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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第五章「冬の団体戦! 悩めるもえと葉月が明かす真実!」
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第三話「ちょっと変わった一日、幽子ともえが対戦!?」

 カード同好会の活動が終わったある日、もえは自宅へ直帰せずにショップへ向かっていた。


 基本的にカード同好会は幽子がバイトで五人揃わない日にはショップで活動して、疑似的に全員集合という形を取る。


 正直、部室をもらっておきながら放置していることが多い、失礼極まりない同好会ではあるのだが……。


 しかし今日は葉月に用事があるらしく、彼女の時間が許す限りを部室で過ごして解散という流れになった。


 結果、短い時間ではあるが珍しいことに幽子の除いた四人で活動したのだ。


 そんなわけで早めに学校から解放されてしまったもえ。


 一度は自宅に帰ろうと思いながら、いつもやってくる同好会メンバーが今日は来ないことに幽子はどう感じるだろうかと考えると、自然にショップへ向かっていたのだ。


 ショップに到着すると、幽子はショーケースにシングルカードを並べているところだった。


「幽子ちゃん、お疲れ」

「……あ、もえちゃん。いらっしゃい……部活、もう終わったんだ?」

「うん。今日は部室で手短にね――って、幽子ちゃん知ってたの?」

「……うん、葉月さんから……今日は、ショップ行けないから……ごめんって連絡、あった」

「そうなんだ。まぁ、そりゃ連絡してるかぁ……。うん、まぁそんなわけで今日ショップに来たのは私一人なんだよね」

「……誰も来ないと……思ってたから、嬉しい」


 もえの来訪に幽子は上機嫌に表情を緩ませる。


「それにしても来たはいいけど、どうしようかなぁ。幽子ちゃんの顔見るついでに誰かいたら対戦しようかなと思ったんだけど」

「……そういえば、葉月さんに用事……あったんだよ、ね? ……しずくさんや、ヒカリさんは?」

「プレイヤーが奇数になるから葉月さんが帰るのと同時に解散したの。で、帰る途中になってショップに寄ろうって思ったものだから、無計画に行動してて」


 自分の衝動的な行動を恥じるように後ろ頭を掻くもえ。


 ショップの大会に参加するプレイヤーの何人かと、もえは気軽に対戦を申し込めるくらいに仲良くなっていた。


 なので誰かいればと思ったのだが、今日は知った顔が店内には見受けられない。


 さてどうしたものかと悩み嘆息するもえ。そこに幽子は「だったら」と提案する。


「……今日はちょっと……早めに仕事、終わるの。……といってもあと……一時間はある、けど」

「そうなんだ? じゃあ待ってるよ。一緒に帰る?」

「……いや、今日みたいな機会……なかなかないし、ちょっと……対戦しよう、よ?」


 幽子の珍しい申し出にもえは目を丸くする。


 一方で幽子は自分らしくないことを言った自覚が生まれたのか、目線を逸らして恥ずかしそうにする。


「なんか珍しいね。幽子ちゃん、デッキ持ってるの?」

「……一年に一回くらい、葉月さんに誘われて……プレイすることあるから、デッキはある。……普段はバラバラにして……ファイルに収納、しているけど」

「そうなんだ。じゃあ待ってるから対戦しよっか」


 今までにない機会ということでもえはちょっとしたワクワクを感じつつ、幽子の申し出を了承。


 彼女の仕事が終わる一時間、ショーケースを眺めたり、プレイスペースで体を突っ伏しだらだらして過ごすことに。


 ちなみに幽子の語る「今日みたいな機会はなかなかない」というのは、カード同好会が五人という奇数であることが関係している。


 幽子は非プレイヤーである。つまり彼女を除けばカード同好会は偶数ということで、二人対戦のカードゲームを扱う部活としてちょうどいい形をしているのだ。


 しかし、今日のように対戦してみたい欲が幽子の中に生まれると、彼女は非プレイヤーの自覚を強く持っているため、なかなか四人の合理的な人数を崩して輪に入れない。


