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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛特別編その二「緑川初芽の病的姉愛な日々」
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第四話「カード同好会発足! その裏で初芽は……?」

「兄と妹、禁断の関係ねぇ……」


 外は夕暮れ、再放送されるドラマを居間にて優越感に満ちたしたり顔で見ていた初芽は、小生意気な口調で呟いた。


 緑川姉妹がそれぞれ三年生となった年の四月――初芽の髪は肩に触れるほど長くなり、一年生の頃に比べるとあどけなさも抜けた印象。


 とはいえ、内に秘めた姉への恋心だけが進展もなく相変わらずだった。


 そんな初芽だが、ドラマを見ながら思うのである。


(兄と妹、異性だと恋愛は大変だなぁ。きっと一緒にお風呂へ入ることも親の目を考えれば容易ではないはず)


 そのように考える彼女は今でも頻繁に姉と入浴する。


 ――というか、葉月が風呂に入る際、脱衣所にて財布とスマホの更新チェックが初芽の日課。なので、そのまま流れで姉と一緒にお風呂、という所までがワンセットだったりする。


(私達は同性だからナチュラルにお風呂を一緒できるもんねー。……でも、お風呂入る度に思うけど、もうお姉ちゃんにこれ以上の発育はないんだろうなぁ。そこがいいんだけど)


 本人が聞いたらどんな表情をするか分からないことを平然と考える初芽。


 とりあえず詰まる所、自分達は姉妹でよかった――それがドラマの二人に対して初芽が抱く優越感なのだろう。


 ……まぁ、ドラマの中の二人は数多の障害を抱えながらも結ばれているので、姉妹の域を出ない初芽が優越感を抱くのはおかしいのだが。


 貪り合うようにキスする二人が映し出されるテレビに目もくれず、すでに興味を失った初芽はスマホを片手にSNSにおける姉のアカウントをチェックする。


 ちなみに葉月と初芽は互いにアカウントを教え合うことはしていない。葉月の方がアカウントを聞いたことがあるが、その際には「SNSはやってない」と回答していた。


 無論、姉のアカウントをこっそり覗きたいために吐いた嘘である。


 なので見られているとは思っておらず油断しきった姉の言葉が毎日更新される、最高のエンターテインメントだった。


 さて、まるで大好きな作家の新刊をチェックするような心境で姉のアカウントをチェックする初芽。


 ちなみに昨日はデッキレシピなるものを投稿していたため、葉月の目の前でいくつも持っているアカウントを総動員し、拡散して喜ぶ表情を眺めたりもした。


 その全てのアカウントはカードゲーマーにしか見えないようにアイコンや投稿を装ってあるのでバレることはない。


 これも姉のための献身、笑顔のためである。

 歪んではいるが……。


 そんなわけで姉のアカウントにてサイト更新を繰り返し、新しい投稿を待つ初芽。するとそのタイミングで更新された葉月の投稿が表示される。


『やっと念願のカード同好会が発足できたー! 三年生にしてやっとかぁ~』


 姉の声で脳内再生され、思わず表情が緩む――も、その内容に初芽はすぐさま引っかかりを感じる。


(ん!? 同好会!? ……って個人のグループとかじゃなくて、多分部活には満たないながらも学校側に認められた団体のことだよね? 今更そんなものを?)


 初芽は慌てた手つきでスマホのGPS機能を起動し、姉の所在地を確認する。


 すると、葉月の通う学校に存在する部活棟と呼ばれる建物――今まで訪れることはなかった場所に姉の所在反応があり、先ほどの投稿との繋がりを確信した初芽。


(お姉ちゃん、部活を立ち上げたってこと? しかも、前々からそれを狙ってたような口ぶり……どういう意図があって自分が一年も居られない同好会を作るの?)


