『破宮のデクテット』
大須さん視点。
二年生の十二月。角くんへのプレゼント考え中。
角くんへのクリスマスプレゼント、せっかくなら喜んでもらいたい。
でも、角くんが何をもらったら喜ぶのか、わたしはあまりわかっていない。
角くんの好きなものなら知ってる。ボードゲームだ。
でも、ボードゲームだってボードゲームに関係したものだって、よく知らないわたしが贈っても、角くんにとって嬉しいものになるとは思えない。
それで結局、前は兄さんに相談して、サイコロのキーホルダーにした。角くんは喜んではくれたけど、機嫌良さそうな顔はいつも通りだったから、どのくらい喜んでもらえたのかはいまいちわかってない。
それに、キーホルダーばかり贈っても仕方ないだろうし。
角くん本人に聞いてしまえば良いのかもしれない。でも、それもあからさまな気がする。
それで結局、わたしはまた兄さんに相談することにしたのだった。
兄さんの部屋のドアをノックする。返事があったのでそっと開けると、いつものローテーブルの上に、カードだとかタイルだとかがいっぱい広がっていた。その前に座った兄さんが、こちらを振り向いている。
何かのボードゲームを広げていたらしいと知って、わたしは部屋の中に入らずに、部屋の中を見ないように、声をかける。
「相談があるんだけど」
「入って良いぞ」
「嫌だ。ゲームの中に入っちゃうかもしれないし」
兄さんはテーブルの上を眺めて、それから仕方ない、というように立ち上がってドアのところまで来てくれた。
わたしの体質のことを知ってる兄さんだけど、そのことをあまり気遣ってくれていない気がしてる。角くんはいつも、気にかけてくれるのに。
「それで、なんだ? 割と今、手が離せない局面なんだけど」
「一人で何してたの?」
「何って、ボドゲ。先月発売された『破宮の十重奏』ってゲーム。一人用のやり応えあるデッキ構築ゲームで、敵を倒しながらダンジョンの奥深くまで進んでボスを倒すんだ」
「ゲームの話は聞いてない」
「今ちょうど、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ」
「そんな大変なゲームなの?」
「ダンジョンに挑戦するメンバーは十人いるんだけど、一回に一人しか挑戦できなくて、攻略に失敗すると一人ずつ死んでくんだ。でもただ死ぬだけじゃなくて、そのときの演出が良いんだよ、これがさ」
わたしは溜息をつくと、相槌も打たずに、自分の要件を切り出した。
「角くんて、何もらったら喜ぶかな」
わたしの言葉に、兄さんは面倒くさそうに口を開いた。
「前にもその話しただろ。ボドゲ関連の何か、それこそアクセサリーとか、グッズとかで良いんじゃないのか?」
「やっぱりそうなるよね」
わたしはもう一度、溜息をつく。兄さんが眉をしかめる。
「人にアドバイス求めておいてその態度はなんだよ」
「はいはい、ありがとう」
やっぱりもうちょっと自分で考えようと決めて、わたしは兄さんを見上げた。
「あとは自分で考えるから、もう良いよ。ゲーム中にごめんね、ゲーム頑張って」
兄さんはあからさまにうんざりした顔をしたけど、きっとボードゲームの途中だからだと思う、それ以上は何も言わずに部屋に引っ込んだ。
よほどゲームの続きを遊びたいらしい。
わたしの角くんへのプレゼント探しは、全然進まない。
『破宮の十重奏』
・プレイ人数: 1〜2人
・参考年齢: 10歳以上
・プレイ時間: 30〜100分




