麻酔針打ちなよ)


 コ○ン君は考えがまとまったから麻酔針を打つのであって、そうでもない時に眠らせてしまったら、それはただおじさんを排除したに過ぎない。


 そんな風に漫画に夢中となるしずくだが、唐突にコツコツと何かをノックする音が聞こえる。


 反応して顔を上げるしずく。するとガラスを隔てて店外からみなみが修羅のような形相でしずくを睨んでいた。


 これにはしずくも流石に表情を引きつらせ、


(……あ、ヤバい。どこのコンビニにいるか連絡してなかったっけ?)


 と致命的なミスをようやく自覚する。


 だが今更気付いても遅く、ずんずんとした足取りで店内に入ってくるとみなみは腕組みをしてその高身長で愚妹を見下す。


「たまたま通りかかったコンビニであんたが立ち読みしてんの見て、これが言ってたサプライズかと思ったわ。いやぁ、ほんと……どんだけ抜けてんの、アンタは」

「いやぁ、ごめんって……」


 申し訳なさそうに後ろ頭を掻く妹と、あっさりと怒りを解いたのか溜め息を吐き出すみなみ。


「まぁ、アタシもアンタが連絡すっぽかしてコンビニで雑誌を立ち読みしてるんじゃないかと思って行動してたから、別にいいけど」

「すごいね。エスパーじゃん」

「そんな能力欲しくなかったっての……。アンタのせいよ?」

「ねぇねぇ、ガム買ってよ」

「話聞いてんの!? このすっとぼけがぁ!」


 咎めるような口調で頭を軽くチョップするみなみと、攻撃を受けて舌をペロッと出して悪態をつくしずく。


「……で、どれにすんの。早く買うもん持ってきなって」

「買ってくれるんだ! そうだ、あとチキンも。お腹空いててさ」

「ん? あんた昼ごはんまだなの?」

「それどこから朝も食べてない」


 目覚ましを間違えて早く起きたくせにバタバタと行動し、朝食を抜いていたしずく。


 みなみは探偵が悩むようなポーズで思案顔。


「じゃあチキンはやめときな。どっか入って食べた方がいいって」

「それまで持たないからやっぱりチキンは要るよ」

「そう? じゃあ、お金渡すから買ってきな。……あ、チキンは二つだよ」


 手に持っていた財布から千円札を妹に握らせるみなみ。

 一方、お金を受け取ったしずくは姉の財布を覗き込む。


「……何よ? もっと寄越せって言うの?」

「いや、またレシートだらけになってると思って。部屋も片付いてないんじゃない?」

「うるさいよ……じゃあアンタの部屋は片付いてんの?」

「ブラックガムでいいよね? 買ってくるから」

「あ、都合が悪いからってスルーか。あんたロクな大人にならないよ」

「姉さんみたいになれれば何でもいいよ」


 そう言い残しガムを片手にレジへと向かう妹を見つめ、またもや嘆息。


 とはいえ、自分を慕ってくれる妹が可愛くて仕方がないという表情はしていた。


        ○


 久しぶりに妹と食事ということで何か美味いものでも食べさせてやりたいと考えていたが、しずくに希望を問うと、


「うーん。ハンバーガーかな」

「だろうね……。その瞬間的な思考は意味あんの?」


 やはりというべき答えが返ってきて呆れるみなみ。


 さて、そういうわけで最寄りのファストフード店の飲食スペースにてハンバーガーを齧る二人。


「ポテトがL! ドリンクまで! 私、もしも宝くじが当たったりしたら毎日ハンバーガー食べに来てポテト、ドリンクの両方をLにしたいな」

「青春真っ只中の女子高生が言うことなの、それ……。にしても、ハンバーガー好きは相変わらずみたいね」

「昔はショップ大会終わった後によく来たよね。ヒカリさんも一緒に」


 しずくはケチャップを頬につけるほど勢いよくハンバーガーを口にしながら昔を振り返る。


 みなみが始めたカードゲームを自分もやりたいと申し出たしずくの言葉によって二人はカードショップを訪れ、そして店に通っていたヒカリと仲良くなった。


 そんな三人は大会が終われば必ずファストフード店にてハンバーガーを片手にカードゲームの話をした。


 その日の大会で迷ったプレイを皆で考えたり。

 新しいカードパックの感想を皆で語ったり。


 そして――プロを目指していることをみなみが打ち明けたり。


 楽しかった日々にイメージが重なる今の状況に、しずくは胸を躍らせていた。


「そういえばそうよ。アンタ部活に入ったって電話で言ってたよね?」

「カード同好会だから正確には部活じゃないけどね」

「でも正直、驚きだったわぁ……あの学校にそんな同好会が出来たってこともそうだけど、アンタが部活ねぇ。中学の頃は帰宅部だったし、なんかイメージないよ」

「カードゲームの部活だったらそりゃあ入るよ。それに一個上の葉月さんって先輩がいるんだけど、その人がずっとカード同好会を作りたいって言ってたから。それがようやく今年、完成したってわけ」

