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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
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第一話「友情崩壊!? 一枚の紙切れに狂う同好会! 前編」

 ――きっかけは一枚の紙切れだった。


「これ、宝くじですかね? もしかしたら当たってたりして!」


 文化祭を控えた秋のとある日。


 幽子がバイトのためカードショップへ向かう道中、しずくがたまたま地面に落ちていたのを踏みかけて気付き、葉月が拾い上げて凝視、もえがそれを受け取って正体を確認した一枚の紙切れ、それは――宝くじ。


 番号が書かれたその紙はもし当選していれば何億円というお金が転がり込む、まさに夢の具現。


 高校生であるため、こういった宝くじにお金を投じて夢を買わずとも未来は希望に溢れている。ただ、その若さをもってしてでもやはり――「億」という言葉は魅力的。


 だが、誰もが決まってこう思うはず。


 どうせ外れていて、誰かが要らなくなったから捨てたのだろう、と。


 とはいえ、せっかく手に入れた宝くじ。すでに発表されているらしい当選番号と照らし合わせ、一応の確認をする楽しみくらいあっていいものだ。


 そんなわけでカードショップへと入った同好会メンバーは幽子を含めて、店長から新聞を受け取り(店長はこの建物の最上階にある居住スペースで暮らしている)当選番号を確認してみることに。


 そして、事件は起きた――!


「は、葉月さん! こ、こ、こ、こここここ、これ、当たってます!」

「えー、どうせ三百円とかでしょー?」

「違いますよ! 五億円ですよ、五億円!」

「五億円ってそんなはした金……って、えぇ!? 五億円!?」

「もえ、見間違えとかじゃないの?」

「よくある去年のでしたってオチかと思ったんですけど……どうも今年のものらしく、期限も過ぎてないので受け取れるみたいです」


 震える手で新聞と宝くじを交互に見つめ顔中に汗を流すもえと、ベタな驚き方をした葉月。幽子は口をポカンと開け、しずくですら目を丸くして衝撃を受けている。


 当然である。


 五億円――それは人が一生の内に手にすることなく生涯を終える可能性の方が高い、果てしない大金。


 驚かないはずはない。

 ――約一名を除いて。


「五億円ってすごいですね。億といえば私の父も時折、電話で話す時に出てくる額ですから相当なんでしょうね。想像もつきません」

「ヒカリさんの想像がつかないって、私達とベクトルが違うんでしょうね。どれだけ凄い額なのかが想像つかないなんて……。というかこの世のどこに電話で億単位の金の話をする父親がいるんですか。けっ、これだから金持ちの女は」


 いつもの柔和な雰囲気で語るヒカリに対し、吐き捨てるように嫌味を語ったもえ。


 そんな言葉にヒカリが示す反応は言うまでもなく悶絶。己が身を抱き、噛みしめるような表情で「ん~♥」と声を漏らす。


「……それにしても、五億円……あったら、一体何が買えて……どんなことが、できるん……だろう?」


 幽子のポツリと口にした疑問に各々は考え込む。


 まずはもえである。


(五億円かぁ……。仮にこの先、大卒で就職したとして初任給が二十万ちょっとだとしよう。すると年収はおおよそ二百五十万円……十年で二千五百万円……四十年で一億円!? ってことは五億円で二百年生きられる!? じゃあ逆に考えて人生百年で一ヶ月、四十万円使える! 働かなくてもいいって最高じゃない!?)


 ――と、宝くじが当たったらを考えた時、誰か一人は言い出す「得た金で一生分賄おうとするやつ」を想像していた。


 どうやら百十六まで生きるつもりらしい。

 そして次に、葉月。


(ご、五億円……ってことは、とりあえず大きな家を買って家族で暮らせるねー。それどころか贅沢もしたっていい。カードを全種類揃えて、遠征にいけるように免許取ったり車も買ったりー。どうせなら高級なやつがいいねー。多分、一億円くらい残せばあとは全部パーッと使っちゃっていいよねー?)


 よくいる何となくクルーザーとか買っちゃうやつ的に細かい計算なく大きい買い物をガンガンしようと企んでいた。


 続いてしずくである。


(すごいなぁ……五億円か。とはいえ、欲しいカードもゲーム環境変わるまでは出てこないし、お金も特に困ってない。それで遊んで暮らすかと言われたらプロになりたいからノーだし……結局は貯金かな? あ、でもハンバーガーを食べに行った時、お小遣いを気にせず毎回ポテトをLサイズに出来るな。……あ、ドリンクも?)


