表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第三章「夏休み突入! しずくの地区予選大会!」
22/101

第三話「カード同好会の夏休み! ヒカリ編」

 ――ある日、もえのスマホに電話があった。


 相手はヒカリで、受話口から聞こえる声は何やら緊張で震えているようだった。


 要件は夏休み中、予定を合わせて二人で遊びたいというもの。


 もえが「二人でですか?」と確認のために聞き返すと、ヒカリはこれを『えー? ヒカリさんと二人っきり……?』という不満のように受け止め、それはもう喜んだ。


 まぁ、ヒカリの勝手な悦びはともかくとして――結果、二人で遊びに出かけることに。


 さて、もえはその電話でヒカリからあるお願いをされていた。


 それが……、


『……で、あの、当日の計画はもえちゃんに立てて欲しいんですけど』


 というもの。


 ヒカリは何となくもえが自分を楽しませるための「言葉にしづらい何か」を持っていることを察知していて、当日を委ねたのかもしれなかった。


(……これ、期待されてる? 容赦なくやっちゃっていいのかなぁ?)


        ○


 そしてやってきたヒカリとの約束当日。


 しずくの応援遠征もあるためお金は使えず、交通費のかからない比較的近所で遊ぶことにしたもえ。お馴染みのカードショップも出店する商店街、その付近の施設やお店で計画を立てた。


 というわけで最寄りの駅にて待ち合わせ。


 集合時間はもう五分も過ぎているが、来ているのはもえだけである。


 そこから数分を待ってヒカリがもえの名前を呼びながらやってくる。近所に住んでいるのか、徒歩で駅へとやってきたらしい。


 白銀の髪に負けないくらい輝かしい白いワンピースを身に纏い、可憐な白百合を思わせる人物――ヒカリは満面の笑みを浮かべ、足早に寄ってくる。


 そして、もえのもとへやってきて息を切らしながら定番の、


「……待ちましたか?」


 を繰り出すヒカリ。対してもえは、


「ええ、待ちましたよ。時間は守りましょうね」


 どこかふてくされたような言葉。

 実際は怒っていないのだが。


「やんっ……♥ すみません」


 一つも謝っている態度は含まれていない、嬉しそうなイントネーションでヒカリは頬に手を添え、顔を赤らめて言った。


 もえを怒らせることが分かっていながら――いや、分かっていたからこそ、わざとヒカリは遅刻したのだ。


「じゃあ行きましょうか。まずは食事ってことで」


 そのように告げ、歩調を合わせることなく歩き出すもえ。


 この日、よそ行きの服を身に纏っていると予測し、ヒカリとのミスマッチを狙ったのか――もえは学校指定のジャージ姿だった。


         ○

 

「い、いきなりここに……入るんですか?」


 ヒカリは全身がゾクゾクして気持ちが高ぶるのを感じつつ、頬を紅潮させて言った。


 もえとヒカリは駅から徒歩数分の場所にある、大盛りと呪文で有名なラーメン屋の前にいた。


 ここで言う呪文とは無論「メンカタ~」とかいうやつである。


 正直、女子高生二人がやってくるだけでも珍しい。ましてや白いワンピースに身を包んだお嬢様が入るような雰囲気の場所ではない。


 油の匂いが充満し、出されるラーメンにもニンニクを多量に含んでいる。おそらく男性支持率によって営業できているであろうお店。


 服に匂いがつくため、最悪やってくるにしても遊びに出かけたシメにするのが普通。


 だが、もえは容赦なく「入りますよ」と言って店内へ。


 店内は食券を購入して注文するタイプのお店。もえは普通サイズのラーメンに決め、ヒカリは「もちろん大盛りですよね?」と煽られたため、持ち前の破滅願望で胃袋の容量を考えず大盛りを購入。


 出されたラーメンは山のようで、ヒカリの顔には冷や汗が滝のように流れる。


 普通サイズのラーメンを美味しそうに食べ始めたもえを横目に、自分がこれから立ち向かう困難にヒカリは全身が打ち震えるような興奮を感じた。

 

 ゆっくりと大盛りラーメンの処理を始めていくのだが、しばらくすると食べ終わったもえが、つけてもいない腕時計を確認するようなジェスチャー。


 そして、絶望的な宣告。


「映画の時間に間に合いませんね。早く食べちゃって下さい。残すのもよくないですし」


 鬼畜の所業としか思えないことを言い出すもえに、ヒカリは高鳴る胸を押さえながら思う。


(やっぱり葉月と話してたとおり……私ってもえちゃんのことを……?)

