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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛第二章「強化合宿! カード同好会、大型大会へ!」
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第九話「非公認、もえの戦績は……!? そして新たなる出会い!」

 非公認大会は予選と決勝トーナメントの二段階で行われる。予選はスイスドローと呼ばれる方式で行い、決勝トーナメントで戦う「決勝進出者」を選出するのだ。


 ちなみにスイスドローとは、ざっくり言えば総当たり戦とトーナメントのいいとこ取りな対戦形式。トーナメントと違って全員が一定回数戦うが、総当たりほど試合数も多くない。


 勝ち数の近い者同士が戦う。

 これを順位が確定するまで繰り返す。


 初戦で負けて暇になるプレイヤーが生まれないよう、非公認ではこの形式がよく採用される。順位が確定するまで全員が毎回戦、誰かしらと試合の機会を得られるのだ。


 腕に自信がなく、知らないプレイヤーに試合を申し込む勇気がない者でも安心して誰かと戦えるルールなため初心者でも楽しめる。


 さて、行われたスイスドローによって決勝進出者が決まり……惜しくももえは予選敗退となってしまった。


 上から数えたほうが圧倒的に早い順位には入りつつも、ギリギリのところで決勝進出を決めることができなかった。


 あと一勝できていれば、決勝への進出は確実だっただろう。


 予選突破はしずく、ヒカリ、あとひでり。


 しずくは予選を一位で通過。決勝進出者発表は主催から名前を呼ばれるのだが、青山しずくの名は参加者達にも認識されているようで「流石だなぁ」という言葉が聞こえてきた。


 もえも「もしかしたら……」と思える勝利数であったために希望を捨てられなかった。次々と進出者の名前が呼ばれる度、期待と落胆を繰り返す。


 そして……結局、名前を呼ばれることはなかった。


 それはヒカリやしずくと、もえの現実的な差だと言えた。


 プレイ中、もえはミスを沢山自覚した。それはプレイしている盤面に未熟さを指摘されるような感覚、戦いに焦りが生じて乱れていく。


 運だけでは解決できず敗北する局面も多く、もえは根本的な力の至らなさと、非公認に集うプレイヤーの高いレベルを痛感した。


 ――悔しい。


 ただ、その言葉だけがもえの中で反響する。


 ショップ大会で負けた時とは比べものにならない。

 ギュっと拳を握って堪えるもえ。


 しずくに認められ、自信があっただけに――裏切られたような感覚が飽きっぽい自分を呼び覚ます。


 いつもなら「もうやめちゃおっかな」と簡単に投げ出す場面。何かに躓くと、乗り越える努力を思ってその場を去ってしまう。長く続けている者には敵わないと。


 なら、今回も――?


(……そんなことあるわけないっ! こんなにも悔しくて……今度こそはって次を求める感覚、初めて。何でこんなに悔しいんだろう。もっと強くなりたい、上手くなりたい! ここで得られるものがまだあるなら……全部吸収してやるっ!)


 もえの表情は清々しいものとなっていた。


 非公認大会はサイドイベントも企画されており、それも終わればカードプレイヤー同士の交流会となる。知らない人に試合を挑んでもいいし、思い切ってプレイを指南してもらうことだってできる。


 カードゲームは一人じゃできない。

 だからこそ――もえは容易に諦めるなんてできないのだった。


 とはいえ、予選落ちは予選落ち。

 決勝トーナメントは葉月、幽子と同じく観戦者という立場になる。


 ちなみに葉月は全敗だったらしい。だが毎試合、感嘆の声が上がり、それはもちろん葉月がコンボを決めた瞬間だ。


 勝ちに直結するコンボではないらしく、この非公認でも葉月は勝敗関係なくあくまでやりたいことをやったらしい。


 だが、勝者と敗者が同じように笑っている光景を作り出す葉月を、もえは傍から見つめて素直に凄いと思った。


(完全に違う価値観で葉月さんは楽しんでる。勝ったときの爽快感に代わる何かがあるのかな……?)