        ○


「お姉ちゃん、その……ホラー映画見ちゃって怖いから、今日は一緒に寝てもいい?」

「またなのー? まぁ、別にいいけどー」


 表情に言いにくそうなものを浮かべた初芽を、葉月は呆れ混じりに笑って私室へ招き入れた。


 姉の同好会発足を知ってから気が気ではなかった初芽。


 彼女にとって行動原理の分からない姉の挙動はただただ気になる悩みの種であり、解消しなければ寝るに寝られない。


 しかし、今日は帰宅から夕食そしてお風呂と、一緒にいても姉から部活動に関する話題が出なかった。


 とはいえ情報源を答えられないため、初芽からは話が振れない。


 なので「ホラー映画を見て一人で寝られない」という嘘をつき、姉の部屋へ入り込んで延長戦を行うことにしたのだ。


 ちなみにいざとなった時に初芽が使う常套手段であり、初めてではなかったりする。


 お風呂上り、そして就寝前であるためパジャマ姿の初芽と葉月。二人共ピンク色のパジャマであり、サイズ共に全く同じ。


 これは偶然を装って初芽が同じものを姉に続いて購入した。洗濯した際、合法的にパジャマが入れ替わる可能性を考慮してのものだったりする。


 というわけで同じ服装をした二人はベッドの上に並んで腰掛け、敢えて無口でいる初芽に葉月は嘆息して口を開く。


「毎度思うけど、ホラーが怖いのになんで見るのさー。週に一回は見てるよねー」

「怖いものみたさってあるじゃない? そんな感じだよ」

「そんなもんー? まぁ最近、日中は暖かいけど夜はなかなかに冷えるからねー。いつもみたいに抱き枕代わりにさせてもらおっかなぁー」


 少し意地悪をするような口調で語った葉月に対し、初芽はいじられてむくれるような表情を浮かべる。


 しかし、内心では狂喜乱舞といった感じだった。


 葉月は冗談めかして抱き枕などと言うが、寝入る際に初芽を抱いたりすることはない。だが、想像に易いかもしれないが葉月は寝相が悪く、結果として本人は無意識ながら、初芽にギュッと抱き着いて眠る形となるのである。


 逆に初芽、そんな姉の挙動に幸福感で目が冴え、毎度ホラー映画を言い訳に姉の部屋に潜り込んだ日は本当に眠れず完徹は避けられない。


 今日の幸福のため翌日は辛くなる……それに対する覚悟を決め、部屋の電気を消した葉月に促されるまま初芽は姉と同じベッドの中に。


 暗闇の中、徐々に視界が慣れていく感覚。


 二人は同じように天井へと視線を預け、そこにしばらく会話はなかった。


 とはいえ、会話を何とか切り出さなければ寝落ちの早い姉はすぐに夢の中である。当たり障りのなさそうな部分を入り口として核心に至る道を探っていく。


「お姉ちゃん、今日もカードショップに行ってたの?」

「んー? 結果的には行ったけど、今日はそれよりも前々から企んでたカード同好会……まぁ、部活動だねー。それが今日から活動開始で、部室にいたんだよねー」

「カード同好会? お姉ちゃん、部活を作ったんだ?」


 初芽のわざとらしい驚いた口調に対して、機嫌良さそうに「そうだよー」と答える葉月。


 あっさりとカード同好会のことを話した葉月。


 誰かに話したい欲があった葉月だが、カードゲームをしているわけではない初芽に何でもかんでも聞き役をさせるのもどうなのか、という気遣いが彼女にはあり、きっかけを見つけて話し始めたらしい。


「それにしてもこんな時期から部活を作るなんてちょっとびっくりかも……」

「確かにそうだよねー。私自身は秋で部活引退だから、一年もいないんだよねー。まぁ、その気になれば受験勉強そこそこに部室へ顔を出すことも可能だろうけどー」

「そこは自分の進路を大事にしてよ、お姉ちゃん……」


 初芽の呆れた物言いに対し、葉月は「あははー」と楽観的に笑う。


(何だろう……本当に引退したって関係なく部室に顔を出しそう。それも卒業のギリギリまで。……あくまでこれは予想だけど。大丈夫なのかな?)


