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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛特別編その二「緑川初芽の病的姉愛な日々」
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第二話「初芽と葉月の過去。姉への想いは歪み……?」

「シェアハウス。好きな人と一つ屋根の下、ねぇ……」


 夕方、再放送されるドラマを居間にて片肘を突きながらぼんやりと見ていた初芽は、自分でも意識することなく自然に呟いた。


 緑川初芽――中学一年生。


 今まで下の子の世話をしてなかなか放課後にプライベートな時間を取れなかった葉月に代わり、その役目を初芽が請け負うことに。


 なので、学校が終わると早々に帰宅していた。


 髪も毛先が肩に触れるほどしかなく、高校一年生で姉のような髪型になることを考えればこの頃からずっと伸ばしていくのだろう。


 そんな初芽、眼前で展開するシェアハウスにおける男女共同生活の恋愛事情に対して、ふと思考を巡らせてみれば意外なことに気づく。


(……あれ? ある意味、これって私のことでもあるんじゃない?)


 初芽の姉に対する恋愛感情――それはこの頃からすでに彼女の中にあった。ならば、好きな人と一つ屋根の下というのは初芽と葉月、二人にも言えることではなかろうか。


 ……まぁ、相思相愛ではないけれど。


 ちなみに、この頃から初芽は葉月に対して「知性を感じない部分が可愛らしい」と感じており、歪みはすでに形成されている。


 ここにもう少し姉を好く「理由」が付与されて高校一年生の春を迎えるのだが……それはこの時点で微塵も存在していない。


 とはいえ、そのような少し見下したような愛情とは別に、初芽は純粋な尊敬の念を抱いているのも事実。


 葉月は高校一年生になるまで弟妹達の面倒を見るため、放課後の時間を子守りのため捨てていた。


 この部分、両親の打算なき家族計画によるものであるため葉月の子守りという役割には同情を禁じ得ないのだが……とにかく、中学三年生の卒業まではきちんと全う。


 このことが初芽にとっては自分の姉の所業として誇らしく、そして自分を犠牲にして家族へ時間を費やす葉月に愛情を感じる由縁でもあった。


 無償の愛だ――と、素直に初芽は思う。


 下の子達は葉月が中学生の頃、まだ両親が留守にして好き勝手家で遊ばせていられるほど成長していなかった。とはいえ、基本的に監督役の葉月がいればそれでいいなので、子守りに追われる激務というわけではない。


 だが、それでも――初芽は家族のために時間を惜しみなく使う葉月に愛情を感じた。


 そして、感じたからこそ今度はそれを、自分だけのものにできないかと考えたのだ。


 両親が家にいない時間が長く、愛情を注いでくれる人間が葉月だけだったために芽生えた感情へ、恋愛を結び付けただけの可能性はある。


 ただ、初芽は葉月を独占して愛されたいと考えるようになってしまったため、それは恋愛であると定義した。


 なので、今こうして姉の代役として子守をし、かつ葉月の自由な時間を作ることに貢献する自己犠牲は、姉から教わった尊い無償の愛で――初芽にとって、それは至上の悦びとも言える献身。


 正直、もう下の子達の面倒は必要ない感じもあるのだが……念のためということで初芽が進んでやっている部分もあったりする。


 というわけで現時点における初芽の葉月に向ける感情は――小馬鹿にして姉を「可愛らしい」と思う一方で、家族のために自分を犠牲にする姿を「愛しい」とも感じるというもの。


 そんなわけで、苦行とは一ミリも感じず、子守りをこなしているという実感もなくテレビを見ながら留守番を遂行する初芽。


 ドタバタと遊び回る子供達の足音を聞きながら、テレビに視線を注げば退屈なドラマは終わってニュースの時間。


 窓から望む空は薄暗く、夜の帳が落ちるところ。


 そんな時刻を思って初芽は視線をテレビからスマートフォンへ。


 するとある情報が目に入り、初芽は立ち上がる。足早に玄関へと向かうと、同時くらいのタイミングで扉が開いて葉月が帰宅。


「おかえり、お姉ちゃん」


 妹の帰宅を迎える声に「何故、狙い澄ましたように玄関で待っているのか」と思いながらも、持ち前の楽観的な――初芽が言うところの「知性を感じない可愛らしい部分」で特に気にすることなく葉月は「ただいま」と言った。


        ○


「今日は初めてカードショップってところに行ってきたんだよねー。いやぁ、すごかった……あんなに同じ趣味を持ってる人がいるなんて思わなかったよー」


 居間にてだらしなく足を広げて座る葉月。疲労のせいか大きく息を吐き出しながら、それでも上機嫌に今日のことを振り返った。


 まだ着なれていない高校の制服、ブラウスの胸元を飾っているリボンを緩める葉月に対して、初芽は「そうなんだね」とどこか嬉しそうに返事をしながらグラスに麦茶を注いで姉に手渡す。


