第十一話「かなで&美麗VSもえ 因縁の対決へ……!」
十二月のとある日――しずくともえの団体戦出場を賭けた戦いが終わり、学校では二学期終了を目前としたタイミング。
ついにかなでと美麗がカードゲームを始めた理由に行き着く時を迎えた。
放課後、いつものカードショップにて、ひでりは後輩二人を引き連れて待機。仕事のために店員としてショップにいた幽子に今日、カード同好会がここへやってくることを確認して三人はもえの来訪を待っていた。
夏休みからカードゲームを始め、今日までカード同好会メンバーがいない隙にショップを利用してひでりがノウハウを叩き込んできた。
それぞれの部活動もあるため、納得のいくプレイヤーにはなかなか仕上がらなかったが……しかし今、かなでと美麗は立派なカードゲーマーとしての実力と自信をつけている。
そんな三人が待つカードショップへ、カード同好会の四人がやってきた。
仲良く談笑しつつ店へと入ってくる――も、かなでと美麗の姿を見つけたもえは瞬間的に表情を顰め、警戒心を剥きだしにして二人を見つめる。
そんな表情に臆するも、グッと堪えてもえから視線を話さない二人。
事情を知らないヒカリ、葉月、しずくもそのピリついた空気を何となく感じ取り、三人は顔を見合せる。
さて、ピリついた空気が流れて、そして静寂。
それでは話が進まないということで、もえの方へひでりが歩み寄って事情を説明することに。
「突然で申し訳ないわね、赤澤もえ。あんたと、この二人の事情は一応聞いてるわ。そういった事情を理解した上で二人を連れてきてるから……まずは落ち着いて頂戴」
「ひでりちゃんとあの裏切り者二人が知り合いだったなんて、そんな偶然あるんだね」
明らかに隠し切れない軽蔑の態度を見せながらも、自分の感情とは無関係なひでりの言葉にはきちんと耳を傾けるもえ。
そして、ひでりはとりあえず会話が成立することに安堵してホッと一息。
「この二人はそうね……端的に言ってあんたにしたことを後悔してるの。だけど、そんな行動を取るに至る理由もあるわけで、それも含めて聞いて欲しいのよ」
「勝手にいなくなっておいて、あとで後悔したからって腹に抱えたものをぶつけようってこと? それって勝手過ぎない?」
「まぁ、それも重々承知って感じよ。でもね、最終的に仲直りしたいって二人は考えてるみたいでね……なら、腹を割って話すしかないって結論は私も同意なのよね」
「……とりあえず、話は聞く。ひでりちゃんの顔を立てる意味でね」
もえの冷徹な物言いにひでりは精神を擦り減らされる思いだったが、何とか橋渡しとしての役目は終えたようだった。
さて、ここからはかなでと美麗がもえと対話する場面となる。
ひでりとバトンタッチするようにかなでと美麗はもえへと歩み寄り、第一声に戸惑いながらも何とか絞り出す。
「久しぶりだな……もえ」
「かなで……確かに久しぶり。そうだね。もう会うことはないんじゃないかなって思ってたけど」
「私達もそう思ってた。そして、本当なら私、そしてかなでも合わせる顔なんてないはずなんだけど……でも、ひでりお姉様がこうして繋がりを作ってくれた」
「だから今になって後悔してることに終止符を打つために、今日はやってきた」
かなでと美麗の視線はもえから逸らすことなく、まっすぐと見据えられている。
そんな二人の覚悟をもえは肌で感じる……のだが、割と実はシリアスモードが得意ではないもえ。先ほどの美麗のセリフが気になって吹き出しそうになる。
(え? 今……ひでりお姉様って言った? 言ったよね? お姉様だって……ぷふふ。どう見ても妹みたいな背丈してるのに、何を敬ってるの?)
必死に頬裏の肉を噛んで笑いを堪えるもえ。
「……で、色々と言いたいことがあるんでしょ? 聞くよ。それが終わったらこっちも言わせてもらうけど」
「うん、そういうつもりで来てるんだけど……まずはもえ。自分らとカードゲームで勝負して欲しいだよ。昔、お前がアタシらの趣味に触れてきたみてーに、今回はこっちがもえの領域に足を踏み入れた」
そう言ってかなでと美麗はポケットからデッキケースを取り出し、それをかざして見せた。
さて、この光景を見てカード同好会の面々は色々と思うことがある。
(え、えぇー!? なんか揉め始めたと思ったらカードゲームで対戦って……どうしてそうなるのー? 漫画的な展開で、拳ならぬカードで語り合うって感じなの!?)
(この人達、もえちゃんを裏切ったとか話の流れで言ってましたね。……もしも、それが本当なら社会的に家族諸共、地の底まで落ちて頂きますけども)
(もうすぐクリスマス会だけど、プレゼント交換って何を用意すればいいんだろ? 自分が普段、気に入ってるものとかでいいのかな?)
