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私たちカード同好会ですっ!  作者: あさままさA
⬛短編集「語るほどでもなかった!? カード同好会の日々!」
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第二十二話「カード同好会のお正月! 赤澤もえ&緑川葉月編」

《カード同好会のお正月・赤澤もえの場合》




『笑っちゃいけない番組が始まりました! 笑ったら私もお尻を叩かれたらいいんですよね?』


 十二月三十一日、夜六時半――ヒカリから送られてきたメッセージにニヤニヤが止まらないもえ。


 今日は年末恒例の二十四時間お笑いの刺客からの攻撃を耐え、もし笑ってしまえばお尻をシバかれるアレの放送がある。なので、もえは楽しく視聴できる罰ゲームアリのルールをヒカリに紹介していた。


 ルールは簡単、番組を見て笑ったら自分もお尻をシバかれる。一種の視聴者参加型である。


(ヒカリさん本当にやってくれるんだ。流石はドM……痛みに前向きだなぁ)


 もえはヒカリに「そうですよ。頑張って下さい!」と返事した。


 ちなみにもえもリビングのソファーに崩れるよう体を預け、テレビを見ている。だが映っている番組は例のアレではない。


「ヒカリさんには悪いけど、私あの番組は録画派なんだよねぇ。年末は紅白見ないと終われないし、そもそも――」


 このお尻をシバかれる視聴ルール、友人と一緒にいなければ一体誰が罰ゲームを執行するというのか。もえの場合なら両親にお願いすることになってしまうだろう。


(家族で笑いながらお尻シバきあってるのは流石にヤバいからね。でも、だとしたらヒカリさんは一体誰に……?)


 考えても当てはまることのない罰ゲーム執行人。しかし、叩かれている様を想像すると面白くやはりニヤニヤしてしまうもえ。


 ここまでニヤニヤするならば実際にヒカリのみならずカード同好会で集まって年越しをすればよかった。そうすれば五人で罰アリルールでお尻をシバき合えた。……まぁ、しずくが圧勝しそうではあるが。


 しかし、そうならなかったのはそれぞれ年末年始は家で過ごすことになっていたり、用事もあったのだ。


 そんなわけで――例年どおり家で過ごすもえはテレビの前でスマホをいじりながら紅白待機。やがて番組が始まると、トップバッターに人気女性アイドルグループが登場した。


 可愛らしい衣装に弾けるような笑顔。しかし、決して生ぬるくない歌声とダンスを披露する。


 その中の一人にもえは注目した。


「この子、幽子ちゃんが好きなアイドルだ。たしか、光峰キラリ。この紅白で活動休止するって言ってたなぁ」


 特に推しているわけでもないけれど、何となく活動休止の理由を考えてしまうもえ。


(引退じゃなくて、休止かぁ。たしか中学生だったと思うし、学業に集中とか? どっちにしても私より若いのに凄いなぁ)


 何かを極め大成した人間。もえはやはり、こういった一つのことを貫く人間に尊敬を抱く。


 例えば、どこぞの受けるデッキばかりを組んで喜ぶ職人気質のプレイヤーのように――。


        ○


『いやぁ、もの凄い回数お尻を叩かれてしまいました……。あんなに笑わされては体が持ちませんよ』

「その割に声が弾んでますね。楽しんでもらえたようで何よりです」


 年を越してから少し経った頃――もえが朝まで生放送される音楽番組を見ていたところにヒカリから電話があった。


 どうやらついさっき例の番組が終わったようで、長時間に渡るシバきの感想を伝えたかったようだ。


『まさかカウントダウンも何もなく年を越すとは思いませんでした。恐ろしい番組ですね……』

「ヒカリさん、初めてあの番組見たんですか。そうなんですよね、年末の風情とかそういうものを全く無視した番組ですからね、アレは」

『何度も笑ってしまったので大変でした。まぁ、私のお尻を叩いてくれたメイドさんの方が大変だったかも知れませんが……』

「あ、メイドさんに叩いてもらったんですか。立場的に凄くやりづらかったでしょうし、ヒカリさん自身思うところはなかったんですか」

『長年仕えてきた身として驚きはないと言われました』

「優秀なメイドさんですね。お父さんに言って何か手当を出してもらうべきですよ」


 メイドと聞けば若い女性を連想してしまうが、ベテランの中年女性でもおかしくはない。その方向で想像してみるとそれはそれでも面白く、もえは吹き出しそうになるのを我慢した。


