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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛最終章「春、旅立ちの季節! さらばカード同好会!」
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最終話「私たちカード部ですっ!」

「ほんと今度会えるのはいつになるんだろうね。分からないけど、どっかで予定合わせようよ。……うん、また対戦もしたいよね。お互い頑張ろうね。うん、それじゃあ」


 電話を終えたもえの髪を吹き抜ける春風が揺らす。桜の花びらが舞い上がり、見上げた空に吸い込まれていく光景に思わず手を伸ばしてしまう。


 四月――三年生の卒業を経て、学校は新しい年度のスタートを切った。


 まずは入学式にて新一年生を迎え入れ、当然ではあるがもえは二年生へと進級。予定どおりカード同好会はカード部へと昇格し、立派な部活動の仲間入りを果たした。


 とはいえ、今もえが眺めている校舎――屋上から吊るされた垂れ幕には「祝・全国優勝! カード同好会!」と書かれており、賑やかな部長とドがつく変態な副部長がいた形跡は僅かだが残っている。


 風に弄ばれる髪を手で押さえながら、そんなカード同好会の栄光を見つめ、もえは活力に満ちた表情でカード部部長としての責務に気を引き締めるのだった。


 さて、新一年生を迎え、時は流れて今日――部活勧誘が始まる。


 一年生達は望みの部活を覗いて入部を検討するだろうし、上級生は新しい部員の獲得に必死となる。


 カード部は全国優勝の栄光があるとはいえ、カードゲームの市民権を考えれば大人気の部活というわけにはいかないことが予測された。


 とはいえ、だからこそ広めるためにカード部がある。


 自分が葉月に勧誘された時のことを思い出し、あんな風にやればいいのだと言い聞かせるもえ。


(……あれ? 私が勧誘された時のことって全く参考にならなくない? アニメ同好会の部室付近で通せんぼしろってこと?)


 全く参考にならない先代部長の部員勧誘。


 よく考えてみればもえ一人を獲得しただけなので、部長として忙しく部員集めをしたとか、そういうことは葉月にはないのだ。


「……まぁ、出来ることをやるしかないかぁ。体験会とかして、カードゲームに触れてもらう機会を作ったほうがいいのかな?」


 そのように呟きつつ、もえはカード部の部室へと歩んでいく。


        ○


 カード部の部室はもちろんカード同好会の頃から変わっていないので、目新しいものがあるわけではない。


 夏季に運び込まれたという稀有な経験を持つ灯油ストーブ、指を弾く音に反応して自動回転する謎技術のホワイトボード、萌え四コマの金持ち枠御用達紅茶セットなどなど。


「――って、ほとんどヒカリさんの私物っ! あの人持って帰ってなかったんだ。……しまったぁ、言っておけばよかったなぁ」


 顔を手で覆いつつ、嘆息交じりに呟くもえ。


 しかし、部室内にあるのはもちろんそれだけではなく――団体戦優勝のトロフィー、そしてカード同好会の五人が写る集合写真。


 何となくもえはその写真立てを手に取り、じっと見つめてみる。


(……あれ、どうしてしずくさん、目が赤いんだろ? こんなタイミングで目にゴミでも入ってたのかな?)


