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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛特別編その一「新井山ひでりのひねくれな日々」
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第十三話「因縁の対決決着! もえが語る想いとは!?」

 幽子がデッキに搭載していたまさかの一枚によって美麗は勝ち筋を失い、自ら投了を宣言した。


 彼女のデッキはトークンを生成できなければ相手へ攻撃することもままならず、デッキのカードにもかなでをサポートするようなものが搭載されていないからだろう。


 とはいえ、現状――かなではランプデッキの準備段階を終えて、中盤戦であるこのタイミングで出てくるはずのないパワーの高いカードをガンガンとプレイしてくる。


 そして、幽子はたまたま美麗に対して強烈な一撃をお見舞いしたが、逆に言えばそれだけで、相変わらず戦力になるカードがデッキに入っていない。


 そして、攻防共にデッキが未熟だったせいか、かなでの圧倒的なカードパワーに押され、幽子はあっさりと美麗に続いて敗北を喫することとなってしまった。


 だが、美麗と相討ちだったのだと考えれば十分に仕事はした幽子。


 かなで達の思いを知って戦意を喪失しかけていたもえ、握っていた手札が震える――も、そこに幽子の手が寄り添い、少し心細い気持ちが解けていく。


「……大丈夫だよ、もえちゃん。……確かに、森久保さんと影山さんの気持ち……分かるけど……もえちゃんだって、思うこと……あったはず、でしょ? ……それ、言ってやれば……いいんだ、よ?」


 ぶつけられた本心に怯み気持ちが沈んでいたもえだが、幽子の言葉で思い出す。


 そう、幽子はもえがずっと悩んできたことを知っている。


 アイデンティティのようなものをずっと得られず苦労してきたこと、それを聞かされていたからこそ彼女は親友のために戦い、そして勇気づける。


 そして、もえも自分の興味があちらこちらに向く悪い癖をつい最近、克服したのだ――ならば、今は火傷することなくコンプレックスとしていたことにだって触れられるはず。


(まるで負けを認めるみたいで口が裂けても言えなかった。自分が劣っているって自ら口にするみたいで……でも、負けてないし、劣ってないって私は理解したんだ。このカード同好会で出会ったみんなのおかげで自分を認められた。なら――今なら、ずっと隠していた感情の全部を私は恥じることなく口に出せる!)


 妬心と焦燥感に狂った自身の中の熱が蘇り、それはもえの中へ闘志のように燃え上がって――彼女は戦意を完全に取り戻す。


 だから――、


「……自分だけが悩んだみたいに、苦しんだみたいに言っちゃってさ。……私達の気持ちを考えたことないでしょう、って?」


 重苦しい口調でゆっくりと言葉を連ねたもえ。


 それは自身の中で怒りのボルテージが少しずつ上がり、ずっと隠してきた思いが再び心の中に灯されることを許した瞬間。


 炎は少しずつ歪んだ感情を燃やし、その勢いを増す。そして、衝動と本能のままに、爆発させるが如く――それは叩き付けられる。


 持たざる者が抱いた、卑屈なまでの感情を――!


「なら、かなでと美麗は私の気持ちを考えたことはあるの? 私は二人とは違うんだって疎外感を感じてた。いつも才能豊かな二人に挟まれて劣等感を感じてた。何も持ってないって……自分は何も持ってないからって焦燥感を感じてた。何を始めたって二人みたいに熱くなれないって、敵わないなって敗北感を感じてた。だから……だから」


 語りはどんどんと早くなり、そして語気は荒くなり――もえのターン、デッキからドローしたカードをそのまま盤面へと叩き付る。


 感情が沸点へと達したもえは眼前の二人を睨むようにして目視、その激情最後の一滴までを余さず吐き出す。


「そんな気持ちで私がいたなんて――二人はどうせ考えたことないんだっ! 自分らだけが傷付いたみたいな顔して私の前から消えて、今更出てきたと思ったら私が才能豊かなのにすぐ挫折することに嫉妬した? 二人みたいに何かを一心に続けられない私が、何も思わないで物事を投げ出したわけないでしょ! 誰と一緒に三年間過ごしたと思ってるの!?」


