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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第五章「冬の団体戦! 悩めるもえと葉月が明かす真実!」
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第十話「団体戦! カード同好会、最後の戦いが始まる!」

 時は流れて団体戦、地区予選の前日――カード同好会の五人は個人戦の時と同じくヒカリのマンションへ前乗りして翌日に備えていた。


 外は陽が地平線の向こう側へと沈みきった夜。夕食を用意するべくもえとヒカリが買い出しに出かけ、マンションには三人が残っている。


 本来ならば料理担当の葉月とヒカリで買い物に行くところ。しかし、今日は葉月を重点的に特訓するべく、しずくががっちりと捕まえているのでもえが買い出しへ向かった。


 というわけで、絶賛しごかれ中の葉月……なのだが。


「もう無理だぁー! 休ませてくれぇー!」


 持っていた手札をパラパラと机の上に落とし、葉月は座っていたリビングのカーペット上、上半身を床に預けて寝そべりながら泣き言を口にする。


「葉月さん、まだ地区予選の試合数分も戦ってないよ」

「地区予選はしずくに連続でボコられるような地獄じゃないよ、きっとー」

「……実はこうして、地区予選の方がマシと……思わせる教育法……なんですかね、これ」


 やはりというべきか、特訓はまだ始まって数戦だが一方的なしずくの勝利が続いていた。


 葉月が早くも根を上げたのは、同じデッキを使っているのにひたすら負け続けるのが精神的に結構なダメージだったかららしい。


 同じデッキに負けると実力差がダイレクトに伝わるのだ。


 確かにショップではもえやヒカリ、ひでりと互角に戦えるほどに卓越したプレイを見せる葉月だが、しずくのように正確無比というわけではない。


 しずくに比べれば今まで勝つことに固執しなかった分、足りていない経験が沢山ある。


 ――それこそが実力差。


 時には必要となる勝つための取捨選択。

 分の悪い賭けに出てでも勝利を掴みに行く決断力。


 そういった実戦で得られる感覚が葉月には不足していて。だからこそ今日まで対戦回数を重ねてきたのだが……やはり自分の本質と乖離した遊び方を繰り返したこともあってか、ちょっと葉月はまいっていた。


 半身を起こし、テーブルの上で片肘をついて嘆息する葉月。


「常に最適な答えを探すってなんか難しいよねー? 頭痛くなっちゃうよー」

「そう? クイズみたいで楽しい気もするけど」

「私はクイズよりもパズルの方が好きなんだよー」

「……確かに、コンボデッキって……パズルみたいなイメージ……かもですね」

「あんまりやり過ぎて明日に響いてもいけないし、とりあえず休憩にしよっか?」

「いえーい! 待ってましたー!」


 葉月は拳を高く掲げて歓喜すると、先ほどまで使っていた大会用のカードをさっさと片付け、別のケースから愛用するコンボデッキを取り出す。


「……息抜きも、カードゲーム……なんですね。……流石は、部長」

「当たり前だよー。……まぁ、しずく相手にコンボなんか決まらないだろうけどー」

「いや、それは分からないよ」


 葉月の自虐的な言葉に対し、しずくは否定して二つ目のデッキケースをテーブルの上に置く。


 その光景に「えっ!?」と声を揃え、目を見開く葉月と幽子。


 しずくは今まで大会で使う、ゲーム環境で優れたデッキを一つだけ所持して極めるように使い込んできた。だから二つデッキを持っているということが今までない。


 ただ、葉月は個人戦を控えた時期にプロキシで組まれたデッキをしずくが用意していたのを見たことがあるので、今回もそういうことかと思った。


 だが――。


「ウチのメンバーが誰も使ってないデッキを組んでみたんだよね」

「あ、プロキシとかじゃないんだー? 一体何のデッキだろうー?」

「ライブラリーアウトだよ。誰も使わないからやってみようかなって」

「……確か、ライブラリーアウトって……デッキ破壊のこと……ですよ、ね?」


 幽子は詳しくないなりに、記憶から捻りだした知識をたどたどしく語った。


 ライブラリーアウト――それは幽子が語ったようにデッキ破壊とも呼ばれ、カードゲームにおける勝ち筋の一つである。


 カードゲームは決められた枚数のデッキを用意して対戦する。そして、自分のターンには必ずカードを一枚は引くため、当然デッキの残り枚数は戦いが進むたびに減っていく。


 これがもし長期戦となってデッキのカード全てを引ききったら、どうなるのか?