 そのように考えていると部室のドアが開く。音に呼応して振り向くと、やってきたのは当の本人であるしずくだった。


「あれ、部長。えらく早いんだね」

「しずくさん、前みたいに名前で呼んで下さいよー。肩書きで呼ばれるのは慣れませんから」

「そう? せっかく部長になったのに」


 どこかもえをいじるつもりで部長呼びしていたのだが――そんな彼女が手に持っている写真立てを見つけると、しずくは表情を引きつらせる。


「……ん? また、これは……どうして写真立てを?」

「あぁ、何となくですよ。カード部になっても相変わらずの部室だなぁ、なんて思いながら手に取ってて」

「そうなんだ。懐かしむのもいいけど、今日からは部活勧誘だからね」

「分かってますよ。私もいつまでだってカード同好会にしがみついてはいられません。なんたってカード部の部長ですからねっ!」


 写真立てを元の場所に置き、浮かばない力こぶを掴んで勇ましさを表現するもえ。


 一方でしずくは何とか写真から注意を逸らすことができ、内心で胸を撫で下ろす。


 自分の失敗など何とも思わず「そうなんだ」「違うの?」などと言った言葉でスルーしてきたしずくだが、涙脆い一面は絶対に知られたくないようだった。


 そのような会話をしているとまたドアが開き、今度は幽子が入ってくる。


 息を切らしており、何やら慌ててここまでやってきたようだった。


「……すみません、遅れてしまって」

「幽子ちゃん、お疲れー」

「……うん、お疲れ。もえちゃん」

「幽子、どうしたの? 走ってきた?」

「まさか。校内を走るのはトイレに慌てるしずくさんくらいですよ」


 いつもの調子で軽口を叩くもえ。

 しかし――、


「……走ってきたの、は美術部からの勧誘……大変で。……二年生の今からでも転部してくれないか、って……追いかけてきたん、です」

「美術部、結構アクティブだね。でも仕方ないか。文化祭で幽子の画力が広まっちゃったし」

「……え、あの」


 もえに冷たくしているというわけではなく、しずくと幽子はただ本題から逸れずに会話を続けたのみ。


 何も間違っていない……間違っていないのだが。


(あ、ヤバい……葉月さんとヒカリさんが卒業して、私の一言にキレたり悶える人がいない。これ、カード部一気に大人しい部活動になるんじゃないかな……?)


 意味の分からない部分で危機感を持つもえ。


 ちなみにしずくが語ったように幽子の画力はメアリーに認められて以後、急速に広まっていった。


 その理由はメアリーがカード同好会にもの凄いイラストレーターがいると自分のことのようにあちらこちらで文化祭中、自慢して回ったため。


 文化祭以後ちょくちょく転部の誘いはあったようだが、この春というタイミングが仕切り直すには最適ということでラブコールが激化したらしい。


 幽子も自分の画力を評価されているので素直に迷惑とは思えず、しばらくは美術部から逃げ回る日々が続くようだった。


 さて、幽子の受難が始まったことをしずくが「大変だね」と大して親身でもなさそうな口調で言っていた時――今度はドアがノックされる音が響く。


 カード部の部員は揃っている。

 そしてノックされるということは――!


 もえが期待に目を輝かせ「どうぞ」と促し、入ってきた人物。


 胸元に一年生を示すリボンを湛えた、三人にとって既視感ある少女だった。


「あ、あの……朱ヶ谷陽子、一年生っ! その……カード部に入部したいですっ!」


         ○


 時は流れ、一年生を含めたカード部の活動初日。


 あれから入部希望者は五人になった。勧誘ではしずく、幽子と共に行ったが、なかなか誘われてカードゲームを一から始めると言う心境にはなりにくいのか一人のみ獲得。


 部員数は合計八人ということでカード同好会時代を越える人数が部室に集まり、以前はちょうどよい広さの空間が今は狭いくらいだった。


(まぁ、幽子ちゃんがバイトの日にはやっぱりショップにみんなで行くんだろうし……広さは関係ないかな?)


 椅子に腰かけ、ずらりと並ぶ一年生たちを眺めてもえは気持ちが昂る。


 他の部に比べれば大したことはないのかも知れないが、今までの身内で細々とやっている感じを思えば部活らしくなったと言えるだろう。


 ちなみにそんな一年生連中の中には自ら入部を申し出てくれた、文化祭のオリジナルカードゲーム大会優勝者、朱ヶ谷陽子。


 そして、彼女と同じく勧誘ではなく自分の意志でカード同好会の扉を叩いた人物――緑川初芽もいた。


 これには正直、もえも驚きを隠せない。


 葉月の次女、初芽がこの学校に今年から入学してくることは知っていたもえ。もし関わることがあればよろしくと言われていたので頭の片隅には置いていたが、カード同好会に入ってくるとは聞いていなかったのだ。


