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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛特別編その二「緑川初芽の病的姉愛な日々」
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第三話「宝の山を漁る幸福!? 初芽の潜入任務!」

「その人を殺したいほど愛してる、ねぇ……」


 夕方に再放送されるドラマを居間にて、欠伸混じりの呆れた表情で見ていた初芽は自分でも意識することなく自然に呟いた。


 ドラマの内容は猟奇的な愛情をテーマにしたもの。


 自分の好きな人が誰かの物になりそうな時、その大事な人を殺めて永遠に己の中で飾るという行き過ぎた愛情が刺激的で一時期、話題を集めたドラマだ。


 だが、そんなドラマを見ながら同じく歪んだ愛情を有するタイプの女である初芽は呆れ返っているのである。


(どうして愛する人が奪われるからといって、その人を殺すのか。そして、それが何故深い愛情だと言えるのか。私にはまったく理解できないなぁ)


 初芽はドラマに視線を送りながらずっと、愛する人を殺めた主人公を「狂っている」と感じていた。


(普通、殺るなら愛する人を奪っていこうとする相手の命だと思うけど。そうやって次から次へと出てくる邪魔者を殺していくことになったとしたら、それはよく言う『世界全てが敵になっても』というやつで、ロマンチックじゃない?)


 我ながら筋の通った意見だと頷き悦に浸る初芽。


 そのように普通を語る初芽だが、そもそも殺人が常軌を逸しているとは気付けていないようだった。


 ――さて、葉月がカードショップデビューを果たして三か月。


 初芽が予測したとおり姉は白鷺ヒカリ、その他二人と友達になった。カードゲーム仲間を得て日々、活き活きとした表情で帰宅する姉からの土産話が楽しみな初芽だった――が、最近になってちょっと不穏な空気を感じていた。


 それこそ、本当に誰かを殺めなければならない結果も予測されるほど、初芽にとっては気が気ではない事態。


 だから、初芽はいつものようにボーっとドラマを見ながらも頭の中ではそのことが気になり、他のことに集中できないのだ。


 さて、その事象とは――。


(お姉ちゃんの所持金が収入、支出と合わない! どうして!?)


 ギュッと握った拳を震わせ、初芽は奥歯を噛みしめる。


 当然ではあるがきちんと姉の財布事情も把握している初芽。


 家庭環境が影響して高校一年生としては少なすぎるお小遣い。葉月はお小遣い日にパーッと買い物をするタイプであるため、姉が入浴中に財布を開いては、


(調子に乗って早速、無駄遣いしてるぅ~♥ 馬鹿だなぁ~、可愛いなぁ~♥)


 と、愛しい気持ちになっていた初芽。


 葉月は貰ったレシートをとりあえず財布に突っ込む癖がある。所持金も少ないため財布はただのレシートケースになってしまうのだが、そのおかげで初芽は姉の支出を細かくチェックできていた。


 さらには用途などを詳細に知ることができるため、姉が変な遊びをしていないことの確認にもなり、初芽としては助かっているのだが……、


(おかしい……。最近、お姉ちゃんの所持金が底をつきかけたかと思えば急激に増えたりする。貰ったお小遣いの額を越えている時すらある)


 増えるというのはどういうことなのか?


 まず初芽はGPSで管理している姉の動向から、一つの店舗に一定時間滞在していたりする気配もなく、バイトをしているわけではないと予測。


 ならば、金持ちの友人である白鷺ヒカリから資金的援助でも受けているのか?


(……いや、お姉ちゃんはそういう施しを受けるタイプじゃないかな。だとしたら、他に考えられる手っ取り早い資金調達って?)


 少し考え、思い至った予測に初芽は急激な苛立ちを覚える。そして、震える体が内に沸く激情を抑えることもできなくなり、テーブルを両手で強く叩きつける。


 ――鳴り響く破裂音。


 居間で突然大きな物音がしたからか、扉の隙間からこっそりと弟妹達が次女の様子を伺いに来る。


「ふっざけんなよ! 私の大事なお姉ちゃんを穢したやつがいるってのか!? 許せねぇ……簀巻きにして鱶のエサにしてやんぞ、この野郎!」


 借金取りが脅し文句を口にするような口調で一人叫び散らし、握った拳でガンガンとテーブルを叩く。


 一方、ご乱心な事情を見て弟達はアイコンタクトで「あ、姉ちゃんいつものやつだ」と意思疎通を行い、外国人風に肩を竦めて元遊んでいた場所へと戻っていく。


 さて、瞬間湯沸かし機のように怒りだした初芽。彼女は姉が悪い大人に騙され、イイコトをしてお金を貰っているのかもと考えたのだ。


 しかし、この部分も初芽の病的な姉管理によって可能性は排除される。


(……そ、そうだ。私はお姉ちゃんをGPSで監視してるんだった。そんな悪の権化みたいなやつとお姉ちゃんが接触しているはずがない。うん、落ち着こう)


 胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をして落ち着きを取り戻していく初芽。


 冷静で狡猾――しかし、一度怒りだすと暴走状態となる一面が初芽にはあったりする。


 ……しかし、ならばどうやって姉はお金を得ているのか?


 探偵のようなポーズで初芽は思案し、一つの推論へと行き着く。


(そういえばカードって高額で販売されるものがあるってお姉ちゃん言ってたなぁ。なら、逆にそれを売却してお金を得る方法があるんじゃない?)