 ほとんどのカードゲームにおいて、その答えは敗北。


 つまり――逆に考えれば、相手のデッキをゼロにしてしまえば自分の勝ちなのである。


 そして、その方法は相手のデッキをカードの能力で減らしたり、大量にドローさせるなど多岐に渡る。


 そんなデッキ破壊戦術だが、このカードゲームにおいてはそれほど強い戦い方ではない。


 カードゲームのタイトルによっては強力なライブラリーアウトも、このゲームでは成功したら拍手されてしまうような一発芸だったりする。


 デッキがなくなるスピードも速くないため、もえの速攻デッキなんかにはあっさりとやられてしまう。


 それをしずくが組んできたというのである。


「しずくがそういう面白デッキに手を出したってのは驚きだねー。どういう心境の変化なのさー?」

「うーん、どう言えばいいのかな……」


 顎に手を触れさせ、思案顔を浮かべるしずく。


「ゲーム環境で一番強いデッキを使う以外は、どの選択肢も勝ちに対して遠回りだって今までは思ってた。でもさ、遠回りしたところにある景色には何か意味があるのかなって……なんかそう思って。まぁ、気まぐれだよ」


 慣れないことをしている自覚はやはりあるのか、頬を掻きながら目線を逸らすしずく。


 随分と表情が豊かになった彼女に、葉月はちょっと嬉しくなって微笑みを浮かべた。


 そして、少し変化を見せたしずくに幽子は思う。


(……みんな、自分の領域の外へ……少しずつ、出てるんだ。……しずくさんだって、それは例外じゃ、なくて……何か、そういうのいいな)


 形容し難いワクワクを感じて、幽子はこっそりとデッキケースを取り出す。葉月との試合が終わったら輪に割り入って、戦いを申し込んでみようと思ったのだ。


 ちなみにそんな二人の趣味的なデッキの対戦結果は――あっさりとデッキを吹き飛ばされた葉月の敗北だった。


        ○


「ヒカリさん、告白の返事をします」

「えぇ!? 今ですかぁ!?」

「いえ、卒業式の日には」


 それは夕食の買い出しを終えて賑やかな店の立ち並ぶエリアを過ぎ、閑静な住宅街へと差し掛かった時のこと。


 もえが唐突に語った言葉にヒカリは心臓が飛び出しそうになり、そして次の瞬間にはずっこけそうになった。


 街灯が照らす明かりの下、肩で呼吸をして心拍数を整えるヒカリ。


「び、びっくりしたじゃないですか……恋人ができるのかと思って」

「えらくポジティブというか、自意識過剰というか……とりあえず、今は団体戦に集中しましょうよ。で、それが終わって卒業式には返事をしますから」

「……そうですか。でも、期限を決めていいんですか?」


 きちんと答えが出るまで考えたいと言っていたもえの言葉を思い出し、案ずるように問いかけるヒカリ。


「大丈夫です。きっと、答えが出せると思うんで」

「分かりました、じゃあ卒業式まで待ちます。……ただ、団体戦前日にえらいことを言いますね」

「目の前に人参ぶら下げた方がヒカリさんのやる気出るのかなって」

「もうっ! 流石はもえちゃん、私の扱いを分かってますね~♥」


 身を抱き、顔を赤らめて体を揺らすヒカリを見つめ、微笑ましい気持ちになるもえ。


(……何だか、こんな風にヒカリさんを悶えさせるのも久々かも)