 カードゲームは家で姉が広げているのを見ていたくらいで経験はないらしいが、高校でやりたい部活もないので自分の姉が発足した部活に入りたいと思ったのだとか。


 このカード部への加入をきっかけにカードゲームを初めていくようだ。


 その他、文化祭で幽子のイラストに感銘を受けて非プレイヤーでも構わないのか、という疑問を携えてやってきた夜乃島とばり。


 趣味でそもそもカードゲームをやっており、自分の志望校が突如として全国優勝したために本気で取り組んでみようかと思い入部した氷ノ山つらら。


 そして、しずくの勧誘によってそのクールな外見の虜になった光峰キラリ。この子に関してはしずくの本性を知ってどんな反応をするか楽しみではある。


 そんな感じでなかなかに個性豊かな面子が揃い、これからの活動が楽しみなものとなるカード部。


 今日は初めての活動ということで、まずは皆の前に立ってもえが挨拶をすることに。


 新入生五人と、しずくに幽子の計七人を前にして急に緊張を覚えるもえ。


 全校生徒を前に挨拶をする生徒会長などを思えば大した人数ではないはずだが、多くの人の前で話すことに慣れていないもえはいざとなってみると固まってしまった。


 頭の中が真っ白になり、顔から滝のように冷や汗を流す。


 しずくと幽子が不安そうに見つめ、そして新入生達は自分の入った部活の長が何を口にするのかと視線を向け、待っている。


(葉月さんだったらきっと緊張しないんだろうなぁ。あの人、団体戦の前日でも爆睡してるわ、当日の決勝戦も普段みたいにプレイしてたしなぁ)


 そんな緊張を携え、ちらりと写真立ての方を見つめ――もえはギュッと手を握って、何かそこから力を貰った気持ちで自分を振るい立たせる。


 葉月はこういう時、きっと明るく振る舞う。

 そして、ヒカリは優しく皆を安心させる!


(できる……できるっ! ――私にだって!)


 もえは咳払いを鳴らして仕切り直し、指をぱちんと鳴らす。

 回転するホワイトボード。


 そして皆の目に触れる「祝・入部っ!」の文字。それを手で叩き、どこぞの誰かみたく得意げな表情を浮かべるもえ。


「まずは入部してくれて、ありがとうございますっ! ウチは去年カード同好会として五人で発足して、団体戦の優勝という成果を認められたことで部になりました」


 もえが語りながら、脳裏で思い浮かべていたのは葉月が活動初日――そして、卒業の日に自分へ「ありがとう」と言ったことだった。


「この中にはカードゲームをまだ触ったこともないという人がいると思います。……でも、安心して下さい。私も去年の今頃は同じように未経験の素人でした」


 だからこそ、しずくやヒカリが丁寧に初心者である自分を導いてくれたことが嬉しかった。あの手引きがあったからこそ、自分はカードゲームを今日まで続けてこれた。


 不安なく、心から楽しむことができた。


 そんな風に自分も導いていけたらと――もえは思いながら語る。


「カードゲームは一人ではできません。だから、必ず誰かと競ったり支えられながら、仲間と強くなっていきます。かけがえのない仲間と一緒ならどんな不安だって乗り越えられますからね」


 同級生として特に仲がよかった幽子、そして目標をくれた葉月。仲間に支えられたからこそ越えられたものがあり、乗り越えられたからこそ――今度は誰かの力になりたいと思い、そんな相互の関係が強い絆となる。


 そんな日々を、もえは昨日のことのように思い出せるから。


「それがカード同好会で私が学んだことで……今でも大事なことだって胸を張って言えること。ですから、安心して新しいことに挑戦して欲しいなって思います」


 自分が知らなくて、誰かが知っていること。


 そんな未知の世界に飛び込むことを少なからず影響し、与えていたもえの言葉に幽子としずくは微笑みを湛えて小さく頷く。


 さて、堅苦しい挨拶はここまで――。


 カードゲームは、そして――カード部は楽しく、賑やかで、明るくなくてはならない。そして、ここにいる誰もがもう、カードに触ってみたくてうずうずしているのだから。


「自己紹介が遅れましたね! 私が……私がカード部の部長――赤澤もえ、どうぞよろしくお願いしますっ!」


⬛ちょっとだけあとがき


 なろうを読む人でかつ、カードゲームに興味や経験がある人以外は正直読まないんじゃないかって感じの本作。


 今このあとがきを読んでいる人が完結まで見届けてくれた人なのか、それともココだけ覗いている人なのかは分かりませんが……とりあえず、まずはありがとうございました。


 もし見届けてくれた人がいるのなら、あなたはカードゲームをプレイしている人?

 遊○王とかバト○ピ、デュ○マのアニメ見てた人?

 それともシャド○バースやハース○トーンみたいなソシャゲでカードやってる人かな?


 ちょっと聞いてみたい気はしますね。


 あとカードやってる人って、同好会メンバーの誰かに自分が重なるんじゃないでしょうか?


 プレイスタイルや考え方とかね。


 もしよかったら聞かせて下さい!(感想催促してるんじゃないよ)


 

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― 新着の感想 ―
[良い点]  本編、拝読させていただきました。  自分はカードゲームをやったことは無いのですよ~。  でも、とっても楽しく読むことが出来ました! カードゲームにちょこっと興味を持っちゃったり……。 …
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