 さて、予選を終えれば決勝トーナメントである。順調に勝ち続けてトーナメントを勝ち上がるのはしずく、ヒカリ、ひでり。


 カード同好会の二人は実力を肌身で感じているため疑いようもないが、もえからしてみれば対戦相手をあっさりと下すひでりの姿が印象的だった。


(……やっぱりひでりちゃん、強いんだ。プレイにまったく迷いがないし、冷静。あの時の勝ちもマグレかも)


 そしてトーナメントは準決勝、ヒカリとひでりが相対することとなった。


 ヒカリの長期戦に転がり込もうとする戦術に対し、ひでりは抗うように猛攻を仕掛ける。そして数手先まで綿密に計画されたカードプレイによってヒカリは詰み――決勝戦は同じく駒を進めたしずくとひでりの戦いとなった。


 圧倒的な実力を持つしずくではあるが、やはり決勝戦が持つ雰囲気に飲まれたからか、もえは部員の勝利を祈る。


 そして、試合開始――。


 ひでりの使用するデッキはしずくと同じ、今のゲーム環境において流行しているもの。つまりは同じデッキを用いた「ミラーマッチ」と呼ばれる試合となった。


 まるで鍔迫り合い。


 一進一退の攻防が繰り返され、なかなか決着がつかない。


 ……なら、何が勝利の鍵を握るのか?

 そして……何が敗因となるのか?


 それは単純明快――ミス、である。


 互いが同じデッキを用いて最適解を弾き出し続ければ拮抗する。後半になってデッキから何枚もカードを引き出せば、お互いの手札の良し悪しもあまり影響しなくなってくる。


 だからこそ一方が少しでも最適解を打ち損ねれば――ちょっとした小石に躓いたがごとく、転んで隙が生まれる。


 しずくの強みは最適解を打ち損ねないこと。

 機械のように正確無比、それがしずく。


 そして、転んだのはひでりだった。


 顔から血の気が引き、瞬間的に自分の失敗を悟る。


 視線が焦燥感に駆られて俊敏に手札の上を滑り、震える親指を噛みながら軌道修正を図るも、一度傾いた自分の身を起こすことなどできない。しずくもその隙を逃すはずはなく。


 そして、しずくはひでりに引導を渡した。


 非公認、百人規模の大型大会にてカード同好会のエース――青山しずくが頂点に輝いた瞬間だった。


 ……一方で唇をギュッと噛んで、ひでりは心の底から己のミスを悔やむ。取り返せない失敗で敗北へと転がり落ちた自分を恨むように。


 真剣だったからこそ、負けた時には身を裂くような悔しさが全身に駆け巡る。ひでりほどではないにせよ、負けた悔しさを知ったもえは思う。


 きっとそれでも、ひでりは次こそは――と、諦めず戦うのだろう。


 心の中で、必死に戦った新井山ひでり――、一人のプレイヤーに「お疲れさま」を呟きながら、もえは他の同好会メンバーと同じく、エースの優勝を讃えるべく歩み寄っていくのだった。


        ○


 非公認大会はプログラムの全てを終えてしまえば、普段会う機会のない人達との交流会となる。


 しずくは優勝者ということもあり、沢山のプレイヤーから賛辞の声を送られ、葉月とヒカリも大会前と同じように知り合いのプレイヤーと対戦。幽子は同じ趣向の人間を見つけたらしく、陶酔モードで会話をしていた。


 さて、自分はどうしようか……?


 そう思っていたもえはふと肩をトントンと叩かれ、振り返る。


 すると、そこに立ってのはもえにとって既視感のある人物。


「さっきの勝負、本当に見事でしたネ~!」


 ――と、片言の日本語で話す女性。


 見る者の目線を奪う美しいブロンドの髪を肩まで流し、それに負けない高い鼻と掘りの深い日本人離れした整った顔をしている。


 それもそのはず……彼女は外国人。そして、もえが二回戦で試合を行って勝利した人物でもあった。


「あ、ありがとうございますっ!」

「私、メアリーといいマス! 試合で使ってたデッキ、面白かったですネ~。よかったらもう少し対戦したいなと思ったのですケド……!」

「対戦……もちろんです! あ、私は赤澤もえ……よろしくお願いします!」


 気付けば自然に伸びていたもえの手。握手に応じるメアリーは掴んだ手を引き、そのまま軽いノリでハグをする。


 もえには経験のないコミュニケーション。


 抱擁が解かれた時には顔が真っ赤になり、全身の骨が抜かれたようにへなへなとその場に崩れる。 


(海外だと普通なのかな……?)