「なるほどねぇ……私の頃にもそんな部活があればよかったのに」


 肩肘をつき、どこか羨ましそうに呟くみなみ。


 彼女は同級生にカードゲームをやっている友人がいるわけではなく、しずくと二人でショップに通うようになり、そこでプレイを磨いていった。そして、持ち前のずば抜けた心理戦を相手に仕掛けて一気に実力を伸ばした過去がある。


 しずくにもえ、ひでりと才能豊かなプレイヤーは数あれど――青山みなみほど異質で、そして天賦の才と言えるものを持ったカードゲーマーはそういない。


 だからか、割と一人で勝手に上達した感じがあるみなみは、仲間に囲まれて楽しくカードゲームをプレイできる妹が羨ましかったりするのだ。


「で、そのカード同好会には将来有望な子とかいるの?」


 姉の問いかけにしずくは顎にハンバーガーをしっかりと掴んでいる方とは逆の手を触れさせて悩む。


「まずはヒカリさんじゃない?」

「あー、確かに。……でも、ヒカリちゃんは強いけどさ、顔に出ちゃうのが玉に瑕だなーって感じだね」

「それはあるかも。こっちの使ったカードが効いてるのまる分かりだもんね」


 ちなみにその癖をしずくはヒカリ本人に伝えたことがある。


 それは読めてしまうと戦いがアンフェアになってしまうというしずくの気遣いだったのだが、ヒカリ曰く「本当に嬉しい時、感情を抑えられます?」とのこと。


 未だにしずくはその意味を理解していないが、ヒカリが顔に出る癖を自覚していることだけは伝わった。


「あとはもえかな。今年入った一年で、その子が入ったからカード同好会が発足できる人数になったんだけどね」

「その子はもしかして……私のレシピをアンタが聞いてくるきっかけになった子?」

「そうだよ。もえは何ていうのかな……姉さんみたいだって思ったんだよね。引きがひたすらに強くて、カードゲーマーに必要なものを持ってるって感じ」

「へぇ……。なんかいいね、それ。まぁ、引きにかまけてたら上達はしないけど、勝負する人間として大事なものは持ってるんだ」


 もえの引き運を知った時のしずくと同じく、みなみはどこか嬉しそうな表情をした。


 もしカードゲーマーに才能というものがあり、それは何を持っている人間を指すのかと言えば――やはり運と言わざるを得ないだろう。


 デッキから引いてくるカードによってそのターンの動きが強弱さえ変わってくるカードゲーム。ならば、ひたすらに強いカードを引いてこれる人間こそを天才と呼ぶのは、少々オカルト気味だが仕方ないだろう。


 無論、カードゲームは運だけのゲームではない。


 不運を計算に入れて安牌を選ぶこともプレイなのだが……やはり土壇場で強運を発揮できる人間に勝るものはなく、だからこそカードゲーマーとして大成する予感を醸し出すもえに二人は並々ならぬ興味を抱いてしまう。


「いつか機会があれば戦ってみたいね。そのもえちゃん? だっけ、その子と」

「やめときなよ……姉さんと戦った相手は基本的に戦意を喪失するんだから。もえがカードゲームを投げ出すようなことになったら、私は姉さんを恨むよ」

「分かってるって、そんな野暮なことはしないって。……でもさ、あんたがそんな風に後輩プレイヤーを育成してるの見ると、なんか我が妹ながら成長したなって思うよ」

「成長なんかじゃないって。姉さんがやってたことを真似してるだけだと思うよ。私にカードゲームを教えてくれたのをまんま、もえにもやってる感じじゃないかな」


 謙遜した風に語るしずくだが、それを聞いてみなみは少し心配を胸に宿していたりする。


(やっぱり基本的には私の背中を追っかけてる感じ、か……それで躓かなきゃいいけど。今年は私が全国獲ったのと同じ歳だし、『何が何でも勝たなきゃ』とか考えてそう。……いや、案外ここで躓いた方がよかったり? あんまり焦るなとか、落ち着けって言っても聞く子じゃないもんね)


 心配しても仕方のないことだと悟り、どこか呆れの混じった穏やかな表情を浮かべるみなみ。


 すると、しずくが不適な笑みを浮かべて「そうだ」と口にする。


「この後、どこかのショップに行って対戦しようよ。久々に」

「えー、オフの日くらいはカードゲームせずに過ごしたもんだけど」

「あ、逃げるんだ……」

「はぁ!? 逃げるわけないでしょ! いいよ、やってやろうじゃん!」


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