 だからこそ、もえ一人がやってきた今日は良い機会なのだろう。


 一時間を少し超過して幽子は仕事を終えた。ショップの制服であるエプロンを取り去って、放課後の学生となった幽子はもえと向かい合うよう席へ腰掛ける。


「……葉月さんが、錬成したカード……並べてて。……ごめんね、遅れちゃった」

「気にしなくていいよ。……それより、葉月さんまた錬成したんだ? ほんと、将来ギャンブルとかにハマらないといいけど」

「……最近は動画配信……興味があるみたい、だから……そっちで成功すれば、大丈夫かも?」

「あぁ、そういえばまたアップされてたよね? 見たよー。しずくさん出てたよね」


 動画の内容は思い返してもおかしいらしく、もえと幽子は吹き出してしまう。


 葉月はあれからもコンスタントに動画をアップし続けている。幽子のサポートがないため、スマホで撮影した動画にパソコンで字幕を入れたりとった加工はできない。


 だが、そこは葉月の特技が光る所なのか、彼女は饒舌に対戦の実況を行い、口頭で分かりやすい動画を演出していた。


 のだが――。


「コメント欄、ほとんどしずくさんのことで埋まってたよね」

「……しずくさんのキャラ……強すぎて、葉月さん……必死に喋ってコンボ決めてるのに……全く、触れられてなかった」

「あれはほんとに笑ったなー」

「……だよね!」


 ただでさえSNSの大会結果などを介し、全国レベルで名が轟く強豪プレイヤーであるしずくが動画出演。


 しかも、動画内では大会と違って対戦中に雑談を交えるため、しずくの残念かつ不思議キャラが全世界へ公開される形に。


 それがカードゲーマーの間で話題を呼び、葉月としては複雑ながら幽子と一緒に作り上げた動画の再生数さえもぶっちぎる結果となってしまった。


 ちなみにこの動画出演はカード同好会のメンバー全員にオファーがいく予定らしく、その内ヒカリともえにも打診があるだろう。


 さて。葉月の動画投稿者としての話も落ち着いたところで、幽子はカバンからファイルを一冊取りだす。


 ちなみにカードゲーマーには結構、対戦する機会がどう考えてもない場面にもデッキを持ち込む人がいたりする。


 ひでりがこれに該当するのだが……幽子のようにコレクターであるのにカードを持ち歩くのは珍しいかも知れない。


「それにしてもどうして対戦しようって思ったの? やっぱり普段から見てたら、たまにはやりたいなって感じてくるとか?」

「……私が対戦するのは大抵……強引に葉月さんから、誘われた時ばっかり。……でも最近は、自分の意志で……やってみようかなって」

「なんで葉月さん、そんな強引に誘ってくるんだろう?」

「……私、相手なら……勝てるから、かも?」


 さらっと葉月のなかなかにクズなエピソードを聞いた気がして残念な気持ちになるもえ。


(……ほんと、葉月さんが勝つためのデッキ持ってよかったなぁ。やっぱりカードゲーマーとしてどこか、勝ちたい欲っていうのは溜まっていくものなのかも?)


 そんな思考の延長でもえは口にする。


「そういえば葉月さん、変わったよね。この前も勝つためのデッキ使って大会出てたし」

「……だね。……多分、自分の領域から出る、みたいなことに……刺激を感じてるんだと、思う。……私が対戦したいな、って思ったのも……そういうことだし」

「あれ、そうなの? 何かのブーム?」

「……確かに、流行ってるかもね。……でも、火付け役はもえちゃん、だよ?」

「え!? 私なの!?」


 突然、自分の名前が出てきたために素っ頓狂な声を上げてしまい、そんなもえをくすくすと幽子は笑う。


「……私なんかは、団体戦の店舗代表……決める大会でもえちゃん、ヒカリさんに勝ったでしょ? ……あれに触発されたところ……あるかも。あの試合……凄かったから!」


 どこか興奮気味に語る幽子に対して、もえは逆に表情を曇らせていく。


 ヒカリとの戦い。それはもえにとって運ではなく、プレイや経験、知識を総動員して勝利した大事な戦いで……でも、その勝因は今のもえにとっては忌むべきもの。


「いや、凄くないよ……あれはヒカリさんのデッキを真似して弱点が分かってた感じだし。あっちこっち色んなデッキに手を出した結果。私がやってること、なんか一貫性がないよね」