 もえの感情は容量を越えて溢れ、いつしか怒りを通り越してその瞳から頬へ涙となって流れ出す。


 そんな声で叩き付けるように語った言葉は意味とか理屈ではなく、感情の波として直接かなでと美麗の心にぶつかった。


「私は……私は、二人みたいになれない。そのことがずっと悔しくて、悲しくて……羨ましくて仕方なかったんだ」


 肩で息をしながら語り終えたそれは、全身全霊という言葉が正しく響くもえの本心。


 そして、もえが盤面に提示したカード。


 それは中盤域を終えて、終盤戦――かなでに遅れて同じ領域へと達したことを示す超重量級の破壊力抜群な一枚。


 速攻、ミッドレンジ、コントロールと姿を変えるデッキを使っていること。


 それはもえ自身のコンプレックスを体現したようなデッキであり、だからこそ今――かなでと美麗に対して吐き捨てたように、彼女の弱点は武器となる。


 ……さて、かなでは自分の優位性を核心していたからこそ幽子を先に仕留めるべく集中攻撃を行った。


 だが、そのせいでもえはミッドレンジの領域から後半戦の支配者であるコントロールの時間へと進むことができた。


 ならば大型同士の拮抗した戦いの行く末は、もえの勝利が確定的。葉月と幽子のカードを絡めたコンボによる一撃必殺が控えるからだ。


 つまり、勝負は実質――決したに等しい。


 だが、そんな勝敗よりももえの想いを知ってかなで美麗は激しく後悔をするのである。もしくは自身の思慮の浅さに心から己を軽蔑するのである。


「……もえがそんな風に私達と差を感じてたなんて知らなかった。何でも上手くなる才能が豊かなやつって思ってて、だから嫉妬してたんだよな」

「でも、私は二人みたいに何かを続けることができない。続けるってことは、それ自体が才能なんだよ。ずっと同じことを極め、道を進むことができる……それが私にはないって、何をやっても痛感させられるんだよ」

「ごめんね……もえちゃん、私達がもっと自分達の傷を庇うことじゃなくて、相手のことを思っていれば」

「いや、それは違うと思うよ……美麗。二人がそんな風に私の散漫な興味を受け止めてたって、こっちも理解できなかったんだから。それに関しては……私も悪かったと思う」


 お互い、熱くなっていた感情が少しずつ冷めていくのを感じる。


 目を伏せ、相手の意見を少しずつ認められるようになってくると、今日という日――いや、それまでの軌跡においても語った一つ一つの言葉に絡みつく後悔が重たく三人の胸中に横たわる。


 あの時、はっきりと言葉にしていれば、とか――きっちりと真意を聞き出していれば、などと。


 だが遅れながら、今――ようやくかなでと美麗は理解した。


 ――赤澤もえという人間は器用で飲み込みが早い人間である。


 しかし、才能が豊かというわけではなく、それはカードゲームでも明らか。彼女はショップ大会でしずくに勝って優勝した経験はないし、一つのデッキを極限まで極めるような同好会メンバーのようなこともしていない。


 成績で言えばあらゆる教科で4は取れるが、5にはならない。

「天才」ではない「秀才」タイプなのである。


 ただ、相手のことを知ったのはもえの方も同じで……だからこそ、互いの気持ちを読み取れなかったかなでと美麗、そしてもえのどちらも「仕方なかった」と言えるのではないか。


 ならば、あとは――、


「単純にお前を仲間外れにして違う学校に進んだアタシ達が悪だよな……本当に悪かった。許されるわけねーけど、謝らないわけにはいかないよ。悪い!」

「当時は私達の抱えてるものを思えばこういう選択も当然だとか思ってたけど、今はそんなのとんでもないよ。……ほんと、ごめんなさい」


 一応は対戦中なのだが、そんなことはおかまいなしに立ち上がって頭を下げるかなでと美麗。


 そんな二人の唐突な行動に目を丸くして驚きつつ、もえは考える。


(不思議だなぁ。前までは目の前に出てきたら助走つけて顔面を殴ってやろうと思ってたのに……あっちの感情を知って、こっちの言いたいことも全部吐き出したら、なーんかどうでもよくなっちゃった。それって多分……)


 頭を下げ続ける二人に対してもえは「顔を上げて」と言い、促されたままにしたかなでと美麗。自分達を軽蔑の視線で見つめていてもおかしくない人物が柔らかな笑みを浮かべているのを目の当たりにする。