 そのようにもえが感慨深いものを感じるように――彼女はヒカリへ、サディスティックな一面が出ないように今日まで努めていたのだ。


 それはヒカリへの気持ちを正しく知るための実験。


 今までからもえの中にヒカリといて楽しい気持ちはあって。


 無自覚にヒカリをいじり倒し、打てば響くいじめ甲斐が楽しくて……そんな中でもえはある日、自分のサド気質を自覚した。


 そして、後夜祭でヒカリから告白された時に言われたことを踏まえ、もえは想った。


 ヒカリはもえから罵られたり、冷たくされることを差し引きしても同じ気持ちでいられたことから恋愛感情を証明したらしい。


 なら、自分も同様に普段の言動から意図してサド成分を取り払ったなら――彼女に対してどんな感情を抱くのか?


 だから、もえはヒカリをいじめなかった。

 ……まぁ、先輩相手なのだから当たり前ではあるが。


 しかし、それも今となっては守る必要のないルール。


 気持ちを確かめる実験は終わり、そして「ヒカリに好かれるような魅力はない」と感じていた無個性な自分も最近は認められるようにもなった。


 そんなもえはすでに――答えを出している。


 だけど、それをヒカリに告げるというのはやはり勇気が必要。だから心の準備をするため、期限を設けることに。


 その準備というものがどれほどの時間で整うのかもえには分からなかったが、勇気も卒業という「逃せばヒカリがいなくなってチャンスを喪失する最後のタイミング」でなら自ずと出てくるのではないかと思ったのだ。


 もえは隣を歩くヒカリを見つめる。


(ヒカリさんは間違いなく今も私のことが好き。ほんと一途だなぁ。カードゲームのプレイスタイルもそうだけど、なんか揺るがなさが他のメンバーに輪をかけて強い気がする)


 そのようにぼんやり見つめていた視線は、もえの方を向いたヒカリのものと結びつく。


「返事、焦らなくても大丈夫ですよ。私……待てますから」

「じゃあ、ずっと待ちましょうか」

「それは流石に……というか、久々に辛辣な言葉をもらった気がします♥」


         ○


 ――団体戦、地区予選大会当日。


 夏の個人戦と同じ会場を前に、カード同好会の皆は並んで眼前の光景を見つめる。


 あの時とは違って冷たい外気、白く大気を染める吐息、そして戦いに赴くのはしずくではなく、葉月とヒカリにもえ。


 だけど――あの時と変わらず、ここへやってきたのは五人で。


 しずくに寄り添えなかったあの時の失敗を思い、四人は隣のメンバーと手を結び、それに倣ってしずくも同じようにする。


 そして皆は同じことを考える。


 五人で遠出をして、期待と緊張を携えて大会に臨む……そんな光景はこの戦いと、さらに進めたならその先の決勝大会で最後になるのかも知れない。


 来年、また予定を合わせれば葉月とヒカリを含めた五人で集まることはできるだろう。だが、今の五人がそのように考えていても、回り出した新しい生活の歯車がその光景に至るとは限らない。


 だから、悔いを残さないように――、


「カード同好会、決勝大会に進出するぞーっ!」


 と、葉月がいつもの歌うような口調を強めて叫び、


「私は出ないけど進出するぞー!」


 しずくが抑揚のない声を少し張り上げて宣誓し、


「……私も出ない、けど……進出する、ぞーっ!」


 おどおどした喋り方に芯を感じる幽子の言葉、そして、


「私は出ますし、決勝大会も進出しまーすっ!」


 いつもの微笑みを湛え、優しい口調に強さを忍ばせたヒカリ。


 最後に――、


「カード同好会、決勝大会進出するし……そのまま優勝もするぞーっ!」


 高らかなもえの宣言に皆が「おーっ!」と返事をし、五人は手を握ったまま両手を振って立ち幅跳びのように跳躍。


 訳も分からない気分の高ぶりで無邪気に笑いながら着地――と同時にドタバタと慌ただしく駆け、カード同好会は戦いの場へと向かっていく!


 


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