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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第三章「夏休み突入! しずくの地区予選大会!」
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第二話「カード同好会の夏休み! もえ編」

 待ちに待った夏休みに入って三日が経過した。


 夏休みといえば学生にはもちろん課題が与えられるわけだが、やらなければいけないことを抱えて休暇を楽しめないタイプのもえは、この三日で一気に片付けてしまった。


 ちょうどさっき最後の課題が終わったところで、用事もかねて凝り固まった体をほぐすべく散歩へ。


 外は夕暮れ。斜光がもえの住む住宅街を照らし、影が伸びる。


 真昼よりは過ごしやすい気温となってはいるが、それでも十分に夏の猛威が振るわれている外気に身を預けることを思って、もえは自宅の冷蔵庫からアイスキャンディーを片手に出歩いていた。


 時折、口に含めば暑さが紛れる。


 もえは少しずつ減っていくアイスキャンディーを見つめて「これが私のライフポイントだな……」などと思いながら歩んでいく。


 目的地はそれほど遠くない。

 ライフポイントもゼロになる前に往復して帰宅できると思われた。


 ――のだが。


「あぃえぇえぇえぇえぇ! なんでぇえぇえぇえぇえ!」


 情けない声を上げ、その場で尻もちをつくもえ。その反動で手から放れたアイスキャンディーが地面に落下する。


 もえのライフポイントは一瞬でゼロになった。


 ……一体、何がもえをそんなに驚かせたのか?


 理由はこの閑静な住宅街、十字路をまっすぐ進もうとしていたもえの視界に横から突如として現れた人物がいたからだ。


「やあ、もえ。偶然だね」


 現れたのはロードバイクに乗った青山しずくだった。


 突如として出現した同好会の不思議ちゃん。そして地面で無残な姿となったアイスキャンディー。両方を交互に見つめて正しい反応を取れないもえ。


(……え、何? なんで近所にしずくさんがいるの? っていうか私、よくしずくさんって一発で分かったなぁ。その長くない後ろ髪を二つに括る意味、なんかあるの? 何でボーイッシュにキャップなの? 何なの、この可愛い生き物!?)


 尻もちをついたままの後輩にしずくは手を差し伸べ、もえは何とか立ち上がる。


 軽くお尻を叩いて砂を払うもえ。


「驚かせちゃったね。でもよかったよ。そこの落ちてるアイスは踏まなかったみたいで」

「……このアイスもさっきの尻もちで落としたんですけど。私のです」

「ん? そうなんだ?」


 特に何も思うところがないようなしずくの返事。


 もえは遠回しに「お前のせいでアイスが駄目になった」と言っているつもりだったが、全く伝わっていないようだった。


 少し複雑な気持ちはあるが、別にアイスを何とかしてもらう気もないので忘れることに。


「しずくさん、それにしても一体何でこんなところに?」

「サイクリングしながらカードゲームのことを考えるたりするの結構好きでさ。最近は個人戦も近いから特によく走ってるんだよ」

「結構アウトドアなんですね」

「知ってた? これロードバイク。マウンテンバイクとは違うんだよ」

「知ってますけど……」

「ん? そう?」


 話を振っておきながらつまらなそうにするしずく。


 おそらくしずくが昔、ロードバイクとマウンテンバイクの違いを誰かに指摘されたため、そこで知った知識を得意げにもえへ語ったのだろう。


 覚えたての言葉を使いたがる子供みたいなものだ、ともえは解釈した。


「しずくさん、この辺が散歩コースだったりするわけですか?」

「いや、考え事をしてたらいつの間にかこの辺りにいてさ。ぶっちゃけ迷子だったんだよね」

「相変わらず冷静ですねぇ!」


 冷静沈着な迷子たるしずくと、ツッコミに吠えるもえ。


(しずくさん、やっぱり方向音痴も持ち合わせてるのかな。……でも強化遠征の時は街で単独行動するって言いだして迷子を心配したけど、結局は集合場所に一番早く来てたらしいし)


 とりあえず、ばったり会ったためにもえは帰り道が分かる場所までしずくを案内することに。


 ……まぁ、もえ自身の用事もこなしつつではあるが。


 そんなわけでしずくはロードバイクを押し、二人で並んで歩く。


「助かったよ。夜までに帰りたかったんだけど、半ば諦めててさ。プロの試合の生配信があってね」

「夜までに帰れない可能性は覚悟してたんですか……。しかし、プロの試合ってネット配信してるんですね」

「うん、配信のたびに楽しみにしててね。そういえば、もえは何をしてた所だったの?」

「散歩ついでに郵便局でちょっと手紙ってわけじゃないですけど、荷物を発送しようかと。フリマアプリで出品したものが落札されたんで、送らなきゃなんです」


 もえがアイスキャンディーを持っていたのとは逆の手には少し膨らんだ封筒。最近、フリマアプリで出品することを覚えたもえにとって、初めての商品発送だった。


「私も時々、出品したりする。自分の使ってるデッキが旬を過ぎそうならさっさと売りさばかないといけないし」

「そういえば前に言ってましたね。……というかしずくさん、ちゃんと発送できるんですか?」


 最近はセーフティーラインが掴めてきたのか、結構しずくに対しても失礼な発言を繰り出すもえ。


 以前、もえを「年上に失礼な物言いをするタイプではない」と表現した。あれは嘘だ。


 しかし、気にした様子がないしずくは「それなんだよね」と言って語る。


「ネット社会だから、逆に出品でもしないと郵便物ってあまり出さないじゃない? 昔は姉さんがやってくれたんだけど、今は自分でやらなきゃだから覚えるまで大変だったよ」


 溜め息を混じらせ、苦労話のように語ったしずく。


 ……まぁ、確かに「ちゃんと発送できるのか」と聞いたのはもえである。


 しかし「覚えるまで大変だった」と語るほどに郵送とは難易度が高いものだろうか……?