 そんな光景で呆気に取られて言葉が出ない美麗とかなで、そしてもえは口を開く。


「まぁ、言ってみれば二人と違う学校に進んだから私はカード同好会のみんなと出会って、そして今さっき語ったみたいなコンプレックスを乗り越えられたんだよね。……まぁ、乗り越えてないと口に出せるわけないし。だからね」


 不安そうな視線を送ってくるかなでと美麗、二人を見つめてもえは「そんな表情をしていて欲しくない」と感じた気持ちを裏付けに語る。


「今の私なら二人のこと――許せると思うんだよね」


 そう口にし、はにかんだ笑みを浮かべたもえ。


 許しの言葉を受けてかなでと美麗も強張っていた表情を崩し、そして傍から一部始終を見ていたひでり、そしてカード同好会の面々も含めて場は穏やかな空気に包まれる。


 こうして――もえは半年以上の時を経て、中学自体の友人である森久保かなで、そして影山美麗と仲直りをすることとなった。


 ……だが、そんな仲直りは別として。


「勝負の決着はきちんとつけさせてもらおうかな。申し訳ないけど、あと葉月さんと幽子ちゃんの出番がこのデッキにはあるから――覚悟してもらうよ?」


 そういって意地悪に笑んだもえに、まだ対戦相手として敗北していないかなでは引き攣った表情を浮かべながら席についた。


        ○


 ――試合は結局、もえの勝利で終了。


 葉月が編み上げたコンボによって自分のお気に入りが相手へ引導を渡す瞬間、それを隣で見ていた幽子はまるで憧れのヒーローが目の前に現れた少年のように瞳を輝かせ、かなでが爆散していくのを見ていた。


 そこからはかなでと美麗がもえにとっての裏切り者、そんなレッテルも剥がされたということで新しいカードゲーマーとの邂逅をカード同好会メンバーは祝福。


 しずく、ヒカリ、葉月はそれぞれが二人に対して試合を申し込み、幽子は店長に頭を下げながらバイトに戻る。


 さて、極度の緊張状態から解放されたもえ。


 ショップを出て玄関脇にある自動販売機にて缶コーヒーを購入して休憩をしてたのだが、そこへひでりがやってくる。


「今日は突然、こんな風にかなでや美麗と合わせて悪かったわね」


 自販機に硬貨を投じつつ語ったひでりの言葉に、もえは困った表情を浮かべる。


「最初はびっくりしたけど、でも結果的にはよかった。悪かったなんて……そんなことはないよ」

「そう? ならよかったけど。……でも、かなでと美麗の事情しか知らなかったから驚いたわ。赤澤もえ、あんたも結構苦労してんのね」


 ひでりは購入したオレンジジュースの缶を開けながらもえの方を見る。


 すると彼女の手にはブラックの缶コーヒーが握られており、自分のオレンジジュースと見比べて少し恥ずかしそうに顔を赤くするひでり。


「苦労なんてしてないよ、今はね。もうそういうコンプレックスとか、全部乗り越えた……私はそう思ってるよ」

「そうなのね。……それ、もしよかったらどんな風に乗り超えたのか教えてもらえる? 興味本位で聞いてるから無理に答えなくてもいいけれど」


 ひでりの問いかけにもえは「そうだなー」と言って缶コーヒーを口に含ませ、語るべきことを頭の中でまとめ、そして――、


「自分を認められた……それだけなんだよね。人間ってそう簡単に変わらないし、他人を羨んでも仕方ない。なら、自分の意志とか欲求をきちんと認めてあげればいいんだよね。他人と比べたり、間違ってるんじゃないかって……そんなこと思わず、素直に。率直に」


 もえが淡々と思うことを語ったそれは、ひでりにとって響くものがあったのか目を見開いて彼女を見つめながら真摯に受け止めた。


(自分の意志や欲求をきちんと認めてあげればいい、か……。なるほどね。正しさなんて結局は誰かが勝手に決めたものなのだから、自分が決めることだって間違いじゃないのよね)


 そして、ひでりは妙に嬉しそうな表情を浮かべて言う。


「なんかいいわね……それ。カード同好会のおかげでそう思えたっていうなら、その仲間も含めて素敵だわ」

「……ど、どうしたの、ひでりちゃん? 普段は夏場のセミみたいにわーわー喚き散らして去っていくひでりちゃんが今日は素直だね」

「あ、あんた私のこと何だと思ってんのよ!」

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