 まぁ、それで受験を失敗すれば姉が大学に行かず、浪人だとしても一年はこの家にいる可能性があるため初芽としては悪くない結果だが。


「でもでも、カード同好会は発足させることに意味があったんだよねー。だから、完成した時点で目的は達成したって言えるんじゃないかなー?」

「そうなの?」

「そうだよー。学校にカード同好会ってものがあるだけで、カードゲームへの扉が開かれてるわけじゃないー? そういう部があるっていうことが大事なんだよねー」

「つまり、これからカードゲームに挑戦するかも知れない人のために予め作ったってこと?」

「まぁ、ぶっちゃけそういう感じだねー」


 いつもの歌うような口調でさらりと語られた姉の行動に、初芽は驚きを隠せなかった。


(カードゲームをする人達の後進育成ってこと? そんな風に広めたいって思うくらいにお姉ちゃんはカードに打ち込んでた……?)


 初芽は姉のことが好きだが、その趣味にまで完全に合わせるつもりはなかった。


 彼女にとって姉といる時間というのは大抵、家にいる時とイコールになる。初芽にとってはそれで十分であり、カードゲームを始めることで姉と居る時間が増えるわけではないし、もし増えるとしたらそれは彼女にとって本意ではない。


 今までずっと家族のために時間を費やしてくれたのだから、外で思いっきり遊んでほしい。


 そう思うからこそ、初芽は葉月と同じ趣味に合わせる気はなく――結果として、姉の全てを知りたいと思うくせに、どれほどの熱量で趣味に打ち込んでいるかは把握していなかったのだ。


 いつもほがらかで呑気、そして真面目なことは何一つ考えていなさそうと感じていた姉が、自分の損得に関わらない行動をしている。


 ――いや、葉月は損得で動くような人間ではない。


 だからこそ「姉らしい」のかも知れないが、初芽の中で形容し難い複雑な感情――それでも近しい言葉で表すならば「違和感」、それが芽生え始めていた。


 そして、初芽はまだ自覚していないが、姉の趣味に触れないことはこの「違和感」が関係していたりする。


 さて、そのような感情に捉われて無口となっていた初芽に、葉月は前々から言いたかった胸中を明かす。


「ずっと前から言おうと思ってたんだけど……初芽、ありがとね」

「え? な、何が?」


 考え事をしていた最中だったために、小さく目を見開いて驚きを露わにする初芽。


「初芽が家のこととか色々引き継いでくれたおかげで私、高校生活ではちゃんと仲のいい友達ができたよー。全部、初芽のおかげだねー」


 葉月は家で留守を任される妹に対して、何も思わないような人物でない。


 それゆえに彼女の流儀としてお礼を口にした。


 緑川葉月を知る者が彼女の魅力としてまず口にするであろう部分であり、そして初芽にとってもそれは姉の好きな部分だった。


「お姉ちゃんだって高校に入るまでは同じようにしてくれたじゃない。それに三年生始まったばっかりなのに、もう高校生活締めくくりみたいに言われたら……ちょっと寂しい」

「あははー、ごめんごめんー。まぁ、あと一年ほどは高校生だもんねー。……でもさ、私が大学に進んだらこの家を出るんだから、あんま一人でホラー映画とか見ちゃダメだよー?」

「わ、分かってるよ!」


 姉のからかうような、しかしどこか案ずるような言葉に初芽はからかわれたことをうっとおしそうにする妹を演じた。


 しかし、本心では「あと一年で姉と別れ暮らす」という事実を改めて突き付けられ、そのように演じてでも隠さなければ悟られると思ったのだ。


 思わずにぽろりと口から出た「寂しい」という言葉。それがどれだけの意味と感情を伴って、自分の口から出たのかを――。


 姉に背を向けるようにして寝返りを打ち、ゆっくりと目を閉じる。


(そっか、あと一年でこうして一緒に寝ることだって出来なくなる。姉離れをしなくちゃならない。そうなったら私は何を支えに日々を生きるんだろう? この思いに決着はつくのかな? そして、来年の今頃……私は何をしてるんだろう?)

 


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