「それにしてもあの番組、みんなで見たらきっと楽しいんでしょうね!」

『あぁ、それは私も思ってました。集まれたらよかったんですけどねぇ』

「毎年あの番組はやってるんですよね? じゃあ来年……いや、年が変わったので今年ですか! 今年こそはもえちゃんに叩いて欲しいですね!」

『叩かれることがメインディッシュみたいになってますよ。……あ、いや。ヒカリさんの場合はそれでいいのか。まぁ、別に叩くのは構いませんけど』

「本当ですか!? 約束ですよっ!」


 ある意味キャラぶれしていないヒカリに微笑ましくなるもえ。


 ちなみに卒業の日にもえがヒカリに出さなければならない回答――それがこの約束によって見え隠れしていることは二人共気付いていない。


 学校が別れても年末一緒にいる光景を疑わず、前提として話せているのは――まぁ、そういうことなのだろう。



 

《カード同好会のお正月・緑川葉月の場合》




「ごめん、葉月。悪いけど、今年はあんたお年玉無しね」

「ひいぃっ! 私が死んだぁーっ!」


 ガクッと膝から崩れ落ち、葉月は母親からの死刑宣告に放心状態となった。


 元旦、緑川家ではギリギリな家計から何とか捻出したお年玉が子供達に配布される。無論、葉月もれっきとした緑川家の長女であるため受け取れると思っていたのだが――与えられたのは死刑宣告のみ。配布イベントは無慈悲にも終了した。


 子供達はポチ袋を手に上機嫌に子供部屋へ戻り、配布会場たる居間には抜け殻のような葉月とそれをニヤニヤと見る初芽の姿だけがあった。


「……今年から大学生だからって理由でお年玉無しかぁ。結構、強引な理由だけど家計を考えたら仕方ないのかな」

「いやいや、ちょっと待ってよー! 今年度はまだ高校生なんだけどー?」


 実は生きていた葉月、初芽の言葉に体をビクつかせて我に返った。


「でも、大学生になれるかどうか――そして、高校生でなくなれるかどうかわからないのに。お母さんもヒドイよねぇ」

「ヒドイっ! ヒドイのは初芽のほうじゃないー!」

「いやいや、お姉ちゃんのためを思って言ってるんだよ? もし卒業できなかったら――もしくは大学に落ちたら、その時は改めてお年玉を請求する権利が発生するじゃない」

「もしそんな悲惨な現実に直面したらお年玉なんてどうでもいいよー!」

「まぁ、それで人生の階段踏み外して路頭に迷ったら私が拾って世話してあげる」

「路頭に迷わないよー! でも、そうなったら世話してくれるんだ……。冗談でも何だか安心しちゃうよー」

「冗談じゃないんだけどね」


 初芽は小声で言ったため、その本心は葉月には届かなかった。

 もし聞く者がいたら心臓を鷲掴みにされる感覚のする、怖いトーンだった。


「とりあえず、せっかくお正月なんだし初詣に行こうよ。お姉ちゃんが路頭に迷わないようお願いしに行こ」

「そこは大学合格じゃないのー? っていうか、お年玉もらえなかった私をお金使う場所に連れて行く気ぃー!?」

「お金使うって……お賽銭のこと言ってる? あー、でもお姉ちゃん確かに賽銭も惜しむくらいピンチだろうねぇ」

「確かに、って何さー? 私の財布の中身知ってるわけー?」

「知ってるよ」


 初芽は小声で言ったため、またもや葉月には届かなかった。

 

