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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第四章「秋の文化祭! ヒカリと幽子の挑戦!」
33/101

第五話「バーガーショップで作戦会議! もえと幽子死す!?」

 体調不良を理由に部室からヒカリが出ていった翌日。


 部室にはきちんと顔を出していつものように振る舞っていたため、一見彼女の中の問題は解決したように思える。


 しかし、時折見せる元気のなさそうな表情や嘆息は隠しきれておらず、あの場に居合わせなかった幽子としずくも、ヒカリの様子がおかしいことに気がついた。


 ただ、事情を知らない幽子としずくが「どうかしたのか」と本人へ問いかけても答えを得られるはずはなく、ヒカリは「大丈夫ですよ」と言ってそれ以上踏み込むことは許さない空気を作り出してしまうのだった。


 ……というわけでカード同好会の活動が終了した後、解散したと見せかけてヒカリ以外の四人は集合し、昨日あったことなどの情報を共有することに。


 カードショップを擁する商店街にあるファストフード店にて、ハンバーガー片手に相談が行われた。


「……ヒカリさん、どうして元気……ないんでしょう、か?」


 早速、幽子は話題に触れつつ、小さな口でハンバーガーにかぶりつく。


 あまりこういうお店には来ないようで、幽子は子供のように気分が高揚していた。


「そもそもの話だけどさ、ヒカリさんが個人的な事情で落ち込んでる可能性はないの?」

「それはちょっと考えづらいねー。なんか私かもえがヒカリの触れちゃならないスイッチを押しちゃった感じー?」

「多分、そうですよね。私なのかなって思いますけど……」


 もえはちょっと表情を曇らせながらポテトを口にする。


 自分の言葉を最後にヒカリは部室を出ていったため、もえは理由も分からないまま罪悪感を抱いていた。


「ヒカリさんが元気ないっていうの、珍しいかもね」

「……いつも明るいイメージ、でしたし……意外です。……明るいって、言っても……葉月さんみたいな、騒がしいタイプでは……ないです、けど」

「私が騒がしいー!? 幽子、そんな風に思ってたのー!? コンニャロー!」

「葉月さん。多分ですけど、それですよ」


 もえに「今まさに」を指摘されてしまった葉月。恥ずかしくなったのか萎縮してドリンクのストローを口に含み、閉口。


「……とりあえず、ヒカリさんがその時……どんな感じ、だったのか……教えて」

「その時の状況? えーっと、葉月さんが突然カリスマになりたいとか言い出して」

「なるほど。それでヒカリさんの元気がないんだ」

「……親友が、間違った道……進もうとしてたら悩む、よね」

「そんなわけないでしょー! まだ話の枕だからー!」

「わかったって。葉月さん、ちゃんと聞くから」


 葉月を宥めるとしずくは片手でハンバーガーを口に運ぶ。


 ちなみにしずくはこういったお店には頻繁に来るらしく、注文も手慣れたもの。セット注文の仕組みがイマイチ分かっていないことも含めて、かなり慣れていた。


「じゃあ話を進めますね。……それで、ヒカリさんが『私はMですか?』って聞いてくるから『ドがつくほどのですよ』って答えました。その質問の時点で様子はおかしくなった気がします」