と、目の前の光景に対してあらゆる感想を抱き、特に葉月のものが真っ当な意見なのであるが……、
「へぇ……いいよ。面白いね、戦おうか」
「もえちゃんが今日までカード同好会で研鑽を積んできたのは知ってるけど……私達だってひでりお姉様に特訓してもらった。……負けないから!」
もえが挑戦に受けて立ち、三人は睨み合って火花を飛ばし合う。
この光景に常識人枠たる葉月は、
(う、うわぁ……もえってば何の違和感もなく勝負を受けちゃったよー。どうしてなのー? 普通に腹を割って話し合えばよくないー?)
と、いつぞやの幽子と同じく的確な感想を抱く。
ちなみに彼女の隣にいるヒカリは目からハイライトを消し、狂気に満ちた微笑みでかなでと美麗を睨み、しずくの思考は「ほぐし焼き鮭」へと至っていた。
「でも、どうするの? 一人ずつ戦うってこと……だとしたら、どっちから?」
相手が二人であるため一人ずつ戦うのがこの場合の試合形式のように思う――が、一人ずつ順番に自分の想いをカードに乗せてぶつけるというのは何だか締まりがない。
そこを考えていたひでり、割って入り対戦形式を提案する。
「試合はタッグ戦を推奨するわ。赤澤もえには二面打ちをするか、この場面に相応しい相方を用意してもらう」
「タッグ戦……? ひでりちゃん、つまりそれは二人一組で戦うってこと?」
「当然。そのとおりよ」
ひでりが肯定し、もえは思案顔を浮かべることとなる。
タッグ戦はカードゲームが推奨する遊び方ではないため、明確なルールが存在しない。しかし、大抵の場合は二人で盤面を共有して戦うことになる。それは一人のプレイヤーがプレイしたカードを、相方が自分のカードのように使用する場面もあるということ。
将棋をタッグでプレイし、交互に一手ずつ打つ感覚に近いと言えるだろう。
ただ、この場面でもえが思案顔となるのは、ひでりが語った「相応しい相方を用意してもらう」という部分である。
つまり、無関係な人間をこの争いに絡めるなという意味。
これをひでりは「まだまだ未熟なかなでと美麗の実力を考えて、もえにハンデを課す」つもりで設定したルール。
相応しい相方などこの場にはおらず、もえがデッキを二個使って二面打ちをすることになる。そうすれば考えることが二倍になって思考に負荷がかかる。
ひでりはかなでと美麗を勝たせたいわけではないが、もえというプレイヤーの隣に好き勝手相方を置かれれば、しずくや葉月、ヒカリの誰が参加しても戦力が圧倒的にアップして試合にならないことを危惧したのだ。
「相応しい相方……かぁ」
そう呟き、もえはカード同好会の面々の方を見る。
見る者に恐怖心を抱かせる微笑みを湛えたヒカリは、今にも相方に立候補しそうだが、正直今回の件に関して知識がない彼女は相応しくない。
それは葉月としずくも同様で、本人は相方としてオーケーするだろうが、ひでりの定めたルール的にアウト。
まぁ、ぶっちゃけて言えばひでりの決めたルールに従う義務はない。
ただ、もえとしても無関係な同好会メンバーを争いに巻き込むことは気が進まず、一人ずつ相手にするのも変な感じがするので、
「分かった。私が二つデッキを使って二面打ちをする」
と、ひでりに対して言いかけていた。
だが、その時である――。
「……相応しい相方なら、ここに……いる。……私がもえちゃんの、相方を……やる!」
ショップの制服であるエプロンを乱雑に脱ぎ捨て、デッキケースを片手に幽子が現れる。
真剣な表情でもえの横に並び立ち、かなでと美麗に対峙。
幽子と同じバイト店員は勤務時間中であるため、慌てて「何してるの!?」と言おうとした――が、店長が爽やかな笑みで悟ったように静止。
お店公認ということで、相方に幽子が名乗りを上げる。
「幽子ちゃん……相応しいってどういうこと?」
「……もえちゃんと、二人の事情は……それとなく、聞いてた。……だから、こういう場……設けることに少し、協力してた」
「そうだったんだ? 知らなかったよ」
もえは「へぇー」と感心したようなことを口にしつつ、何となくひでりが幽子の名前を覚えたことの理由を知った気がした。
さて、幽子はこの一件にある程度関与しているため無関係の人間ではない。
だが――、
「黒井幽子、あなたが相方として相応しいかどうかはちょっと判断しかねるわね。結局、事情を知っているだけの人間じゃないの?」
中立の立場として幽子に出場資格を問うひでり。
そんな彼女に幽子はいつもの頼りなさそうな表情を払拭させ、迷いない表情と口調で語る。
「……事情を知った……だから、無関係じゃないよ。もえちゃんは私の友達……ううん、親友だと、思ってる。……そんな、もえちゃんを事情はどうあれ悲しませた人間っ! 一発かましてやらないと気が済まない――理由はそれで十分だよっ!」
言葉を重ねるにつれて沸き上がった感情、その吹き出すような思いは苛立ちのような荒々しい口調となって眼前の二人――かなでと美麗に叩き付けられる。
そんな幽子の信念を感じ、ひでりは肩を落として溜め息を吐き……そして「分かったわ」ともえの相方となることを認めた。
そして、ひでりは両手を打ち鳴らして告げる。
「それじゃあ、各々の腹に抱えた思いをぶつけ合うタッグ戦――始めましょうか!」




