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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第四章「秋の文化祭! ヒカリと幽子の挑戦!」
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第四話「葉月、カリスマを夢見る! 一方でヒカリの様子が!?」

 学校の皆が文化祭を意識し始める、十月下旬となった。制服も冬の装いとなり、ブレザーを見にまとった姿が目に慣れる。外気は少しずつ冷え、街路樹は赤く染まって季節感が風景に彩りを添えていた。


 そんなある日の放課後――もえが部室へやってくると葉月、ヒカリの二人しかいなかった。


 幽子はバイトで来ないと聞いていたが、しずくに関してはいない理由が分からない。クラスの用事があり、遅れたつもりでいたもえは何か嫌な予感がした。


 ……とはいえ、しずくも流石にボケた老人のように部室が分からなくなっていたりすることはない。はず。


 気にしないことにして「お疲れ様です」と挨拶し、席に着くもえ。


 しかし、そんなもえの挨拶に返事をしたのはスマホをいじっているヒカリのみ。


 葉月は片肘をついて思案顔を浮かべ「うーん、うーん」と唸っている。二人に会話はなく、それぞれがただ時間を持て余している感じだった。


(……何だろう、この倦怠期迎えたカップルみたいな構図は)


 ちなみに葉月とヒカリが率先してカードゲームで対戦することはあまりない。ヒカリと葉月のデッキ相性が極端だからだ。


 まずヒカリが耐久戦術の一つとして、ひたすら相手の動きを邪魔する。よって葉月のコンボが完成はしない。


 すると葉月はデッキを変える。悠長に何ターンもプレイしない限り完成しないが、成立したら相手が一撃で敗北するコンボデッキを用いて、ヒカリの長期戦前提のスタイルを利用し勝つ。


 つまり、どちらかが圧倒的になってしまうため、対戦することが不毛なのだとか。


 さらに同じ学年であるため、普段から話すせいで話題も尽きて今のような光景が生み出されるのだ。


 しかし、様子がおかしい葉月。何かに悩んでいるようで、時折頭を抱えて「どうしたらいいんだー」などと、明らかに構われるのを待っている。


(ヒカリさん、相手してあげればいいのに……これも二人にとってはよくある光景なのかな)


 もえは優しさを発揮して、葉月を構うことに。


「葉月さん、悩み事ですか? 珍しいですね」

「聞いてくれたのは嬉しいけど失礼だなぁー!」


 歪んだ心を持ったもえに発揮できる優しさはなかったらしく、案の定葉月を怒らせる。


「前から薄々感じてたけど確信したよー。もえ、結構な毒舌家だよねー。サディスティックとも言えるかもー」

「いやぁ、それほどでも」

「何で褒められた感じで受け止めてるのさー……」

「まぁ、自分でもMというよりはSかなって感じもするので」

「あ、自覚してるんだー」


 葉月ともえの何気ないやりとり。


 それを傍から聞いていたヒカリは突如、目を見開いて過敏に反応する。


「で、何を悩んでたんですか?」

「実は、もしかしたら文化祭でカリスマになれるんじゃないかなーって」

「いや、葉月さんじゃ無理だと思いますけど……」

「待て待て、この場合のカリスマの意味を理解してから言ってもらわないとー!」


 そう言って、葉月はこの場合におけるカリスマについて説明する。


 カードゲームにはメーカーが用意したキャラクターが存在する。それはアニメに出てくるキャラクターではなく、実際に人間がコスチュームを纏った広告塔のような存在だ。


 そして、それは「カリスマ」と呼ばれることが多い。


 こういったキャラクターを抱えるカードゲームは結構あり、しずくの出場した個人戦の決勝で実況したのもこのカリスマである。


 というわけで、カリスマについての説明を受けたもえ。


「つまり、文化祭で奇抜な仮装をしてみんなの前で黒歴史の一ページを新しく記したいと……そう言ってるんですね!」

「文化祭しか合ってないよー! 私が言いたいのは、カリスマみたいに文化祭でプレイする一般人を導くポジションがやれるんじゃないかなってことー」

「じゃあコスプレめいたことはしないと?」

「したいかなー」

「なら黒歴史のくだりまで全部合ってるじゃないですか」

「黒歴史にはしないってー。……でも、やるとしたって蛇足になったら困るからねー。やっていいものかなーって悩んでてさー」


 言い終えると葉月はテーブルの上に突っ伏し、溜め息を吐き出す。


 一方で話を聞かされたもえは、葉月が遠征の時に語った夢と重ねて思案していた。


 彼女の夢は「カードゲームを広める何かをやりたい」であり、それはもしかしたらカリスマも含まれるのかもしれない。本心もきっと「やりたい」で決まっていて、誰かの後押しが欲しい状況なのだろう。


 今回の文化祭が夢への予行演習をテーマにしているならば、葉月だってそこに含まれていいはず。


 なら、もえが口にすべき答えは一つ。


「私はやってもいいんじゃないかって思いますけどね。葉月さん、誰かを導いたりするの向いてると思うんです。私も何だかんだでカード同好会に籍を置いたのは葉月さんに勧誘されたからですし……あ、そうだ。ヒカリさんはどう思いますか?」