「……あれ? 私がカリスマになりたがってる件、必要だったー?」

「カリスマ云々はともかく、ヒカリさんはMじゃなくてHだよ?」

「え!? ……そうなんですか? 意外と淫らなんですね。まぁ、あんなワガママボディしてるんですから、不思議でもないのか」

「……もえちゃん、そこ……ツッコむところ、だよ?」


 口元にケチャップをつけたまま幽子は、もえがしずくの天然という渦に飲まれかけていたところを救出する。


 とりあえず、しずくにはSかMの話であることを説明する。


「なるほど、そういうことか。確かにMっぽいよね、ヒカリさん。前からそうなのかなって思ってたけど……やっぱりなんだ」

「あれ? しずくさん、気付いてたんですか?」

「戦ったり、見てたら分かるものじゃない?」

「まぁ、そうですけど……」


 もえは普段ボーっとしているイメージがあるしずくに「考えれば分かるだろ」と言われた気がして、複雑な気持ちに。


 それを喉奥に追いやるように、ジト目になりつつポテトを数本つまんで口へと運ぶ。


「……私はちょっと、びっくり……ですけどね。……まったく、気付かなかったです」

「とはいえ、それで元気なくすのかな? Mだって言われたのが相当ショックだったとか?」

「それは私たちも考えたんだけど、どうもしっくりこないよねー」


 葉月は四人で話してもやはり同じところに思考が至ったか、と肩を落とす。


 飲み終えたドリンクの氷を食べながら、何か見落としはないか思考を巡らせる。


「そういえば私がヒカリさんと前に遊んだ時の会話、あれを持ち出してすぐ部室を出ていったんですけど、もしかして――」

「――静かにっ!」


 人差し指を口元で立てて、もえの言葉を遮ったしずく。


 しずくの言葉に従って全員が口を噤み、そして彼女が指で示す方向に視線を向ける。


 その先にあるレジカウンターにあろうことか、ヒカリが立っていたのだ。


 どうやら偶然にもヒカリが今までの時間をどこかで過ごした後に、この店へとやってきてしまったらしい。


 店員へ注文を伝えるヒカリ。


 四人は持ち帰りであることを願ったが、それも虚しくヒカリは「店内で」と答えた。


 やがて出来上がった商品を乗せたトレーを受け取り、店内の空席を探すヒカリ。


 四人はそんな彼女の動向を伺うこともできず、ただ身を丸くしてヒカリの視界に「同じ制服の学生がいる」程度の情報しか与えないように努める。


 こうして集まっているのはヒカリのため――だが、それが伝わっていない状態で鉢合わせするのは仲間外れにしている形となるので、当然ながら避けなければならない。


 結果――どうやらヒカリはカード同好会のメンバーが同じ店にいるという認識には至らなかった。


 しかし、仕切りを挟んで隣の席に着席されるという最悪の状況に。


 この店の構造上、四人が出ようとすれば確実にヒカリの前を通ることになる。つまりはヒカリが帰宅するまで息を殺して耐えなければならなくなったのだ。


 話すことなく、無駄な動きも取れないために聴覚が敏感になっている四人。食事を始めたヒカリの呟くような独り言まで聞こえてくる。


「……はぁ。いつもならハンバーガー三つじゃ足りないのに。なんか調子出ませんね。ポテトもL一つだけ。こんなのおやつじゃないですか」


 不満そうにぶつぶつと語り連ねるヒカリ。


 普段どんだけ食うんだよ、


 ――と大声でツッコみたい気持ちと、悩んでも結局かなり食べるヒカリに、しずくを除いた三人は笑いを堪えるべく口元を押さえる。


 顔を真っ赤にして笑い我慢、自分の口を塞いで笑い死ぬという新手の自殺を試みる三人。


 そんなことは知る由もなく、ヒカリは溜め息を吐き出す。


「これも失恋って言うんでしょうかねぇ? 早く本調子に戻らないと……きっとみんなに迷惑かけちゃってますよね。ほんと悪いことして、申し訳ないです」


 心から四人に対して申し訳ないと思っていることが伝わるヒカリの口調。


 しかし――四人はさらりとヒカリから漏れ出た「失恋」というワードへ過敏に反応する。


 各々、驚きつつもそれを抑えるのだが、感情が動きに出やすい葉月は瞬間――テーブルの裏面に膝蹴りをかます形になってしまい、鈍い音を立ててしまう。


 クリティカルヒットしたらしく膝をかばいながら苦痛に歪んだ表情を浮かべ――しかし声は出せないために顔を赤くし、白目を剥いて震える葉月。


 声に出せないぶん、脳内で「んーっ! んーっ!」と悶絶を叫ぶ。


 そんな光景が面白過ぎてさらに笑いを堪え、窒息寸前な幽子ともえ。


 しずくだけは無表情ながら、物音を立ててしまったことに対する危機感を抱いていた。顔には微塵も出ていないが。


 とはいえ、そんな物音にヒカリが反応する様子はない。


 当然である。隣の席には女子高生が四人もいるのだから、それくらいの騒がしさはあって当然。寧ろ、大人しいと感じていたくらいだ。


 もの凄いスピードでハンバーガー三つとポテトのLを食べ終え、ヒカリ。口元をナプキンで拭って、また独り言を呟く。


「……意外とまだ食べられますね。帰りに牛丼屋でも寄っていきますか」


 葉月が抱えていた膝の痛み、そして二人が堪えていた笑いがようやく沈静化してきたところに、ヒカリはまるで狙い澄ましたかのように腹ペコ発言を投じる。


 笑いのタガが完全に壊れてガバガバになった幽子ともえは、十分な酸素も得られないまま再び口を押えて笑いを耐えることに。


 あの世はそう遠くないだろう。


「いや、バーガーショップをハシゴという選択肢もありますか」


 追い打ちのようなヒカリの呟き。


 じゃあここでおかわりして行けよ、と大声でツッコミたい欲求を必死に我慢させられる幽子ともえ。


 感情を体の中に溜め込んで爆発しそうだった。


 さて、先ほどまで爆笑地獄にいた葉月は、膝に受けたクリティカルによってかなり冷静。


 そして、ヒカリの「失恋」というワードを加えて巡らせた思考が、今回の答えに触れた気がして……葉月はちょっと呆れていた。


 まず、葉月は強化合宿の際にヒカリからもえのことを好きになったかも知れないと相談を受けていた。その時にヒカリが語った症状は、思い返してみればドMが抱くものだったのだろう。


 だが、ヒカリ自身はそんな自覚なくそれからの日々を過ごし、もしも――もしも自分の感情を好意だと解釈していたら?


 そして葉月は思考を昨日のことへ切り替える。


 もえがヒカリに「好きです」と言われたことが愛の告白で――しかし、当の本人がそのように受け止めていない事実を、知らされてしまったとしたら?


 自分の感情が恋愛感情ではないと暴かれたのが――あの瞬間だったとしたら?


(……あ。これ、もえとヒカリの勘違いで引き起こされてるなぁー)


 とうとうカード同好会のメンバーに正解を導き出した者が現れた。


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