49話 かわるもの、かわらないもの
「ニャ!まもなくフリスディカなのニャ!」
フリスディカ、シャウン王国の中心都市であり、私達の病院、リラクリニックのある街である。
「なんか久々な気がするね!イーナ様!」
飛空船から見下ろすフリスディカの街並みは、何処か安心感があった。今や完全にホームである。
「これがフリスディカ……大都会ですね……」
カブラの口から思わず驚きが漏れる。タルキスの街とは大分趣こそ異なるが、フリスディカはやはりこの世界でもトップクラスの大都市であることは間違いないだろう。
「カブラさんは、はじめてなんですよね!是非私達がご案内しますよ!ミズチさんや、イーナちゃんの話の間は時間もあるでしょうし!」
ナーシェがカブラに提案した。こうして、人間とモンスター達との交流が進んでいくのは非常に良いことだ。
「とりあえず会談の日程についてはおって連絡するから~~それまではミズチもフリスディカを楽しんでいてよ~~」
フリスディカにつくと、そう言ってアマツはミドウの元へと戻っていった。
「ルカ、テオ、ミズチさんとカブラさんを部屋に案内して貰ってもいい?私とナーシェはあの子の処置があるから……」
ルカとテオに頼むと、2人は快く引き受けてくれた。
「ニャ!僕について来るのニャ!」
大蛇の2人の事はルカとテオに任せ、私達は檻の中の犬の様子を見ることにした。今のところは特に状態に問題は無い。とりあえずはまだ時間は残っているであろう。そんなに悠長にはしていられないが。
実験はこの飛空船の中で行うことにした。もともと、この地方にはまだ存在していないはずの病気である。むやみやたらに外に運び出して、万が一広めるなどあっては、それこそ大問題である。それだけは気をつけなければならない。なにより、この空間だけに留めておいた方が、後々の消毒などの処理も楽である。
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「ただいま!」
病院に入ると、留守の間病院を守ってくれていたルイやレーウェン、妖狐の2人アンとマイ、それに手伝いをしてくれていたシータやルートが私達を出迎えてくれた。
「イーナ元気だったか!」
シータが少し安心したような顔でこちらを見た。
「シータ!久しぶり!ルートも元気だった?今のところは順調に進んでるよ!問題はここからであって……ルイやレーウェンにもぜひ手伝ってもらいたいんだけど大丈夫かな?」
もちろんルイもレーウェンも快く引き受けてくれた。これだけ人出がいれば何とかなりそうである。やはり人を増やすと言う判断は正解だったようだ。
「なかなか立派な屋敷だな。これが病院とやらか」
荷物を置いたミズチとカブラ達も合流した。
「そう、ここが私達の病院。リラクリニックだよ」
リラクリニック。その名には、動物もモンスターも人間もみな共存出来る世界を作りたい。そんな願いが込められている。
「みんなにも紹介するね。大蛇の2人、ミズチさんとカブラさんだよ」
「イーナ様、ご紹介ありがとうございます。ところで、先ほどのアマツ様の話によれば、まだ会談の日程は決まっていないとのこと。そして、イーナ様自身早く実験を行いたいとお考えでは?」
カブラがここで私に問いかけてきた。正直、一刻でも早く実験に移りたいとの言うのが本音ではあるが……
「ならば、良ければ先に細胞とやらを提供させて頂きたい!こんな素敵な場所にお世話になるというのに、与えられっぱなしでは落ち着かないのです!」
「本当!?大丈夫!?」
正直驚きの、大変嬉しい提案である。
「出来れば何カ所かの細胞が欲しいんだけれど……」
厚かましいお願いなのは分かっているが、ここは譲るわけにはいかない。すると、カブラは笑いながら続けた。
「大丈夫です。大蛇の再生力を舐めてはいけませんよ。腕がもげようと、すぐに生えてきますからね!腕や脚の一本くらい余裕ですよ」
なにやら、さらっと恐ろしいことをいうな。
「ま、まあ、そこまでは大丈夫だよ……ちょっと麻酔をかけて、いくつかの場所を頂くだけで大丈夫。うん」
そして、私達はついに大蛇の身体の一部を手に入れたのである。大蛇なんて診たこともないし、そもそもその生態を勉強すらしたことも無いから、どうなるかは正直不明ではある。それでも、確実に一歩ずつは進んでいる。
大蛇から採取した何カ所かの細胞を事前に用意した培養液に植えて準備は整った。あとは上手く育ってくれるのを待つだけである。
処置を済ませると、周囲はすっかり暗くなっていた。
「カブラさん、本当にありがとう!今日はミズチさんとカブラさんの歓迎会を開くから是非楽しんで行ってよ!」
そういえばルイとレーウェン、そして妖狐のアンとマイ、4人がきてくれたのに、歓迎会も何もしていなかった。新しい仲間も沢山増えたということで、それはもう飲むしかない。
「それでは、新しい仲間に、そしていつも支えてくれているみんなに!乾杯!」
パーティの始まりである。最初こそ、ミズチやカブラもまだ気を遣っている風ではあったが、しばらくたてば、もうすっかりなじんでいる。思えば、こんなにいろんな種族が一緒に過ごしているなんて奇跡のようである。
「イーナ様!なんだか嬉しそうだね!」
――妖狐の里にいたときには想像も出来なかったのう
突然この世界に飛ばされて、サクヤ、そしてルカと出会った。テオにもあった。
いなくなってしまった仲間もいた。
龍神族の里ではシータ、そして、相棒である龍神の剣を手に入れた。
人間界では吸血鬼のルート、医者のナーシェと出会った。そして九尾という運命も背負った。
同じく理想を共にして道を違えた先駆者もいた。4神と呼ばれる彼らとも知り合った。
今やこの病院もある。
そう、確実に時代は変わっていっているのである。ヤマト、そしてリラさん。いなくなってしまった彼らの分も、私は進んでいかなければ。
だって、わたしは九尾なのだから。