 そんなツッコみどころもありながら、もえは何より先行して気になることを問う。


「しずくさんってお姉さんがいるんですか?」

「うん。五つも離れてるんだけど、いるよ」


 姉の話題が影響したのか、急にしずくの表情は少し緩やかなものになる。


「やっぱりカードゲームやってる方なんですか?」

「もちろん。ウチの姉さんはプロプレイヤーだからね」

「えぇ!? お姉さんがプロプレイヤー!?」


 もえは思わず内心の驚きをそのまま大声に出してしまう。

 ただ、すぐにもえは考えを改める。


(……まぁ、確かに姉がプロプレイヤーなら、しずくさんの強さも頷けるのかな。将来の夢もそうだし、今日の試合配信ももしかすると?)


 青山しずくという人間の強さの裏付けを見つけた気がしてもえは納得した。


「私も自分からわざわざ話すことはないから、姉さんがプロプレイヤーだって知ってるのは、これでヒカリさんともえの二人になったのかな。苗字は姉さんも当然同じだけど、葉月さんや幽子はプロプレイヤーに興味なさそうだから、気付いてないんじゃないかな」

「そうなんですか? お姉さんがカードショップに来てて面識があったりってことはないんですか?」

「葉月さんと幽子は姉さんが高校を卒業して家を出た後、ショップに来るようになったからすれ違いになってるんだよね」


 しずくと姉が五つ離れているということ。そして高校卒業後にすれ違いで葉月と幽子がショップに来るようになったこと。


 それらを時系列順に並べていけば、カード同好会のメンバーの交友歴が浮かび上がりそうだった。


(……今、頭の中で整理するのは結構しんどいけど、みんな昔から付き合いがあるんだなぁ)


 そしてそれとは別に、しずくの姉がプロプレイヤーということで浮かび上がる事実もある。


 メアリーとの会話を思い出すもえ。


「そういえば、私のデッキのレシピってとあるプロプレイヤーが公開したものに似てるらしいんですけど……もしかして?」

「うん、ウチの姉さんのものなんだよ。私にとって『最強』って姉さんだから。プロの信頼できるレシピだしね」

「あー、そういうことだったんですね」


 どこか上機嫌なしずくの言葉に対し、もえは微笑ましい気持ちになる。


 しずくにとって姉はきっと憧れで……そして「最強のプレイヤー」というイメージがある。だからこそ、活動初日にもえが求めた「最強のデッキ」への回答として、姉のレシピを紹介したのだろう。


 何だかヒーローに憧れる少年を見ているようで、そんなしずくをもえは可愛いと思ってしまう。


「でも凄いですね、プロプレイヤーって。やっぱりプロになる前からお姉さんは強かったんですか?」

「うん、本当に強かった。全然勝てる気がしないくらいに」

「しずくさんがですか!?」

「理不尽なくらい強いよ。姉さんは私が今度出る全国大会の個人戦で優勝してるくらいだし」

「全国優勝まで!? ……まぁ、それだけ強かったからプロになるべくしてなったって感じなんでしょうね」


 しずくの姉、その経歴に驚きを通り越して溜め息さえ出るもえ。


「かもね。……で、全国優勝したのが今の私と同じ高校二年生の時なんだよ。去年は決勝トーナメントまで進んだけど、負けちゃったからね」

「じゃあ、今年こそは頑張らないといけませんね!」

「うん。今はどうしてもそのことで頭がいっぱいになっちゃうよね。今年は何が何でも勝たなきゃだし」


 どこか思いつめたものさえ感じさせる、真剣な表情になるしずく。


 憧れを追いかけ、プロプレイヤーにまでなりたいしずくにとって、姉の成し遂げた偉業の一つである全国優勝は、最低でも同じ年齢で成し遂げなくてはならない。


 そんな思いがしずくにはあるのかも知れない。


 どこまでも熱中して、真剣なしずくの横顔を見つめてもえは、


(やっぱりこういう風に一つのことに真剣なの……羨ましいな)


 と、ちょっとだけ悪い癖が顔を出し、それを必死に引っ込める。


「郵便局が見えてきたね」

「ホントですね。……あ、そうだしずくさん、知ってました?」

「ん? 何を?」

「自分の住所と相手の住所を逆に書いて切手貼らずにポストへ投函したら、相手の方へ返送されるから無料で送れるんですよね」

「へぇ、そうなんだ。今度やってみるよ」

「だ、ダメですよ! 冗談ですから!」


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