 受け取った葉月は「ありがとー」と言い、麦茶を一気飲みした。


「ついにカードショップ行ったんだね。どんな感じだったの?」

「何て言ったらいいのかなー。とりあえず、カードが宝石店みたいにショーケースの中に飾ってあって、しかも一枚何千円とするのまであるから驚かされたねー」

「凄いね! 高いものだとカードってそんなにするものなんだ!」


 初芽はテーブルを挟んで向かい合うように腰を降ろし、好奇心を交えた口調で姉の言葉に返答していく。


 しかし――実は、姉が今日初めてカードショップに行ったことを知っていた初芽。


 そもそも葉月は弟達が遊んでいたカードゲームの相手をしている内に自分がハマり、かねてよりカードショップに行ってみたいと語っていた。


 とはいえ高校生になるまでの日々、葉月は家に軟禁されいるわけではないので、自由な時間もそれなりに存在していた……のだが、頻繁にショップへ通う時間はやはり取れない。


 なので、新生活と時間を手にしたこのタイミングでようやく足を踏み入れたという感じなのだろう。


 ……だが初芽はそんな理由で姉がカードショップデビューを果たしたと、予測の範疇で知っていたわけではない。今日、カードショップに姉がいる事実を確認しているからこそ知っているのだ。


 その理由はいたってシンプル。


 姉、葉月の動向を初芽はスマートフォンのGPS機能を使って管理しているからである。


 以前、初芽は姉が入浴中にこっそり設定を行って居場所を管理できるようにしており、出迎えにタイミングを合わせることも当然可能。


 そして、そんな管理をされていると本人は知らないため、初芽の出迎えを葉月は驚くのである。


 常軌を逸した行動……しかし、姉のこととなると道徳が少し歪んでしまう初芽は何とも思っていないのだ。


 そんな居場所を管理されている葉月。無意味に飲み干したグラスの底を蛍光灯にかざし、残った水滴が目に入って悶絶している。


 そんな頭の悪そうな行動を見つめ、ゾクゾクする感覚と共に緩んだ表情で姉を見つめる初芽。


 目をごしごしとブレザーの袖で擦りながら、葉月は「そういえば」と言って想起を口にする。


「そのカードショップにさ、同じクラスの……えーっと、白鷺さんか! そう、白鷺さんって子がいたんだよねー」

「そうなの? じゃあ仲良くなれるかも知れないんじゃない?」

「うん、そうなれたらいいなって思うんだけど……ちょっとこっちから話しかけるには勇気がいるなぁー」


 嬉しそうではあるけれど、どこか困ったものを表情に混じらせる葉月。


 中学三年間、深い人付き合いをしてこなかった葉月にとって「友達を作る」というのはなかなかにハードルの高いものだったのだ。


 とはいえ、緊張というものと縁がないのはこの頃からであり、クラスでも話しかけられれば柔軟に対応しているため、浮いている感じはない。


 ただ、友達と明確に呼べる、深い関係の人物がいないだけ。


 そんな姉の言葉を聞き、探偵が悩むようなポーズで初芽は思考する。


(そもそもカードショップに白鷺……いや、白鷺ヒカリがいるのは当然なんだよね。あの店は大企業、白鷺グループの傘下であり全国展開されているカードショップチェーンで唯一の直営店。そして、カードゲームが爆発的に流行しているわけではないこの街で、お店が長年に渡って営業している。……それは社長の一人娘、白鷺ヒカリがこの街に住んでいるから。正直言って娘のためにやっているようなお店なんだよね、アレ)


 思い返していたのは、ネットであれこれと検索して知った情報。


 まぁ、姉が通う可能性のあるお店であるならば、詳細を調べ上げるのは妹として当然でだろう。


 だが、それだけではなく――、


(お姉ちゃんのスマートフォンのメモ帳にクラスメイトの名前を羅列したものがあった。皆の名前を覚えるための努力だろうけど、その中に白鷺ヒカリの名前を確認してる。だからこそ繋がったんだよね――カードショップの大元グループとあの人に共通する『白鷺』が偶然じゃないってこと。娘なんだってね)


 情報は葉月が風呂に入っている隙に脱衣所へと侵入、スマホの内部データの更新分を確認する日課からも取得している初芽。


 ここまででもかなり調べあげているが、そこで思考を止める初芽ではない。


 これらを踏まえると姉の周辺情報をさらに引き出すことができる。


 SNSにてこの地域に関するワードとカードゲーム関連の用語を絡めて検索。そこから出てきたこの地域のカードゲーマーと思われるアカウントから数珠つなぎでまずはヒカリのアカウントを特定。


 そこからヒカリと特に仲が良さそうにしているアカウントを絞り、「しずく」なる意味の分からない発言を繰り返す人物と、「you@光峰キラリ推し」という名前をピックアップ。


 後者に関してはおそらく、初芽が通っている学校でもちょっとした有名人の「黒井幽子」だとすぐに分かった。


 さて、これらの情報が初芽にとって重要な理由は「姉に変な虫がつかないか」ということであり、二人は趣味趣向や性格からしておそらく大丈夫だろうという判断が今のところされている。


 危惧する理由は簡単――「白鷺ヒカリ」は初芽の予測では、最も姉と友人になる可能性が高く、ならばセットで他の二人とも交流を持つと思われるのだ。


 ヒカリに関してはSNS上での呟きから恋愛に少し夢を見ている部分もあるらしいが、姉のような「庇護欲をかきたてられるタイプ」を好きになる人物ではなさそうなため、初芽はとりあえず一安心。


 そこまでを初芽が姉がとの会話の中で想起した理由は一つ――ヒカリの今日の呟きの中に「同級生をショップで見かけました! 明日声をかけてみようかな……?」というものがあったからだ。


 なので初芽は姉に対して自信たっぷりに答える。


「きっと明日ぐらいにはその白鷺さんから声をかけられるんじゃないかな? もしかしたらそこから連鎖的にカード仲間が増えたりするかも。大丈夫、私もお姉ちゃんの高校生活が充実するように祈ってる! きっと仲良くなれるよ!」

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