 それはもえにとってのコンプレックス、個性に関わることで。


 皆が己のスタイルを貫いていく中で、自分一人だけがプレイスタイルをコロコロと変えているのをもえは良く思っていなかった。


 もちろんカードゲームにおいてあらゆるスタイルを学び、実践するのは正しいことだ。寧ろ一個のスタンスに固執するよりも優れたことだと言える。


 しかし、自分の中に揺るぎないスタイルを持つ者達に囲まれれば、憧れてしまう。


 もえの中で「一筋」というのは格好いいのだ。

 それはもう――憧れるほどに。


 しかし、もえはつい興味が向くままあちらこちらに手を出してしまう。


 だからこその劣等感。自分にはそういった個性や、特色、揺るぎないものがなくて……一貫性なく、フラフラとしていて――どうしたって他の皆と比べれば劣っている。


 そう、思っていたのだが――。


「なに言ってるの~♥ それが凄いんだよぉ~! ウチの部員ってみんな何かに振り切れてる人ばっかりじゃない? でも、もえちゃんは一つのことに捉われない! ほんっと器用で万能というか……格好いいよね~♥」


 どこか沈んだ空気さえ醸し出していたもえを他所に、いつもの「語っていい?」を省き、熱弁モードへと移行した幽子。


 豹変した幽子を見るのは慣れてきたもえだが、今回は唐突であったために思わず「うわっ」と驚きを声に出してしまう。


「そ、そうなのかな……初めて言われたよ、そんな風に。……でも、もし仮に器用だったとして、それは器用貧乏で良いことじゃないよ。あと、なんでスイッチ入ってるの?」

「そんなことないよ~♥ もえちゃんってきっと飲み込みが早いんだよね。だって始めて一年ないのにカードでメンバーと渡り合ってるし。文化祭準備の時だって綺麗な絵描いてた! 絵もずっとやってるわけじゃないんでしょ?」

「ま、まぁ、お恥ずかしながら……っていうか幽子ちゃん、だからスイッチ入ってるって」

「羨ましいなぁ~♥ 私は不器用だから絵ばっかりやってて……だから時々思うんだぁ。万能に物事をこなせたら世の中のたくさんに触れられるのに、って。きっともえちゃんは器用だから色んなことを素早く吸収して、次に行けるんだね! なんか憧れちゃうなぁ~、そういう人間性能が高い感じ…………♥」


 空想の世界にトキメキを感じたり、カードゲームの世界観に憧れを抱く時と同じ口調で幽子は熱烈に語り、そして目を閉じると天を仰いで祈るように手を重ねる。


 そんな語り口調なだけに、それは圧倒的な説得力を帯びていた。


 苦手だった一貫性のない自分。


 色んなことを始めては挫折して、何かで一筋になれる人に憧れていた。……でも、そんな自分こそを好意的に捉える人がいる。


(結局、私はどうやってもこうにしかならない。熱中するのは格好いい。一筋である姿に憧れる。でも、フットワークが軽いっていうのは決して駄目じゃないのかな? 個性の檻に捕らわれず、変化し続けられると考えれば……ちょっと自分を好きになれるのかな?)


 悩んでいた劣等感、それを相談することなく答えをもらってしまったもえ。


 もえは五段階評価で言えば「5」は出せないが、色んな分野で「4」が出せる。それはそれで、凄いことなのだ。


 だからこそ、もえはちょっと自信を笑みに含ませる。


「自分のそういうところ、気にしてたんだけど……なんか勇気もらっちゃった。ありがとね」

「……前に話したこと、あったけど……私にはなくて、もえちゃんにあるもの……これだったんだ、ね!」


 幽子がギュッと目を閉じた笑みで語る言葉に、もえは遠征の時に二人で書店の喫茶スペースにて語ったことを思い出して目頭が熱くなる。


 個性というものをしっかり持った人達に囲まれて、一度は否定しかけた自分を好きになれた。


 幽子や葉月、それに一つのことだけを見ないようにすると誓ったしずくも、実はもえから刺激を受けている。それだけの価値がある、もえにしかないもの。


 もう彼女の中に、劣等感はなくなっていた。


 さて、そんな思春期真っ只中な会話を経て――話題は幽子のデッキへと移行していく。


「で、幽子ちゃんってどんなデッキを使うの?」

「……好きなイラストや、設定のカードで固めて……世界観を再現する、感じ。……能力の組み合わせとかは無視して、好きなカードで固めるから……全然、勝てないんだけどね」


 そう語って幽子がファイルから取り出したカード。それはストレージにて三十円で叩き売りされている、能力がピーキー過ぎて実戦ではまともに使えない一枚。


 そのアンバランスな能力はカードに描かれたキャラクターの設定に起因している。


「へぇ~、そういうのも楽しそうだよね。私もやってみようかな?」

「……うん、やってみようよ。……楽しいから!」

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