 疑問解決のために初芽は少し探りを入れることに決めた。


         ○


 姉の居場所をGPSで確認する初芽。この方法によってまずは姉が部屋にいないことと、カードショップにいることを確認し、初芽は二階にある姉の部屋へ向かう。


 ちなみに以前ずっと自室に反応があり、学校にて初芽は「姉が引きこもりになったのかも知れない」と思うと庇護欲が沸いて少し喜んだが、スマホを忘れて家を出ただけだったこともある。


 なので正確には姉のスマホの位置を特定しているので完全ではない。だが、流石にカードショップにスマホを忘れたまま、気付かぬうちに帰宅していたということはないだろう。


 とはいえ、慎重に越したことはない。自室の隣、姉の部屋の引き戸を軽くノックし、応答がないことを確認して中へ。


 部屋主のいるいないに関わらず、割と頻繁に姉の部屋を訪れている初芽。特に物珍しい様子はなく周囲を見渡す。


 相変わらず女の子らしさはない殺風景な室内。本棚の漫画は全てギャグ漫画であり、読めば知能指数が下がりそうだと感じられ、初芽の頬は無意識に緩んでしまう。


 テーブルの上には姉のお小遣いの量で買えるとは思えないカードの束。どちらかというとタワーと表現した方がよさそうな積み上がりがいくつも並んでおり、初芽はそんな光景に「何かある」と予感めいたものを得る。


 早速、室内から手掛かりを……と言いたい所だが、初芽はそもそも姉に恋する一般的な女子中学生である。好きな人の私室に入ったのだ、いくら慣れているとはいえそれなりに満喫したい気持ちもある。


 とりあえず、深呼吸をして全身に姉私室の空気を循環させる。


 そして、姉のベッドにダイブ。寝ながらよだれを垂らしまくっていそうな枕に顔を埋めると興奮気味に足をバタバタとさせる初芽。


 この辺りの流れは頻繁に姉の部屋に侵入する初芽にとって、お決まりのようなものですらある。


 さて、ひとしきり楽しんだところでまずは証拠物件押収の花形、宝の山……ではなくゴミ箱を漁ってみることに。


 一個一個取り出して確認するのも面倒なので、ワイルドに床へ撒いて引っくり返す。


 ゴミの内容は「提出しなくて大丈夫なのか心配なくしゃくしゃに丸まったプリント」「夜中に考えたのか、思いついたダジャレを書き出したノートの切れ端」「使い終わって剥がしたカレンダー(お小遣い日に花丸が描かれている)」などなど。


 そして、そんな紙屑に紛れて出てきたバナナの皮。


「うわぁ、バナナ似合うなぁ……♥ 笑顔で食べてる姿、知性を微塵も感じさせない……。ほんっと何なの!? 何、あの可愛い生き物はっ!」


 ヘタを摘まんでバナナの皮を眼前まで寄せ、にんまりとした表情で見つめる初芽。


 ここだけ見ればヤバい奴である。

 ……いや、どこを見てもヤバい奴なのだが。


 バナナの皮で喜びを感じるのもそこそこに、大量の紙くずを開いてはまたくしゃくしゃにしてゴミ箱に戻し、大当たりが出てくるのを心待ちにする初芽。


 カードゲーマー言うところの「ストレージを漁る」という習性に通ずるものがあった。


 そして、何度か紙くずを開いていくと本来ならば財布の中に入っているはずのレシートを発見した初芽。記載されている情報を読み取り、直近で確認した姉のレシートと残高を踏まえ思考――の後、全ての疑問は氷解する。


(カードパックっていうのを何度も買ったレシートが財布の中にあった。それは検索してみたらカードがランダムに封入されたクジみたいなもの。つまり、そこから大当たりを引いて売却。その売却明細だけはゴミ箱に捨ててたみたい)


 あっという間に葉月の錬金術、そのからくりを看破した初芽。


 ……そう、葉月はこの頃から錬金術を覚え始めた。しかし、当初はやっていることへの罪悪感みたいなものがあったのか、売却レシートを証拠隠滅とばかりにゴミ箱へ投じていたのだ。


 正直、そのついでに他のレシートを何故ゴミ箱に入れないのか疑問ではあるが。


 とりあえず――謎は解けた初芽。姉の習性を思い、ゾクゾクするものを感じて悦に浸る。


(お姉ちゃん、ギャンブルに溺れるタイプだったんだぁ……♥ いいなぁ、私がちゃんとお金を稼いで、好き勝手遊ばせてあげたいなぁ。お姉ちゃんが負け続ければ、永遠に依存してくれるんじゃないかなぁ……♥)


 両頬に手を当て、うっとりとした表情で胸を高鳴らせる初芽。


 放課後の時間を捨てて尽くしてくれた姉を尊敬するあまり、自分も献身的でありたいと願う初芽。その願望は捻れ、だらしない姉を甘やかし、尽くしたいと思うようになっていた。


        ○


 その日の夜――葉月はカードを売って得たお金に物を言わせ、普段留守番させている初芽にショートケーキを買って帰宅。


 これを初芽はパチンコに勝って気前よくなった男からのプレゼントであるかのように思えて、心底喜んだのだった。


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