 もえは葉月の背中を押したい気持ちを口にしつつ、先ほどからずっと喋っていなかったヒカリへと意見を求める。


 しかし、いつものように優しい表情を浮かべて意見をくれると思っていた先輩はそこにはおらず、表情が抜け落ちたヒカリがスマホの画面に視線を注いでいた。


 ただ呼びかけは聞こえていたようで、もえの方をゆっくりと向くヒカリ。


 そして、話題とは関係のないことを口にする。


「もえちゃん、私って……もしかしてMというやつなんでしょうか?」


 突然問いかけられたことに、もえはきょとんとしてしまう。


「え、あ……はい。というか、ドがつくようなMだと思いますけど……」

「ドがつく、というと……それはかなり度合いが高いということですか?」

「まぁ、そうでしょうね。断じてソフトではないかと」


 ヒカリはもえの言葉を受ける度に表情を曇らせていく。


 その理由が分からないためにもえも形容し難い不安感が、心の中で水をカーペットへこぼしたかのように広がっていく。


「うんー? ヒカリ、さっきからスマホじっと見てたけど、それを調べてたのー?」

「初めて聞いた言葉でしたので。その……SやMだとか、そういう表現は」

「そういえばさっき、そんな話してましたね。……っていうか、ヒカリさんはそういう知識がなかったんですね」


 もえはヒカリが自信の性癖に対して正しい名前を把握していなかったことに驚きつつも、


(……まぁ、育ちの良いお嬢様だと案外と知らないものなのかな。バラエティ番組とかだと結構聞く言葉だけど、そういう情報源がなかったらもしかすると……?)


 といった感じで納得に至った。


「にしても、私はそんなイメージなかったなー。ヒカリってMなの?」

「寧ろ、私としては気付いていない葉月さんに驚きなんですけど。ヒカリさんを紹介された日に確信しましたよ。怒られるようなことばかりついついやってしまうから天然なのかも~、って話をしたじゃないですか」

「んんー? 確かにしたかもねー。しかし、ヒカリがMって……そんな節が今までにもあったのかなぁ」


 葉月は腕組みをして首を左右に傾げながら回想する。


 最初は半信半疑だった親友の性癖。


 しかし、考えれば考えるほど――ヒカリがMだと前提で過去を振り返れば振り返るほど、もえの言葉の信憑性に磨きがかかっていくのを葉月は感じるのだった。


 そして……。


「……あ、確かにヒカリってMかもねー。いや、ドMかぁー!」


 今まで感じていたヒカリの行動、言動に表情などへの疑問が全て氷解したからか、どこか気持ちがよさそうに快活な口調で葉月は確信を口にした。


 だが、そんな明るい雰囲気な葉月とは対照的に、ドン底までテンションが沈み切ったヒカリ。


(……あれ、ドMって事実がそんなにショックだったのかな。でも、いつだった二人で遊びに出た時、自分の性癖を自覚した感じのこと言ってたのにな)


 もえはその疑問を自分の中で抱えきれず、投げかけてみることに。


「あの……ヒカリさん、もしかすると自分の趣味趣向がマゾヒストという名前でショックなんでしょうか? でも確認しますけど……いつぞや自覚した感じで話してましたよね? 私と話していると嬉しかったり、楽しかったり、気持ちよかったり……だから好きですって? 私のSをきっと見抜いて、そういう対応をされるのが『好きです』って言ったんですよね?」


 気分が沈んでいるヒカリを思い、優しいイントネーションでもえは言ったつもりだった。


 しかし、ヒカリはその言葉こそがショックだったとばかりに目を見開き――そして、ゆっくりその瞼をけだるそうに落とし、溜め息を吐いて席を立つ。


 そして、短く「すみません、体調が悪いので今日は帰ります」と言ってカバンを抱え、ふらふらと部室から出ていってしまった。


 突然のことで呆然とするもえと葉月。


「……あれ、私なんかいけないスイッチでも踏んだんですかね?」

「ドMってそんなに不名誉なことなのかなー?」

「本当にそれであんな……思いつめたような表情になるんでしょうか」

「言葉どおり体調が悪いとかー?」


 開きっぱなしになった部室のドアを見つめて、二人は問いを繰り返す。しかし、答えが出ることはなかった。


        ○


 勢いに任せて部室を出てしまったヒカリ。


 顔を真っ青にして、ふらつく足取りで電車に乗って自宅まで戻ると、私室のベッドにうつ伏せとなって体を預ける。


 低反発のかなりお高いベッドであるため、優しくヒカリの体を包み込む。


 仰向けに体を起こして、これまたお高い天蓋付きベッドの上で体を大の字に広げ、物憂げな表情のヒカリは頭の中を整理する。


(……そっか……そうなんですね。私は痛めつけられたり、苦しめられたり、辛い目に遭うことで喜ぶ変態的なマゾヒストで。もえちゃんへの気持ちは恋心じゃなく、調教によって刻まれた変態の証が疼いていただけだったんですね)


 恋に悩める乙女のような憂いに満ちた表情だが、考えていることは最悪である。


(あぁ……なら、私の輝かしいあの日々は何だったんでしょう? しずくちゃんに注入したメイドインリア充、開運パワーは何だったんでしょう? ……まぁ、今はそんなことどうでもいいです。これも、あると思った恋を失ったと言う意味で……失恋と言うんでしょうか?)



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