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席替え*honey  作者: 春隣 豆吉
選択*darling
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卒業式とはじまり

 私と沙和は卒業したばかりの高校の校舎を見上げた。

「なーんか卒業まであっという間だった気がするよ」

「そうだね~」

「沙和には彼氏ができたし」

「そうだね~・・・って、ちなちゃんっ!!そ、そりゃそうだけど・・・やっぱり私は、ちなちゃんと友達になれたことが一番嬉しかったよ」

「北条さん、探したよ」

「島崎くん、沙和とは正門で待ち合わせって私は聞いてるんだけど」

「正門で待ち合わせなんて混雑してて無理。だからさっさと探すことにしたんだ。北条さん、帰ろうか。村上さんも元気でね」

「へっ?えっ?」

「沙和、今はおとなしく王子と帰ったほうがいいかもよ?あとでメールするねー」

「え、ちなちゃん?」

「村上さんとは今後も仲良くしたいな」

「そうねえ、沙和の彼氏でいる間は仲良くしてあげてもいいわよ」

 私がにやりと笑って手をふると、島崎くんもふっと笑う。うーん、非常に認めたくないんだけど沙和の言うとおり、私と島崎くんって似てるんだろうか・・・うわ~、やだやだ。

 島崎くんと手をつないで沙和が帰るのを見送ると、私は改めて校舎を見上げた。まあ可もなく不可もなく、親友も出来たし悪くなかった高校生活だったなあ・・・彼氏はできなかったけど。

 校舎から視線を外すと、鈴川先生が歩いてくるのが見えた。


「村上、卒業おめでとう」

「ありがとうございます、鈴川先生・・・あれ、女の子たちは帰ったんですか?」

 鈴川先生は最後まで女子生徒に人気で、一緒に撮影なんかをしていたのを私は遠くから見ていた。

「用事が終わればそりゃさっさと帰るだろ。でもさすがに疲れた。村上、時間があるなら・・・」

「村上さん探したよ」

 そこに下野くんが現れた。鈴川先生が黙ってしまったけど何を言うつもりだったのかな。

「どうしたの、部長」

「部長って。もう引退したんだから、そろそろ名字に戻してくれないかな」

「あ、ごめん。どうしたの下野くん」

「実は昨日、一口アップルパイを作ったんだ。よかったら美術室で食べない?」

 そういうと部長は目の前に袋を出した。おおお、下野くんのお菓子・・・後夜祭いらいじゃん!!

「下野、美術室の鍵をまだ持ってるのか?」

「・・・これから鳥海先生に借りようかなと」

「この混雑で探せるのか?数学準備室でよければ場所を提供してやるよ。ついでにコーヒーもいれてあげよう。村上は紅茶でいいよな」

「え、本当ですか。下野くん、どうする?」

「そうだね。うん数学準備室でもいいよ。鈴川先生、僕も“ついでに”紅茶でお願いします」

「・・・下野はコーヒーも好きだよな?」

「僕は紅茶のほうが好きなんですよ。なんでしたら僕が美味しくいれましょうか」

「下野くんのいれる紅茶、美味しいよね~。先生も飲んでみたら絶対気に入りますよ」

「数学準備室の備品を生徒に使わせるわけにはいかないよ。じゃあ2人とも行こうか」

 鈴川先生はそういうと下野くんの申し出をにっこり笑って断った。下野くんの紅茶を飲めないのは残念だけど、確かに先生方が使っている備品を元とはいえ生徒が使うわけにはいかないよね。

 私は下野くんと鈴川先生と最後のお茶会をするために校舎に戻ったのだった。



~下野くん視点~

 お菓子と紅茶を楽しんだ後、村上さんが手を洗いたいと数学準備室から出て行った。

「鈴川先生が村上さんと一緒にいたので驚きました」

 僕がそう言うと、鈴川先生は意外だという顔をした。

「そんなに驚くことじゃないだろ。私は昨年、村上の担任だったんだから」

「それはそうですけど、でもずいぶん気にかけているんだなあと思いまして」

 実際のところ、鈴川先生は村上さんのことを単に生徒として考えてるなら、僕の邪魔をしないでほしいんだけど。

「村上って面白いよな。おとなしそうな外見だけど実は結構手厳しい発言するし」

「・・・なんで知ってるんですか」

「んー、ちょっとな」

 そう言うと鈴川先生は楽しそうに笑った。その顔は以前に廊下で村上さんに向けた笑顔と同じ・・・勘違いであってほしかったことが確信に変わる。

「先生、8歳も離れた元生徒じゃなくて同年代の方に目を向けたらいかがです?」

「下野、お前分かりやすいんだなあ・・・大学は高校の隣だからね。ま、これからだよ」

「先生こそ、分かりやすいですよ。僕、負ける気さらさらありませんよ」

「油断大敵っていう言葉があるよなあ、下野」

 2人でそのまま黙り込んでいると、数学準備室のドアが開いて彼女が入ってきた。

「お待たせしてすいません。先生、長居しちゃってすいません。下野くん、そろそろ帰らない?」

「そうだね。先生、そろそろ失礼します」

「そうか?じゃあ正門まで送ってあげるよ。村上、大学は隣なんだからたまには顔を見せてくれよな」

「私服でここに出入なんて出来ませんよ。何言ってるんですか」

「そうか?だって大学の生徒、こっちの学生課や図書室でバイトしてるよな。村上もバイトがしたかったら推薦してあげるよ」

「え!本当ですか?」

 村上さんの顔がぱっと輝く。確かに油断大敵かもしれない・・・でも、僕は彼女を譲る気は全然ない。

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