 反応を面白がるメアリーに手を引かれ立ち上がるもえ。


 とりあえず対戦するにしろ、会話をするにしろ、立ったままでいる意味もない。二人は開いている席を見つけて座ることに。


「メアリーさんってお呼びしたらいいですか?」

「呼び捨てでいいですヨ。私はもえと呼びますネ! ……ただ、敬語は堅苦しいのでやめましょうカ?」

「え、あ、じゃあ……気軽にメアリーでいいかな?」

「いいですネー」

「ならメアリーも敬語はやめていいんじゃない?」

「あ、私はちょっと難しいですネ……そのー、他言語を覚えるのに精一杯ですからネ。なかなか砕けた感じに修正するのは……ごめんなさいデス」


 両手を合わせて丁寧に頭を下げるメアリー。


 謝罪が過度なため、もえの方が逆に申し訳なくなる。


「わ、わ、頭を上げてよ! ……言われてみれば確かに。外国の人からすれば方言みたいな感じなのかな? でもメアリーほんと日本語上手いよね」

「ほんとですカ? 本家に褒められて嬉しいですネー!」

「日本人を日本語の本家って呼ぶんだね……でもほんとに上手だなぁ。日本に住んで結構長いの?」

「一年経ったところですネ! カードゲームのために日本語を覚え、カードゲームのために来日、こうして大きい大会にも出られて日々充実してますヨー!」


 サムズアップしながらウインクをするメアリー。


 顔立ちのせいか、かなりそのポーズが決まっており、外国人を起用した広告でも見ている気分になってもえは吹き出してしまう。


 理由は分からないながら、メアリーももえの楽しげな雰囲気で笑い出す。


「それにしてもカードゲームって結構ワールドワイドなんだぁ。私、まだ始めて一か月くらいだからあんまりその辺の事情とか詳しくなくて……」

「一か月!? それであのプレイはなかなかですネー。ちなみに、このカードゲームは全世界で遊ばれていて、プロのプレイヤーなんかもいるんですヨ?」

「カードゲームにプロ!? 知らなかったなぁ……なんかすごい世界」

「私も知った時は驚きました……でも、カードゲームは観戦していても見ごたえがありますから、プロのように魅せる人が出てくるのは当然ですネ!」

「あぁ、確かにそう考えたらプロがいてもおかしくないかな」


 もえはしずくとひでりの戦いを思い出しながら腑に落ちるものを感じた。


 観戦しているのに自分のことのように白熱する感じ。そして、手に汗握る攻防、硬直した盤面から一気に結末へと動き出すドラマ性……カードゲームは確かに競技だ。


「ちなみに私、好きな日本人のプロプレイヤーがいまして……その人が一時期使っていたデッキにもえのものが似てるんですよネー」

「あれ、そうなの? 私はこれ、友人から勧められて……」

「じゃあ、友人さんはプロの試合観戦が好きだったりするのかもですネー」

「ちなみにその友人、今日の優勝者だよ」

「青山しずくですカ!?」

「あ、やっぱり有名なの?」

「前に参加した非公認大会も彼女が優勝でしたからネー。あー、なるほどなるほどデス……」


 メアリーは手をぱちんと合わせ、何かに感動したように納得を示す。


「ものすごーく納得しましたヨ。……で、一応そのプロのデッキレシピは公開されているので誰でも真似できるんですケド……もえのは少しアレンジがしてありますよネ? それが私には面白くて今日一番、印象に残りましたヨ!」


 心底楽しそうに語るメアリー。


 もえのデッキ……それはつまり、葉月の影響を受けてコンボを組み込んだもののこと。


 今日のメアリーとの試合ではそのコンボを炸裂させることで文字通りの瞬殺。メアリーは呆気に取られた表情を浮かべており、それはもえにとっても印象的だった。


「自分なりにいじってみたんだけど……逆に悪くなってるかも」

「そんなことはないですヨ! 素晴らしい自己表現デス。ガンガンやっていくべきだと思いますネ!」


 ガッツポーズをし、快活な笑みで語ったメアリー。


 その言葉にもえは驚きを表情に浮かべながら、まるで自分自身を肯定されたように感じられる、打ち震えるような喜びを覚える。


「そう言ってもらえると、嬉しいな! ……うん、ありがとう!」


 もえはお礼を口にしつつ、考えていた。

 どうしてこんなにも嬉しいのだろうか、と。


(……そっか。今日は負けたこともそうだけど、自分のアイデアで敗れたのも凄く悔しかったんだ。自分自身が否定された気持ちになって。でも、逆の気持ちもあるんだ。自己表現を認められる楽しさ――これが葉月さんの原動力なのかな? だとしたら私にも分かる……自分をさらけ出すのって楽しい!)


 それから――もえとメアリーは対戦を繰り返した後に連絡先を交換し、また会うことを約束。


 もえの初めての非公認大会参加は満たされたものとなった!


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