 堅実に貯金を考えるこれまたベタなパターンだが、非常にどうでもいい用途にはお金を使おうと考えていた。


 さて、お次は幽子。


(ご、ご、五億円……! もし手に入ったら最高だなぁ~♥ ペンタブ新調したり、欲しかったけどプレミア価格ついてる画集を買い込んだり! 手に入りづらいカードも揃えられるし、一日中絵を描いていても暮らせる生活費だって手に入る! そんな日々を過ごせたら幸せだよねぇ~♥)


 割と自分の趣味や欲求に忠実で、今までの三人と比べると好感が持てる気がしなくもない。


 ちなみに持ち前の想像力がフル回転してスイッチが入っているようだ。


 最後に金持ちであるため夢が膨らんでいないヒカリ。


(私、自由に使えるお金が常に百万円あるわけなんですが、その百倍が一億円ってことですよね? 高校生のお小遣いでそれくらいなんですから、お父さんにとってやはり億という額は常識的なもの? もえちゃんの先ほどのセリフからして少し一般家庭よりは多いのかも知れませんが、きっとゆくゆく堅実に働けば手に入る額なのでしょう。みんな盛り上がり過ぎのような……)


 一般的な高校生が財布に一万円を入れているとすれば、その子にとっての百万円、くらいな感覚で一億を捉えているヒカリ。確かに一般人が働いて貯金をすれば五百万くらい作ることはできるだろう。


 ただ、その桁が二つも違うというのは並大抵のことではないとヒカリは知らないのであった。


 ……さて、ここまで各々は妄想を膨らませて五億円を手に入れた時を想像してきた。


 しかし、誰もこうは考えないのである。


 ――五億円を前にして五人いるのだから一人一億円ずつ分けよう、と。


 そう、だからこそ――きっかけは一枚の紙切れだった。そこから五億円という夢が広がり、一人しか掴むことができない共通の目的は争いを生み……ここからカード同好会の面々は拾った宝くじの所有権を争い、血みどろの戦いを繰り広げることになる!


        ○


「最初に踏みかけて宝くじを発見したのって私だよね? 第一発見者である私が貰うっていうのが自然な流れだと思うけど……異論はない?」


 頭の中が「エブリデイ、ポテトとドリンクのLサイズ」で一杯になっているしずくが普段よりも早口でまず所有権を口にした。


 すると、葉月が「いやいや、困るよー」と外国人風に肩を竦める。


「拾ったのは私、忘れないでよー。しずくは落ちてた宝くじの近くを歩いてただけだからねー。こういうのは誰が拾ったかっていうのが大事なんだよー」


 拾得物を自分のものにしようとしていることに目を瞑れば、割と正論感のある葉月の主張。


 ここに今度はもえが「ちょっとちょっと」と焦りながら割って入る。


「何を捏造してるんですか。地面に落ちてた宝くじを拾ったのは私ですよ? 葉月さん、怖いなぁ……自分が拾ったみたいにさらりと嘘を! 事実、私が宝くじを手にしてこのショップに入ってきたじゃないですか!」

「怖いのはもえだよー! 私の過去を改ざんしようとしてるんだけどー!?」

「まだ嘘を重ねるんですか……幽子ちゃん、私がショップに宝くじを持って入ってくるの、見てたでしょ?」


 葉月としずくはそれぞれもえが事実を捻じ曲げようとしているのが分かっているため物申したげにしていたが、幽子は「……確かに」ともえの言葉に同意。


 その言葉でもえは表情を明るくし「幽子ちゃんにも十万円くらいは分けてあげよう」となかなかケチなことを考えていたが……幽子もそこで黙ってはいない。


「……もえちゃんは、ショップに入った時……宝くじを持ってた。……それは間違い、ない。……でも、ショップの前も……ウチの敷地。……なら、落し物は店員である……私が預かる」


 ゲスな笑みを浮かべ、目をギラリと輝かせる幽子。


 それぞれが欲にまみれて自分の主張を通そうとする中、金持ちであるため欲と遠い所にいるヒカリが肩を落として嘆息して口を開く。


「みんなそんなに五億円が欲しいんですか? こんなことで手に入れなくても、将来働けば得られるお金でしょう。目先の欲に目が眩んでも良いことなんてありませんよ?」


 ヒカリのセリフはこの五人の中で一番まともで、どこか咎めるような口調も真っ当なもののように思えた。


 ……ある一部分を除けば。


「一体、どんな仕事をすれば五億円も貯まるっていうんですか!? そんな金銭感覚をしてるからカップ麺四百円女なんですよ! ホント、これだから金持ちはっ!」

「やん……♥ その呼び名なんだか久々で嬉しくなっちゃいます……!」

「もえの言うとおりだよー。五億円をあっさり得られるお金って言っちゃうのは流石に私としても恐怖だねー。流石はカップ麺四百円女だよー!」

「何ですか、その呼び名は。撤回しなさい、葉月」

「まぁ、私も葉月さんに同意かな。こんな大金が得られる機会、やっぱり滅多にないよね。……えーっと、あと何だっけ? ……そうだ、流石はカップ麺五百円女だね」

「しずくちゃん、どうせあなたはお金を得てもバーガーショップのポテトとドリンクがLサイズに出来る、くらいしか考えていないんでしょう! あと勝手に値上げしないで下さい」

「……えーっと、その。……もう色々、言われてると……思うんで、これだけ。……流石はカップ麺……三百円、女?」

「値下げして手心を加えたつもりですか!? 私はそんな呼び名を許容したつもりはありませんよ」


 歯向かってくる四人をバッサバッサと切り捨てていくヒカリ。約一名は切り捨てていない気もするが……欲に思考がおかしくなっている皆のせいで常識人枠となりつつあった。


 そんな彼女が不安げに見つめる四人の欲にまみれた所有権争い。


 しかし、そんな状況へ、皆の夢を壊すように宝くじを落とした張本人が現れる……!

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