 

        ○


 あの量のラーメンを気合で食べきったヒカリ。


 ヒカリにとって大盛りラーメン自体は何だかんだで胃袋のキャパに収まる範疇……なのだが、食事に速さを求められることは今までなかったため、なかなか厳しいものが強いられた。


 膨れたお腹が揺れるのを感じながら、ヒカリはもえと共に予定されているという映画へ。


 しかし、実際に映画館へと着いてみると上映までは一時間も余裕があった。


「あっれー、時間を間違えてたみたいですね。すみません」


 無論、もえは事前に調べていたため、映画の時間も把握していた。


 先ほどの食事を焦らせるための嘘なのだが、ここで「じゃあ早食いの必要なかったじゃないですか!」と怒りださないのがヒカリである。


 胸がキュンとなるのを感じ、自分の気持ちへの理解を深めていくヒカリ。


 変態である。


 さて、そこからは映画までの時間を潰すべく書店へ。消化すべき一時間を立ち読みに使い、もえはヒカリを完全に放置。


 ちなみに育ちが良いヒカリからしてみれば「書店の本を買わずに熟読する」ということが常識になく、まるで未成年が煙草を吸っている光景を見てしまったような気持ちになる。


(もえちゃん、こんなワイルドなところもあるんですね。……ってやだ、私またドキドキして? やっぱりこの気持ちは……?)


 その気持ちはただの放置プレイによるものである。


 さてその後、映画の時間になると上映中もえはヒカリの隣で爆睡。


 映画の内容は張られた伏線の全てを後半で回収して、一気に引っくり返す爽快感抜群の内容……なだけに上映後、ヒカリはもえと感動を共有することができない。


 映画を終え、眠っていたため鈍った体を動かしてほぐすもえ。


 すると、数歩前を行くヒカリが僅かに手を震わせる姿を見つけ、ちょっと不穏な空気を感じる。


(……あ、ヤバい。流石にやり過ぎたかなぁ)


 そう思い、もえはちょっと様子を伺ってみることに。


「……あの、ヒカリさん。正直言って今日、楽しいですか?」


 楽しいわけがない。


 それはもえも分かっているのだが、ヒカリは振り返るとまるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、白い歯さえ見せて、


「うんっ! すっごく楽しいっ!」


 ――と、やはり常人には理解できない価値観で現状を満喫していた。


(あぁ……すごい、すごいよヒカリさん! 変態すぎるよぉ!)


        ○


 その後、夕食にもう一度同じラーメン屋へ行き、ヒカリに「流石に大盛り二回目は無理ですよね?」と煽って、大量の麺を胃袋へと収めてもらうことに。


 今回は焦らせる理由がなかったので、自分のペースで食べてもらう。


 苦もなく完食したので、もえは「ヤバいなぁ、この人」と自分の所業を棚に上げたことを思いつつ……すっかりと陽は落ちて、空は夜の支配下となる時間となった。


 駅にて、電車で帰宅するもえはヒカリと別れることに。


 今日という日があまりに楽しかったため、名残惜しそうに表情を曇らせるヒカリ。


 普通は今日のような遊び方をすることで表情が曇るものだと思うが……。


 そんな胸中を察するとはなく「それじゃあ」と言ってヒカリに背を向け、駅へ入っていくもえだったが――瞬間、


「あの……もえちゃんっ!」


 そう、強く呼び止めるヒカリ。


 今日という日が終わる前に……ヒカリにはもえへ伝えておきたいことがあった。


 何でも説明書を読み込んで、詳細を理解しないと納得できないヒカリ。


 彼女にとってもえへの感情は名前がなく、性格ゆえにどうにも釈然としない日々が続いていて。


 だからこそ、そんな名前をはっきりとさせるため、ヒカリは今日という日にもえと遊んだ。


 だけど結局、名前は分からなかった。

 ……でもそれでいいと、ヒカリは思えた。


 漠然としている感情。もえといると気持ちがドキドキして、胸がキュンとなって、気持ちよくなる……そんな茫漠とした感情を、彼女は「恋心」なのだと断定することにした。


 分からないからこそきっと、恋と呼ぶのだとヒカリは思ったのだ。

 だから――、


「私、その……好きなんですっ! もえちゃんと話していると嬉しかったり、楽しかったり、気持ちよかったり……こんなのおかしいって分かってるんですけど、でも!」


 ヒカリの心からの告白。

 ギュッと目を閉じ、祈るように両手を重ねて。


 ためらうようで、恥ずかしがるようで――でも芯の強い言葉。


 それを受けて、もえはゆっくりと頷く。


「分かってます……分かってますよ」


 ヒカリが自分の気持ちに気付いたように、実はもえも何となく分かっていたのだ。薄っすらと自分の奥底に潜む「それ」に気付いていた。


 もしかすると、電話をもらった時点で。

 だからこそ、自覚して今日をこんな風に計画できた。


 なら、答えは決まっている。


「私も……実は好きなんですよ」

「も、もえちゃん……!」


 微笑みを湛え、優しげなイントネーションで語ったもえに、ヒカリは目を見開いて口元を手で覆う。


(……嘘みたい。自分の気持ちを曝け出せただけでも驚いてるのに、まさか受け入れてもらえるなんて……でも嬉しい!)


 涙に滲む瞳を閉じ、喜びに満ちた表情を浮かべるヒカリに対してもえは思う。


(いやぁ、とうとうヒカリさんが自分のドMを自覚したかぁ。でも、私も認めないわけにはいかないよね……ヒカリさんといるとなんか妙に楽しくなる感じ。そっか……私って実はSだったんだなぁ。いじめるの、好きだったんだぁ)


 とんでもない勘違いを抱えたまま、この日――二人は別れた。


 そして、ヒカリは帰宅すると毎日つけている日記にこう書き記す。



『――生まれて初めて恋人ができましたっ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