        ○


「こんな何の意味もなさそうな紙切れにお金を使うのー!? 初芽、私がお年玉もらえなかった惨劇を忘れてないー?」


 初詣のため神社へやってきてお参りを済ませた葉月。現在罰当たり確定な文句を言いながら、初芽に背中を押されておみくじの売り場にやってきていた。


 二人と同じくおみくじを求める人が背後に並んだのであまりもたもたしてはいられない状況だが、葉月は腕組みをして難しい表情。


「忘れてないってば。でもお姉ちゃんはここで自分の運勢を見ておくべきだよ。ほら、百円くらい出せるでしょ」

「嫌だー! その百円にあと五十円足したら一パック買えるのにー!」

「じゃあ百円だけじゃどう足掻いてもパックは買えないんじゃない。ほら、引いて引いて」

「本当に買うのー!? お年玉をアテにして年末に財布フルバーストしたから本当にヤバいんだけどなー。年明け早々錬金術コースなくらいヤバいんだけどなー」


 とにかく難色を示す葉月だったが、これだけ時間をかけて結局買わない選択をした時に後ろで並ぶ人と販売員がどう思うかを考え――結局購入。不服そうにおみくじを開く。


 ――さて、おみくじは言ってみれば運試し。

 カードゲームにおけるある要素に通ずるものがある。


 それは勿論カードパック開封であり、金銭的にピンチな葉月がおみくじを引くと当然――、


「うわぁ、大大吉だってー! 初めて見たんだけどー!?」


 周囲の視線を集める悲鳴のような葉月の叫び。

 初芽は隣からクジを覗き込む。


「え、本当だ。お姉ちゃん、凄いじゃない! よかったね!」


 自分の勧めどおりくじを引いてよかっただろう、と言わんばかりの得意げな表情を浮かべる初芽。しかし、葉月は相変わらずの不満げな表情に不安さえ滲ませる。


「よくないよー! こんなところで運を使って大丈夫かなー?」

「大学受験の心配? 知らなかったら今のうちに現実を教えておくけど、大学受験って抽選で合否判定するんじゃなくて学力勝負なんだよ?」

「流石にそれくらい知ってるよー!いや、受験はどうでもよくて。それより錬金術に使う運が……」

「とても高三の発言とは思えないね……」


 嘆息で大気を白く染める初芽。そんな妹の呆れを他所に、葉月はきょろきょろと周囲を見回す。


「どうしたの、お姉ちゃん」

「いや、この大大吉ってシークレットみたいなものだろうし買い取りしてもらえないかなってー」

「もらえるわけないじゃない」

「あはは、ないよねー。冗談だよー」

「まぁ、私が買い取ってもいいけど」

「え、何でー!?」


 驚きつつも葉月は初芽にクジを二百円で売り、そのお金で調子に乗ってクジをさらに二枚買った。当たり前のように大大吉を二枚出し、さらに妹へ売却――結果、所持金が何故か三百円プラスとなった。

 どうも、久しぶりのカード同好会更新でした。

 振り返ると特にオチがある話ではないですね……。

 まぁそれはいつもどおりかも知れませんが笑


 もちろんしずく、ヒカリ、幽子編も投稿予定です。そして、この話でもチラリと出てきたようにずっと予定していて書いていない「もえ二年生編カッコカリ」の登場人物が出てきてます。


 誰に需要があるか分からない続編ですが、こうしてそこの登場人物をチラつかせることで振ったからには書かざるを得なくなる→書く気になるという目論見があったりします。


 この目論見はしずく、幽子、ヒカリ編でもやるかも知れません。

 ちなみに二年生編一年分のプロットはできてたりします。

 あとは書くだけ。

 

 まぁ、そのリハビリ的な短編としてのお正月編だったということで……。

 敢えてこう言いますが、書かかせてくれてありがとうございました!

 続きのお正月編もすぐに投稿します。

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